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第15話 決闘要求

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 【十五日目 朝】


 昨日はホブゴブリンの葬儀で休校。
 あのまま保健室でオレとリサと一緒に夜を過ごしていたゴーゴンも、葬儀に出席するため朝に学校を出ていった。

 オレは檻に戻してもらった。
 保健室で一人きりというのも不安だったからだ。あんなに檻から出たがっていたのに、まさか自分から檻に戻る日が来るとは……。

 ミノタウロス達に殺されかけたことを考えても、オレにはもっとスキルが必要だ。
 ここから脱出して、それでゴールというわけではない。
 魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする魔界の長い道のりを生きて逃げ延び、無事に人間界に戻る。
 そのためには、もっとスキルが要る。

 吸収ストック数は、今日で5まで貯まっている。
 あと四日、どうにか穏便に過ごして9は貯めたい。
 そして、その後は──。


 タイミングが合った時に一気に奪い、脱出を決行する。


 今日でちょうど三十日も半分が過ぎた。
 折り返し、ちょうどいい頃合いでもある。

 教室には、早朝の爽やかな風が吹き込んできている。
 魔界だろうがなんだろうが朝の風は心地いいらしい。
 で、教室には、すでにゴーゴンが登校している。
 登校しているというよりも、葬儀の終わった昨日の夜から、ここでリサと三人で過ごしていたので、そのまま席に着いてるという感じだ。

 さいわいゴーゴンは、これまでも一番に登校してきていた。だから朝イチで教室にいても誰も気にめないだろう。

 いや、もしかしたら魔物たちは無意識、もしくは意識的にゴーゴンという種族を避けているのかもしれない。
 一昨日おととい、トイレで見せた彼女の石化能力。
 後から現場に行ってみたら、四方八方全てが石になっていて改めて驚かされた。

 石化は後から解除が出来るけど、それには膨大な手間と魔力がかかるらしい。
 なので、時間が経てば経つほど解除が難しくなるそうだ。
 ということで、あのトイレはおそらく半永久的に石のままなのだろう。

 そういう彼女の能力を知っていれば、進んで関わり合いになろうと思う魔物がいないのも当然なのかもしれない。

 やがて全員が登校してきて、朝礼が始まった。

 死んだ四人にリサ、ワイバーン、それにミノタウロスとオーガ。計八つの席が空いている。全部で三十席のうち、八つが空席。がらんとしていて、かなり物寂しい印象を受ける。
 当然、教室内の雰囲気も重い。

 オレが死にかけた時に根っこを食べさせてくれたらしいマンドレイクも机の上でしょぼんとしてる。
 目が合った気がしたので、「どうも」みたいな感じで小さく手を振って頭を下げると、マンドレイクもちょっと根菜の体を傾けて会釈してきた。

 教壇では、大悪魔がミノタウロスたちの件を淡々と報告している。 

「ミノルとオガラは、しばらくの間、停学となります。復学の時期は未定です」

 停学。そして復学は未定か。
 ということは、オーガのスキル【剛力ソリッド・パワー】を奪う機会は失われてしまった。
 まぁ、スキル自体はオークの【怪力ストレングス】と被ってそうだから、どうでもいい。

 ただ、この「停学」は意外と使えるんじゃないか? と、ふと思った。

 あと四日で目標としてた吸収ストック9が貯まる。
 そこでオレが気にかけ始めたのが。

『どういうタイミングで脱出するか』

 だ。

 考えられるのは、

 一、朝に抜け出して脱出。
 二、トイレに行く時に引率役を殺して脱出。
 三、夕方に抜け出して脱出。
 四、夜中にリサ、ゴーゴンを殺して脱出。
 五、日中に全員殺して脱出。

 この五つだ。

 一~三は、脱出に気づかれるまでのタイムラグが短い。
 大勢に探し回られたら、どれだけスキルを持っていようと、すぐに見つかってしまう可能性がある。

 次に、四。
 リサとゴーゴンを殺すのは……うん。まぁ、ちょっと、もうちょっとだけ考えたい感じでもある。【魅了エンチャント】を使えば殺さずに済むかもしれないけど、どのみち朝にはバレる。タイムラグは長くて半日。

 最後に、五。
 意外と、これが逃走が発覚するまでのタイムラグが一番長い。
 リサとゴーゴンを前日の夜のうちにどうにかしてしまえば、おそらく丸一日。下手したら数日はオレの逃走が発覚しない可能性がある。

 その代わり、リスクも一番高い。
 まず、オレが檻の中に閉じ込められたままの状態だったら。
 そしたら、たとえ全員を殺したところで外に出られず終了だ。
 だから、前日のうちに【魅了エンチャント】を使って鍵をこっそり開けておく、とかいろんな仕込みをしておかなきゃいけない。

 面倒だ。おまけに不確実。
 下手したら、処刑の数日前から、ずっとオレに状態異常スキルなんかをかけられてるかもしれないし。

 というわけで、できれば。

「オレが確実に全員の前で檻から出ている状況」

 というのを作りたい。
 そして、可能であれば、その日取りまで決めておきたい。
 そうすれば、オレの吸収ストック数と照らし合わせて、どういう風にスキルを奪っていけばいいかも確定できるからだ。

 そのために、このオーガとミノタウロスの停学は使えるなと思った。


 【狡猾モア・カニング


 オレは、静かにスキルを発動すると声を上げた。


「大悪魔シス・メザリア! オレから言いたいことがあるんですが、いいでしょうか!」


 面倒くさそうに眉をしかめる大悪魔。
 そりゃそうだ、向こうからしたら教室の後ろで飼ってる虫が急に喋りだしたようなもんだろうから。

「…………フィード・オファリング。発言を許可する。ただし、短くだ」

「発言を許可していただき、ありがとうございます。まずは、ホブゴブリンのホープに追悼ついとうを。彼は、オレの世話を進んでやっていたせいで、二人に目をつけられて殺されました」

 ホブゴブリンのことを思い出したのか数人が目を伏せる。
 何人かは「こんな空気の中で何を言う気だ、こいつ?」という目でオレを睨んでいる。

「ホープが殺された原因はオレにもあります」

「……で? なにが言いたい?」

 苛立ちを隠す様子もなく大悪魔は先をうながす。

「原因があると同時に、オレもホープと同じ被害者です」

「だからなんだ? 同情してくれとでも言うつもりなのか? 三十日を待たずに死にたいのか、フィード・オファリング?」

 ここだ。連中が苛立って痺れを切らす直前。このタイミングで言う。


「オレに、オレとホープの恨みを晴らす機会を! ミノタウロスのミノル、そしてオーガのオガラ! 二人への──」


 言いながら、自分の体の奥底から熱いものがたぎってくるのを感じる。




「決闘を要求します!」




 クラスの連中が、口をあんぐりと開けてオレを見ている。そして。

「ふはっ!」

 いつも辛気臭い顔をしている大悪魔シス・メザリア。

 彼の笑った顔を。

 オレは初めて見た。
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