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生き残れ「地下迷宮」編
第40話 糧を収拾せし者
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「ちょちょちょっ!? これが大悪魔っ!? 先生は、まだ死んでないってこと!?」
リサが詰問する。
目玉大悪魔は、その一つしかない目を閉じて、ブルブルと怯えるように震えている。
「いや……死んでると思う。名前が違うから」
「名前!?」
「ああ、見えるようになったんだ。前は、種族やスキルだけしか見えてなかったんだけど、今は名前も」
「あ……もしかして、スキルが成長した……ってことなんでしょうか? ウインドシアさんたちをやっつけたから」
ルゥの意見。
そうかもしれない。
ワイバーン、大悪魔、ミノタウロスとオーガ約十人、そして、ミノルとオガラ。
それだけの魔物を倒したんだ。
普通の冒険者が一生かけても手に入れられないような実績と栄誉。
誰にも知られることはないけれど、オレはそれを手にした。
成長した……のかもしれない。
でも、スキルが成長──というのは魔物にのみ起こることだ。
生まれた時からスキルを持っている魔物は、成長するとスキルを上位のものへと進化させることがある。
一方、人間のスキルは変化しない。
人間のスキルとは、まず適正の職業を儀式で選び、職についた瞬間に授かるものだ。
その後、なにをしてもスキルが成長するということはない。
そして、それがその人物の個性として一生を共に過ごすことになる。
オレの場合は、それが【鑑定眼】だ。
……なぜか魔界で【吸収眼】が覚醒したが。
逆に、人間が成長するのは「職業特性」だ。
職業特性は、例えば。
戦士なら【タフネス】
神職なら【回復】
というように一律に決まっている。
これら職業特性は、経験を積むことによって進化していく。
戦士なら【鋼の肉体】へ。
神職なら【上級回復】へ。
というように。
ちなみに、オレの「職業特性」は……。
空っぽ。
なにもなし。
今思えば、だからこそ、オレは足手まとい扱いされてたってのもある。
当時はモモや環境に甘えてて、そんなことは気にしたこともなかったんだけど。
いや……気にしないにようにしてただけなのかもしれない。
まぁ、とにかく、ここは魔界だ。
人間界の常識は通用しないのかもしれない。
柔軟に物事を捉えよう。
と、その前に。
一度状況を整理しておきたい。
「ちょっと待って。一旦、オレの知ってることをみんなと共有して情報を整理したい。穴に飲み込まれる直前にスキル【博識】を使って知ったんだが……」
「博識……って、それ先生のスキル!? フィード、あんた先生のスキルまで奪ってたの!?」
「ああ、それによると……」
■ 大悪魔は、その時代に一人しか存在しない。
■ 大悪魔が死んだら、その場に地獄へと続くダンジョンが発生し、次の大悪魔を生み出す糧を飲み込む。
■ 全ての糧を吸収し尽くし、次の大悪魔が成長すると、ダンジョンは消滅する。
■ 大悪魔の持つ知識は代々、スキル「博識」を通して受け継がれる。
「って、ことらしい」
と、みんなに説明をした。
ただ、一つ。
■ 飲み込まれた糧に逃れる術すべはなく、大人しく次代の大悪魔を生み出す養分となる以外にはない。
という一文は伏せて。
わざわざ、そんなことを伝えて、みんなを絶望させる必要はない。
「え……? じゃあ、このちっちゃいのが次の世代の大悪魔……ってことですか?」
「ああ、多分……」
「はぁ……そうですか……こんなにちっちゃいのに大悪魔……。悪魔族序列一位の……」
転生? した大悪魔テス・メザリア──ナメクジ目玉は、ローパーのパルに掴まれてゆらゆらと揺れている。
「……これさ、今ここで殺しちまえば、ここから出られるってことはねぇか?」
オークのオルクらしい物騒な意見。
「どうだろう? 多分、死んでもまた次の大悪魔が生まれるだけじゃないか?」
「先生が地面に溶けていったみたいに、この子も壁に吸収されそう」
「そうなったら、余計、打つ手なしになっちゃいますね……」
「うん、脱出の手がかりとして、これは持っといた方がいいと思う。自由にさせて成長でもされたら、そっちの方が危なそうだし」
ぷるぷるぷる、とパルが大悪魔を持った金色の触手を振って「しっかり持っときます!」みたいにアピールする。
「ああ、頼むぞ、パル。逃さないように持っといてくれよな。そいつが成長したらダンジョンも消滅して、オレたちもどうなるかわからないらしいから」
ぷるっ!
パルの紫色の本体部分が、胸を張るように上下する。
「本来だったら、壁の色に同化してて見つけられなかったんだろうな……。多分、お前がさっき馬鹿力で地面ぶん殴ったから、その衝撃で落ちてきたんじゃねぇか?」
ああ、なるほど。
偶然だが、スキルが上手く働いたってことか……。
「たしかに、こんな小さいのに隠れられたら見つけられないな。ってことは、なおさら逃す訳にはいかない、か」
まったく。
さっきまでは、オレが大悪魔に囚われてたってのに。
今は、オレが大悪魔を囚えてる。
一見立場が逆転したように見えるが、オレたちは大悪魔の籠の中の鳥でもある。
一体何なんだ、この状況は……。
「ねぇ、フィード。その先生のスキルで、このダンジョンのこと調べられないの?」
「ああ、そうだな、調べてみよう」
【博識】
あれ……? 発動しない。
【博識】
やっぱりだめだ。
魔力が尽きた感じはしないんだが……。
「あ、ごめん、ちょっと使えないっぽいかも……」
「魔力は足りてるのよね? じゃあ、このミニ大悪魔に奪い返されたとか? 時代に一人しか存在しない大悪魔なら、そのスキルも一つしか存在しないってことなんじゃないの?」
あ、ありうる……。
しかも……。
「うん、このミニ大悪魔、博識を持ってるんだよね……。しかも【博識0.0001%】とかいうのを……」
「0.0001%ぉ!?」
「もしかして、成長していかないと、代々蓄えた知識も回復していかないとかなんでしょうか……」
それもありうる……。
「フィード、自分の今持ってるスキルとか確認出来ないの?」
「出来るよ」
「じゃあ、さっさとしなさいよ」
「ああ、うん」
バタバタしてて後回しにしてたけど、自分の残り魔力量も含めて確認しておく必要がある。
【鑑定眼】
オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。
名前:アベル・フィード・オファリング
種族:人間(?)
職業:鑑定士
レベル:108
体力:702
魔力:8161
職業特性:【超遅速レベルアップ】【倍算レベルアップ】【スキル進化】【スキル覚醒】
スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【偏食】【邪悪】【死の悲鳴】【暗殺】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【透明】【魅了】【暴力】【怪力】【嘶咆哮】【地獄の業火】【毒液】【毒触手】【死の予告】【邪眼】【腐食】【投触手】【石化】【吸血】【高速飛行】
…………ん?
んん~………………。
ちょっと待って? ツッコミどころが多すぎる。
あ~…………。
う~ん……。
うん、ツッコミどころが多すぎるけど、それは一旦全部無視しよう!
で、とりあえず「博識」を持っていないことを確認!
そして、魔力も十分! 全然尽きてない!
尽きてないどころか多すぎる!
っていうか、いやいや魔力八千超えって。
え? 前まで62だったんですが?
う~ん、レベル? 体力? それに、この名前……? っていうか人間(?)って……。
一度は無視しようとしたものの、どうしても無視しきれない疑問の渦に再び飲み込まれかけていたオレの意識を、オルクの声が現実へと引き戻す。
「フィード! 敵だっ!」
声の方を向くと、壁の中からにょろにょろと、一メートルほどの蟻のような魔物が三匹出てきていた。
蟻の体表は、壁と同じく赤黒く波打ち、怨嗟の表情が次々と浮かび上がっている。
強靭なアゴと鋭利な前脚は、捕らえた獲物を一噛みで絶命に至らせることを予感させる。
生まれたばかりだからか、蟻の全身は、羊水のような「ぬるり」とした液体にまみれており、口からは捕食すべき相手に遭遇した歓喜を抑えきれないとばかりに、どす黒い涎のようなものがダラダラと垂れ落ちている。
おまけに……ひどい悪臭だ。
名前:糧を収拾せし者
種族:デビル・アント
レベル:6
体力:666
魔力:66
スキル:【暗黒爪】
糧を収拾せし者。
要するにオレたちを殺して、糧として取り込むための兵隊ってことか。
「みんな、下がってろ」
リサ、ルゥ、オルク、ローパー。
みんな、今はスキルを持っていない状態だ。
オレが、みんなを守らねば。
え~っと……吸収ストックはいくつ残ってるんだっけ……?
まぁ、いい。
出し惜しみしてる暇はない。
ここから脱出するために、奪えるものは全部奪っておく。
【吸収眼】
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
体が──熱い──!
よし、じゃあ奪ったばかりの、このスキル。早速試させてもらおう。
【暗黒爪】
効果:闇の力によって対象を斬り裂く。出来るだけ、苦痛を与えて。出来るだけ、すぐには死なないように。
(まずは──その物騒な前脚から切り落とさせてもらうぞっ!)
魔鋭刀を蟻の前脚と同じ形、ギザギザの鋸脚《きょきゃく》状に変形させ、蟻の下に潜り込むと、脚を切り飛ばさんと思いっきり振り切る、と──。
ズバッシャーーーーーーーーン!
「…………へ?」
信じられない轟音を立てて放たれた闇の飛ぶ斬撃は、デビル・アント三匹を一撃で真っ二つにしただけではなく、魔物の出てきた壁までをも切り裂き、その先にある新たな通路、八方塞がりだったオレたちの進むべき道を示したのだった。
ゆらゆらゆらり。
ローパーの触手に絡められているミニ大悪魔、テス・メザリアが嬉しそうに揺れていた。
リサが詰問する。
目玉大悪魔は、その一つしかない目を閉じて、ブルブルと怯えるように震えている。
「いや……死んでると思う。名前が違うから」
「名前!?」
「ああ、見えるようになったんだ。前は、種族やスキルだけしか見えてなかったんだけど、今は名前も」
「あ……もしかして、スキルが成長した……ってことなんでしょうか? ウインドシアさんたちをやっつけたから」
ルゥの意見。
そうかもしれない。
ワイバーン、大悪魔、ミノタウロスとオーガ約十人、そして、ミノルとオガラ。
それだけの魔物を倒したんだ。
普通の冒険者が一生かけても手に入れられないような実績と栄誉。
誰にも知られることはないけれど、オレはそれを手にした。
成長した……のかもしれない。
でも、スキルが成長──というのは魔物にのみ起こることだ。
生まれた時からスキルを持っている魔物は、成長するとスキルを上位のものへと進化させることがある。
一方、人間のスキルは変化しない。
人間のスキルとは、まず適正の職業を儀式で選び、職についた瞬間に授かるものだ。
その後、なにをしてもスキルが成長するということはない。
そして、それがその人物の個性として一生を共に過ごすことになる。
オレの場合は、それが【鑑定眼】だ。
……なぜか魔界で【吸収眼】が覚醒したが。
逆に、人間が成長するのは「職業特性」だ。
職業特性は、例えば。
戦士なら【タフネス】
神職なら【回復】
というように一律に決まっている。
これら職業特性は、経験を積むことによって進化していく。
戦士なら【鋼の肉体】へ。
神職なら【上級回復】へ。
というように。
ちなみに、オレの「職業特性」は……。
空っぽ。
なにもなし。
今思えば、だからこそ、オレは足手まとい扱いされてたってのもある。
当時はモモや環境に甘えてて、そんなことは気にしたこともなかったんだけど。
いや……気にしないにようにしてただけなのかもしれない。
まぁ、とにかく、ここは魔界だ。
人間界の常識は通用しないのかもしれない。
柔軟に物事を捉えよう。
と、その前に。
一度状況を整理しておきたい。
「ちょっと待って。一旦、オレの知ってることをみんなと共有して情報を整理したい。穴に飲み込まれる直前にスキル【博識】を使って知ったんだが……」
「博識……って、それ先生のスキル!? フィード、あんた先生のスキルまで奪ってたの!?」
「ああ、それによると……」
■ 大悪魔は、その時代に一人しか存在しない。
■ 大悪魔が死んだら、その場に地獄へと続くダンジョンが発生し、次の大悪魔を生み出す糧を飲み込む。
■ 全ての糧を吸収し尽くし、次の大悪魔が成長すると、ダンジョンは消滅する。
■ 大悪魔の持つ知識は代々、スキル「博識」を通して受け継がれる。
「って、ことらしい」
と、みんなに説明をした。
ただ、一つ。
■ 飲み込まれた糧に逃れる術すべはなく、大人しく次代の大悪魔を生み出す養分となる以外にはない。
という一文は伏せて。
わざわざ、そんなことを伝えて、みんなを絶望させる必要はない。
「え……? じゃあ、このちっちゃいのが次の世代の大悪魔……ってことですか?」
「ああ、多分……」
「はぁ……そうですか……こんなにちっちゃいのに大悪魔……。悪魔族序列一位の……」
転生? した大悪魔テス・メザリア──ナメクジ目玉は、ローパーのパルに掴まれてゆらゆらと揺れている。
「……これさ、今ここで殺しちまえば、ここから出られるってことはねぇか?」
オークのオルクらしい物騒な意見。
「どうだろう? 多分、死んでもまた次の大悪魔が生まれるだけじゃないか?」
「先生が地面に溶けていったみたいに、この子も壁に吸収されそう」
「そうなったら、余計、打つ手なしになっちゃいますね……」
「うん、脱出の手がかりとして、これは持っといた方がいいと思う。自由にさせて成長でもされたら、そっちの方が危なそうだし」
ぷるぷるぷる、とパルが大悪魔を持った金色の触手を振って「しっかり持っときます!」みたいにアピールする。
「ああ、頼むぞ、パル。逃さないように持っといてくれよな。そいつが成長したらダンジョンも消滅して、オレたちもどうなるかわからないらしいから」
ぷるっ!
パルの紫色の本体部分が、胸を張るように上下する。
「本来だったら、壁の色に同化してて見つけられなかったんだろうな……。多分、お前がさっき馬鹿力で地面ぶん殴ったから、その衝撃で落ちてきたんじゃねぇか?」
ああ、なるほど。
偶然だが、スキルが上手く働いたってことか……。
「たしかに、こんな小さいのに隠れられたら見つけられないな。ってことは、なおさら逃す訳にはいかない、か」
まったく。
さっきまでは、オレが大悪魔に囚われてたってのに。
今は、オレが大悪魔を囚えてる。
一見立場が逆転したように見えるが、オレたちは大悪魔の籠の中の鳥でもある。
一体何なんだ、この状況は……。
「ねぇ、フィード。その先生のスキルで、このダンジョンのこと調べられないの?」
「ああ、そうだな、調べてみよう」
【博識】
あれ……? 発動しない。
【博識】
やっぱりだめだ。
魔力が尽きた感じはしないんだが……。
「あ、ごめん、ちょっと使えないっぽいかも……」
「魔力は足りてるのよね? じゃあ、このミニ大悪魔に奪い返されたとか? 時代に一人しか存在しない大悪魔なら、そのスキルも一つしか存在しないってことなんじゃないの?」
あ、ありうる……。
しかも……。
「うん、このミニ大悪魔、博識を持ってるんだよね……。しかも【博識0.0001%】とかいうのを……」
「0.0001%ぉ!?」
「もしかして、成長していかないと、代々蓄えた知識も回復していかないとかなんでしょうか……」
それもありうる……。
「フィード、自分の今持ってるスキルとか確認出来ないの?」
「出来るよ」
「じゃあ、さっさとしなさいよ」
「ああ、うん」
バタバタしてて後回しにしてたけど、自分の残り魔力量も含めて確認しておく必要がある。
【鑑定眼】
オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。
名前:アベル・フィード・オファリング
種族:人間(?)
職業:鑑定士
レベル:108
体力:702
魔力:8161
職業特性:【超遅速レベルアップ】【倍算レベルアップ】【スキル進化】【スキル覚醒】
スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【偏食】【邪悪】【死の悲鳴】【暗殺】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【透明】【魅了】【暴力】【怪力】【嘶咆哮】【地獄の業火】【毒液】【毒触手】【死の予告】【邪眼】【腐食】【投触手】【石化】【吸血】【高速飛行】
…………ん?
んん~………………。
ちょっと待って? ツッコミどころが多すぎる。
あ~…………。
う~ん……。
うん、ツッコミどころが多すぎるけど、それは一旦全部無視しよう!
で、とりあえず「博識」を持っていないことを確認!
そして、魔力も十分! 全然尽きてない!
尽きてないどころか多すぎる!
っていうか、いやいや魔力八千超えって。
え? 前まで62だったんですが?
う~ん、レベル? 体力? それに、この名前……? っていうか人間(?)って……。
一度は無視しようとしたものの、どうしても無視しきれない疑問の渦に再び飲み込まれかけていたオレの意識を、オルクの声が現実へと引き戻す。
「フィード! 敵だっ!」
声の方を向くと、壁の中からにょろにょろと、一メートルほどの蟻のような魔物が三匹出てきていた。
蟻の体表は、壁と同じく赤黒く波打ち、怨嗟の表情が次々と浮かび上がっている。
強靭なアゴと鋭利な前脚は、捕らえた獲物を一噛みで絶命に至らせることを予感させる。
生まれたばかりだからか、蟻の全身は、羊水のような「ぬるり」とした液体にまみれており、口からは捕食すべき相手に遭遇した歓喜を抑えきれないとばかりに、どす黒い涎のようなものがダラダラと垂れ落ちている。
おまけに……ひどい悪臭だ。
名前:糧を収拾せし者
種族:デビル・アント
レベル:6
体力:666
魔力:66
スキル:【暗黒爪】
糧を収拾せし者。
要するにオレたちを殺して、糧として取り込むための兵隊ってことか。
「みんな、下がってろ」
リサ、ルゥ、オルク、ローパー。
みんな、今はスキルを持っていない状態だ。
オレが、みんなを守らねば。
え~っと……吸収ストックはいくつ残ってるんだっけ……?
まぁ、いい。
出し惜しみしてる暇はない。
ここから脱出するために、奪えるものは全部奪っておく。
【吸収眼】
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
体が──熱い──!
よし、じゃあ奪ったばかりの、このスキル。早速試させてもらおう。
【暗黒爪】
効果:闇の力によって対象を斬り裂く。出来るだけ、苦痛を与えて。出来るだけ、すぐには死なないように。
(まずは──その物騒な前脚から切り落とさせてもらうぞっ!)
魔鋭刀を蟻の前脚と同じ形、ギザギザの鋸脚《きょきゃく》状に変形させ、蟻の下に潜り込むと、脚を切り飛ばさんと思いっきり振り切る、と──。
ズバッシャーーーーーーーーン!
「…………へ?」
信じられない轟音を立てて放たれた闇の飛ぶ斬撃は、デビル・アント三匹を一撃で真っ二つにしただけではなく、魔物の出てきた壁までをも切り裂き、その先にある新たな通路、八方塞がりだったオレたちの進むべき道を示したのだった。
ゆらゆらゆらり。
ローパーの触手に絡められているミニ大悪魔、テス・メザリアが嬉しそうに揺れていた。
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