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生き残れ「地下迷宮」編
第49話 魔神サタンのゲーム解説
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「ほぅほぅ、ダンジョンの作り直しねぇ。なるほど、なるほど? 今回の鑑定士は、なかなか面白いことを考えるじゃない」
大悪魔によって地中に生成されたダンジョン。
その場所よりも遥か底の底。
地獄と呼ばれる上級鬼と悪魔の棲まう場所。
さらにその最下層に位置する魔法的超次元空間。
魔結晶と魔純水で満たされたそこに、ぷかぷかと浮かんだ魔神サタンは、数千年ぶりの笑みを浮かべていた。
神と悪魔。
直接戦うことに飽き果てた両者は、一つのコマを使って勝敗を決めることにした。
何千年前か何万年か忘れた、はるか昔に始めたゲーム。
『百年に一度、ランダムに誕生する鑑定士を見つけ出し、上手く活用した方の勝ち』
活用の仕方は、お互いの裁量の中で決められる。
魔神サタンは過去の記憶に思いを馳せる。
あぁ……鑑定士を洗脳して天界に攻め込ませた時は痛快だったなぁ……。
ま、と言っても、しょせんは人間の体。
憎たらしい天使共にあっさりと切り刻まれて死んだけど。
逆に、スキルがん積みで特攻された時はヤバかったなぁ……。
閻魔のところまでたどり着かれたからなぁ。
あぁ……でも楽しかったなぁ……。
スリルがあって……。
たしか、この千年は魔界の十戦十勝だったはずだ。
それ以前の戦績は覚えてない。
トータルだと何百戦? いや、何千戦だったかも──とにかく気の遠くなるほど繰り返されてきたゲーム。
魔界と人間界が完全に壁で区切られるようになって、はや数万年。
神と悪魔の戦いは、めっきり膠着状態に陥り、もはや互いに何のために争っているのかも忘れてしまっていた。
そして、それに伴ってサタンの感情も、現世に対する興味も薄れていった。
そんなサタンの興味を久々に引き付けたのが、今回の鑑定士だ。
ふむふむ……アベル……フィード・オファリング?
めんどくさいから、名前一個にまとめちゃっていいよね。
プレイヤーは直接的は介入は出来ないルールなんだけど、これくらいならセーフでしょ。
あっちもあっちで「啓示」なんていう反則スレスレの技を使ってるわけだし。
それに「大悪魔を殺してダンジョンに巻き込まれる」ってのは、初めての展開だな。
実に興味深い。
ここで鑑定士が死んで、最強の大悪魔が生まれても面白いし。
脱出するならするで、鑑定士がどうやってこの難関を打ち破るのかも興味深い。
どっちにしろ面白い。
しかも「ゲームをしよう」だなんて。
まるで、かつての自分と神を見てるようじゃないか。
ゲーム。
いいね、暇な時はゲームを見るに限る。
もう自分でゲームをやるのは飽きた。
だって自分の思ったことしか起きないから。
その点、見るのはいい。
こうやって思いもかけないことが次々起こる。
魔物たちを巻き込んだデスゲーム。
三日後までに出口を見つけて脱出しろ。
様々な感情が渦巻くクラスメイト達。
そこにマフィアや野次馬まで巻き込んで……。
あ 面
あ、 白
い。
はたして、三日後まで生き残ってるのは一体何人いることやら。
このゲームを存分に満喫するために、ちょっとダンジョン全体を見てみるとしようかね……。
魔神サタン。
全ての存在、概念、性別や年齢を超越した悪意の象徴。
その悪意の根源たる超常の存在が、第二形態ピエロ大悪魔──テス・メザリアの作り出したダンジョンと、その近辺をスキャンする。
【三階層】
ふむ、一番浅い階層にいるのは、ツヴァ組の組員たちか。
若頭のワンゴを中心にまとまっている。
集団としての戦闘力は間違いなく一番高いだろうな。
だが、シンプルに脱出を目指すならともかく……。
もし、ここから見失った組長の一人息子を探しに行くとでもなると……いくらプロの任侠集団とはいえ、一筋縄ではいかないだろう。
全滅もありうる。
【十二階層】
次に浅い階層にいるのは、ミノタウロスとオーガの集団二十人……?
ああ……こりゃ決闘した二人の親族か。
先に死んだ十人も吸収されたし、こいつらには集団としての結束力もない。
こりゃ、ダンジョンに飲み込まれるのも時間の問題だな。
【二十五階層】
ちょうど中間の階層にいるのは鑑定士と魔物たち。
さてさて、二手に分かれたのが吉と出るか凶と出るか……。
どのみち出口は一箇所だ。
どちらかの集団は死ぬことになるだろうな。
【四十階層】
さらに下の階層にぐぐぐと潜って……っと。
あ~……そういや、いたなぁ、このインプ。
壁が苦し紛れで生み出したみたいだけど、もう大悪魔も成長しちゃったしなぁ。
正直、用済みだよね、これ。
どうすんだろ、この用済みのインプ。
普通に考えたら、エネルギーを取り戻すためにダンジョンが再吸収しようとするんだろうけど……。
ま、どうでもいいか、こんなの。
……って、おやおや。
どうやらインプは、ツヴァ組の跡継ぎ、ウェルリン・ツヴァを見つけたようだ。
この狼男の中に入ってダンジョンからの再吸収を逃れるつもりかな?
ハハッ、なかなか奇妙な巡り合わせだ。
スキルを奪われた復讐者の狼男。
ダンジョンに使い捨てられた小鬼のインプ。
はぐれもん同士の勝負か。
いいじゃない、ちょっとおもしろくなってきた。
はたして、どっちが勝つかね。
ここも要チェックだな。
【ダンジョン近くの地中】
あ、近くに、もぐら悪魔のグララが来てるじゃねぇか。
こいつ嫌いなんだよな。頭悪いから。
なんたって、笑い方が「グララララ」だからな。
いや、それ、狙いすぎだろっていう。
自分の名前がグララだからって、それに笑い声まで寄せてんじゃねーよっていう。
必死に地面ホリホリして進んできてるけど、多分どっかでダンジョンにぶつかるな、これ。
でも……馬鹿のくせに、そこそこ戦闘力高いんだよな、こいつ。
ま、出会った奴らはご愁傷さまってことで。
【ダンジョン挟んで反対側の地中】
あ~……反対方向からはローパーも来てんじゃん……。
まぁ、ローパーは岩場や土の中が棲家だから、来ても不思議ではないけどさ……。
っていうか、ここ、あれか。
ローパー王国が近くの地中にあるとこか。
従者がローパーのお姫様でも助け出そうと向かってきてるのかね。
……こいつら……あれなんだよな……。
テレパシーで種族間の思考や感覚を共有出来てるんだよな……。
いや、もちろん、こいつらもオレが生み出した魔物なんだけどさ。
でも一体、なんでこんな進化を遂げたのかマジでわからん。
ほら、オレは魔物を生み出しはするけど、基本そっから先はノータッチだから。
だから中には、こういう、わけのわからん進化を遂げる種もいるわけで。
こいつが鑑定士達と合流したら、また一波乱ありそうだなぁ……。
ああ……それも楽しそうだなぁ……。
今回は本当に何から何まで予想外だなぁ……。
【地上】
お、地上にローデンベルグ家の執事、ゾルべが来てるな。
バンパイアの。
夜になったから、組長の一人娘を探しに来たのか。
お~、大穴に驚いてる、驚いてる。
中に入ってくるか?
入ってきたら、ツヴァ組と揉めそうだなぁ……。
いいなぁ……揉めて欲しいなぁ……。
うん、せっかくだから、ツヴァ組のとこまでの直通通路でも作ってやるか。
ズズズズッ……!
よし、出来たぞ。
直通スロープ。
ほれ、それを滑ってレッツゴー、ツヴァ組のど真ん中。
おっ、行った、行った!
お~、滑ってる!
ピシッとしたスーツに七三メガネの気取ったマフィアが間抜けにスロープ滑ってるぞ!
よしよし、面白い。
ここも後でチェックだな……。
【地底】
ここには、閻魔……。
こいつは、どうでもいいか。
辛気臭いし。
今更なんの興味もない。
オレに不満を抱いて反逆を企ててるのは知ってるが、たかだか鬼ごときが、神をどうこう出来るわけないだろっていう。
むか~し、鑑定士が、なんかの間違いで地獄まで辿り着いた時は、無間地獄送りにしてたっけ?
あれはあれでウケたけど、さてさて今回はどうなるかね……。
一応、このダンジョンは地獄まで続いてるみたいだが……。
【魔法的超次元空間】
地の底の底。
地獄の最下層。
魔結晶と魔純水で満たされた場所で、魔神サタンは宙に浮かんだまま足を組み、満足そうに顎を触っている。
ふむ……まぁ、こんなところか。
しかも今回特に面白いのは、鑑定士が魔物たちを引き連れてるとこだな。
人間って脆いからなぁ~。
生まれ持っての無スキル者だし。
こいつらにランダムにスキルを与えるためのジョブシステムもまどろっこしいもんなぁ。
それよりも生まれつきスキルを持ってて、それが進化していく魔物の方がスマートでハイブリッドだ。
体も強いし魔力も高い。
ってことで、魔物が盾になってくれたら、前みたいに天界に攻め込ませても簡単には細切れにされないかもしれない。
おお、久々にワクワクしてきたぞ。
よしよし、じゃあここで一旦ちょっとダンジョンを振り返ってみるか。
浅い階層から順に……。
ローデンベルグ家の執事、ゾルべ。
ツヴァ組若頭のワンゴと組員たち計八人。
ミノタウロスとオーガの集団二十人。
鑑定士と生徒たち二十四人と大悪魔。
インプとウェルリン・ツヴァ。
しょうもない陰気な鬼の閻魔。
んで、近くに、もぐら悪魔のグララと、ローパーの従者っぽいの。
こんな感じか。
んで、ルールは……っと。
■ 全五十階層
■ 糧の人数は五十三人
■ タイムリミットは三日
■ 出口の位置、形状は不明
■ 出口を見つけたらフィードたちの勝利
■ 三日以内に出口を見つけられなければ大悪魔の勝利
■ 報酬は互いの身の解放
こんな感じだな。
数千年ぶりの楽しいゲーム鑑賞だ。
なるべく三日間フルに楽しみたいなぁ……。
…………。
やっちゃうか……。
超次元空間を満たす魔純水。
それが、もぞもぞもぞと蠢くと、己の姿を模した分体を形作る。
もし、なんかあった時のために……ね。
一応、保険として。
このままあっさり全滅とかってなっても面白くないし。
厳密に言えばルール違反なんだけど……直接介入するわけじゃないからいいだろ。
どうせ魔界で何が起ころうと、神にゃ見えないんだ。
魔神サタンの分体。
六枚の黒翼を持ち、全次元のすべての憎悪を、悪意を一身に集めて形状化したかのような純然たる『悪』の造形。
(ん~、今回は鑑定士が男だから、女体の方がいいか? ないとは思うが、万が一、億が一……ニアミスする可能性も、まぁ、なきにしもあらずだからな。なるべく警戒されない形のほうがいいだろ)
ぱちんっ。
指を鳴らすと分体はバシャンと水に還り、再び形を作り直す。
(そうだな……なるべく鑑定士にぴったり、おそろいの番になるような形に整えとくか。背は鑑定士より低くて……元気があって、正義感が強く、目はタレ目で、体は強くて……髪はピンク色のお団子結びとかでいいか……?)
出来上がった分体を見て、魔神サタンは悦に入る。
本能的に求め合う番というのは、計算で作ることが出来る。
幾多の魔物を作り出してきた魔神にとって、完璧に遺伝子を補い合う異性を作り出すことなど、いとも簡単なことだった。
(ふむ……可能性は低いだろうが、もし鑑定士に干渉せざるを得ない時が来たら、この分体を使おう)
しかし、だがだがしかし、だがしかし。
神が魔界の出来事を観測出来ぬように。
魔神も神の領域、人間界のことを観測することは出来なかった。
ゆえに魔神は気づかない。
己の作った分体が──。
アベルの幼馴染。
モモと全く同じ姿をしているということに。
大悪魔によって地中に生成されたダンジョン。
その場所よりも遥か底の底。
地獄と呼ばれる上級鬼と悪魔の棲まう場所。
さらにその最下層に位置する魔法的超次元空間。
魔結晶と魔純水で満たされたそこに、ぷかぷかと浮かんだ魔神サタンは、数千年ぶりの笑みを浮かべていた。
神と悪魔。
直接戦うことに飽き果てた両者は、一つのコマを使って勝敗を決めることにした。
何千年前か何万年か忘れた、はるか昔に始めたゲーム。
『百年に一度、ランダムに誕生する鑑定士を見つけ出し、上手く活用した方の勝ち』
活用の仕方は、お互いの裁量の中で決められる。
魔神サタンは過去の記憶に思いを馳せる。
あぁ……鑑定士を洗脳して天界に攻め込ませた時は痛快だったなぁ……。
ま、と言っても、しょせんは人間の体。
憎たらしい天使共にあっさりと切り刻まれて死んだけど。
逆に、スキルがん積みで特攻された時はヤバかったなぁ……。
閻魔のところまでたどり着かれたからなぁ。
あぁ……でも楽しかったなぁ……。
スリルがあって……。
たしか、この千年は魔界の十戦十勝だったはずだ。
それ以前の戦績は覚えてない。
トータルだと何百戦? いや、何千戦だったかも──とにかく気の遠くなるほど繰り返されてきたゲーム。
魔界と人間界が完全に壁で区切られるようになって、はや数万年。
神と悪魔の戦いは、めっきり膠着状態に陥り、もはや互いに何のために争っているのかも忘れてしまっていた。
そして、それに伴ってサタンの感情も、現世に対する興味も薄れていった。
そんなサタンの興味を久々に引き付けたのが、今回の鑑定士だ。
ふむふむ……アベル……フィード・オファリング?
めんどくさいから、名前一個にまとめちゃっていいよね。
プレイヤーは直接的は介入は出来ないルールなんだけど、これくらいならセーフでしょ。
あっちもあっちで「啓示」なんていう反則スレスレの技を使ってるわけだし。
それに「大悪魔を殺してダンジョンに巻き込まれる」ってのは、初めての展開だな。
実に興味深い。
ここで鑑定士が死んで、最強の大悪魔が生まれても面白いし。
脱出するならするで、鑑定士がどうやってこの難関を打ち破るのかも興味深い。
どっちにしろ面白い。
しかも「ゲームをしよう」だなんて。
まるで、かつての自分と神を見てるようじゃないか。
ゲーム。
いいね、暇な時はゲームを見るに限る。
もう自分でゲームをやるのは飽きた。
だって自分の思ったことしか起きないから。
その点、見るのはいい。
こうやって思いもかけないことが次々起こる。
魔物たちを巻き込んだデスゲーム。
三日後までに出口を見つけて脱出しろ。
様々な感情が渦巻くクラスメイト達。
そこにマフィアや野次馬まで巻き込んで……。
あ 面
あ、 白
い。
はたして、三日後まで生き残ってるのは一体何人いることやら。
このゲームを存分に満喫するために、ちょっとダンジョン全体を見てみるとしようかね……。
魔神サタン。
全ての存在、概念、性別や年齢を超越した悪意の象徴。
その悪意の根源たる超常の存在が、第二形態ピエロ大悪魔──テス・メザリアの作り出したダンジョンと、その近辺をスキャンする。
【三階層】
ふむ、一番浅い階層にいるのは、ツヴァ組の組員たちか。
若頭のワンゴを中心にまとまっている。
集団としての戦闘力は間違いなく一番高いだろうな。
だが、シンプルに脱出を目指すならともかく……。
もし、ここから見失った組長の一人息子を探しに行くとでもなると……いくらプロの任侠集団とはいえ、一筋縄ではいかないだろう。
全滅もありうる。
【十二階層】
次に浅い階層にいるのは、ミノタウロスとオーガの集団二十人……?
ああ……こりゃ決闘した二人の親族か。
先に死んだ十人も吸収されたし、こいつらには集団としての結束力もない。
こりゃ、ダンジョンに飲み込まれるのも時間の問題だな。
【二十五階層】
ちょうど中間の階層にいるのは鑑定士と魔物たち。
さてさて、二手に分かれたのが吉と出るか凶と出るか……。
どのみち出口は一箇所だ。
どちらかの集団は死ぬことになるだろうな。
【四十階層】
さらに下の階層にぐぐぐと潜って……っと。
あ~……そういや、いたなぁ、このインプ。
壁が苦し紛れで生み出したみたいだけど、もう大悪魔も成長しちゃったしなぁ。
正直、用済みだよね、これ。
どうすんだろ、この用済みのインプ。
普通に考えたら、エネルギーを取り戻すためにダンジョンが再吸収しようとするんだろうけど……。
ま、どうでもいいか、こんなの。
……って、おやおや。
どうやらインプは、ツヴァ組の跡継ぎ、ウェルリン・ツヴァを見つけたようだ。
この狼男の中に入ってダンジョンからの再吸収を逃れるつもりかな?
ハハッ、なかなか奇妙な巡り合わせだ。
スキルを奪われた復讐者の狼男。
ダンジョンに使い捨てられた小鬼のインプ。
はぐれもん同士の勝負か。
いいじゃない、ちょっとおもしろくなってきた。
はたして、どっちが勝つかね。
ここも要チェックだな。
【ダンジョン近くの地中】
あ、近くに、もぐら悪魔のグララが来てるじゃねぇか。
こいつ嫌いなんだよな。頭悪いから。
なんたって、笑い方が「グララララ」だからな。
いや、それ、狙いすぎだろっていう。
自分の名前がグララだからって、それに笑い声まで寄せてんじゃねーよっていう。
必死に地面ホリホリして進んできてるけど、多分どっかでダンジョンにぶつかるな、これ。
でも……馬鹿のくせに、そこそこ戦闘力高いんだよな、こいつ。
ま、出会った奴らはご愁傷さまってことで。
【ダンジョン挟んで反対側の地中】
あ~……反対方向からはローパーも来てんじゃん……。
まぁ、ローパーは岩場や土の中が棲家だから、来ても不思議ではないけどさ……。
っていうか、ここ、あれか。
ローパー王国が近くの地中にあるとこか。
従者がローパーのお姫様でも助け出そうと向かってきてるのかね。
……こいつら……あれなんだよな……。
テレパシーで種族間の思考や感覚を共有出来てるんだよな……。
いや、もちろん、こいつらもオレが生み出した魔物なんだけどさ。
でも一体、なんでこんな進化を遂げたのかマジでわからん。
ほら、オレは魔物を生み出しはするけど、基本そっから先はノータッチだから。
だから中には、こういう、わけのわからん進化を遂げる種もいるわけで。
こいつが鑑定士達と合流したら、また一波乱ありそうだなぁ……。
ああ……それも楽しそうだなぁ……。
今回は本当に何から何まで予想外だなぁ……。
【地上】
お、地上にローデンベルグ家の執事、ゾルべが来てるな。
バンパイアの。
夜になったから、組長の一人娘を探しに来たのか。
お~、大穴に驚いてる、驚いてる。
中に入ってくるか?
入ってきたら、ツヴァ組と揉めそうだなぁ……。
いいなぁ……揉めて欲しいなぁ……。
うん、せっかくだから、ツヴァ組のとこまでの直通通路でも作ってやるか。
ズズズズッ……!
よし、出来たぞ。
直通スロープ。
ほれ、それを滑ってレッツゴー、ツヴァ組のど真ん中。
おっ、行った、行った!
お~、滑ってる!
ピシッとしたスーツに七三メガネの気取ったマフィアが間抜けにスロープ滑ってるぞ!
よしよし、面白い。
ここも後でチェックだな……。
【地底】
ここには、閻魔……。
こいつは、どうでもいいか。
辛気臭いし。
今更なんの興味もない。
オレに不満を抱いて反逆を企ててるのは知ってるが、たかだか鬼ごときが、神をどうこう出来るわけないだろっていう。
むか~し、鑑定士が、なんかの間違いで地獄まで辿り着いた時は、無間地獄送りにしてたっけ?
あれはあれでウケたけど、さてさて今回はどうなるかね……。
一応、このダンジョンは地獄まで続いてるみたいだが……。
【魔法的超次元空間】
地の底の底。
地獄の最下層。
魔結晶と魔純水で満たされた場所で、魔神サタンは宙に浮かんだまま足を組み、満足そうに顎を触っている。
ふむ……まぁ、こんなところか。
しかも今回特に面白いのは、鑑定士が魔物たちを引き連れてるとこだな。
人間って脆いからなぁ~。
生まれ持っての無スキル者だし。
こいつらにランダムにスキルを与えるためのジョブシステムもまどろっこしいもんなぁ。
それよりも生まれつきスキルを持ってて、それが進化していく魔物の方がスマートでハイブリッドだ。
体も強いし魔力も高い。
ってことで、魔物が盾になってくれたら、前みたいに天界に攻め込ませても簡単には細切れにされないかもしれない。
おお、久々にワクワクしてきたぞ。
よしよし、じゃあここで一旦ちょっとダンジョンを振り返ってみるか。
浅い階層から順に……。
ローデンベルグ家の執事、ゾルべ。
ツヴァ組若頭のワンゴと組員たち計八人。
ミノタウロスとオーガの集団二十人。
鑑定士と生徒たち二十四人と大悪魔。
インプとウェルリン・ツヴァ。
しょうもない陰気な鬼の閻魔。
んで、近くに、もぐら悪魔のグララと、ローパーの従者っぽいの。
こんな感じか。
んで、ルールは……っと。
■ 全五十階層
■ 糧の人数は五十三人
■ タイムリミットは三日
■ 出口の位置、形状は不明
■ 出口を見つけたらフィードたちの勝利
■ 三日以内に出口を見つけられなければ大悪魔の勝利
■ 報酬は互いの身の解放
こんな感じだな。
数千年ぶりの楽しいゲーム鑑賞だ。
なるべく三日間フルに楽しみたいなぁ……。
…………。
やっちゃうか……。
超次元空間を満たす魔純水。
それが、もぞもぞもぞと蠢くと、己の姿を模した分体を形作る。
もし、なんかあった時のために……ね。
一応、保険として。
このままあっさり全滅とかってなっても面白くないし。
厳密に言えばルール違反なんだけど……直接介入するわけじゃないからいいだろ。
どうせ魔界で何が起ころうと、神にゃ見えないんだ。
魔神サタンの分体。
六枚の黒翼を持ち、全次元のすべての憎悪を、悪意を一身に集めて形状化したかのような純然たる『悪』の造形。
(ん~、今回は鑑定士が男だから、女体の方がいいか? ないとは思うが、万が一、億が一……ニアミスする可能性も、まぁ、なきにしもあらずだからな。なるべく警戒されない形のほうがいいだろ)
ぱちんっ。
指を鳴らすと分体はバシャンと水に還り、再び形を作り直す。
(そうだな……なるべく鑑定士にぴったり、おそろいの番になるような形に整えとくか。背は鑑定士より低くて……元気があって、正義感が強く、目はタレ目で、体は強くて……髪はピンク色のお団子結びとかでいいか……?)
出来上がった分体を見て、魔神サタンは悦に入る。
本能的に求め合う番というのは、計算で作ることが出来る。
幾多の魔物を作り出してきた魔神にとって、完璧に遺伝子を補い合う異性を作り出すことなど、いとも簡単なことだった。
(ふむ……可能性は低いだろうが、もし鑑定士に干渉せざるを得ない時が来たら、この分体を使おう)
しかし、だがだがしかし、だがしかし。
神が魔界の出来事を観測出来ぬように。
魔神も神の領域、人間界のことを観測することは出来なかった。
ゆえに魔神は気づかない。
己の作った分体が──。
アベルの幼馴染。
モモと全く同じ姿をしているということに。
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単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。
自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか?
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仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
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何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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