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第四幕 VS大手レコード会社
ACT100
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仕事以外の時間はレッスン。
スケジュールは真っ黒。
もしこれが仕事であれば法的手段に訴えるところだ。
残念ながらレッスンは仕事ではない。
私からしてみれば、歌手デビューなどやりたくもない仕事なのである。
そのためのレッスンなのだから、それは最早仕事なのでは?
このまっとうな意見は大人たちに鼻で嗤われ、結果として私は苦痛を強いられている。
こうなったら、もう一回変装でもして仕事から逃げてみるか。
そんなことを割と本気で考え始めた頃――CDデビューの話に進展があった。
曲が完成したのだ。
マジで作ってたんだ……
今更ながら、CDデビューすることを実感させられた。
そして、スケジュールにレコード会社での試聴会が書き加えられた(それでもレッスン時間は変わらない)。
…………
……
…
今回お世話になるレーベル(レコード会社)――オデジック・レコードの住所をナビに入力した高野さんは車を発進させる。
それにしても……
「オデジックって聞いたことないんだけど、高野さん知ってる?」
「それが私も聞いたことないのよ。私もそれなりにこの業界に携わってきたから、小さなレーベルも全部は無理だけど大体は知っていると思うんだけど」
ただでさえ不安な企画だと言うのに、曲を出すレーベルにまで不安材料がある。
高野さんは謙遜な人だから「大体」なんてニュアンスを使っているだけだ。
高野さんが、「世界中のレーベルを暗唱できる」と言っても私は信じる。
それだけ、きちんと下調べをする人なのだ。
加えて今回のCDデビューは、新田結衣の芸能人生で一番の博打だ。
成功の保証もない。完全なギャンブルだ。
もちろん、そのギャンブルに勝つために血のにじむようなレッスンに耐えているわけだが。
レッスンに耐えた結果、名も知れぬレーベル(もしかしてペーパーカンパニー!?)ではCDは出せません、なんてことになったら、さすがにキレるよ?
「て言うかさ、ほんとにそんな会社あるの?」
「在るにはあるみたいよ。ナビにも住所あったし」
運転席の斜め前にはめ込まれたナビは、赤い線で私たちをオデジックへと案内してくれていた。
どうやら私の心配は杞憂だったようだ……って訳にはいかない。
実在していたところで、無名な事に変わりはない。
本当にCDを出すことが出来るのか、不安は尽きない。
オデジックの住所は思いのほか都心だった。
こんな都心に事務所を構えてあれば嫌でも名前くらい耳にしそうなものだが、どれだけ脳内検索をかけても該当するものはなかった。
そして無事に到着……って、なんじゃこりゃ!?
高層ビルと高層ビルとの間にひっそり……というよりも忘れ去られたみたいに中層ビルが一棟。
「ねぇ、高野さん。右の高いビルがオデジック?」
「違うわ。その隣」
「それじゃあ、左の高いビルが」
「結衣。現実を見なさい。視線を下げないと、いつまでたってもオデジックは見えないわよ」
私は恐る恐る視線を下げる。
だぁッ――
見てしまった。
もう現実逃避のしようがない。
すると、目の前を真希が横切った。
中層ビルを完全に無視して隣の高層ビルへと向かっている。
「結衣の現実逃避もひどいけど、あの娘のはもっとひどいわね」
憐れむような瞳で高野さんは言った。
私もこんな目で見られてたのかしら?
そう思うと何だか急に恥ずかしくなった。
仕方がないので現実を直視。
二棟の高層ビルにはさまれ、全く太陽の恩恵を受けることのできない中層ビルに向かって歩みを進める。
中層ビルの罅の入ったガラス張りの扉を開けて中に入ると、後ろで、「真希!? そっちじゃないから! こっちこっち」と高層ビルへ向かった真希を呼び止めるマネージャーの声が聞こえた。
真希のマネージャーは大変だ。
それに引き替え高野さんは私のマネージャーで良かったね。
「なに? どうかした?」
「ううん。なんでもない」
首を振って、答える。
ガラス扉越しに、
「ほんとにこんなボロ会社で大丈夫なの?」
オブラートに包まれていない真希の本音が聞こえてきた。
スケジュールは真っ黒。
もしこれが仕事であれば法的手段に訴えるところだ。
残念ながらレッスンは仕事ではない。
私からしてみれば、歌手デビューなどやりたくもない仕事なのである。
そのためのレッスンなのだから、それは最早仕事なのでは?
このまっとうな意見は大人たちに鼻で嗤われ、結果として私は苦痛を強いられている。
こうなったら、もう一回変装でもして仕事から逃げてみるか。
そんなことを割と本気で考え始めた頃――CDデビューの話に進展があった。
曲が完成したのだ。
マジで作ってたんだ……
今更ながら、CDデビューすることを実感させられた。
そして、スケジュールにレコード会社での試聴会が書き加えられた(それでもレッスン時間は変わらない)。
…………
……
…
今回お世話になるレーベル(レコード会社)――オデジック・レコードの住所をナビに入力した高野さんは車を発進させる。
それにしても……
「オデジックって聞いたことないんだけど、高野さん知ってる?」
「それが私も聞いたことないのよ。私もそれなりにこの業界に携わってきたから、小さなレーベルも全部は無理だけど大体は知っていると思うんだけど」
ただでさえ不安な企画だと言うのに、曲を出すレーベルにまで不安材料がある。
高野さんは謙遜な人だから「大体」なんてニュアンスを使っているだけだ。
高野さんが、「世界中のレーベルを暗唱できる」と言っても私は信じる。
それだけ、きちんと下調べをする人なのだ。
加えて今回のCDデビューは、新田結衣の芸能人生で一番の博打だ。
成功の保証もない。完全なギャンブルだ。
もちろん、そのギャンブルに勝つために血のにじむようなレッスンに耐えているわけだが。
レッスンに耐えた結果、名も知れぬレーベル(もしかしてペーパーカンパニー!?)ではCDは出せません、なんてことになったら、さすがにキレるよ?
「て言うかさ、ほんとにそんな会社あるの?」
「在るにはあるみたいよ。ナビにも住所あったし」
運転席の斜め前にはめ込まれたナビは、赤い線で私たちをオデジックへと案内してくれていた。
どうやら私の心配は杞憂だったようだ……って訳にはいかない。
実在していたところで、無名な事に変わりはない。
本当にCDを出すことが出来るのか、不安は尽きない。
オデジックの住所は思いのほか都心だった。
こんな都心に事務所を構えてあれば嫌でも名前くらい耳にしそうなものだが、どれだけ脳内検索をかけても該当するものはなかった。
そして無事に到着……って、なんじゃこりゃ!?
高層ビルと高層ビルとの間にひっそり……というよりも忘れ去られたみたいに中層ビルが一棟。
「ねぇ、高野さん。右の高いビルがオデジック?」
「違うわ。その隣」
「それじゃあ、左の高いビルが」
「結衣。現実を見なさい。視線を下げないと、いつまでたってもオデジックは見えないわよ」
私は恐る恐る視線を下げる。
だぁッ――
見てしまった。
もう現実逃避のしようがない。
すると、目の前を真希が横切った。
中層ビルを完全に無視して隣の高層ビルへと向かっている。
「結衣の現実逃避もひどいけど、あの娘のはもっとひどいわね」
憐れむような瞳で高野さんは言った。
私もこんな目で見られてたのかしら?
そう思うと何だか急に恥ずかしくなった。
仕方がないので現実を直視。
二棟の高層ビルにはさまれ、全く太陽の恩恵を受けることのできない中層ビルに向かって歩みを進める。
中層ビルの罅の入ったガラス張りの扉を開けて中に入ると、後ろで、「真希!? そっちじゃないから! こっちこっち」と高層ビルへ向かった真希を呼び止めるマネージャーの声が聞こえた。
真希のマネージャーは大変だ。
それに引き替え高野さんは私のマネージャーで良かったね。
「なに? どうかした?」
「ううん。なんでもない」
首を振って、答える。
ガラス扉越しに、
「ほんとにこんなボロ会社で大丈夫なの?」
オブラートに包まれていない真希の本音が聞こえてきた。
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