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生き返れ「地獄、異界」編

第88話 ララリウムへの帰還

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 ローパーたちの住む国ララリウムに空いた大穴。
 そこからボクたちは、龍に乗って飛び出した。

「フィード!?」
「フィードさんっ!」

 穴のそばで、ずっと待っていたのだろう。
 ルゥとリサが、龍から下りたボクに飛びついてくる。

「おっとっと……」

 勢いに押されながら二人を抱き止める。
 二人の匂い。
 体温。
 三時間と魔界で過ごした程度しか離れていなかったはずなのに、随分と懐かしく感じる。

「もうっ! 馬鹿っ! ほんとに心配したんだからねっ! もうっ!」

「リサは『私も下におりる!』って言って聞かなくて……ローパーのみなさんと一緒に引き止めてたんです……」

「そうか、心配かけたね。でも、ちゃんと戻ってきたから」

「当たり前よ! バラバラに離れてもう会えないなんてことになったら私……一体なんのために人間になったのか……わからないじゃない……!」

 胸に顔を埋めてボクの服で目を覆うリサ。
 ルゥの目にも涙が浮かんでいる。

「あ、そうだ。人間といえば、また魔物に戻れる方法がわかったぞ」

「え? どういうこと? って、あっ……! あんたたち……」

 顔を上げたリサが、ヌハンとトリスを見つける。
 ヌハンは、魔純水エリクサー魔結晶クリスタルのたっぷりと入った自分の頭を逆さに抱えている。

「よ、よう……」
「コケ……」

 二人は、クラスメイトとはいえ、ほとんどリサとは面識がなかったらしい。
 ゆえに、なんか微妙に気まずい感じの挨拶をぎこちなく交わしている。

「ヌハンさん、トリスさん、どうしてここに? それに、他にもいっぱいいるみたいですけど……」

「えっと……まず、この子はテス。わけあって今は子供の姿になってる大悪魔だ」

「だ、大悪魔ぁ!?」

 リサたちの大声に怯えたテスは、ぴとっとボクの足にくっついて身を隠す。

「それから、あっちの裸の男が元インビジブル・ストーカーのジビル。で、あのオーガはオガラの親戚の人。そして、あっちのスーツ姿の人達がツヴァ組の人たち。それに、あのちっちゃいローパーがプロテムの弟のペリシス」

「ちょ、ちょっと待って! なになに!? どういうこと!? なんでそんなことになってるの!? そもそも、この龍はなんなの!?」

「ああ、この龍は閻魔が貸してくれたんだ」

「閻魔!? フィード、あんた何言って……!? 閻魔って、あの閻魔!? そんなのがなんで……」

「うん、あの地獄の閻魔だよ。えっとね、話せば長くなるんだけど、簡単に言うと、魔神サタンを倒してボクが魔神(仮)になっちゃったから龍を貸してくれたんだよね。で、ついでにボクのせいで死んで、まだ死後の判決を受けてない人たちを生き返らせてもらった」

「は? 魔神……? を倒して……? フィードが魔神(仮)……?」

 理解が追いつかないとばかりに目を白黒させるリサ。

 そりゃそうだよね。
 自分でも話してて何言ってるんだろう? って感じだもん。

「あの、フィードさん、なんかちょっと雰囲気変わりました? 喋り方もちょっと……」

「ああ、それはね」


 ボクの中にいたフィードとアベル。
 その二つを溶け合わせようとしてたけど、結局無理だったこと。
 魔神との戦いで、ボクの中のフィードは消耗し、今はアベルの要素が濃くなっていること。
 それらを手短に説明した。


「……? でも、フィードはフィードってことよね?」

 リサが腕を組んで眉をひそめる。

「ん~、まぁ、そういうことなのかな……? 別に切り離せるようなものでもないっぽいし、これから先はどうなるのかボクにもわからないけど……」

「……わからなくていいと思いますよ」

 ルゥの柔らかい声。

「ん? どうして?」

「ほら、自分のことって自分が一番わからないじゃないですか? その代わり、フィードさんのことは私たちが一番よくわかってますから。だから、大丈夫ですっ!」

 ルゥの笑顔。
 まるで聖母のような微笑みを見てると「たしかにそうだな」と思えてくる。
 しかし、この包容力……。ほんとに同じ年とは思えない。
 ルゥといい、パルといい、セレアナといい……この魔界の女の子たちは懐が深いなぁ。
 一方、リサや他の女子たちはわりと同世代って感じがする。
 いや、リサは同世代よりもちょっと幼いかな?
 あっ。
 そういえば、モモも懐深かったなぁ。
 と、思った瞬間。

 テスと一体化してた偽モモが、テスの体からヌッと上半身を乗り出してきた。

「マスター。再会を喜ぶのもよいですが、まずは制限時間のあるダンジョンの攻略を優先すべきかと」

「わあっ! お、おば……おばけっ!」

 両手を構えてズザサッとのけぞるリサ。

 元バンパイアなのに、おばけが怖いって、ちょっと不思議。
 まぁ、お化けじゃないんだけどね、偽モモは。

「ああ、これは偽モモ。ほら、偽モモ、あいさつして」

「はい、マスター。私は偽モモ。魔神サタンにより作られしアベル・フィード・オファリングの守護者。今は大悪魔テス・メザリアの体内時間を停止するために一体化しています」

「うん……魔神の作った……守護者? 大悪魔の時間停止……? 一体化……? ハァ……なんかもう……いっぺんに理解しようとしても無駄なようね……」

 指を額に当てて、リサは諦めたように唸る。

「でも、いいっ!? フィードっ!」

 急にリサからビシッと指を差されて、ちょっとたじろぐ。

「お、おう……」

「地上に戻ったら、必ず丸一日! 私たちと過ごす時間を作ること! そして、ゆっくりとこれまでのことや、これからのことを話し合うの! いい!?」

「う、うん……。そうだね。今までバタバタしすぎてたもんね。うん、約束する。ここから出て地上に戻れたら、リサとルゥと三人で一日ゆっくりしよう。ボクたち、たくさん話さなきゃいけないこともあるもんね」

「そ、そうねっ! は、はな……話さなきゃって、それ将来のことと、か……? ね……? ほら……? あぁっ……! もうっ、なんでもいいから約束だからね!」

 喋りながらリサは顔を真っ赤にしてバタバタしてたけど、なにかあったのかな?
 ……な~んてとぼけてたら、きっとまたボクの中のフィードにキレられるだろうなぁ。
「いい加減ハッキリしろ!」って。
 そうだな……リサの気持ちにも、ちゃんと向き合わないと。
 それから……。

「ルゥは、なにかしたいことないの? 地上に出たら」

「そうですね……私は人間になることが目的だったので、特には……。あっ、いて言えば、大好きなフィードさんと親友のリサとずっと一緒にいられたら嬉しいです」

「じゃあルゥは、もう魔物に戻らなくてもいいんだな?」

「はい、一生戻るつもりはありません」

 ルゥは一点の曇りもなく言い切る。

「リサはどうする? 戻れるぞ? ヌハンの頭の中にある魔純水エリクサーを飲めば」

「そう、ね……。戻りたい気持ちもあるにはあるけど……私は覚悟を決めて人間になったの。だから、せめてなにかをやりきったと自分でハッキリ言えるまでは戻りたくないかしら。それに……」

 ギロリとヌハンを睨む。

「な、なんだよ!」

「こんな頭の中に入ったものを飲むなんてイヤっ! もっとマシな入れ物はなかったの!?」

「こ、こんなって言うなよ! オレだってみんなの為に我慢して入れてきてやってんだぞ!」

「あ~、はいはい、そこまでそこまで。最後のはリサの照れ隠しみたいなもんだから、あんま本気にしないでやってくれ、ヌハン」

「うふふ、さすがフィードさん。よくリサのことをわかってますね」

「ふ……ふんっ!」

「マジかよ~、照れ隠しに人のことなじるんじゃねぇよ、ったく……オレはビビリなんだからよぅ……」

 と、なんだか収集がつかなくなってきそうだったので、みんなで龍に乗って一旦パルの居る神殿に向かうことにする。



「……ということでパル。キミのスキルを吸収させてくれ」

「うん、わかった」


 【吸収眼アブソプション・アイズ


 ドッ
 クン。


 全身が脈打つ。

 パルから【一日一念ワールド・トーク】を奪い取れたことを本能で理解する。
 と同時に、人間の姿から元のローパーの姿に戻っていくパル。
 周りのローパーたちが騒然とするのを、守護ローパーのプロテムが遮る。
 そして女中ローパーの持ってきた杯をあおると、パルは再び人間の姿へと変化していった。

「ん……ぷはぁ。ん、戻った。スキルも、戻った気がする」

 魔純水エリクサーを飲み干したパルを鑑定眼アプレイザル・アイズで見ると、しっかりとステータスに【一日一念ワールド・トーク】の文字が。
 成功だ。
 魔純水エリクサーさえあれば、元に戻すことが出来る。
 ボクがスキルを奪って、魔物から人間に変わったとしても。

「うん、大丈夫。スキルも戻ってるよ」

 周囲のローパーたちがホッとした様子を見せる。

「これで、離れてても、フィードと、毎日お話できる」

「そうだね。でもパルは、このスキルを外交に使うんでしょ?」

「うん。じゃあ、外交の連絡がいらない時は、必ず連絡するね」

 パルは、ぷにぷにほっぺをぷるぷると震わせながら上目遣いにボクを見つめる。

「うん、ボクも連絡出来るときはパルにする。約束する」

「うん、絶対だよ、約束」

 そう言ってパルは小指を差し出した。
 指切りげんまん。
 そっと絡ませた小指は、もちもちボディーのローパーパルに抱きついた時の感触を思い起こさせた。

「じゃあ、フィードも成長して戻ってきたようですしぃ? 戻りますわよぉ、みなさまぁ!」

 久々に耳にする、高飛車かつ自己主張の強すぎる喋り方。
 セイレーンのセレアナだ。

「え、セレアナ? 戻るの? ここにいるんじゃ……」

「あぁ~ら? このいずれ世界を統べる歌姫セレアナ・グラデンが、龍の背中に乗れる機会を逃すとでもぉ?」

「それに、私たちがここに残ることになったのはケプに乗れる人数が定員オーバーだったからってのもあるからな」

 ラミアのカルネ。
 冷静な意見でボクたちの進むべき道を示してくれた。

「ヒヒ~ン!」

 ケルピーのケプ。
 ダンジョンに戻ったら、彼女の機動力はきっと役に立つはずだ。

「あの、本物の扉を見抜くのは私に任せてください……」

 アルラウネのアルネ。
 大人しく控えめな子だが、植物に関しての知識はプロフェッショナル。
 大悪魔の作り出した「本物の扉」に付着しているはずのコケを見分けることの出来る唯一の存在だ。

「よし、行くか」

 みんなが待ってる。
 今、きっと手分けしてダミー扉のトラップ百個を起動させてくれてるはずだ。
 ボクは、ほんの礼にとパルたちに魔結晶クリスタル魔純水エリクサーの一部を分け与え、龍の背に乗ると、もはや懐かしくすらあるダンジョンへと向い、飛び立った。
 振り返ると、地上でプロテムが小さな弟と手を繋いで、ボクたちを見送っている姿が目に入った。

 プロテム、パル、ポラリス前女王、そしてローパーの国のみんな、そしてトラジロー。
 ありがとう。
 キミたちの助けのおかげで、オレたちはきっとダンジョンを脱出できる。
 彼らに報いるためにも。
 出るんだ、みんなで。
 必ず。
 あの、大悪魔のダンジョンを。
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