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生き返れ「地獄、異界」編
第83話 魔神サタン
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「くくく……どうやら驚きのあまり声も出ないようだな。それも仕方がないだろう。なんせ、魔界を創造した魔神サタンを目にしてるのだからな。くっくっくっ……」
うん。偉そうに余裕かまして笑ってるが、お前……。
名前:サタン
種族:魔神
職業:魔を総べしもの
レベル:∞
体力:∞
魔力:∞
職業特性:【魔物創成】
スキル:なし
「スキル:なし」になっちゃってるんだけど、どうすんの……?
スキルを奪われてることに露ほども気づく様子のないサタンは上機嫌で続ける。
「ああ、そうか。魔純水に浸かったままだから喋れないのか」
ザバッ……。
体の周りを覆っていた液体が下へと落ちていく。
周りを覆っていた液体を失ったオレは、ただ虚空にぽつんと浮かんでいる。
「ふん、地面も要るか。足が地に着いていたほうが落ち着くだろう」
サタンは偉そうに腕組み、足組みをしたまま魔結晶と魔純水をソファー状に変形させる。さらに、そのソファーを自分の尻の下に移動させると、どこからか現れた格子状の床の上にソファーごと着地させた。
そしてオレの体もゆっくりと下へと下りていくと、セレアナに作ってもらった黒い靴が、硬く白い床をしかと踏みしめた。
「さぁ、話してみよ。鑑定士よ。貴様は、私に何を言う? 魔神サタンに対して人間が口を聞く、歴史的な一言目だぞ」
ふんぞり返ってはいるが、隙がない。おそらく生物、生命体として理論値の究極、極限に近い肉体をしているのであろう。その肉体、そして姿勢からは機能美を極めたある種の芸術のようなものを感じさせられた。ただ、それだけに、すでにスキルを奪われてるという事実がサタンの間抜けさを際立たせてもいる。
「……みんなを、起こしてくれ」
「ほう、私に怯え、恐れ、命乞いをするわけでもなく。戸惑い、取り乱し、錯乱するわけでもなく。仲間を心配するのか。なるほど、これが今回の鑑定士。くくく……やはり今までとは違うな。おもしろい、面白いぞ」
ザバッ……。
みんなの体を覆っていた魔純水が床をすり抜けて下に落ちていく。そして、プロテム、テス、ヌハン、トリス、トラジロー、ネビルが床に足を下ろし、目を覚ました。
「……? ここは……?」
「鑑定士アベル・フィード・オファリングよ、仲間に説明してやるがよい。なかまに、な。くくくく……」
なにが可笑しいのか、まるで新しいペットでも見るかのようにサタンは笑いをこらえながらニタニタと目を細める。
「みんな、わかってることだけ端的に言う。ここはおそらく魔界。人間界と区別するための魔界ではなくて、本物の魔界。天界と対の意味の魔界だと思う」
「は……? いや、目を覚ましたばっかりで何を言ってるのか……魔界、だって……?」
「くくく……正解。ここは魔の根源。神が天界から人間を統治するがごとく、魔物を統治するのが、ここ魔界。そして、私が──」
「魔神サタン、だ」
バッ──!
臨戦態勢を取るネビル、プロテム。
「サ、サ、サタン……サタン!? 魔神!? ええっ!?」
「コ、コ、コッコケコケッ……!」
慌てふためくヌハンとトリス。
「……?」
状況がわからずポゥっとしてるトラジロー。
テスは驚愕の表情で目を見開いている。
「それから、みんなは魔純水の力で完全に回復してるみたいだ」
失ったはずの触手をすっかりと取り戻したプロテムは、サタンに意識を向けたまま体をくねらせ自分の状態を確認してる。
「えりくさー……。どれだけきずをおっても、かんぜんかいふくするという、きせきのちーと級あいてむ」
「そこらに紫の液体の塊がたくさん浮いているだろ? それが全部そうだ」
「なんだと……!? こ、こ、こんな……! ありえない……! せかいのバランスがくずれる……!」
「それから、そこらでピカピカ光ってる岩の塊。あれ、全部魔結晶だ」
「く、く、くり……!? クリスタルがあんなに……! こ、こ、これだけあれば、にんげんかいを、すうせん回は、よゆうでかんぜんしんりゃく、でき……る……ぶくぶく」
下手に知識のあるテスは、衝撃のあまり立ったまま泡を吹いてしまった。
クイっ。
サタンが少しあごを上げると、魔純水が一滴、ポタリとテスの口に落ちて意識を取り戻す。
「……ハッ! これがエリクサーのあじ、こうのう……! ああ……本でよんでいたよりも数せん、いや数まん倍ちしきがふかまる……!」
体をわなわなと震わせて感動に浸っているテスを横目にオレは続ける。
「わかってるのはそれだけだ。どうしてテスが消滅してないのか。なぜお前がオレたちをここに連れてきたのか。そして、オレたちはこれからどうなるのか。説明してもらえると助かるんだが、魔神サタン?」
言葉の尻に乗せてスキル【狡猾】を発動させる。
頭が冴えわたっていく感覚。
おぼろげに感じていたいくつかの選択肢の輪郭が明確になっていく。
さぁ、久しぶりのスキルをフル活用しての駆け引き。
相手が神だろうが魔神だろうが引く訳にはいかない。
オレには、みんなを助けて国に帰るという目的があるんだ。
やってやるぞ、魔神サタン。
「ふむ……」
サタンは足を組み替えると、性悪そうな表情を見せた。
「なぜ、貴様たちにわざわざ説明しなくてやらなくてはならないのだ?」
そう来たか。
「ならば──なにを望む?」
「……望み? くくく……この魔界の神たる私に望みはなんだ、と? そう聞くのか? 人間ごときが? くくく……くはははははっ!」
大きくのけぞって高笑いをするサタン。
(今だっ──!)
その隙に、すかさずオレは全員のステータスを鑑定する。
名前:テス・メザリア
種族:大悪魔
レベル:22
体力:44
魔力:1578
スキル:【博識エルダイト0.3%】
名前:ヌハン
種族:デュラハン
レベル:57
体力:9598
魔力:7021
スキル:【死の予告】
名前:トリス
種族:コカトリス
レベル:21
体力:1074
魔力:3633
スキル:【毒液】
名前:トラジロー
種族:餓鬼
レベル:0
体力:0
魔力:0
スキル:なし
名前:ネビル
種族:餓鬼
レベル:0
体力:0
魔力:0
スキル:なし
名前:プロテム
種族:守護ローパー
職業:ローパーナイト
レベル:44
体力:12592
魔力:4408
職業特性:【奇跡への道】
スキル:【伸縮触手】
最後に、自分も鑑定する。
名前:アベル・フィード・オファリング
種族:人間(?)
職業:鑑定士
レベル:110
体力:776
魔力:8370
職業特性:【超遅速レベルアップ】【倍算レベルアップ】【スキル進化】【スキル覚醒】
スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【偏食】【邪悪】【死の悲鳴】【暗殺】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【透明】【魅了】【暴力】【怪力】【嘶咆哮】【地獄の業火】【毒液】【毒触手】【死の予告】【邪眼】【腐食】【投触手】【石化】【吸血】【高速飛行】【暗黒爪】【一日一全智】【勧悪懲善】
わかったことを一瞬で頭の中で整理する。
■ テスの知識は失われる寸前。おそらく、この知識量が0になった瞬間にテスは消滅するのだろう。
■ ヌハン、トリスのスキルが復活。かといってオレの奪ったスキルが失われたわけではない。これは、つまり……スキルを奪われても魔純水で復活出来るということか?
■ 餓鬼のトラジローとネビルには変化なし。
■ プロテムが職業に目覚め、職業特性を得ている。
以上!
鑑定が終わると同時にサタンが顔を正面に向けた。
「面白い。では、望みを言ってみるとしようか」
スッ。
人差し指を立てる。
「ひとつ。一つ質問に答えるたびに、お前たちの誰か一人が死ぬ、というのはどうだ?」
「なん……なんだって……!?」
デュラハンのヌハンが胸の間で自分の頭を抱きかかえたまま、震えた声を上げる。
「いいか? 私は魔神だ。神だぞ? 貴様らは私の体からこぼれ落ちた一片の垢、抜け落ちた一本の髪の毛程度にしかすぎん存在なのだ。その私の残滓ごときに世界の理をなんでも教えてやろうというのだ。むしろ貴様ら一人の命ごときじゃ釣り合うはずもない対価じゃあないか?」
言葉から傲慢さは感じられない。
ただ事実を言っているだけなのだろう。
だとしても。
オレは、これ以上誰一人の命をも無駄にしようとは思わない。
オレが知りたいのは、ただひとつ。
ただひとつの事実さえ確認できれば、一気に打つ手が繋がるんだが……。
「お、お兄ちゃん……ボ、ボクの命を使うといいよぅ……」
「……? トラジロー?」
「ボ、ボクはもう死んでるし、もしそれでお兄ちゃんやテスちゃんが助かる可能性が出てくるんだったら、ボクは喜んで、ぎ……犠牲になるよぅ……」
トラジロー。
なんの取り柄もない、ただのお漏らしをするだけの小鬼だと思ってた。
それが、テスをかばい。
閻魔の間に入る扉の前では、オーガに噛みつき。
今では、魔神の無茶な要求を一人で引き受けようとしてる。
ちっちゃなちっちゃな子供のトラジロー。
人は見た目で判断しちゃいけない。
もし、勇者ってのが本当に存在するのなら。
それはきっと、お前みたいなやつなのかもしれないな。
「トラジロー」
「ぁぅ……お、お兄ちゃん……」
恐怖に震えながら、縮こまって上目遣いで見つめてくるトラジロー。
「大丈夫だ。お前を犠牲にさせたりはしないよ」
「で、でも……それだと、みんなが……」
大丈夫。
こらえきれずに、もう動き出してるやつがいるから。
目の端で捉えた二千年前の鑑定士ネビル。
彼は、みながトラジローへと注目する隙を見てこっそりと動き出していた。
【軌道予測】
ケンタウロスのヘイトスから盗んだスキルで、ネビルの未来の動きの軌道を視る。
□ 脱力し、膝から崩れ落ちる。
□ 倒れる前に地面を蹴って、地を這うように低く駆ける。
□ サタンの背後に回り込む。
□ 両腕で首を捻り折る。
なるほど。
地獄で会った時にネビルの動きが掴めなかったのは、この独特の体術のせいだったのか。
これならたしかにスキルがなくても、体力が0でも餓鬼の体で行使することは可能かもしれない。
「がははははっ! 閻魔を殺せばオレは神になれるって約束だったんだ! もし魔神を殺したなんてことになりゃ、オレは神をも超越した存在になれるんじゃねぇのか!? ってことで、オラぁ! 死ねぇ!」
興奮して目を血走らせ、デカい口から唾を撒き散らしながら、まるで野蛮人のようなネビルがサタンの首にかけた腕に力を込める。
ガキンッ──!
鈍い音が鳴り響く。
「…………は?」
何が起きたのかわからないといった表情で、ネビルは反対方向に折れ曲がった自身の両肘を見つめている。
「……ネビル。お前は、たしかに面白かった。二千年前に閻魔のとこに攻め入ってきた時はワクワクしたよ。だがな、それも過去の話だ。今のお前はなんだ? スキルも失い、地獄でダラダラ生きて、それで満足してる志の低い餓鬼。閻魔に逆らった罪で永久に輪廻できない無間地獄に落とされたようだが、せっかくだから私が輪廻させてやろう。そうだな……『この世で最も忌み嫌われる小さな虫』へと輪廻させてやるとしようか。それでは、ネビル。ごきげんよう」
「は? おい、何言って……オイぃ! てめぇ! 絶対にゆるさ……」
ぎゅるん。
ネビルの体は宙に浮いたかと思うと渦を描いて小さくなり────消滅した。
「さぁ、これで一人死んだ。なんでも聞いてくれて構わないぞ。一つだけ質問に答えよう」
ネビル。特に思い入れがあったわけでもないし、なにか恩を受けたわけでもない。一方的にただ迷惑をかけられただけの存在だ。でも、それでも。
「奪ったスキルをかけあわせ、上位スキルへと変換することが出来る」
「神が、閻魔をはじめ地獄と敵対している」
「人間でも天界へ行くことが出来る」
「人間界にも天使たちが擬態して潜んでいる」
「過去には、弱点の見える【鑑定術】というものが存在していた」
などなど。
そういった新たな見地をオレにもたらしてくれた。
オレはテスの制限時間に追われ、それらについて深く考える暇もなかったが、もしかしたら、いつかこの情報が役に立つ日が来るかもしれない。
それと、まぁ誤解はあったが、閻魔の弱点の「ロリ」という情報も役に立った──のだろうか?
あの情報に振り回されたのが正しかったのか、そうじゃなかったのか。今はまだ判断ができない。
でも、もし全てが片付いたなら、輪廻して生まれ変わったお前を保護してやってもいいかもしれない。
だからネビル。
大事に使わせてもらうぞ──お前の犠牲。
「……テスが、制限時間が切れても消滅していないのはなぜだ?」
オレの読みが正しいなら。
この質問への答え次第で、オレたちは圧倒的優位に立つことが出来るはずだ。
「それは……」
サタンが口を開く。
「この空間には、時間という概念がないからだ。それで、そこの大悪魔の制限時間もタイムオーバー前の状態で止まってるわけだ」
ビンゴ!
『この空間には、時間という概念がない』
そう、それなら──。
このスキルが無制限で使えるんじゃないか!?
【一日一全智】
ローパーの女王プロテムから譲り受けた全智のスキル。
一日一度だけ、なんでも知ることの出来るスキル。
オレは頭をフル回転し、この場で得る必要のある情報を思いつく限り頭に思い浮かべた。
そして、オレの。
頭の 中、に。
膨大 な。
情報の 渦 が。
な だ
れ。
込んできた。
うん。偉そうに余裕かまして笑ってるが、お前……。
名前:サタン
種族:魔神
職業:魔を総べしもの
レベル:∞
体力:∞
魔力:∞
職業特性:【魔物創成】
スキル:なし
「スキル:なし」になっちゃってるんだけど、どうすんの……?
スキルを奪われてることに露ほども気づく様子のないサタンは上機嫌で続ける。
「ああ、そうか。魔純水に浸かったままだから喋れないのか」
ザバッ……。
体の周りを覆っていた液体が下へと落ちていく。
周りを覆っていた液体を失ったオレは、ただ虚空にぽつんと浮かんでいる。
「ふん、地面も要るか。足が地に着いていたほうが落ち着くだろう」
サタンは偉そうに腕組み、足組みをしたまま魔結晶と魔純水をソファー状に変形させる。さらに、そのソファーを自分の尻の下に移動させると、どこからか現れた格子状の床の上にソファーごと着地させた。
そしてオレの体もゆっくりと下へと下りていくと、セレアナに作ってもらった黒い靴が、硬く白い床をしかと踏みしめた。
「さぁ、話してみよ。鑑定士よ。貴様は、私に何を言う? 魔神サタンに対して人間が口を聞く、歴史的な一言目だぞ」
ふんぞり返ってはいるが、隙がない。おそらく生物、生命体として理論値の究極、極限に近い肉体をしているのであろう。その肉体、そして姿勢からは機能美を極めたある種の芸術のようなものを感じさせられた。ただ、それだけに、すでにスキルを奪われてるという事実がサタンの間抜けさを際立たせてもいる。
「……みんなを、起こしてくれ」
「ほう、私に怯え、恐れ、命乞いをするわけでもなく。戸惑い、取り乱し、錯乱するわけでもなく。仲間を心配するのか。なるほど、これが今回の鑑定士。くくく……やはり今までとは違うな。おもしろい、面白いぞ」
ザバッ……。
みんなの体を覆っていた魔純水が床をすり抜けて下に落ちていく。そして、プロテム、テス、ヌハン、トリス、トラジロー、ネビルが床に足を下ろし、目を覚ました。
「……? ここは……?」
「鑑定士アベル・フィード・オファリングよ、仲間に説明してやるがよい。なかまに、な。くくくく……」
なにが可笑しいのか、まるで新しいペットでも見るかのようにサタンは笑いをこらえながらニタニタと目を細める。
「みんな、わかってることだけ端的に言う。ここはおそらく魔界。人間界と区別するための魔界ではなくて、本物の魔界。天界と対の意味の魔界だと思う」
「は……? いや、目を覚ましたばっかりで何を言ってるのか……魔界、だって……?」
「くくく……正解。ここは魔の根源。神が天界から人間を統治するがごとく、魔物を統治するのが、ここ魔界。そして、私が──」
「魔神サタン、だ」
バッ──!
臨戦態勢を取るネビル、プロテム。
「サ、サ、サタン……サタン!? 魔神!? ええっ!?」
「コ、コ、コッコケコケッ……!」
慌てふためくヌハンとトリス。
「……?」
状況がわからずポゥっとしてるトラジロー。
テスは驚愕の表情で目を見開いている。
「それから、みんなは魔純水の力で完全に回復してるみたいだ」
失ったはずの触手をすっかりと取り戻したプロテムは、サタンに意識を向けたまま体をくねらせ自分の状態を確認してる。
「えりくさー……。どれだけきずをおっても、かんぜんかいふくするという、きせきのちーと級あいてむ」
「そこらに紫の液体の塊がたくさん浮いているだろ? それが全部そうだ」
「なんだと……!? こ、こ、こんな……! ありえない……! せかいのバランスがくずれる……!」
「それから、そこらでピカピカ光ってる岩の塊。あれ、全部魔結晶だ」
「く、く、くり……!? クリスタルがあんなに……! こ、こ、これだけあれば、にんげんかいを、すうせん回は、よゆうでかんぜんしんりゃく、でき……る……ぶくぶく」
下手に知識のあるテスは、衝撃のあまり立ったまま泡を吹いてしまった。
クイっ。
サタンが少しあごを上げると、魔純水が一滴、ポタリとテスの口に落ちて意識を取り戻す。
「……ハッ! これがエリクサーのあじ、こうのう……! ああ……本でよんでいたよりも数せん、いや数まん倍ちしきがふかまる……!」
体をわなわなと震わせて感動に浸っているテスを横目にオレは続ける。
「わかってるのはそれだけだ。どうしてテスが消滅してないのか。なぜお前がオレたちをここに連れてきたのか。そして、オレたちはこれからどうなるのか。説明してもらえると助かるんだが、魔神サタン?」
言葉の尻に乗せてスキル【狡猾】を発動させる。
頭が冴えわたっていく感覚。
おぼろげに感じていたいくつかの選択肢の輪郭が明確になっていく。
さぁ、久しぶりのスキルをフル活用しての駆け引き。
相手が神だろうが魔神だろうが引く訳にはいかない。
オレには、みんなを助けて国に帰るという目的があるんだ。
やってやるぞ、魔神サタン。
「ふむ……」
サタンは足を組み替えると、性悪そうな表情を見せた。
「なぜ、貴様たちにわざわざ説明しなくてやらなくてはならないのだ?」
そう来たか。
「ならば──なにを望む?」
「……望み? くくく……この魔界の神たる私に望みはなんだ、と? そう聞くのか? 人間ごときが? くくく……くはははははっ!」
大きくのけぞって高笑いをするサタン。
(今だっ──!)
その隙に、すかさずオレは全員のステータスを鑑定する。
名前:テス・メザリア
種族:大悪魔
レベル:22
体力:44
魔力:1578
スキル:【博識エルダイト0.3%】
名前:ヌハン
種族:デュラハン
レベル:57
体力:9598
魔力:7021
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職業:ローパーナイト
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スキル:【伸縮触手】
最後に、自分も鑑定する。
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職業:鑑定士
レベル:110
体力:776
魔力:8370
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スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【偏食】【邪悪】【死の悲鳴】【暗殺】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【透明】【魅了】【暴力】【怪力】【嘶咆哮】【地獄の業火】【毒液】【毒触手】【死の予告】【邪眼】【腐食】【投触手】【石化】【吸血】【高速飛行】【暗黒爪】【一日一全智】【勧悪懲善】
わかったことを一瞬で頭の中で整理する。
■ テスの知識は失われる寸前。おそらく、この知識量が0になった瞬間にテスは消滅するのだろう。
■ ヌハン、トリスのスキルが復活。かといってオレの奪ったスキルが失われたわけではない。これは、つまり……スキルを奪われても魔純水で復活出来るということか?
■ 餓鬼のトラジローとネビルには変化なし。
■ プロテムが職業に目覚め、職業特性を得ている。
以上!
鑑定が終わると同時にサタンが顔を正面に向けた。
「面白い。では、望みを言ってみるとしようか」
スッ。
人差し指を立てる。
「ひとつ。一つ質問に答えるたびに、お前たちの誰か一人が死ぬ、というのはどうだ?」
「なん……なんだって……!?」
デュラハンのヌハンが胸の間で自分の頭を抱きかかえたまま、震えた声を上げる。
「いいか? 私は魔神だ。神だぞ? 貴様らは私の体からこぼれ落ちた一片の垢、抜け落ちた一本の髪の毛程度にしかすぎん存在なのだ。その私の残滓ごときに世界の理をなんでも教えてやろうというのだ。むしろ貴様ら一人の命ごときじゃ釣り合うはずもない対価じゃあないか?」
言葉から傲慢さは感じられない。
ただ事実を言っているだけなのだろう。
だとしても。
オレは、これ以上誰一人の命をも無駄にしようとは思わない。
オレが知りたいのは、ただひとつ。
ただひとつの事実さえ確認できれば、一気に打つ手が繋がるんだが……。
「お、お兄ちゃん……ボ、ボクの命を使うといいよぅ……」
「……? トラジロー?」
「ボ、ボクはもう死んでるし、もしそれでお兄ちゃんやテスちゃんが助かる可能性が出てくるんだったら、ボクは喜んで、ぎ……犠牲になるよぅ……」
トラジロー。
なんの取り柄もない、ただのお漏らしをするだけの小鬼だと思ってた。
それが、テスをかばい。
閻魔の間に入る扉の前では、オーガに噛みつき。
今では、魔神の無茶な要求を一人で引き受けようとしてる。
ちっちゃなちっちゃな子供のトラジロー。
人は見た目で判断しちゃいけない。
もし、勇者ってのが本当に存在するのなら。
それはきっと、お前みたいなやつなのかもしれないな。
「トラジロー」
「ぁぅ……お、お兄ちゃん……」
恐怖に震えながら、縮こまって上目遣いで見つめてくるトラジロー。
「大丈夫だ。お前を犠牲にさせたりはしないよ」
「で、でも……それだと、みんなが……」
大丈夫。
こらえきれずに、もう動き出してるやつがいるから。
目の端で捉えた二千年前の鑑定士ネビル。
彼は、みながトラジローへと注目する隙を見てこっそりと動き出していた。
【軌道予測】
ケンタウロスのヘイトスから盗んだスキルで、ネビルの未来の動きの軌道を視る。
□ 脱力し、膝から崩れ落ちる。
□ 倒れる前に地面を蹴って、地を這うように低く駆ける。
□ サタンの背後に回り込む。
□ 両腕で首を捻り折る。
なるほど。
地獄で会った時にネビルの動きが掴めなかったのは、この独特の体術のせいだったのか。
これならたしかにスキルがなくても、体力が0でも餓鬼の体で行使することは可能かもしれない。
「がははははっ! 閻魔を殺せばオレは神になれるって約束だったんだ! もし魔神を殺したなんてことになりゃ、オレは神をも超越した存在になれるんじゃねぇのか!? ってことで、オラぁ! 死ねぇ!」
興奮して目を血走らせ、デカい口から唾を撒き散らしながら、まるで野蛮人のようなネビルがサタンの首にかけた腕に力を込める。
ガキンッ──!
鈍い音が鳴り響く。
「…………は?」
何が起きたのかわからないといった表情で、ネビルは反対方向に折れ曲がった自身の両肘を見つめている。
「……ネビル。お前は、たしかに面白かった。二千年前に閻魔のとこに攻め入ってきた時はワクワクしたよ。だがな、それも過去の話だ。今のお前はなんだ? スキルも失い、地獄でダラダラ生きて、それで満足してる志の低い餓鬼。閻魔に逆らった罪で永久に輪廻できない無間地獄に落とされたようだが、せっかくだから私が輪廻させてやろう。そうだな……『この世で最も忌み嫌われる小さな虫』へと輪廻させてやるとしようか。それでは、ネビル。ごきげんよう」
「は? おい、何言って……オイぃ! てめぇ! 絶対にゆるさ……」
ぎゅるん。
ネビルの体は宙に浮いたかと思うと渦を描いて小さくなり────消滅した。
「さぁ、これで一人死んだ。なんでも聞いてくれて構わないぞ。一つだけ質問に答えよう」
ネビル。特に思い入れがあったわけでもないし、なにか恩を受けたわけでもない。一方的にただ迷惑をかけられただけの存在だ。でも、それでも。
「奪ったスキルをかけあわせ、上位スキルへと変換することが出来る」
「神が、閻魔をはじめ地獄と敵対している」
「人間でも天界へ行くことが出来る」
「人間界にも天使たちが擬態して潜んでいる」
「過去には、弱点の見える【鑑定術】というものが存在していた」
などなど。
そういった新たな見地をオレにもたらしてくれた。
オレはテスの制限時間に追われ、それらについて深く考える暇もなかったが、もしかしたら、いつかこの情報が役に立つ日が来るかもしれない。
それと、まぁ誤解はあったが、閻魔の弱点の「ロリ」という情報も役に立った──のだろうか?
あの情報に振り回されたのが正しかったのか、そうじゃなかったのか。今はまだ判断ができない。
でも、もし全てが片付いたなら、輪廻して生まれ変わったお前を保護してやってもいいかもしれない。
だからネビル。
大事に使わせてもらうぞ──お前の犠牲。
「……テスが、制限時間が切れても消滅していないのはなぜだ?」
オレの読みが正しいなら。
この質問への答え次第で、オレたちは圧倒的優位に立つことが出来るはずだ。
「それは……」
サタンが口を開く。
「この空間には、時間という概念がないからだ。それで、そこの大悪魔の制限時間もタイムオーバー前の状態で止まってるわけだ」
ビンゴ!
『この空間には、時間という概念がない』
そう、それなら──。
このスキルが無制限で使えるんじゃないか!?
【一日一全智】
ローパーの女王プロテムから譲り受けた全智のスキル。
一日一度だけ、なんでも知ることの出来るスキル。
オレは頭をフル回転し、この場で得る必要のある情報を思いつく限り頭に思い浮かべた。
そして、オレの。
頭の 中、に。
膨大 な。
情報の 渦 が。
な だ
れ。
込んできた。
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落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
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神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
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高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
異世界クラス転移した俺氏、陰キャなのに聖剣抜いたった ~なんかヤバそうなので学園一の美少女と国外逃亡します~
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――陰キャなのに聖剣抜いちゃった。
高校二年生である明星影人(みょうじょうかげと)は目の前で起きた出来事に対し非常に困惑した。
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※カクヨムでも連載しています
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