上 下
91 / 174
生き返れ「地獄、異界」編

第90話 最後の因縁

しおりを挟む
「ウェルリン……思い出したって、ボクがしたことを……か?」

「ああ、そうさ……思い出したさ……。卑怯で汚いテメェにされたことをな……ッ! こいつのおかげで、ぜ~んぶきれいに思い出したよ」

 ウェルリンが口を開くと、怯えた様子の小さな小鬼──インプが、中から顔をのぞかせた。
 ウェルリンの眼光が、強く、鋭く光る。
 その憎悪に満ちた瞳の輝きに、ボクはウェルリンと初めて会った夜のことを思い出していた。

「ウェルリン、聞いてくれ。それには事情が……」

「かんっっけぇぇぇぇぇぇねぇ! ああ、関係ねぇなっ! テメェはっ! 自分が生き延びるためだけにっ! オレを洗脳してっ! 人間を殺させっ! スキルを奪いっ! そして、全てを忘れさせたっ! オレの、オレ様のッ……リサちゃんへの想いにつけ込んでなぁぁぁぁぁぁあッッ!」

 事実その通りだ。
 返す言葉もない。
 だからボクは向き合わなければならない。
 向き合う必要がある。彼、ウェルリンと。
 フィードではない、ボクが。アベルが。

「ああ、そうさ。利用した。利用させてもらったんだ。ボクが生きるために。そうしなければ生きられなかった。細い細い糸の上を気を張り詰めて歩き続けて、それでやっとここまでたどり着くことが出来たんだ。なんの言い訳も弁明もしない」

「テメぇ……このに及んで開き直りかよ……!」

 パシッ。

 魔純水エリクサーの入った小瓶を投げ渡す。

「それを飲んだらキミのスキルは戻る。それで詫びにするつもりはない。なんの気兼ねもなく受け取ってくれ」

 キュッ──ポン。

 迷うことなく一気に飲み干したウェルリンは、毛むくじゃらな両足をダンッ! っと踏みしめると、大きく咆哮を上げる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ぉぉぉぉぉぉぉすっ! オレ様はァ! テメェを殺すぞ、フィード・オファリングっ! ここまでコケにされたとなっちゃ、ツヴァ組跡取りとしてのメンツも丸つぶれ。もう、オレがテメェを殺すか! それともオレが死ぬか! その二択しかねぇわけよ! それが極道として育てられてきたオレの生き様、宿命ってわけだ!」

「ああ、いいぜ。来いよ、ウェルリン。決着をつけよう」

 他に手段はない。
 ボクの選んだ道の結果だ。
 家を出たいと思っていたルゥ。
 そしてボクのことを好いてくれたリサ。
 二人は、自分からボクについてきてくれた。
 でも、ウェルリンは違う。
 彼は、ヤクザの跡取り。
 殺すか殺されるか。
 結局は、そういう価値観の中で生きる──魔物だ。

 彼の中のメンツ、任侠心、そしてボクへの恨み。
 そして、ボクが生き抜くために貫き通さねばならないエゴ。

 さけては通れない、この二者の対立。
 せめて、正面からぶつかろう。

 ダッ──。

 ゆらりと残像を残し、姿勢を低くしたウェルリンが地を這うように駆ける。

「──ッ!」

 予想外のウェルリンの動きに戸惑う。
 初見の相手だったら【軌道予測プレディクション】を使っていたかもしれない。
 でも、なまじ二人でスパーリングをつんでいたから。
 勝手に思い込んでいたから。

『ウェルリンなら、こんなもんだろう』って。

 スパーリングをしていた頃のウェルリンの直線的な動き。
 つまり、それ自体がフェイントとなり完全にボクの裏をかく。

「お、らァ──!」


 【身体強化フィジカル・バースト


(くる──! ウェルリンの関節を外した打撃──!)

 ボクは黒板消しの盾、パリィ・スケイルを構える。
 も──。

 くるんっ。

 ウェルリンはパリィ・スケイルを掴むと、関節を外した腕を鞭のようにしならせ、くるっと回転し、ボクの頭上に跳んだ。

(こっちの手が……読まれてる──!?)

 初めての、体験だ。
 ボクは今まで、自分よりも強い相手にどう戦うかばかりを考えてきた。
 でも、ウェルリンはボクのことを強者と思って対策を練ってきてくれた。
 たとえ、それが復讐のためだとしても。
 ボクを認めて。
 ボクのことを考えて。
 そして前よりも、ずっとずっと強くなって。
 チャレンジャーとしてボクに挑んできてくれている。

「──らぁッ!」

 天井を蹴り、拳を振り下ろすウェルリン。


 【高速飛行スピード・フライト


 ボクは上に飛んで攻撃をかわすと。


 【身体強化フィジカル・バースト
 【怪力ストレングス


 逆に超重量級の一撃を叩きつける。
 魔鋭刀をメリケンサックへと変えて。


 ドッ──ゴォ──ッ!


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう……!」

 ウェルリンは、ボクの一撃を両手をクロスさせて受け止める。
 そして、衝撃に耐えるべくスキルを連打し始めた。


 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト


「ぐぁぁっぁっぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

「やめろ、ウェルリンっ! それ以上は……!」

「……っるっせぇっ……ンだよぉッ!」


 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト
 【身体強化フィジカル・バースト


「うわぐわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

「ウェル……うわっ!」

 気がつくと。
 天井が、上になっていた。

「え……? 投げ……られた……?」

 背中に感じる地面の感触。
 ボクのレベル942479。
 体力5295660。
 無意識的に手加減してたとはいえ。
 ふたつのスキルを乗せたボクの攻撃を。
 魔神(仮)のボクの攻撃を防いだだけじゃなく。

 投げ……た。

「すごいっ! やっぱウェルリンはすごいよっ!」

 込み上がってくるのは、歓喜。

 ボクのこれまでの戦いは、ほぼ全てが圧勝だった。
 手こずったのは魔力が尽きたときだけ。
 それ以外は裏をかき、スキルを盗み、状態異常をかけ、とにかく生き残るためにリスクを減らして戦ってきた。
 だって一撃でも食らってしまったら、ひ弱なボクは死んでしまうから。
 でも、今や魔王(仮)というものになったボク。
 ステータスも人間だった頃とは桁違いだ。
 さらに、魔王や閻魔、古龍に二人のローパー女王のスキルまで取得している。
 強すぎる。
 あまりにも。
 人間の域も、魔物の域も、はるかに超えてしまっている。

(これからは、もう一生誰とも心の底から価値観を共有できずに死んでいくのではないか)

 そんな不安が心のどこかにあった。
 でも。

「ウェルリンっ! キミ、すごく成長してるっ!」

 あまりの嬉しさ。
 ボクは一人じゃなかった。孤独じゃなかった。
 神の域に足を踏み入れてしまったボクを投げ飛ばせるすごいヤツ。
 それが、ボクのスパーリングパートナー、ウェルリン・ツヴァだ!

「るせぇぇぇぇぇぇっっ! 黙れよテメェっ!」

 苦しそうに頭を抱えるウェルリン。

 そりゃそうだ。
 あれだけいっぺんにスキルを重ねたんだ。
 きっと消耗しきってるはず。

「ウェルリン、今、魔純水エリクサーを……」

「いらねぇ! 一本はオレのスキルを奪ったテメェからのすじってことで受け取ったが、二本目は、お情けじゃねぇか。そんなもんは受け取れねぇし、受け取らねぇ。オレ様の仁義にかけて、受け取るわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉぉぉお! あおぉぉぉぉぉぉんっ!」

 ズズズズッ……!

 ウェルリンの遠吠えに応えるように、狼の体が黒い影に覆われていく。

「──っ! これは──!?」


 【鑑定眼アプレイザル・アイズ


 名前:ウェルリン・ツヴァ
 種族:狼男
 レベル:26
 体力:38916
 魔力:18992
 スキル:【超身強化アバター・モード


 超身強化アバター・モード──?
 ウェルリンのスキルは【身体強化フィジカル・バースト】だったはずだ。それがどうして……。

 ふと、二千年前の鑑定士ネビルの言葉が脳裏をよぎる。

『スキルは重ねれば、上位スキルへと進化する』

 まさか……。
 重ねたってのか。
 自分で。
 すごい……本当にすごいよ、ウェルリン!
 ヒントを貰ってたボクですらたどり着かなかったところに、何のヒントもなくボクより先にたどり着くなんて!

 やがてウェルリンを覆う黒い影は、彼の体を覆い尽くす。
 鋭く長く尖った鼻先。
 丸く覆われた頭部。
 まるで大型の鳥かのような、流線型の黒い鎧。
 ウェルリン・ツヴァが新たな外装を獲得し、さらに低く、低く構える。

(空気抵抗を極限まで少なくするフォルム。スピードで超えてくるつもりか、ボクの【軌道予測プレディクション】を。に、しても……まるで巨大な鷹のような姿……なんというか、シンプルに……美しい……)

 思わずその機能美に見とれていると──。


 ドカァ!


 ボクの横の壁に穴が空き、もぐら悪魔のグララが飛び出してきた。

「邪魔だっ!」
「手ぇ、出すんじゃねぇっ!」

 ボクの魔鋭刀。ウェルリンの裏拳。


 ボグォッ!


 息の合った二人の攻撃が、同時にもぐら悪魔の顔面を捉える。

「ぐらぁ~! 痛いぐらぁ~! グララ、よかれと思って助太刀したのにぃ~! ヒドい扱いぐらぁ~!」

 顔を押さえて半泣きで下がっていくグララ。

「そんな……! グララは、わがはいのつくりし、けっさくのひとり……。それを、あんな赤子の手をひねるかのようにいなす、だと……!」

 テスが信じられないと言った表情でつぶやく。

「よぉ~、フィード? 次でしまいにしようや。あんまり長引かせても上まで戻る時間がなくなるだろ。オレらの遺恨いこんと、他の連中の命は関係ねぇからよぅ。……あのオルクってやつの侠気おとこぎにも応えてやらなきゃいけねぇしな」

 オルク。
 ボクやパルたちと一緒にダンジョンに巻き込まれ、一緒にダンジョンの中を駆け抜けたオーク。途中で別れてしまったが、愉快なやつで大事な仲間だった。ヌハンたちから、オルクがリーダーとしてみんなを率いて立派にもぐら悪魔と戦ったと聞いていた。なんとそのうえ、ウェルリンにも侠気とやらを認めさせていたのか。オルク、すごいやつな、キミも。

「同意だな。次で終わりにしよう」

 静かに答える。

 そうだ。
 ウェルリンとボクとの因縁。
 これに決着をつけて、みんなを救う。
 それがボクの使命であり、ボクがボクであるための指針だ。

 ウェルリンが低く構える。
 ボクもグローブへと変えた魔鋭刀を構える。

 ウェルリン……。
 彼の以前の魔力は、満月のピーク時で一万を超える程度だったはずだ。
 今は、月も欠けていてるはす。
 しかも、ここはダンジョンの中。
 なのに。それなのに。ウェルリンの魔力は18992。

「ほんとうに……頑張って鍛えたんだな、ウェルリン」

「ああ、テメェを殺すことだけを考えてな。テメェはオレが超えなきゃいけねぇ壁なんだ。だから、絶対に、ここで……殺す!」

「ならば、ボクはこれで応えよう」


 【勧悪懲善プロモート・イビル
 【軌道予測プレディクション
 【暴力ランページング・パワー


 体の奥底から暴の衝動が湧き上がってくる。
 状態異常や即死、ハメ技、小細工は使わない。
 ボクのこれまで培ってきた、この三つのスキルで迎え撃つ。
 それが、ボクなりの彼への誠意だ。

「てめぇ……! その雰囲気、まさかルートォンの……!」

「ルートォン……ルートォンというのか。あの老トロールは」

 ギリッ──!

 火花散るような歯ぎしり。

「ああ……オレの最初の憧れの人だ……。そして、二番目に憧れた存在……テメェを、フィードを殺して、オレは憧れの存在をまとめて超えるッ!」

「──! ……ああ、こいよ、ウェルリン。どっちの悪が上で、どっちの暴が上で、そしてどっちのスキルが優れてるか決着つけようじゃないか」

 ウェルリンの体がドクンと跳ね上がる。

「ぐ、おぉぉぉぉぉぉおッ! 行くぜいくぜイクぜいくぜッ! 穿つらけ、穿うがて、撃ち抜け、突き刺せ、押し通せッ! ヤツの土手っ腹に風穴あけろッ! 越えろ、音速ッ! 【超身強化アバター・モード】! モード:シャドウ・ホーク!」


 □ まっすぐ直線に飛んでくる。
 □ 腹に右ストレートパンチ。


 ボクの見た未来の軌道。
 なんでもありの喧嘩殺法【暴力ランページング・パワー】が地面を蹴り飛ばし、粉塵を巻き上げ、先手を打つ。

 ドゥ──ッ!

 砂埃に包まれたウェルリンが地面を蹴る音。
 大丈夫だ、軌道はわかってる。
 飛び出してくるタイミングも砂埃の動きでわかるはずだ。
 あとは、暴の衝動に従ってカウンターを入れるだけ。
 もし、ボクの抱えてる「悪」が、ヤクザの跡取りウェルリン・ツヴァの抱えている「悪」より大きければ、それでボクの勝ちだ。

 そう考えを巡らせていた時。
 腹の前に構えていたパリィ・スケイルに圧がかかっているのを感じた。

(え……? なんで……? だって、まだ土埃は……)

 グググ……パリィン!

 パリィ・スケイルが、かけられた圧に耐えきれず粉々に砕けた瞬間。
 土埃に穴が空き、ウェルリンのが出来た。

(これは……速すぎて空気の流れよりも早くボクに届いたってことか……!)

 なんという執念。
 なんという一念。
 これが、ウェルリン・ツヴァという男に秘められた底しれぬ力ポテンシャル

 だが──。

 放たれたウェルリンの拳。
 それがボクの胴に届こうかという、その刹那。
 
 相対したものよりも悪であれば必ず勝つスキル。
 根源たる暴力衝動が湧き上がり、実行できるスキル。
 この二つのスキルによって、ボクの体は自然と動いていた。

 未来の軌道を読むスキルで視た、ウェルリンのアゴの位置。
 そこ目がけて──。


 スパンっ──!


 鎧の上からでも、

 ぐらり──。

 ウェルリンは倒れそうになるも足を踏みしめ、なんとか気合いで踏みとどまる。

「ぐっ……これじゃ、まるで……」

 そう、まるで。

「ボクたちの、初対面の時みたいだね」

「くそが……結局オレはあの時から、お前に負けっぱなしだってのかよ、フィード……」

 ガッ……。

 崩れ落ちるウェルリンの肩を、抱き止める。

「いや、キミは閻魔よりも魔神サタンよりも強かったよ」

「はぁ……? 閻魔? 魔神? テメェ、なに言って……」

「ああ、オレ、いま魔神(仮)ってのになってるんだ」

「あぁ? かっこかり……? 寝ぼけたこと言ってんじゃ……」

「あっ、そうだ! 地獄でツヴァ組の人たちがいたから生き返らせたよ! 七人!」

「……! 名前は……!?」

「名前は覚えてないけど、若頭? って人以外の全員らしいけど。そこのもぐら悪魔に殺されたんだって」

「グララァ……! てんっめぇ~……!」

「あわわ! 知らんグラ! グララ覚えてないグラ! ほんとグラよ~!」

「……ったくよぅ……。ハァ……ってことは、もう……とっくにお前は、オレへの不義理を恩で返してた、ってわけか……」

「返せたのかな? わからないけど、組員の人たちは、いま上層階のトラップの処理に向かってもらってる。だから、キミは彼らに顔を見せてあげなくちゃいけない。死んだりせずに、ね。あ、それからキミが手にかけた元インビジブル・ストーカー。彼も地獄で会ったから、今は生き返ってるよ。彼も上にいる」

「あぁ……くそ……っ! なにから何まで完敗、ってことかよ……。ああ、マジですげぇやつだよ、お前は。ムカつくけど。オレじゃ全然歯が立たねぇ。……今は、だけどなっ!」

「そんなことない。ボクは、キミがいたから強くなれたんだ、ウェルリン」

「オレだって、てめぇをぶちのめしたい一心で強くなったんだ」

 僕の肩に寄りかかったウェルリンの元へ、リサが魔純水エリクサーを持ってくる。

「ほら、これ飲みなさいよ」

「リサちゃん……オレのために……?」

「勘違いするんじゃないわよ! あんたにさっさと立ってもらわないと、時間内に戻れないからに決まってるでしょ!」

「ハハ……そうだよな……こんな負け犬、負け狼に情けなんかかけてくれるわけないよな……」

「言っとくけどっ!」

 リサの強い声。
 手渡された魔純水エリクサーを飲み干したウェルリンが目を丸くする。

「ほえっ!?」

「私は、たぶらかされてるわけじゃなくて、フィードのことが好きだから一緒にいるの! フィードのことが好きだから人間になったの! だからっ! 勘違いしてこれ以上フィードに迷惑かけるのはやめてっ!」

 リサの突然の告白を聞いたウェルリンは肩を落とす。

「ハハ……ッ。そりゃそうだよな……。わかってた、なんとなくはわかってたよ。認めたくなかっただけだ。けど、やっとわかったよ。今のオレじゃあリサちゃんを振り向かせられなくて当然だ。……だからっ! フィードが魔神? になったんなら、オレ様はさらにその上の超神にでもなってやるよ! そんで、改めてリサちゃんを振り向かせてやるぜぇ!」

「うん、ウェルリンならなれるよ!」

「あぁ? フィード、てめぇ、なに適当ふかしやがって……」

「ふかしてなんかない。だってキミは魔神(仮)に一撃入れた魔物なんだ。パリィ・スケイルを砕いた唯一の魔物なんだよ。さっきも言ったけど、キミは本当に閻魔や魔神より強い!」

 ウェルリンは一瞬ポカンとした顔を見せた後、額を押さえて笑い出した。

「ククク……アーッハッハッハッ! そうだな、オレ様は魔界のマフィアを統一する次代のツヴァ組頭領ウェルリン・ツヴァだ! 魔界を統一して、ローデンベルグファミリーも傘下に収めて、実力で手に入れてやんよ! リサちゃんが人間界に行くってんなら、人間界も手に入れる! あぁ、そうさ、それがオレ様だ! 欲しいものはどこまでも追いかける! 魔界一欲深い男、ウェルリン・ツヴァ! それがオレ様だぜっ!」

 どこか吹っ切れた様子で雄々しく声を上げるウェルリン。

「まっ……、あんたも前ほどはキモくはなくなったみたいだから……」

 次のリサの言葉を聞いたウェルリンは、思わず飛び上がる。

「友達くらいには……なってあげてもいいわよ」

「ほ・ほ・ほんとにぃ~~~~! うぉぉぉぉ! オレの想いが通じた! これでまたリサちゃんになじってもらえる! あおぉぉぉぉぉぉぉんっ!」

「ちょっ! やっぱキモいっ! さっきの取り消しっ! もう二度と私の目の前に姿を現さないでっ!」

「そ、そんなぁ~~~~~!」

「アハハハ!」

 ボクとルゥの笑い声が響く。
 まるで深夜の学校で過ごした、あの時間が戻ってきたみたいな。
 思ってもなかった。
 また、もう一度。
 こうやって、四人で笑い合える日が来るだなんて。

 残るは、『本物の扉』から出るのみ。
 ボクたちは五十階層、最後のトラップを発動させると、二十五階層に向かって進み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

処理中です...