64 / 174
生き残れ「地下迷宮」編
第63話 完全なる休息【前編】
しおりを挟む
完全なる休息を取る。
それが、これからオレが臨むミッションだ。
実際、体はボロボロだった。
オーガ、ミノタウロス、ワイバーン、大悪魔との四連戦。
そして、蟻やレッドバイパーと戦い、ダミー扉の笑気ガスに襲われた後、守護ローパーのプロテムと揉めて、ローパー王国へとやってきた。
それが、ここ一日の間の出来事。
そりゃボロボロにもなるよ……。
昨日までのオレは、昼に作戦を立てつつ仮眠を取って、夜に鍛錬をするっていうルーチンワークで生活してたんだ。
それ以前は……ただモモに守ってもらってただけの冒険者生活だったからなぁ。
そういえばモモ、今頃どうしてるだろ。
急にオレがいなくなっちゃって困惑してるんじゃないかな。
オレのことなんか忘れて、前向きに生きててほしいけど……モモ、責任感強いからなぁ。
オレのことを探したりしてなきゃいいけど……。
まぁ、王国と魔物がグルだなんて思いつきもしないだろうし、危険なことには巻き込まれてない……だろう。そう思いたい。
そんなことを考えながら女中ローパーの後をついていくと、オレが今夜泊まるらしき客室へと案内された。
「うおっ、広っ!」
真っ白な円形の部屋。
二十畳ほどのゆったりとした空間に、一人で寝るには十分な大きさの白いベッドが部屋の中央に備え付けられている。
ベッドの脇には、丸いサイドテーブルと丸いスツール。
その上に、水差しとグラスが置いてある。
壁の丸い窓枠にはステンドグラスが嵌め込まれており、キラキラとした多彩な色の光が室内を照らす。
ツツツ……と女中ローパーがベッドの上に備えてあった着替えを差し出してくる。
「今、ここで着替えたほうがいいのかな?」
ぺこり。
女中ローパーは、微かに頭を下げる。
彼女はパルみたいにゆらゆらしていない。シャンとしてる。
なんだか厳格な感じだ。
そんな女中ローパーと室内に二人きりだとちょっと緊張する。
女中さん……だから、多分女性なんだろうし……。
「? 変わった形の服だな……?」
手渡されたのは、上下に分かれたザラザラとした手触りの白い服。
下は無事に履き終えたが、前開きになってる上がよくわからない。
戸惑うオレに、女中ローパーが近寄ってきてソソソ……と手際よく紐を内と腰のとこで結ぶ。
おお、そこで結ぶのか。
なんかこれ、侍のミフネが言ってた甚平? とかいうのに似てる気がする。
しかし、それにしても……砂漠風の宮殿、東方風の衣服、洋風の庭園……ほんとに一体なんなんだろうか、ここは。
ハチャメチャでごちゃ混ぜだが、どれも「白」で統一されてるため、不思議と一体感がある。
着替え終わると連れられたのは、宮殿の裏側にある小ぶりな庭園。
「あ、フィード! もう食べてるわよ!」
オレと同じような白い甚平に着替えたリサが皿と箸を持って手を振る。
「フィードさん、バーベキューですよ! なんでも食べていいんですって! すごいですよ!」
熱された石板の上に肉、魚、野菜、きのこ、虫、などが好き好きに並べられている。
ケルピーのケプは別の女中ローパーから桶に生魚や人参を入れてもらったものをガツガツと噛り、アルラウネのアルネは火が怖いのか、少し離れた場所で水を飲みながら花や草とお話をしている。
これだけの多種族の集まりなんだからバーベキューは合理的だなと思いながら、いくつか肉と野菜を焼いてみる。
口に含んだ瞬間、一日ぶりのマトモな食事にガツンと脳が揺れた。
ああ……これだよ、これ……これが人間らしい温かい食事だよ……。
リサの持ってきてくれる冷めた食事や、檻の中に閉じ込められて食べる食事じゃなく、こういう自由で、出来たてで、温かくてさ……。
「フィードさん、美味しいですか?」
「ああ、美味しい。驚いてるよ。凄いよな、こんなにたくさんの食材を事前に用意できるだなんて」
「フ、フィード? そ、そういえば、どうなのかしら? ほら、あの、私の作ってきてた料理と比べて、ほら……」
「え? やっぱり温かい料理っていいな~って────ハッ!」
ピキピキとリサのこめかみが引き攣る。
「いやっ! 違う! 間違った! バーベキューも美味いけど、やっぱリサの手料理が美味しかったなぁ! うん、間違いない!」
ぷぅと頬をふくらませるリサ。
「…………ほんとに?」
「ああ、ほんとほんと! 無事ダンジョンから脱出できたらみんなでお祝いしよう! その時、またリサの料理食べられたら嬉しいな!」
「ま、まぁ、しょうがないわね……。そこまでお願いされたら作ってあげないとフィードが可哀想だからね……」
「う、うん、楽しみにしてるよ、アハハ……」
ふぃ~、危ない!
休息だと思って気を抜いてたら、思わぬところに地雷が隠されてたぞ……。
「うふふ、リサさんの料理も美味しかったですもんね。いつかここを脱出して、人間界の辺境の街で三人で一軒家で暮らすようなことにでもなったら、私の手料理も食べてみてくださいね?」
「え、ああ、うん。そうだね、楽しみにしとくよ」
妙に具体的な指定だな? と思いながらも、とりあずこれ以上地雷を踏み抜いて今日の残りのミッション『完全なる休息を取る』に差し障らないようにするため、余計なことは言わず、無難に返事を返す。
ツツツゥ~!
「うわっ、びっくりしたっ!」
背筋をパルの触手になぞられてビクッとなったオレを、みんながケラケラと笑う。
「パル、来たのか!」
さっきのピシッとした姫様然としたパルではなく、いつものゆらゆら揺れてる親しみやすいパルだ。
「女王様は……やっぱり来ないかな? 体調悪そうだったもんね」
少し悲しそうにシュンとするパル。
「私達が緊張せずに食べられるように気を利かせてくれたのではないかしらぁ? だから、私達は私達でこの素晴らしい食事をいただきましょう」
重くなりかけた空気を即座にリカバーするセレアナ。
こいつ、普段はオレたちの会話を聞いてないようなフリしてるのに、いざとなったら、いつもさり気なくフォローを入れてくるんだよな。
子分のスキュラとダンジョン内で別チームに分かれる時も寛容さを見せてたし、シンプルに人としての器がデカい気がする。
これでオレたちと同年代ってんだから謎だよな、ほんと。
「脱出した後の話でしたら! みなさん、うちの海底宮殿へ来られるとよろしいですわぁ! 七日七晩おもてなしさせていただきますわよぉ!」
「いや、七日七晩はちょっと……それに海底とか行けないし……」
それからオレたちは、食べすぎて体全体がパンパンに膨らんだカミラや、怠惰に横になって桶に口を突っ込んだまま食事を貪り食うケプをイジりつつ、久々の充足感を体全体で感じながら、楽しいバーベキュー大会を終えた。
ソソソ……。
部屋で仰向けになって食休みをしていると、タオルを持った女中ローパーが現れた。
ついてこい、と言ってるらしい。
まさか風呂まであったりするのかな? と思いながらついていくと脱衣所に案内された。どうやら本当に風呂があるらしい。
脱衣所の入り口で女中ローパーからタオルを受け取り、中へと進む。
湯気であまり見えないが、とりあえず服を入れるらしき籠の中に着ている衣服を突っ込むと、湯気の濃い方へと向かって歩いていく。
「おお……」
湯気の中に現れたのは、幅二十メートルはありそうな巨大な円型の浴槽。
湯には薬草が浮かべてあり、スースーとした緑の香りが立ち込めている。
「まさかローパーの国にこんな立派な浴室があるだなんて……! しかも、王様とかが入るような湯船じゃないのか、これ……」
おそるおそる足先を湯に浸す。
絶妙の湯加減。思わず「ほぅ……」と声が漏れる。
ゆっくりと肩まで浸かると、温かさと香草の香りで途端に体力、気力が回復した気がした。
しばらく大の字でプカプカと浮かびながら湯を満喫していると、ふと思い立った。
(もしかすると「風呂で泳ぐ」なんてことが出来ちまうんじゃないか……?)
さいわい、他には誰もいない。
泳ぐチャンスは今だけ!
この機会を逃したら、もう一生風呂で泳ぐなんて夢みたいなこと出来る機会は巡ってこないだろう。
気がついたら、体が勝手に泳ぎだしていた。
ザブっザブっザブっ!
ああ、泳いでる!
すげえ!
こんな経験、なかなか出来ないぞ!
うん、これは来てよかった!
もし会えたらモモに自慢しよう!
あ~、楽しい!
よ~し、これで休息を取るミッションも気持ちよくバッチリ完遂できそうだ!
ボソ……ボソボソ……。
ご機嫌だったオレの耳に、音──いや、声が聞こえてきた。
それも一つじゃない。複数だ。
「────!」
途端に臨戦態勢に入る。
マズい、素っ裸だ。
魔鋭刀もパリィ・スケイルもない──!
くそ──油断しすぎたか──!
相手の姿が見えないと鑑定も使えない。
声も反響していて相手が何を話してるのか、何人なのかもわからない。
オレは浴槽の奥まで進み、二つのスキルを発動させた。
【狡猾】
【透明】
武器がないなら知恵でなんとかするしかない。
透明で姿が見つけられないうちに敵を確認し、対策を練るんだ。
湯船の中で透明になったオレが身構える中、濃い湯気を割って声の主が姿を現す。
一体何者なんだ──!?
緊張でドクンドクンと高鳴る鼓動。
湯気の向こうから現れたのは──。
「わぁ~、見てください! すごいお風呂ですよ!」
「あら、ほんと! これはリフレッシュできそうね!」
素っ裸のルゥとリサ、そしてセレアナ、カミラ、アルネ、ケプ、パルの七人だった。
なんてこった──!
この状況でオレがここにいることがバレたら、オレに訪れるのは────社会的、尊厳的、名誉的、信頼関係的な──死だ。
伝承の中の存在──究極の悪、魔神サタンよりも最悪な敵を迎えたことをオレは理解する。
すでに茹で上がりそうな体。
その背中に冷たい汗がツツ……と伝った。
【茹で上がるまでのタイムリミット 一時間二分】
【現在の入浴人数 八人】
それが、これからオレが臨むミッションだ。
実際、体はボロボロだった。
オーガ、ミノタウロス、ワイバーン、大悪魔との四連戦。
そして、蟻やレッドバイパーと戦い、ダミー扉の笑気ガスに襲われた後、守護ローパーのプロテムと揉めて、ローパー王国へとやってきた。
それが、ここ一日の間の出来事。
そりゃボロボロにもなるよ……。
昨日までのオレは、昼に作戦を立てつつ仮眠を取って、夜に鍛錬をするっていうルーチンワークで生活してたんだ。
それ以前は……ただモモに守ってもらってただけの冒険者生活だったからなぁ。
そういえばモモ、今頃どうしてるだろ。
急にオレがいなくなっちゃって困惑してるんじゃないかな。
オレのことなんか忘れて、前向きに生きててほしいけど……モモ、責任感強いからなぁ。
オレのことを探したりしてなきゃいいけど……。
まぁ、王国と魔物がグルだなんて思いつきもしないだろうし、危険なことには巻き込まれてない……だろう。そう思いたい。
そんなことを考えながら女中ローパーの後をついていくと、オレが今夜泊まるらしき客室へと案内された。
「うおっ、広っ!」
真っ白な円形の部屋。
二十畳ほどのゆったりとした空間に、一人で寝るには十分な大きさの白いベッドが部屋の中央に備え付けられている。
ベッドの脇には、丸いサイドテーブルと丸いスツール。
その上に、水差しとグラスが置いてある。
壁の丸い窓枠にはステンドグラスが嵌め込まれており、キラキラとした多彩な色の光が室内を照らす。
ツツツ……と女中ローパーがベッドの上に備えてあった着替えを差し出してくる。
「今、ここで着替えたほうがいいのかな?」
ぺこり。
女中ローパーは、微かに頭を下げる。
彼女はパルみたいにゆらゆらしていない。シャンとしてる。
なんだか厳格な感じだ。
そんな女中ローパーと室内に二人きりだとちょっと緊張する。
女中さん……だから、多分女性なんだろうし……。
「? 変わった形の服だな……?」
手渡されたのは、上下に分かれたザラザラとした手触りの白い服。
下は無事に履き終えたが、前開きになってる上がよくわからない。
戸惑うオレに、女中ローパーが近寄ってきてソソソ……と手際よく紐を内と腰のとこで結ぶ。
おお、そこで結ぶのか。
なんかこれ、侍のミフネが言ってた甚平? とかいうのに似てる気がする。
しかし、それにしても……砂漠風の宮殿、東方風の衣服、洋風の庭園……ほんとに一体なんなんだろうか、ここは。
ハチャメチャでごちゃ混ぜだが、どれも「白」で統一されてるため、不思議と一体感がある。
着替え終わると連れられたのは、宮殿の裏側にある小ぶりな庭園。
「あ、フィード! もう食べてるわよ!」
オレと同じような白い甚平に着替えたリサが皿と箸を持って手を振る。
「フィードさん、バーベキューですよ! なんでも食べていいんですって! すごいですよ!」
熱された石板の上に肉、魚、野菜、きのこ、虫、などが好き好きに並べられている。
ケルピーのケプは別の女中ローパーから桶に生魚や人参を入れてもらったものをガツガツと噛り、アルラウネのアルネは火が怖いのか、少し離れた場所で水を飲みながら花や草とお話をしている。
これだけの多種族の集まりなんだからバーベキューは合理的だなと思いながら、いくつか肉と野菜を焼いてみる。
口に含んだ瞬間、一日ぶりのマトモな食事にガツンと脳が揺れた。
ああ……これだよ、これ……これが人間らしい温かい食事だよ……。
リサの持ってきてくれる冷めた食事や、檻の中に閉じ込められて食べる食事じゃなく、こういう自由で、出来たてで、温かくてさ……。
「フィードさん、美味しいですか?」
「ああ、美味しい。驚いてるよ。凄いよな、こんなにたくさんの食材を事前に用意できるだなんて」
「フ、フィード? そ、そういえば、どうなのかしら? ほら、あの、私の作ってきてた料理と比べて、ほら……」
「え? やっぱり温かい料理っていいな~って────ハッ!」
ピキピキとリサのこめかみが引き攣る。
「いやっ! 違う! 間違った! バーベキューも美味いけど、やっぱリサの手料理が美味しかったなぁ! うん、間違いない!」
ぷぅと頬をふくらませるリサ。
「…………ほんとに?」
「ああ、ほんとほんと! 無事ダンジョンから脱出できたらみんなでお祝いしよう! その時、またリサの料理食べられたら嬉しいな!」
「ま、まぁ、しょうがないわね……。そこまでお願いされたら作ってあげないとフィードが可哀想だからね……」
「う、うん、楽しみにしてるよ、アハハ……」
ふぃ~、危ない!
休息だと思って気を抜いてたら、思わぬところに地雷が隠されてたぞ……。
「うふふ、リサさんの料理も美味しかったですもんね。いつかここを脱出して、人間界の辺境の街で三人で一軒家で暮らすようなことにでもなったら、私の手料理も食べてみてくださいね?」
「え、ああ、うん。そうだね、楽しみにしとくよ」
妙に具体的な指定だな? と思いながらも、とりあずこれ以上地雷を踏み抜いて今日の残りのミッション『完全なる休息を取る』に差し障らないようにするため、余計なことは言わず、無難に返事を返す。
ツツツゥ~!
「うわっ、びっくりしたっ!」
背筋をパルの触手になぞられてビクッとなったオレを、みんながケラケラと笑う。
「パル、来たのか!」
さっきのピシッとした姫様然としたパルではなく、いつものゆらゆら揺れてる親しみやすいパルだ。
「女王様は……やっぱり来ないかな? 体調悪そうだったもんね」
少し悲しそうにシュンとするパル。
「私達が緊張せずに食べられるように気を利かせてくれたのではないかしらぁ? だから、私達は私達でこの素晴らしい食事をいただきましょう」
重くなりかけた空気を即座にリカバーするセレアナ。
こいつ、普段はオレたちの会話を聞いてないようなフリしてるのに、いざとなったら、いつもさり気なくフォローを入れてくるんだよな。
子分のスキュラとダンジョン内で別チームに分かれる時も寛容さを見せてたし、シンプルに人としての器がデカい気がする。
これでオレたちと同年代ってんだから謎だよな、ほんと。
「脱出した後の話でしたら! みなさん、うちの海底宮殿へ来られるとよろしいですわぁ! 七日七晩おもてなしさせていただきますわよぉ!」
「いや、七日七晩はちょっと……それに海底とか行けないし……」
それからオレたちは、食べすぎて体全体がパンパンに膨らんだカミラや、怠惰に横になって桶に口を突っ込んだまま食事を貪り食うケプをイジりつつ、久々の充足感を体全体で感じながら、楽しいバーベキュー大会を終えた。
ソソソ……。
部屋で仰向けになって食休みをしていると、タオルを持った女中ローパーが現れた。
ついてこい、と言ってるらしい。
まさか風呂まであったりするのかな? と思いながらついていくと脱衣所に案内された。どうやら本当に風呂があるらしい。
脱衣所の入り口で女中ローパーからタオルを受け取り、中へと進む。
湯気であまり見えないが、とりあえず服を入れるらしき籠の中に着ている衣服を突っ込むと、湯気の濃い方へと向かって歩いていく。
「おお……」
湯気の中に現れたのは、幅二十メートルはありそうな巨大な円型の浴槽。
湯には薬草が浮かべてあり、スースーとした緑の香りが立ち込めている。
「まさかローパーの国にこんな立派な浴室があるだなんて……! しかも、王様とかが入るような湯船じゃないのか、これ……」
おそるおそる足先を湯に浸す。
絶妙の湯加減。思わず「ほぅ……」と声が漏れる。
ゆっくりと肩まで浸かると、温かさと香草の香りで途端に体力、気力が回復した気がした。
しばらく大の字でプカプカと浮かびながら湯を満喫していると、ふと思い立った。
(もしかすると「風呂で泳ぐ」なんてことが出来ちまうんじゃないか……?)
さいわい、他には誰もいない。
泳ぐチャンスは今だけ!
この機会を逃したら、もう一生風呂で泳ぐなんて夢みたいなこと出来る機会は巡ってこないだろう。
気がついたら、体が勝手に泳ぎだしていた。
ザブっザブっザブっ!
ああ、泳いでる!
すげえ!
こんな経験、なかなか出来ないぞ!
うん、これは来てよかった!
もし会えたらモモに自慢しよう!
あ~、楽しい!
よ~し、これで休息を取るミッションも気持ちよくバッチリ完遂できそうだ!
ボソ……ボソボソ……。
ご機嫌だったオレの耳に、音──いや、声が聞こえてきた。
それも一つじゃない。複数だ。
「────!」
途端に臨戦態勢に入る。
マズい、素っ裸だ。
魔鋭刀もパリィ・スケイルもない──!
くそ──油断しすぎたか──!
相手の姿が見えないと鑑定も使えない。
声も反響していて相手が何を話してるのか、何人なのかもわからない。
オレは浴槽の奥まで進み、二つのスキルを発動させた。
【狡猾】
【透明】
武器がないなら知恵でなんとかするしかない。
透明で姿が見つけられないうちに敵を確認し、対策を練るんだ。
湯船の中で透明になったオレが身構える中、濃い湯気を割って声の主が姿を現す。
一体何者なんだ──!?
緊張でドクンドクンと高鳴る鼓動。
湯気の向こうから現れたのは──。
「わぁ~、見てください! すごいお風呂ですよ!」
「あら、ほんと! これはリフレッシュできそうね!」
素っ裸のルゥとリサ、そしてセレアナ、カミラ、アルネ、ケプ、パルの七人だった。
なんてこった──!
この状況でオレがここにいることがバレたら、オレに訪れるのは────社会的、尊厳的、名誉的、信頼関係的な──死だ。
伝承の中の存在──究極の悪、魔神サタンよりも最悪な敵を迎えたことをオレは理解する。
すでに茹で上がりそうな体。
その背中に冷たい汗がツツ……と伝った。
【茹で上がるまでのタイムリミット 一時間二分】
【現在の入浴人数 八人】
18
お気に入りに追加
896
あなたにおすすめの小説
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない
枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。
「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」
とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。
単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。
自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか?
剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。
【オンボロ剣】も全て【神剣】に変える最強術者
月風レイ
ファンタジー
神の手違いにより死んでしまった佐藤聡太は神の計らいで異世界転移を果たすことになった。
そして、その際に神には特別に特典を与えられることになった。
そして聡太が望んだ力は『どんなものでも俺が装備すると最強になってしまう能力』というものであった。
聡太はその能力は服であれば最高の服へと変わり、防具であれば伝説級の防具の能力を持つようになり、剣に至っては神剣のような力を持つ。
そんな能力を持って、聡太は剣と魔法のファンタジー世界を謳歌していく。
ストレスフリーファンタジー。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる