66 / 174
生き残れ「地下迷宮」編
第65話 託されるもの
しおりを挟む
「私は、今から十分後に死ぬ。寿命じゃ」
宮殿内。昨日と同じ場所で白い座椅子に腰を落とすなり、クイーンローパーのポラリスは開口一番そう言った。
「…………は?」
ベストを貰ったオレと同様、それぞれ新たな衣服を纏ったセレアナたち女子~ズ、そしてリサ、ルゥは惚けたようにポカンと口を開いた。
パルは昨日までとは違い、オレたちと対面、女王側の方に立っているが、彼女も初耳のようであわあわと慌てている。
「時間がない。まず、私のスキルから説明しよう。私の覚醒スキル一日一全智は、一日に一度だけ、あらゆる次元のあらゆる事象について一つだけ知ることが出来る。ゆえに私の死期も死に方も、ずっと昔からわかっておった。そして今、そのスキルによって最後の見知を得ることとしよう」
「え、いや、ちょっと……?」
【一日一全智】
「うむ、知りたいのは『本当の出口』じゃな……。ハァハァ……」
「女王、体調が……!」
怒涛の展開。
情報の渦に流されそうになりながらも、一つだけ、たしかにわかること。
それは、目の前で苦しそうにしているポラリス女王の体調が、とても悪そうだということだ。
「よい、気遣われる時間が無駄じゃ。本当の出口、それは────」
自ずと、みんなの注目が女王に集まる。
急転直下、あまりに突然な形で頭が全くついていかないが、オレたちがローパー王国にやってきた目的。
ダンジョンに隠された『本当の出口』を探し出す。
どうやら、その目的を果たすことが出来るらしい。
ポラリス女王がゼイゼイという喘鳴と共に口を開く。
「ハァ……ハァ……本当の出口、は…………全五十層のダンジョンにある百のダミー扉……そのすべてのトラップを発動させた時に、二十五層の中間地点に現れるじゃろう……」
え……? すべて……?
あの笑気ガスのトラップを……?
「無理よ、そんなのっ! あのトラップをあと九十八個も!? あとたった二日、いや、今から戻ってたら一日とちょっとしかないのに!?」
リサが叫ぶ。
「大丈夫じゃ。あとはパルが引き継いでくれる。各々が己の役目を果たせば、必ず成功に至るはずじゃ」
まだなにか言おうとしてるリサの肩を掴む。
「リサ。時間があまり残されてない。話を聞こう」
「でも……!」
抵抗しかけたリサだったが、オレの目を見ると「……わかった」と小声で呟いて前を向いた。
「続けるぞ……。そなたらには、私たちローパーの秘密を知っておいてもらう必要がある……。まず、我々は意識を共有できる。個体によって距離は違うが、数百、数千キロ離れていても共有できる場合もある。それがローパーという種じゃ」
「…………」
あまりにぶっ飛んだ話に、誰も言葉が出ない。
「……そ、それってつまり……パルさんの体験してきたことを、みなさんも知ってらっしゃるってこと……ですか?」
「そうじゃな。パルの学校でのことは、私をはじめ同胞全員が把握しておるよ」
「だから、私達の名前や体型、そして、ここに向かってることも全て知ってたってわけなのね……」
「うむ。そなたらは驚いただろうが、こちらとしても説明する時間がなかったのでな。どうか許して欲しい」
時間がなかった。
それは、おそらく彼女の寿命による体力の低下のこともあるのだろう。
今朝も、かなり辛そうに現れていた。
今だって毅然とした態度で振る舞ってはいるが、小さい体を肘置きで必死に支えている。
その、貴重な残りの寿命を、彼女はわざわざオレたちのために使ってくれているんだ。
そう思うと、急に一分一秒が重たく感じられた。
「女王。先ほどパルに引き継ぐ、と言ってましたが、パルも女王のように人化できるようになるのですか?」
「なる。そのためには、己の殻を打ち破ってスキルを覚醒させなければならんのじゃが……。まぁ、我が娘なら大丈夫じゃろう」
一言も聞き逃すまいと、真剣な様子でパルが女王を見つめている。
「ちなみに。スキルの覚醒というのは、さりとて特別なものではない。スキルはその生物の生まれ持った個性もあるが、己で切り開いていく信念の証でもあるし、背負った覚悟の証でもある。まぁ、ほとんどの者は、その事実も知らず、覚醒にも至らぬため、結果的に秘匿される形になってきたが……そなたは、身に覚えがあるのでは?」
「は、はい……たしかに……三十日前のあの日、オレは、絶望の中で新たなスキルに目覚めました。やはり、あれは覚醒……。そして、誰にでも起こりうること……なんですね」
「理論上は、な。ただ、実際に覚醒へと辿り着ける者はゼロに等しい。我らローパーの王族以外では、この数千年、全種族でそなただけじゃ、フィード・オファリング」
「え、そんなに……」
スキルの覚醒。
理論上は誰にでも出来る。
パルが人化できるようになるには、スキルを覚醒させなければならない。
おそらく、世界中の誰も知らない知識をオレたちは、今授けられている。
あの大悪魔ですら知らなかったであろうことを。
「それと、職業特性のことも聞きたがっていたかの……。魔物でも職業に就けるぞ。自身が強く認識すればな。ただし、魔物には『仕事』という概念がないため、職業を得ても特性を得ることは、ほぼない。しかし、ごく一部、そうじゃな……。セレアナ・グラデン」
「はい? わたくし、ですか?」
「ああ、そなたは『歌手』じゃ。これから先、歌を生業とし、様々な生き物たちの心を震わせていく。いいか? セレアナ、お主は『歌手』じゃ」
次の瞬間、セレアナの体が青い光柱に包まれた。
「これは……?」
その光柱には見覚えがあった。
昔、冒険者ギルドで職業適性検査の後にみんなの体に宿ったのと同じものだ。
そして、これが本当に、その時のものと同じなら……。
「あら。わたくし、歌手になりましたわぁ」
あっけらかんと言うセレアナ。
そう、あの光を浴びると、自分の職業と職業特性が不思議とわかるのだ。
「楽曲理解。それがセレアナの職業特性。きっとこれからは、今までよりも旋律に込められた意味を深く理解して歌えるようになるんじゃないかな」
鑑定で見たものを伝える。
今まではなかった職業欄、そして職業特性が、セレアナのステータス欄に刻まれている。
「うむ。その者は普段から己が歌手であるという強い信念を持ち続けていたため、こうやってきっかけを与えてやるだけで自身を職業と強く結びつけて捉えることが出来た。まぁ、これは稀有な例じゃ……」
女王の息が荒くなってきた。
肘置きにもたげ、紙一重で体を支えてるような状態だ。
もう、あまり時間が残されてない。
ここまで、女王から一方的に話を進めさせてしまったのも負担になったのかもしれない。
かと言って。
わかんない。
こんな状況で、一体、会ったばっかりのオレたちが何を聞いて、何を言えばいいっていうのか。
そもそも、こんな時に、オレなんかが話しかけたりしていいものなのか……?
最後を看取るのがオレたちでいいんだろうか……?
内心パニックになりかけていると、女王がパルに不安そうな目を向けている姿が目に入った。
…………そうだ、あるじゃないか。
オレが言ってあげられる言葉。
いや、今、女王に言うべき言葉が。
「女王様。パルのことは心配いりません。オレたちも全力で支えます。きっと、あなたのような立派な女王になることを、オレが──」
みんなの顔を見渡す。
リサ。
ルゥ。
セレアナ。
カミラ。
アルネ。
ケプ。
離れたところに立っている守護ローパーのプロテム、女中ローパーたち。
みんなと真剣な眼差しを交わす。
これが──オレたちの決意で。
この素晴らしい国とを作り上げた女王に対する。
オレたちからの、最後の言葉だ。
「オレたちが、約束します!」
力強い、言葉。
みんなの気持ちを、オレが代表して伝えさせてもらった。
オレたちはダンジョンを攻略する手がかりを得るためにここに来た。
でも、それ以上に一人の仲間を支え、次のステージへと送り出すためにここに呼ばれたんだ。
全うしてやろうじゃないか。
パルのことも、この王国のこれからの安寧のことも。
そして、リサ、ルゥ、オルクの無事に関しても。
そう心に誓い、女王の目を見据える。
「ふふ……やはり、娘の人を見る目はたしかだったようじゃ……」
すると、厳格な女王は、初めて柔和な笑みを浮かべた。
「では、遠慮なく、これからの娘のことを任せるとしようかのう……」
「はい! 任せてください!」
「うむ、では、孫も期待しておくからの……」
「はいっ! まかせ……」
…………え? …………まご?
「もう最後になりそうじゃ……私の……スキルをそなたに託したい……。貰ってくれ……」
スキルを……託す……?
オレに……?
奪え……ということなんだろう。
え、いいのか……?
一日に一回、なんでも知ることのできるスキル。
そんな神をも超えるようなスキルが、オレなんかに託されて……。
女王を見る。
もう気力だけで肘置きにしがみついている状態だ。
パルを見る。
静かに、小さく頷いている。
プロテムを見る。
相変わらずのじとりとした目線を感じるが、少し肩をすぼめ「仕方ない……」というような諦念の雰囲気も漂わせている。
これまでに、オレがスキルを奪うように言われたのはルゥとリサからだけだ。
しかし──「託す」とは……。
あまりに重すぎる……。
彼女の背負ってきた経験、信念、守ってきた王国、国民と娘への想い……それら全てを背負うことになるような気がする……。
オレは今、臆してるのだろうか……。
そうだ、臆してる。
こんな凄い地下帝国を作り上げた礎となったスキルだぞ……?
そんなものをオレなんかが受け取って……。
下を向いていたオレの手に、パルの触手がさわりと触れた。
「パル……」
そのままパルは、ツツツ──とオレの手を引き、女王の前へと連れて行く。
「女王……様……」
初めて間近で見る女王の目は、これが本当に死の間際の人間なのかと思うほど、強い光を宿していた。
(オレが迷って、この人をこれ以上苦しませてはいけない……!)
気がつくとオレは片膝をつき、右手を自分の心臓の前に置いていた。
「女王ポラリス。あなたのスキルはオレが必ず役に立てます。だから──安心して、行ってください」
【吸収眼】
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
体が──熱い──!
スキルが、託された。
と、同時に。
目の前の偉大なる女王はローパーの姿へと戻っていき──。
その生涯に──。
幕を閉じた。
【タイムリミット 一日十六時間二十九分】
【残りのダミー扉 九十六個】
【現在の生存人数 三十三人】
宮殿内。昨日と同じ場所で白い座椅子に腰を落とすなり、クイーンローパーのポラリスは開口一番そう言った。
「…………は?」
ベストを貰ったオレと同様、それぞれ新たな衣服を纏ったセレアナたち女子~ズ、そしてリサ、ルゥは惚けたようにポカンと口を開いた。
パルは昨日までとは違い、オレたちと対面、女王側の方に立っているが、彼女も初耳のようであわあわと慌てている。
「時間がない。まず、私のスキルから説明しよう。私の覚醒スキル一日一全智は、一日に一度だけ、あらゆる次元のあらゆる事象について一つだけ知ることが出来る。ゆえに私の死期も死に方も、ずっと昔からわかっておった。そして今、そのスキルによって最後の見知を得ることとしよう」
「え、いや、ちょっと……?」
【一日一全智】
「うむ、知りたいのは『本当の出口』じゃな……。ハァハァ……」
「女王、体調が……!」
怒涛の展開。
情報の渦に流されそうになりながらも、一つだけ、たしかにわかること。
それは、目の前で苦しそうにしているポラリス女王の体調が、とても悪そうだということだ。
「よい、気遣われる時間が無駄じゃ。本当の出口、それは────」
自ずと、みんなの注目が女王に集まる。
急転直下、あまりに突然な形で頭が全くついていかないが、オレたちがローパー王国にやってきた目的。
ダンジョンに隠された『本当の出口』を探し出す。
どうやら、その目的を果たすことが出来るらしい。
ポラリス女王がゼイゼイという喘鳴と共に口を開く。
「ハァ……ハァ……本当の出口、は…………全五十層のダンジョンにある百のダミー扉……そのすべてのトラップを発動させた時に、二十五層の中間地点に現れるじゃろう……」
え……? すべて……?
あの笑気ガスのトラップを……?
「無理よ、そんなのっ! あのトラップをあと九十八個も!? あとたった二日、いや、今から戻ってたら一日とちょっとしかないのに!?」
リサが叫ぶ。
「大丈夫じゃ。あとはパルが引き継いでくれる。各々が己の役目を果たせば、必ず成功に至るはずじゃ」
まだなにか言おうとしてるリサの肩を掴む。
「リサ。時間があまり残されてない。話を聞こう」
「でも……!」
抵抗しかけたリサだったが、オレの目を見ると「……わかった」と小声で呟いて前を向いた。
「続けるぞ……。そなたらには、私たちローパーの秘密を知っておいてもらう必要がある……。まず、我々は意識を共有できる。個体によって距離は違うが、数百、数千キロ離れていても共有できる場合もある。それがローパーという種じゃ」
「…………」
あまりにぶっ飛んだ話に、誰も言葉が出ない。
「……そ、それってつまり……パルさんの体験してきたことを、みなさんも知ってらっしゃるってこと……ですか?」
「そうじゃな。パルの学校でのことは、私をはじめ同胞全員が把握しておるよ」
「だから、私達の名前や体型、そして、ここに向かってることも全て知ってたってわけなのね……」
「うむ。そなたらは驚いただろうが、こちらとしても説明する時間がなかったのでな。どうか許して欲しい」
時間がなかった。
それは、おそらく彼女の寿命による体力の低下のこともあるのだろう。
今朝も、かなり辛そうに現れていた。
今だって毅然とした態度で振る舞ってはいるが、小さい体を肘置きで必死に支えている。
その、貴重な残りの寿命を、彼女はわざわざオレたちのために使ってくれているんだ。
そう思うと、急に一分一秒が重たく感じられた。
「女王。先ほどパルに引き継ぐ、と言ってましたが、パルも女王のように人化できるようになるのですか?」
「なる。そのためには、己の殻を打ち破ってスキルを覚醒させなければならんのじゃが……。まぁ、我が娘なら大丈夫じゃろう」
一言も聞き逃すまいと、真剣な様子でパルが女王を見つめている。
「ちなみに。スキルの覚醒というのは、さりとて特別なものではない。スキルはその生物の生まれ持った個性もあるが、己で切り開いていく信念の証でもあるし、背負った覚悟の証でもある。まぁ、ほとんどの者は、その事実も知らず、覚醒にも至らぬため、結果的に秘匿される形になってきたが……そなたは、身に覚えがあるのでは?」
「は、はい……たしかに……三十日前のあの日、オレは、絶望の中で新たなスキルに目覚めました。やはり、あれは覚醒……。そして、誰にでも起こりうること……なんですね」
「理論上は、な。ただ、実際に覚醒へと辿り着ける者はゼロに等しい。我らローパーの王族以外では、この数千年、全種族でそなただけじゃ、フィード・オファリング」
「え、そんなに……」
スキルの覚醒。
理論上は誰にでも出来る。
パルが人化できるようになるには、スキルを覚醒させなければならない。
おそらく、世界中の誰も知らない知識をオレたちは、今授けられている。
あの大悪魔ですら知らなかったであろうことを。
「それと、職業特性のことも聞きたがっていたかの……。魔物でも職業に就けるぞ。自身が強く認識すればな。ただし、魔物には『仕事』という概念がないため、職業を得ても特性を得ることは、ほぼない。しかし、ごく一部、そうじゃな……。セレアナ・グラデン」
「はい? わたくし、ですか?」
「ああ、そなたは『歌手』じゃ。これから先、歌を生業とし、様々な生き物たちの心を震わせていく。いいか? セレアナ、お主は『歌手』じゃ」
次の瞬間、セレアナの体が青い光柱に包まれた。
「これは……?」
その光柱には見覚えがあった。
昔、冒険者ギルドで職業適性検査の後にみんなの体に宿ったのと同じものだ。
そして、これが本当に、その時のものと同じなら……。
「あら。わたくし、歌手になりましたわぁ」
あっけらかんと言うセレアナ。
そう、あの光を浴びると、自分の職業と職業特性が不思議とわかるのだ。
「楽曲理解。それがセレアナの職業特性。きっとこれからは、今までよりも旋律に込められた意味を深く理解して歌えるようになるんじゃないかな」
鑑定で見たものを伝える。
今まではなかった職業欄、そして職業特性が、セレアナのステータス欄に刻まれている。
「うむ。その者は普段から己が歌手であるという強い信念を持ち続けていたため、こうやってきっかけを与えてやるだけで自身を職業と強く結びつけて捉えることが出来た。まぁ、これは稀有な例じゃ……」
女王の息が荒くなってきた。
肘置きにもたげ、紙一重で体を支えてるような状態だ。
もう、あまり時間が残されてない。
ここまで、女王から一方的に話を進めさせてしまったのも負担になったのかもしれない。
かと言って。
わかんない。
こんな状況で、一体、会ったばっかりのオレたちが何を聞いて、何を言えばいいっていうのか。
そもそも、こんな時に、オレなんかが話しかけたりしていいものなのか……?
最後を看取るのがオレたちでいいんだろうか……?
内心パニックになりかけていると、女王がパルに不安そうな目を向けている姿が目に入った。
…………そうだ、あるじゃないか。
オレが言ってあげられる言葉。
いや、今、女王に言うべき言葉が。
「女王様。パルのことは心配いりません。オレたちも全力で支えます。きっと、あなたのような立派な女王になることを、オレが──」
みんなの顔を見渡す。
リサ。
ルゥ。
セレアナ。
カミラ。
アルネ。
ケプ。
離れたところに立っている守護ローパーのプロテム、女中ローパーたち。
みんなと真剣な眼差しを交わす。
これが──オレたちの決意で。
この素晴らしい国とを作り上げた女王に対する。
オレたちからの、最後の言葉だ。
「オレたちが、約束します!」
力強い、言葉。
みんなの気持ちを、オレが代表して伝えさせてもらった。
オレたちはダンジョンを攻略する手がかりを得るためにここに来た。
でも、それ以上に一人の仲間を支え、次のステージへと送り出すためにここに呼ばれたんだ。
全うしてやろうじゃないか。
パルのことも、この王国のこれからの安寧のことも。
そして、リサ、ルゥ、オルクの無事に関しても。
そう心に誓い、女王の目を見据える。
「ふふ……やはり、娘の人を見る目はたしかだったようじゃ……」
すると、厳格な女王は、初めて柔和な笑みを浮かべた。
「では、遠慮なく、これからの娘のことを任せるとしようかのう……」
「はい! 任せてください!」
「うむ、では、孫も期待しておくからの……」
「はいっ! まかせ……」
…………え? …………まご?
「もう最後になりそうじゃ……私の……スキルをそなたに託したい……。貰ってくれ……」
スキルを……託す……?
オレに……?
奪え……ということなんだろう。
え、いいのか……?
一日に一回、なんでも知ることのできるスキル。
そんな神をも超えるようなスキルが、オレなんかに託されて……。
女王を見る。
もう気力だけで肘置きにしがみついている状態だ。
パルを見る。
静かに、小さく頷いている。
プロテムを見る。
相変わらずのじとりとした目線を感じるが、少し肩をすぼめ「仕方ない……」というような諦念の雰囲気も漂わせている。
これまでに、オレがスキルを奪うように言われたのはルゥとリサからだけだ。
しかし──「託す」とは……。
あまりに重すぎる……。
彼女の背負ってきた経験、信念、守ってきた王国、国民と娘への想い……それら全てを背負うことになるような気がする……。
オレは今、臆してるのだろうか……。
そうだ、臆してる。
こんな凄い地下帝国を作り上げた礎となったスキルだぞ……?
そんなものをオレなんかが受け取って……。
下を向いていたオレの手に、パルの触手がさわりと触れた。
「パル……」
そのままパルは、ツツツ──とオレの手を引き、女王の前へと連れて行く。
「女王……様……」
初めて間近で見る女王の目は、これが本当に死の間際の人間なのかと思うほど、強い光を宿していた。
(オレが迷って、この人をこれ以上苦しませてはいけない……!)
気がつくとオレは片膝をつき、右手を自分の心臓の前に置いていた。
「女王ポラリス。あなたのスキルはオレが必ず役に立てます。だから──安心して、行ってください」
【吸収眼】
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
体が──熱い──!
スキルが、託された。
と、同時に。
目の前の偉大なる女王はローパーの姿へと戻っていき──。
その生涯に──。
幕を閉じた。
【タイムリミット 一日十六時間二十九分】
【残りのダミー扉 九十六個】
【現在の生存人数 三十三人】
27
お気に入りに追加
896
あなたにおすすめの小説
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【オンボロ剣】も全て【神剣】に変える最強術者
月風レイ
ファンタジー
神の手違いにより死んでしまった佐藤聡太は神の計らいで異世界転移を果たすことになった。
そして、その際に神には特別に特典を与えられることになった。
そして聡太が望んだ力は『どんなものでも俺が装備すると最強になってしまう能力』というものであった。
聡太はその能力は服であれば最高の服へと変わり、防具であれば伝説級の防具の能力を持つようになり、剣に至っては神剣のような力を持つ。
そんな能力を持って、聡太は剣と魔法のファンタジー世界を謳歌していく。
ストレスフリーファンタジー。
クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない
枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。
「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」
とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。
単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。
自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか?
剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる