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おじさん vs 魔女の巻
第29話 おじさん、飛ぶ
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紫髪のつややかな長髪。
前髪はきれいに整えてある。
頭の上にちょこんと乗った小さなシルクハット。
黒と赤のゴシックなドレス。
つま先がくるんっと丸まったブーツ。
そんな少女が。
空からホウキに乗って舞い降りてきた。
「師匠~ゥ! いくらなんでも許しませんよ……!」
ミカがめっちゃキレてる。
なんでもケルベロスの幻影をけしかけてきたのがこの師匠らしい。
でも……うん、この師匠……。
子供。
なんだよなぁ。
怒ってるミカ(子供)。
怒られてる師匠(子供)。
緊迫感ゼロ。
なんか周りを闇で覆ったり。
それを割ったり。
空飛んだり。
ゲキヤバ生物を召喚したりしてるんだけど。
はたから見てると……。
ただの子どもの喧嘩。
う~ん……。
こんなのに巻き込まれておじさんは一体どうすれば……。
そんなことを思っていると。
建物の上に降り立った師匠幼女が声をかけてきた。
「そなたがウワサのケント・リバーか」
「……どこでウワサになってんのかな?」
「ふっ……我が弟子ミカが、よく寝言でお主の名前を言っておるぞ」
「びぇぇぇぇ!? し、師匠!? ななな、なに言ってるんでしゅか! わわわ、私は今までそんなこと一度も……!」
「ふむ……」
師匠幼女が右手をくるりとひねると、持っていたホウキがしゅるりと消え、代わりに黄色い宝石が握られていた。
(手品……? じゃなくて、もしかして収納魔法ってやつ?)
本当に存在したんだ。
あれがあったら冒険で便利そうだなぁ。
「ひっ……ししょ……それ、やだ、まさか、やめ……」
青ざめるミカをよそに。
黄色い宝石から音声が流れ出る。
『むにゃむにゃ……ケント……ケントぉ~……! ケントは大事なわたしの……わたしのぉ~……うふ……うふふ……むにゃむにゃ』
ミカの寝言。
おぉ……ミカ……。
お前、夢の中でまで俺への復讐を……。
ドガァ──!
ミカの使役する巨大おたまじゃくしが幼女師匠に飛びかかる。
「ふふふ……師匠~……? そんなものまで録音して……よっほど痛い目を見たいようですね……? いいでしょう、見せてあげましょう……!」
「ハッ! 呪術一本槍の貴様に、この偉大なる全能の大魔道士リンネ・アンバーが超えられると思ってか!」
この幼女師匠さん。
どうやらリンネ・アンバーって名前らしい。
アンバー、ってミカの名字と一緒だよな。
あの幼女師匠から貰ったのかな?
っていうかあの幼女師匠……。
「ワシが説明しよう!」なんて言って出てきたくせに全然なんの説明もしないんだけど……。
これ、もしかしてあれか?
ただかっこよく登場したかっただけか?
ありうる……。
だって子供だもんな……。
仕方ない。
このまま勝手に情報を読み取っていくとしよう。
ズドーン!
ドガーン!
「気張りなさい、母里比企!」
「つまらんのう。せっかく呪霊を使役しとるというのに物理攻撃のみとは」
「なら、これはどう──? 想衣耶廻!」
「重力魔法の劣化版、じゃの。重くなった気がするだけ。しょせんは東方のマイナー魔法じゃのう。退屈、退屈」
「言ってくれるじゃない──の! 須琉厘!」
「おぉ、摩擦がゼロになった気がする術式か。たしかに足が滑って転びそうじゃのぅ。じゃが──」
師匠幼女──リンネ・アンバーは何もない空間からホウキを取り出して跨ると、宙に浮いた。
「こうすれば無意味じゃのう」
どうやらミカが色んな魔法(術式?)を仕掛けてるけど全部軽くかわされてるようだ。
それにしても、あのリンネって幼女……。
師匠と呼ばれるだけのことはある。
魔法で発生させた氷壁や土壁を使って白おたまじゃくしの物理攻撃を防ぎつつ、ミカの状態異常の術にも対応してる。
その多岐にわたる魔法の幅もすごいが……。
判断が的確。
剣士でも俺より力の強いやつはたくさんいた。
けど、俺よりも状況判断が上手いやつはいなかった。
それは俺がスラム育ちで、冒険においてもソロでずっとやってたから。
自然と身についた生きるための術だ。
力はあるに越したことはない。
けど。
あればいいってもんでもない。
己の能力。
そして周囲の環境。
それらを活かして上手く立ち回ることの出来るやつ。
それが強いやつだ。
そして、あのリンネって師匠は──。
強い。
間違いなく。
俺だったら……。
どう、仕掛けるか。
宙に浮く相手は面倒だ。
ワイバーンだって、あの三人組や騎士団、それにハンナのサポートがあったから倒せたわけだし。
まずは、あのホウキを封じてから……。
ブツブツブツ……。
うん。
そうだな。
一応は見えた。
もし、俺があのリンネって幼女と戦うとしたら──。
「くくく……つまらぬのぅ……。せっかく貴様をここまで育ててやったというのに、この程度か。もう飽いてきたのう。かようなくだらぬ呪術、もう付き合う価値もなさそうじゃ。ここらで貴様の命、刈り取って……」
「──あぁ?」
今、なんて言った?
命を刈り取る?
刈り取るって言ったよな?
命?
誰の?
ミカ?
ミカの命を刈り取るって言ったのか、こいつ?
は?
お前、師匠なんだろ?
なんでそんなこと言うんだよ?
もし本気で言ってるってんなら。
許さんぞ──!
「おぉ~、怖い怖い。ウワサの剣鬼からビシビシと殺気を感じるぞ? お主も手を出してもよいのだぞ、ケント・リバー? もっとも──貴様らが二人揃ったところで……世のあらゆる魔導を知るワシに敵うとは思えんがのぅ」
ホウキに乗り宙に浮かんだリンネがクソ生意気に嗤う。
「ほぅ……ずいぶんと上から言ってくれるじゃねぇか」
「実際上じゃ」
「そろそろ下り時かもだぜ?」
「のぼせ上がった口を叩けるのも今だけじゃろうなぁ」
「下らねぇお喋りはいいだろ、魔女様?」
「魔女だと……? このワシを魔女呼ばわり……貴様、頭が高いぞ! 頭を下げよ!」
ドゥ──ン──!
体が急に重くなる。
(これが重力魔法ってやつか……!)
さすがにこれはぶった斬れねぇ。
けど……。
「ミカっ!」
「ひゃっ!? ひゃいっ!?」
「俺の体を軽くしろ!」
「ひぇ……でも、私の呪術って因果をちょっとねじまげるだけで、実際に軽くしたりは……」
「出来るのか、出来ねぇのか!?」
「えっと……軽くなった気がするようには出来る……」
「なら、それを頼む!」
「う、うん……! 巫盤厘!」
ミカが唱えると。
(おぉ……)
たしかに軽くなった気がする。
「くくく……無駄無駄。そんな気休め程度の呪術など、実際に起きている現象の前ではなんの意味もないわ」
リンネが勝ち誇ったように言う。
気休め。
数々の死地をくぐり抜けてきた俺には理解ってる。
ここで心が折れたら死ぬ。
そんな場面が何度もあった。
でも、そんな時に土壇場で俺を支えたのが。
そういった「気休め」なんだよ。
言うだろ? 病は気からって。
そして、その「気」こそが──。
俺のスキルと噛み合うんだよ!
スキル『超感覚』で、この軽くなった気をしっかりと捉えてからの──。
「潜る!」
宙に浮かぶリンネとの間に縦の水面を描く。
(うぉっ、すげぇ波紋……!)
例えるなら、虹。
キラキラとまばゆく煌めく七色の強大な波紋が、渦を巻いて波紋として宙に浮かんでいる。
(さて、俺があそこにまで到達するためには、っと……)
「ミカ、二人であのクソ生意気な魔女の鼻を折るぞ!」
「で、でも……」
「大丈夫だ、出来る! 俺を信じろ!」
「う、うん……! ケントがそう言うなら……!」
「よし、じゃあまずだな……」
俺はミカに作戦を伝える。
「わ、わかった……やってみるね」
「あぁ、頼んだ。お前が頼みの綱だ、ミカ。一人では無理でも二人なら出来る。絶対にな」
「ふっ……ふふふ……二人……私とケント……二人なら……うふふ……」
「行くぞっ!」
「う、うんっ!」
俺は近くにあった建物の中へと入る。
「ほぅ? 我が重力魔法を食らってなおそこまで動けるか……。しかし、身を隠す作戦とはな。下らぬ。剣鬼とやらのウワサも大したことがなさそうじゃな……あ?」
ドゴーン!
ドガーン!
ズゴーン!
「ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪」
ミカの使役する巨大白おたまじゃくし。
それが次々と周囲の建物を破壊しはじめる。
「なにを悪あがきを……くだらぬ! くだらぬぞ、ケント!」
この黒帳とやらの中では、建物をどれだけ壊しても闇が晴れたら元通りらしい。
なら、力だけはすげぇミカの白オタマで遠慮せずにぶっ壊させてもらう。
ほ~ら、すっごい土埃。
まずはこれで揺動してからの……。
「ミカっ! 今だぁ!」
「う、うんっ!」
「無駄無駄! なにを仕掛けてこようと地を這うしかない貴様らに、この天に浮かぶワシを捉えることな──ど?」
「須琉厘!」
「うおっ!?」
ホウキにまたがったリンネがずり落ちそうになり、必死にホウキにしがみつく。
「こ、これは……!?」
「てめぇがさっきわざわざ解説してくれたんじゃねぇか。この術は相手をコケさせるものじゃなく──摩擦をゼロにするものだってな」
「だから、ワシの摩擦をゼロにしてホウキから落とそうとしたわけか! じゃが、こうしてしがみついておれば宙を跳べぬ貴様らに手出しは……」
「それはどうかな?」
白オタマの破壊した建物の瓦礫。
俺はその一番高いとこに立って合図を出す。
「ミカ! 軽くしろ!」
「う、うん……!」
「くだらぬ……! 貴様はもう軽くなった気がしておるだろう! 呪術は重ねがけは……」
「ざ~んねん。軽くするのは俺じゃなくて……」
「ギャッ♪ ギャッ♪」
「この白オタマの方だ!」
「な……!」
嬉しそうに駆けてきた白オタマは、駆けてきた勢いそのままに俺を掴むと。
「ギャ~♪」
っと、宙を跳ぶ。
高い。
体にめっちゃ風圧。
耐える。
そして──。
「投げなさい、母里比企!」
「ギャッギャ~♪」
ブ──オッ──!
白オタマが俺を放り投げる。
うぉ、やっぱすっげ~力。
な? 言ったろ?
力は持ってるだけじゃ意味がないって。
要するに使い所よ。
「ミカ! お前の術は東方のマイナー魔法なんかじゃねぇ! 忌まわしい呪いなんかでもねぇ! お前の魔法は──」
地上にいるミカ。
不安そうに見上げている。
ハハ……そんな顔すんなって。
もう、お前を危険な目には合わせないから。
「俺みたいな単純バカに超絶効きまくる最強バフ魔術──」
だから笑えよ、ミカ。
「寿術だ!」
ガシッ!
「……は?」
リンネのしがみつくホウキに掴まった俺は。
ゴチンっ!
幼女師匠、リンネ・アンバーの頭にげんこつを落とした。
「ふぇ~ん><」
情けない声を上げるリンネ。
地上を見ると。
目の端に涙を浮かべたミカが、楽しそうに笑っていた。
ああ、そうだ。
そういう顔だ。
そういう顔でいいんだよ、ミカ。
前髪はきれいに整えてある。
頭の上にちょこんと乗った小さなシルクハット。
黒と赤のゴシックなドレス。
つま先がくるんっと丸まったブーツ。
そんな少女が。
空からホウキに乗って舞い降りてきた。
「師匠~ゥ! いくらなんでも許しませんよ……!」
ミカがめっちゃキレてる。
なんでもケルベロスの幻影をけしかけてきたのがこの師匠らしい。
でも……うん、この師匠……。
子供。
なんだよなぁ。
怒ってるミカ(子供)。
怒られてる師匠(子供)。
緊迫感ゼロ。
なんか周りを闇で覆ったり。
それを割ったり。
空飛んだり。
ゲキヤバ生物を召喚したりしてるんだけど。
はたから見てると……。
ただの子どもの喧嘩。
う~ん……。
こんなのに巻き込まれておじさんは一体どうすれば……。
そんなことを思っていると。
建物の上に降り立った師匠幼女が声をかけてきた。
「そなたがウワサのケント・リバーか」
「……どこでウワサになってんのかな?」
「ふっ……我が弟子ミカが、よく寝言でお主の名前を言っておるぞ」
「びぇぇぇぇ!? し、師匠!? ななな、なに言ってるんでしゅか! わわわ、私は今までそんなこと一度も……!」
「ふむ……」
師匠幼女が右手をくるりとひねると、持っていたホウキがしゅるりと消え、代わりに黄色い宝石が握られていた。
(手品……? じゃなくて、もしかして収納魔法ってやつ?)
本当に存在したんだ。
あれがあったら冒険で便利そうだなぁ。
「ひっ……ししょ……それ、やだ、まさか、やめ……」
青ざめるミカをよそに。
黄色い宝石から音声が流れ出る。
『むにゃむにゃ……ケント……ケントぉ~……! ケントは大事なわたしの……わたしのぉ~……うふ……うふふ……むにゃむにゃ』
ミカの寝言。
おぉ……ミカ……。
お前、夢の中でまで俺への復讐を……。
ドガァ──!
ミカの使役する巨大おたまじゃくしが幼女師匠に飛びかかる。
「ふふふ……師匠~……? そんなものまで録音して……よっほど痛い目を見たいようですね……? いいでしょう、見せてあげましょう……!」
「ハッ! 呪術一本槍の貴様に、この偉大なる全能の大魔道士リンネ・アンバーが超えられると思ってか!」
この幼女師匠さん。
どうやらリンネ・アンバーって名前らしい。
アンバー、ってミカの名字と一緒だよな。
あの幼女師匠から貰ったのかな?
っていうかあの幼女師匠……。
「ワシが説明しよう!」なんて言って出てきたくせに全然なんの説明もしないんだけど……。
これ、もしかしてあれか?
ただかっこよく登場したかっただけか?
ありうる……。
だって子供だもんな……。
仕方ない。
このまま勝手に情報を読み取っていくとしよう。
ズドーン!
ドガーン!
「気張りなさい、母里比企!」
「つまらんのう。せっかく呪霊を使役しとるというのに物理攻撃のみとは」
「なら、これはどう──? 想衣耶廻!」
「重力魔法の劣化版、じゃの。重くなった気がするだけ。しょせんは東方のマイナー魔法じゃのう。退屈、退屈」
「言ってくれるじゃない──の! 須琉厘!」
「おぉ、摩擦がゼロになった気がする術式か。たしかに足が滑って転びそうじゃのぅ。じゃが──」
師匠幼女──リンネ・アンバーは何もない空間からホウキを取り出して跨ると、宙に浮いた。
「こうすれば無意味じゃのう」
どうやらミカが色んな魔法(術式?)を仕掛けてるけど全部軽くかわされてるようだ。
それにしても、あのリンネって幼女……。
師匠と呼ばれるだけのことはある。
魔法で発生させた氷壁や土壁を使って白おたまじゃくしの物理攻撃を防ぎつつ、ミカの状態異常の術にも対応してる。
その多岐にわたる魔法の幅もすごいが……。
判断が的確。
剣士でも俺より力の強いやつはたくさんいた。
けど、俺よりも状況判断が上手いやつはいなかった。
それは俺がスラム育ちで、冒険においてもソロでずっとやってたから。
自然と身についた生きるための術だ。
力はあるに越したことはない。
けど。
あればいいってもんでもない。
己の能力。
そして周囲の環境。
それらを活かして上手く立ち回ることの出来るやつ。
それが強いやつだ。
そして、あのリンネって師匠は──。
強い。
間違いなく。
俺だったら……。
どう、仕掛けるか。
宙に浮く相手は面倒だ。
ワイバーンだって、あの三人組や騎士団、それにハンナのサポートがあったから倒せたわけだし。
まずは、あのホウキを封じてから……。
ブツブツブツ……。
うん。
そうだな。
一応は見えた。
もし、俺があのリンネって幼女と戦うとしたら──。
「くくく……つまらぬのぅ……。せっかく貴様をここまで育ててやったというのに、この程度か。もう飽いてきたのう。かようなくだらぬ呪術、もう付き合う価値もなさそうじゃ。ここらで貴様の命、刈り取って……」
「──あぁ?」
今、なんて言った?
命を刈り取る?
刈り取るって言ったよな?
命?
誰の?
ミカ?
ミカの命を刈り取るって言ったのか、こいつ?
は?
お前、師匠なんだろ?
なんでそんなこと言うんだよ?
もし本気で言ってるってんなら。
許さんぞ──!
「おぉ~、怖い怖い。ウワサの剣鬼からビシビシと殺気を感じるぞ? お主も手を出してもよいのだぞ、ケント・リバー? もっとも──貴様らが二人揃ったところで……世のあらゆる魔導を知るワシに敵うとは思えんがのぅ」
ホウキに乗り宙に浮かんだリンネがクソ生意気に嗤う。
「ほぅ……ずいぶんと上から言ってくれるじゃねぇか」
「実際上じゃ」
「そろそろ下り時かもだぜ?」
「のぼせ上がった口を叩けるのも今だけじゃろうなぁ」
「下らねぇお喋りはいいだろ、魔女様?」
「魔女だと……? このワシを魔女呼ばわり……貴様、頭が高いぞ! 頭を下げよ!」
ドゥ──ン──!
体が急に重くなる。
(これが重力魔法ってやつか……!)
さすがにこれはぶった斬れねぇ。
けど……。
「ミカっ!」
「ひゃっ!? ひゃいっ!?」
「俺の体を軽くしろ!」
「ひぇ……でも、私の呪術って因果をちょっとねじまげるだけで、実際に軽くしたりは……」
「出来るのか、出来ねぇのか!?」
「えっと……軽くなった気がするようには出来る……」
「なら、それを頼む!」
「う、うん……! 巫盤厘!」
ミカが唱えると。
(おぉ……)
たしかに軽くなった気がする。
「くくく……無駄無駄。そんな気休め程度の呪術など、実際に起きている現象の前ではなんの意味もないわ」
リンネが勝ち誇ったように言う。
気休め。
数々の死地をくぐり抜けてきた俺には理解ってる。
ここで心が折れたら死ぬ。
そんな場面が何度もあった。
でも、そんな時に土壇場で俺を支えたのが。
そういった「気休め」なんだよ。
言うだろ? 病は気からって。
そして、その「気」こそが──。
俺のスキルと噛み合うんだよ!
スキル『超感覚』で、この軽くなった気をしっかりと捉えてからの──。
「潜る!」
宙に浮かぶリンネとの間に縦の水面を描く。
(うぉっ、すげぇ波紋……!)
例えるなら、虹。
キラキラとまばゆく煌めく七色の強大な波紋が、渦を巻いて波紋として宙に浮かんでいる。
(さて、俺があそこにまで到達するためには、っと……)
「ミカ、二人であのクソ生意気な魔女の鼻を折るぞ!」
「で、でも……」
「大丈夫だ、出来る! 俺を信じろ!」
「う、うん……! ケントがそう言うなら……!」
「よし、じゃあまずだな……」
俺はミカに作戦を伝える。
「わ、わかった……やってみるね」
「あぁ、頼んだ。お前が頼みの綱だ、ミカ。一人では無理でも二人なら出来る。絶対にな」
「ふっ……ふふふ……二人……私とケント……二人なら……うふふ……」
「行くぞっ!」
「う、うんっ!」
俺は近くにあった建物の中へと入る。
「ほぅ? 我が重力魔法を食らってなおそこまで動けるか……。しかし、身を隠す作戦とはな。下らぬ。剣鬼とやらのウワサも大したことがなさそうじゃな……あ?」
ドゴーン!
ドガーン!
ズゴーン!
「ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪」
ミカの使役する巨大白おたまじゃくし。
それが次々と周囲の建物を破壊しはじめる。
「なにを悪あがきを……くだらぬ! くだらぬぞ、ケント!」
この黒帳とやらの中では、建物をどれだけ壊しても闇が晴れたら元通りらしい。
なら、力だけはすげぇミカの白オタマで遠慮せずにぶっ壊させてもらう。
ほ~ら、すっごい土埃。
まずはこれで揺動してからの……。
「ミカっ! 今だぁ!」
「う、うんっ!」
「無駄無駄! なにを仕掛けてこようと地を這うしかない貴様らに、この天に浮かぶワシを捉えることな──ど?」
「須琉厘!」
「うおっ!?」
ホウキにまたがったリンネがずり落ちそうになり、必死にホウキにしがみつく。
「こ、これは……!?」
「てめぇがさっきわざわざ解説してくれたんじゃねぇか。この術は相手をコケさせるものじゃなく──摩擦をゼロにするものだってな」
「だから、ワシの摩擦をゼロにしてホウキから落とそうとしたわけか! じゃが、こうしてしがみついておれば宙を跳べぬ貴様らに手出しは……」
「それはどうかな?」
白オタマの破壊した建物の瓦礫。
俺はその一番高いとこに立って合図を出す。
「ミカ! 軽くしろ!」
「う、うん……!」
「くだらぬ……! 貴様はもう軽くなった気がしておるだろう! 呪術は重ねがけは……」
「ざ~んねん。軽くするのは俺じゃなくて……」
「ギャッ♪ ギャッ♪」
「この白オタマの方だ!」
「な……!」
嬉しそうに駆けてきた白オタマは、駆けてきた勢いそのままに俺を掴むと。
「ギャ~♪」
っと、宙を跳ぶ。
高い。
体にめっちゃ風圧。
耐える。
そして──。
「投げなさい、母里比企!」
「ギャッギャ~♪」
ブ──オッ──!
白オタマが俺を放り投げる。
うぉ、やっぱすっげ~力。
な? 言ったろ?
力は持ってるだけじゃ意味がないって。
要するに使い所よ。
「ミカ! お前の術は東方のマイナー魔法なんかじゃねぇ! 忌まわしい呪いなんかでもねぇ! お前の魔法は──」
地上にいるミカ。
不安そうに見上げている。
ハハ……そんな顔すんなって。
もう、お前を危険な目には合わせないから。
「俺みたいな単純バカに超絶効きまくる最強バフ魔術──」
だから笑えよ、ミカ。
「寿術だ!」
ガシッ!
「……は?」
リンネのしがみつくホウキに掴まった俺は。
ゴチンっ!
幼女師匠、リンネ・アンバーの頭にげんこつを落とした。
「ふぇ~ん><」
情けない声を上げるリンネ。
地上を見ると。
目の端に涙を浮かべたミカが、楽しそうに笑っていた。
ああ、そうだ。
そういう顔だ。
そういう顔でいいんだよ、ミカ。
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