転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
97 / 111
間幕Ⅱ MIKA

ACT96

しおりを挟む
**1**

 最終審査を終えた面接官たちは一同に会し、受験者の合否について話し合っていた。
 面接官の一人――クイーンレコード社長、相良圭介さがらけいすけは上機嫌だった。

「社長、いかがなさいました?」

 普段笑うことの無い人間が笑っていると不気味らしく、尋ねた声は僅かだが震えているようだった。
 相良は部下に尊大な態度でもって答える。

「この娘は金になる」

 そう言って一枚の写真を指で示す。
 写真には小奇麗な印象の少女が映っていた。
 顔の印象だけでは他の受験者に埋もれてしまうその顔を、面接官の皆が覚えていた。インパクトという事だけで言えば一番だった少女――母の危篤よりも自分の夢を選んだ少女の涙は忘れようがなかった。

「確かにやる気は感じましたが……」

 それだけではやっていけないのが芸能界だ。そう進言しようとした部下を相良は制した。
 ニタァと背筋が凍るような笑みを浮かべて、

「やる気なんてモンは当てになんねぇんだよ。そのさらに上の……そうだな、執念が金になるんだよ。なにを失ってでも芸能界で成功するんだっていう執念――可愛いとか綺麗だとか整形でどうにでも出来る要素以上のモノが大切なんだろうが!」

 わかってんのか!? と舌打ちすると、相良は再び写真に目を落として笑った。


**2**


 合格の電話に出た彼女の声に覇気はなく、本当にアイドルになる娘なのだろうかと不安に駆られた。社長の相良は「問題ない」と断言していたが……

「今回のオーデションの結果ですが、合格通知書でもお知らせいたしましたように三島加奈さんは合格いたしました。つきましては契約等のお話をしたいのですが……」

「そちらの都合に合わせます」

 約束を取り付け電話を切った。
 本来であれば最終審査日当日に合否を発表していたはずなのに……
 最終オーディション当日。
 三島加奈以外にもイレギュラーがもう一人いたために合格発表を後日に延期したのだった。


**3**


【最終審査から一時間後】


「それでは合格者はこちらの二名という事で」

「「異議なし」」

 満場一致で合格者が決定した。
 同じ養成所からの推薦組二人が見事に合格を勝ち取った。
 しかしこれは……

「出来レースぽくないですかね?」

 一人の面接官が――合格者のプロデューサー(予定)がぽつりと呟く。
 逡巡するもクイーンレコード社長の相良は、

「今回はあの二人しかいないだろ?」

「そうですね……」

 相良が「二人しかいない!」と断言しなかったのは最終審査(面接)の出来が全体的に悪いことに起因していた。
 三島加奈の一件があった後、それ以降の受験者がまともに喋れない。まあ、かなり異質なものを目の前で見た直後なのだから動揺するのは分かるのだが……それでも平静を装う必要があるのは言うまでもない。
 掘り出し物を見つけたはいいが、それ以外がイマイチ。そんな印象なのだろう。
 相良は仕方なく三島加奈ともう一人を選出したという形なのだ。

「しかし社長。取り敢えずで合格者を決定するのはいかがなものかと……」

「いいんだよ。実力はあるんだし、グループ内で人気が一番ないって言う確固たるポジションもできる訳だし、もしかしたらまかり間違って売れてくれるかもしれんだろ?」

 ブスなアイドル
 歌が下手なアイドル
 といった具合に◯◯なアイドルという何か――特徴があると売りやすい。
 それはポジティブなものでもネガティブなものでも構わない。一番人気がない。「一番」というのが大切なのだ。
 少し可哀想にも思うが、売れることが出来るのだから多少の我慢はしてもらう必要があるだろう。


「サガラ社長ですよね?」

 その声に一同足を止めた。
 そして視線を下へと下ろした。
 皆が抱いた感想は同じだった。

(小さい!?)

 なんで小学生がこんなところに?
 一体誰のお子さんだろう?
 などと思考を巡らせていると、

「ワタシを売ってください!」

 売る? ま、まさか……――ばいしゅn――

「面白い!!」

 相良は笑う。
 その瞳は爛々と輝いている。
 
「もちろんタダということはないよな?」

「タダ?……あぁ、무료! OKね! ワタシの持つすべてあげるヨ」

「コイツと話をする。少し待ってろ」

 それから二人は皆から少し離れた場所へ行くと小声で何事かを話し始めた。
 何かを確認しているようで、少女が相良の言葉に頷いている。
 最後に相良の口がOKと動いたのは見間違いではないだろう。
 満足気に笑みを浮かべた相良は、案の定無茶苦茶な事を言いだした。

「合格者は三島加奈と渡邊ひかるで決定だ!!」

 決定事項だと相良の目は言っている。
 皆呆れ顔で頭を抱えていた。
 相良と共に笑う渡邊ひかるという少女の中に、相良と同質の何か(あまり良くはないモノ)を皆がそれぞれ感じ取っていた――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...