上 下
102 / 131

第100話 「誘拐→拉致→玩具」のコンボ

しおりを挟む
 【天界 天霄てんしよう神殿アストラル】


 ってててぇ~……。
 ったく……なんだぁ?
 なんか知らんが、アベルのやつが頭の中からいなくなったから、気分よく自由を謳歌してたってのに……。

 は?

 いきなり空間から巨大な手が生えてきて連れ去られたんだが?
 いつから人間界ってのは、こんな何でもありのわけわからん場所になったんだ?
 まだ魔界のほうがまともじゃねぇか。

 っていうか。
 どこだ、ここ?
 うわっ、あたり一面真っ白……って。

 ぐらっ──。

 やべっ、なんか遠近感が狂う……。

 頭を押さえて立ちくらみをこらえる。
 膝をついた足元はボコボコとした白い地面。
 それが目の届く限り、ず~っと先まで伸びていっている。

 いや……岩? ……というか丘?
 ところどころ盛り上がった白い塊。
 いや、これ──雲、か?
 叩いてみる。

 コンッ、コンッ。

 固い。
 空を見上げる。
 空にも雲はあるが、地上から見るほどの量はない。
 乾いて、かすれてる薄ぼらけた雲ばかり。
 太陽の光が肌に刺さる。
 地底から出てきたばかりの体にはつらい。
 とかごちゃごちゃ考える前に──。


 【狡猾モア・カニング


 さっさとスキルを発動。
 意味不明な状況に陥るのは、これで三度目だ。
 一度目は魔界の学園に捕らわれて。
 二度目はあのクソダンジョン。
 そして今回。

 だが、今のオレは以前までとは違う。
 有り余る無敵のスキルを持ってる!
 ってことで、こんな意味不明なとこからは、さっさと脱出だ。
 そして『狡猾モア・カニング』が導き出した答え。
 ああ、だよな。
 さっさとこれを使えってな話だよな。
 このスキルで答えを聞いて、はい終了ってなもんだ。


 【一日一全アムニシャンス・ア・デ……】


 あれ……?
 なんかおかしい。
 もう一回。


 【一日一全アムニシャンス・ア・デ……】


 言えない。

 な ん で ?

 ハッ──!


 【鑑定眼アプレイザル・アイズ


 すかさず己を鑑定する。


 名前:フィード・オファリング
 種族:人間
 職業:なし
 レベル:20
 体力:104
 魔力:362
 職業特性:なし
 スキル:【鑑定眼アプレイザル・アイズ】【吸収眼アブソプション・アイズ】【狡猾モア・カニング】【軌道予測プレディクション】【斧旋風アックス・ストーム】【身体強化フィジカル・バースト】【魅了エンチャント】【投触手ピッチ・テンタクル】【一日一念ワールド・トーク


 スキル激減……!
 名前からアベルの文字が消滅。
 鑑定士でもなくなってる。
 ただの人間。
 やっぱ、消えたアベルの精神の方が本体ってことか、クソっ!
 レベルも体力も魔力も減ってる。
 この辺の数値は、肉体に依存してる感じか。
 にしても……。

 残ってるスキルは、魔界でよく使ったものばかり。
 ようするに「体に染み付いてるスキルだけが残った」ってことか。
 ただ、『一日一念ワールド・トーク』。
 これだけは一度しか使ってないのに残ってて助かった。
 ここがどこにしろ、これで外部と連絡を取ることが可能ってことだ。

 さてさて、それじゃあオレ自身に関してザッとわかったところで、次はここについて調べていくとしましょうかね。
 そう思って周囲を鑑定しようとした時。


「ぬわっーはっはっはぁ~!」


 馬鹿みたいな笑い声が聞こえてきた。
 声の方を向くと、そばにあった大きな雲の丘からうさんくさいジジイが出てきてる。


「お~、かかっとる、かかっとるぅ! これが今回の鑑定士むしけらかぁ!」


 ……むしけら、だと?
 しかも「今回の」?
 まるで、オレをゲームの「コマ」だとぬかしてた、あの魔神のクソ野郎みたいじゃねぇか。


 【鑑定眼アプレイザル・アイズ!】


 間髪入れずに鑑定だ、こんな怪しいやつ。
 こいつが、オレをここに連れ去ったやつだとしら即刻殺して脱出だ。



 名前:ゼウス
 種族:神
 職業:頂上神
 レベル:∞
 体力:∞
 魔力:∞
 職業特性:【天啓ゴッド・リベレーション
 スキル:【勧善懲悪プロモート・ゴッズ



 ……ん?
 ………………は?

 ゼウス?

 頂上神?

 いや、ちょっと待て。
 
 ステータス値「∞」になってるし、これ魔神サタンと同じだろ。
 スキルもサタンとついになってるっぽい。
 ってことは……。




 本物!




 オレを、アベルを、鑑定士をゲームのコマにして何千年も、何万年ももてあそんできた諸悪の根源じゃねぇかっ!
 今、ここで死ねっ!
 まずは──。



 【吸収眼アブソプション・アイズ!!】



 おらぁ!
 魔神のスキルも奪ったオレの『吸収眼アブソプション・アイズ』を喰らいやが……。

 あれ?


 ぱしゅっ。

 
 なんか、スキルが途中で阻まれて消えた感覚。
 この意味不明な状況で『狡猾モア・カニング』の下した結論は──。


 けん


 つまり、様子見。
 すっかり囚われ慣れたオレの頭が状況を整理する。

 魔神サタンとゲームを行ってると思われるゼウスがオレを攫った?
 攫ったからには目的があるはず。
 目的は何だ?
 決まってる、ゲームのコマとしてオレを使うためだ。
 どういう目的で使う?
 大悪魔みたいにオレを食べる?
 それとも、二千年前の鑑定士みたいに魔界に攻め込ませる?
 なんにしろ、すぐに殺されるって可能性は低そうだ。
 アベルが急に消えた理由も気になる。
 そもそも、オレはサタンとの戦いで傷ついてまだ完全に癒えてねぇ。
 さっき放った『吸収眼アブソプション・アイズ』が不発だった理由も知っておいた方がいい。
 
 となると──。

 ああ、演じてやるさ。

 弱者を。

 そして、頂上神ゼウス。

 貴様の目的を引き出してから。

 隙を見て──。




 殺す。

 


 アベルじゃねぇ、この。

 フィード様がな。

 そして、このくだらねぇ鑑定士奪い合いゲームを終わらせて。

 本当の、自由の身になるんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もふつよ魔獣さん達といっぱい遊んで事件解決!! 〜ぼくのお家は魔獣園!!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:887pt お気に入り:1,907

World of Fantasia

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:289

異世界転生騒動記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,793pt お気に入り:15,870

猫耳幼女の異世界騎士団暮らし

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,833pt お気に入り:430

魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:109

自由を求めた第二王子の勝手気ままな辺境ライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,535pt お気に入り:2,621

第2の人生はドラゴンに転生したので平和に人生を過ごしたい今日この頃

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,712pt お気に入り:32

処理中です...