転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

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第四幕 VS大手レコード会社

ACT99

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 MIKAの突飛押しもない発言から端を発した新企画。
 その名も『デッドorアライヴ ~目指せ紅白歌唱合戦!?出場できなきゃ即引退!?~』

 思い出しただけでも怒りが沸々と湧いてくる。
 紅白出場? 何言ってんだ。
 行きたいと思って行けるところじゃないだろ!?

 どれだけの歌手たちが目指し、それでも立つことかできない特別なステージなのだ。
 私たち女優の立場から言わせてもらえば、ハリウッドのレッドカーペットと言ったところだろうか。
 そんな風に考えてみると、とんでもなく無茶苦茶な企画だという事が分かる。

 一年近い期間を要する長期企画となる。
 それはつまり、企画の期間中は降板させられないと言う事。
 それと同時に、企画の失敗は重い。下手をすればクビという事だってあり得る。

 何しろ莫大な予算がつぎ込まれるのだから。
 昨今、お金がないテレビ局にしては思い切った事をする。
 きっとこの企画の所為で、深夜番組だったりの製作費が削られるだろう。

 けど、そんな事知ったこっちゃない。
 こっちはそれどころではないのだ。

「もっと腹の底から声出して! 上っ面なぞったような歌じゃ売れないぞ」

 企画発足から、連日連夜の猛特訓。
 トレーナー付きっきりのしごき。
 労働基準法はどうなっている? 法は機能しているのか?
 辛すぎる。これだから芸能界は……。

 完全なブラック体質。
 いつになったらなくなるのかしら? この体質。

 なんて事を考えていると、

「なにぼさっとしてんだ! のろまッ! 歌も踊りも素人に毛が生えた程度……も無いな、そんな奴が休憩なんてしている暇あんのか」

 言葉の暴力――パワハラだ。
 瑞樹のお父さんに言って訴えてやろか!(「お前も蝋人形にしてやろうか」by閣下風)

 膝に手をつき、浅い呼吸を繰り返す私。
 すぐ隣では、真希が大口開けて酸素を必死に肺に取り込んでいる。

「ハァハァ……な、なんで……私が、こんな事、しなくちゃなんないのよ!?」

 怒りをあらわにする。

 真希は口に出しちゃうからダメなのよね。
 案の定、数秒後には、

「だったらやめるか? 二流女優」

 安い挑発をトレーナーは繰り出す。
 冷静に考えれば、黙って従うのが得策。
 なのだけれど……真希の性格からして黙っている、なんてこと出来る筈もない。

「ちょっと、アンタなによその口の利き方!? 社会的に殺すわよ」

 真希の場合ちっとも冗談に聞こえない。多分本人も冗談で言っているわけではないだろう。

 それにしても、やっぱりプロって違うのね。
 一緒に練習という名のしごきを受けているMIKAとHIKARUは、爽やかな汗を流している。

 動きの一つ一つが洗練されていて、とても美しい。思わず見惚れてしまう程に。
 私も二人の動きを真似してみるものの上手くいかない。
 挙句の果てには、「下手くそがプロの動きについて行けるわけがないだろ」とド正論を突き付けられる。

 そして厳しいトレーニングが終わる。
 トレーニングの翌日は全身筋肉痛。
 他の仕事にも差し支える。
 だから私は苦渋の決断をする。

「高野さん。家帰ったらマッサージして」

「別にいいけど、それこそプロの方がいいんじゃない?」

「知らない人に見られたくない」

 少し考える素振りを見せて、

「確かに、身体揉んだら毎回号泣してるもんね」

「してないから!」

「他人に見られるのが恥ずかしいだけでしょ? 子どもなんだから」

「もう19です」

「まだ19です」

 そんなやり取りをしているうちに車は言え家に到着。
 私は、これから待ち受ける地獄の苦しみに思いを馳せ、身を震わせた。

 腕まくりをする高野さんは、どこか楽しげであった。
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