こういうのでいいんだよおじさん、伝説になる ~元パーティーメンバーが俺を殺しに来るんだけど、実はこれ求婚だったってマ?~

めで汰

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おじさん、巻き込まれるの巻

第15話 武器屋ボルト、たまげる

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「はぁ……」

 今日も売上ゼロ。
 ってことでさっさと店じまい。
 どうせ誰も来やしねぇ。
 ランプを照らして遅くまで営業したところで油の無駄だ。

潮時しおどき、かねぇ……」

 呟きながらボロの看板を仕舞う。

 タッ──。

 背後に誰かの気配。

「もう店じまいだよ、調理用具の修理なら明日にしてくれ……って、お前……ケントか!?」

 俺の目に映った髪の長い男。
 ずいぶんと雰囲気が変わってはいるが……。
 見間違いようがない。
 うちが繁盛してた頃の一番のお得意様。
 その顔を忘れるほど耄碌モーロクしちゃいねぇ。

「よぅ、まさか昔馴染みが顔出したってのに閉めねぇよな?」

 微かに息が上がっている。
 走ってきた?
 ってか髪伸びすぎ。
 こいつ、カイザルにいたのか?
 今まで何してた?
 ってか、何も言わずに出ていきやがってよ~!

 色々と言葉が頭を巡る。
 が、出てきたのは。

「チッ、しゃぁねぇな……さっさと入れや。ご無沙汰だった分、たっぷりと買ってってもらうぞ?」

「ハハッ……変わんないねぇ」

 そんな言葉だった。


 ◇


「なるほどねぇ、冒険者の復興と魔物大量暴走スタンピートの阻止。んで、今日カイザルに着いていきなり騎士団の師範に就任たぁね」

「ああ」

 店の中。
 小さなテーブルに置かれたマズい茶(自慢じゃないがマジでマズい)を飲みながらケントは静かに答えた。
 
「いくらなんでも話が急すぎんだろ。で? うちに顔を出したのは親交を温めるためってわけでもなさそうだが?」

 しかもこんな時間だ。
 息まで切らせて。
 よっぽど切羽詰まったなにかがあるんだろう。

「武器がほしい」

 まぁ、うちに来るくらいだ。
 そりゃそうだよな。
 にしても。
 何をする気だか。

 俺は武器屋だ。
 人を殺すことの出来る道具を売っている。
 だからこそ。
 売る相手を見極める『目』が必要だ。
 何のために殺すのか。
 何を目的として剣を振るうのか。
 誰を守るために防具を固めるのか。
 それを見抜けないようじゃ武器を扱う資格はねぇ。
 ……と思ってる。
 おかげでウチの経営は火の車だが。

 俺の主な顧客だった『冒険者』はもうほとんど存在しない。
 いま武器を求めてるのは盗賊ばっかだ。
 時代。
 モラルは死んだ。
 人は夢を見なくなった。
 金がほしいなら奪えばいい。
 わざわざ遠くの危険なダンジョン目指して旅するよりも、近くの弱い安全な金持ちを襲ったほうが

 つまんねぇ時代。
 儲けを第一に掲げた武器屋は盗賊にも武器を売るらしい。
 そしてそいつらは防衛専門武具店を開いて、今度は金持ちに武具を売んだと。
 なんだそりゃ。
 お前らが争いを煽ってるんじゃねぇか。
 そういうのじゃねぇ。
 そういうのじゃねぇんだよなぁ……。
 武器屋ってのは冒険者を助け、引き上げ、そして理解する──そういう夢と浪漫ろまん溢れるもののはずだ。

 要するに武器ってのはよ。
 あれだよ。
 俺、そのものなんだよ。

 さぁ。
 で、目の前のケントだ。
 お前に俺を使う資格があんのか?
 時間と環境は人を変えるぜ?
 お前は変わったか?
 変わったなら……一体どう変わった?

「覚えてるか、そこの人型巻藁まきわら

 店の奥でホコリを被ってるゴツい試し斬り用の人型。
 神木ジュネビアを芯に据え、トビタ地方で採れる弾力のある特殊なわらをぐるぐるに巻いた、一際頑丈な人型巻藁まきわら
 そしてあまりにも頑丈すぎたため、冒険者のほとんど誰も刃を通すことの出来なかった──それ。

「おぉ! そういやあったな、こんなの!」

「お前……忘れてたのかよ……」

「いや、だって胴までしか斬り込めなかったし」

「はぁ!? 冒険者の中でもそこまで斬り込めたのはお前だけなんだぞ!? なんでそんな名誉なことを忘れてんだよ!」

「えぇ~? でも、これくらい頑丈な魔物が襲ってきたら俺負けてるわけだろ? あんまり覚えてたいことじゃ……」

 マジかこいつ……。
 前々からどこかズレてるとは思っていたが……。
 しかもなんだ?
 今は変に落ち着いてる分、余計にズレっぷりが目立つというか。

「まぁいい。テストだ。それに斬り込め。当時と同じだけ斬り込めたら武器を売ってやる」

「ほぅ……」

「あぁ、でももし少しでも俺が衰えてると判断したら出てってくれ。うちの武器はピーキーなもんでな。下手なやつには使ってもらいたくないんだ」

「なるほど……?」

 うっ……厳しく言いすぎたか?
 いや……でも。
 俺はもう、これ以上落ち込みたくないんだ。
 見たくないんだ、衰えたケント・リバーを。
 頼む。
 どうかケント。

(俺にもう一度、夢を見させてくれ)

 そんな淡い期待を胸に抱く。

 もし、これでケントが全然だめだったら。
 さすがに俺も現実と向き合おう。
 店を閉める。
 うん、そうだ。
 冒険者とともに夢を見た俺の道も終わり。
 そしてそれは──。

『おそらくそうなるだろうな』という予感がある。

 十年だ。
 十年だぞ?
 俺も年を取った。
 冒険者をこころざして。
 挫折し。
 それでも諦めきれずこうやって武器を売って。
 いまだに他人の夢にしがみつこうとしてる。

 ケントは今……何歳だ?
 三十半ば?
 衰えるころだ。
 衰えてるはずだ。
 でも、ケントなら……。
 あの無敵の冒険者──。
 剣鬼と呼ばれた傍若無人な伝説の冒険者なら──。

得物えものはそこに入ってるやつをなんでも使ってくれていいぞ」

 筒状の剣立ての中には、手入れの済ませた剣が数本入っている。
 どれもそこそこの業物わざもの
 つっても冒険者不在の現代においちゃ、どれもただ値段が高いだけの無用の長物。

「剣、か……」

「握ってなかったのか?」

「ああ、今日久々に柄だけ握ったよ」

 柄だけ?
 まぁ、騎士団の師範らしいからな。
 そりゃ握るくらいあるか。
 ってことは──。

(こりゃあ、期待できないか……)

 いつの間にか前のめりにつんのめってた俺の体から力が抜けて、ズルリと背もたれにもたれかかる。

 まぁ、いい。
 ケントの衰えを見れば俺だってあきらめがつく。
 あのケントがダメなんだ。
 そりゃあ俺なんかダメに決まってる──ってな。

「よし、それじゃあこれにするか」

 ガラッ──。

 ケントが無造作に得物えものを手に取る。

 え?
 今、どっから取った?
 廃品ゴミ置き場の方から取らなかったか?

「ケント、それは──」

 もう修復も出来ないくらいにボロボロの捨てるだけの廃品ゴミ──。

 ……って。

 ………………ええ?


潜るダイブ


 シュパパパパパパパパパパパッ──ンッ!


 パキッ。

「あ~~~! ごめん! 大切な商品、折っちまった!」

 申し訳無さそうに振り向くケントの後ろで。


 ズッ──!

 ドッ──ガラガラガラ……。


 な……なます…………?

「ハ……ハハッ……嘘……だ、ろ……?」

「うわっ、巻藁も壊れたぞ!? 古くなってたんじゃねぇか、これ!?」

 ケント、お前……マジでズレてんな……。
 お前がやったんだよ。
 その廃品なまくらで……。
 お前……この十年で一体どんだけの……。
 お前マジで……ハハッ……。

 こんなの……。
 見ちまうじゃねぇかよ……!
 夢を……!
 もう二度と見ることがないと思ってた──。
 冒険者の描く『夢』ってやつをよぉ……!

 ハハッ、どうやら俺。
 まだまだ武器屋……辞められねぇみてえだ。
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