転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
96 / 111
間幕Ⅱ MIKA

ACT95

しおりを挟む
 妹――美波が私の事を嫌っている理由は知っている。
 美波は全て知っているのだ。私が母の財布からお金を抜き取っていることを。
 そして、母がそれを承知でお金を切らさないようにしていることを。
 美波は優しい子だ。だから私のやっていることを許すことが出来ないのだ。
 母を苦しめる私を。それでも拒絶することが出来ないから冷たい態度を取る事しかできない。

 本当に嫌いで、拒絶するのであれば私を無視すればいい、空気として扱えばいい。でもそれが出来ない優しい子。
 恨まれてもいい。
 私は皆を護る。その為だけにスターになる。
 いつか和解できればいい。もし和解できなかったとしても、私と違って好きな事を好きなように楽しめばいい。私は弟妹たちに可能性を見せてあげるのだ。お金があればその分だけ可能性は広がる。夢を持つ資格が与えられるのだ。
 きっと妹は理解してくれないだろう。
 それでもいい。そう思えた。
 もう少しでスターへの足掛かりができる。
 今回のチャンスは逃さない。だ――。
 
 早朝。霜が降りる冷え冷えとした中、は出支度をする。
 都内のスクールに通うには電車を乗り継いで一時間以上かかる。私は狭い部屋に敷き詰められた弟妹の布団の間を縫うようにして歩く。途中、か妹かは分からないが二度三度踏みつけた。
 こちらも何度となく寝相の悪い弟妹たちに足を――主に脛を蹴られたのだからおあいこだろう。
 誰も見送りには来てくれない。
 背中に感じる視線に気づかないふりをして家を出る。
 玄関のドアが閉まって一歩二歩と足を運ぶと、ガチャリと施錠する音が聞こえた。続いてドアチェーンを滑らせる音がした。
 白い息を吐きながら私は駆け足で家から離れた。

 

 スクールのレッスンは日に日にその激しさを増した。
 二次審査、三次審査と勝ち進むだけ先生の指導にも熱が入った。
 血反吐を吐く思いをした。昼夜どちらなのか分からなくなるほどに追い込まれた。時間感覚は狂い、丸一日食事を抜いていることにすら気づかないなんてことはざらにあった。
 瞬く間に時間は過ぎて、最終審査を迎えた。
 
 最終審査まで勝ち残った者は皆、誰もが即デビューできる容姿・能力があった。
 合否を決めるのは容姿や能力以外の。他とは違うが必要なのだ。
 スターには一般人とは違う存在感――オーラがある。
 そのオーラを作りだすものを持っている者が合格するのだ。
 今まで散々、歌唱力やダンス・演技と審査をしてきて、最後にスター候補たちは面接という手段を用いて実力以外のを見極められる。
 エントリー番号、名前、年齢、出身地。そして20秒以内での自己PR。正味30秒程ですべてが決する。
 それぞれの持ち時間が終わると、面接官を務めるお偉方がそれぞれ質問する。
 30秒で目に留まらなければ、質問されることなくライバルたちが合格――スターへの道を一段、また一段と上ってゆくのを指をくわえて見る他なくなる。
 それが分かっているからこそ私たちは、自分の名前すら反芻して運命の時を待っていた。
 
「それでは皆様。最終審査会場へご案内いたします」

 女性スタッフの声掛けに皆過敏に反応を示す。
 覚悟を決めた者から立ち上がり、女性スタッフについて歩く。
 仰々しい扉には「最終審査会場」と張り紙がされてある。
 扉が開かれると同時に私たちの目に面接官の姿が飛び込む。
 皆一様に唾を飲み込み小さく息を吐いてから入室した。
 エントリー番号順に座らされる。
 私の順番まであと二人……あと一人……ついに順番が回ってきた。
 
「それでは次の方」

 視線を手元の書類から上げることなく手で「どうぞ」と指図する。
 私は「はい」と返事をして立ち上がるとエントリー番号、名前、年齢、出身地とつつがなく言い終え、20秒の自己PRに入る。
 すると、先程案内をしてくれた女性スタッフ血相を変えて入室してきた。

「三島加奈さん! 三島加奈さんはどちらですか!?」

 私は小さく手を上げて、

「私が三島です」と答えた。

「今連絡があって、貴女のお母様が危篤だそうよ」

 私は彼女の言っている意味が解らなかった。
 
「タクシーは呼んであるから」

 女性スタッフの呼びかけに答えることが出来ない。
 面接官の一人が、

「君! 急いで病院へ――」

 私は言葉を遮って、

「大丈夫です。続けます」

 面接官たちの間にどよめきが起こった。
 しかし、と口を挿もうとした面接官に向かって再度「大丈夫です」と言い切った。
 頬を伝う涙が薄く笑みを浮かべた口へと流れ込んだ。
 しょっぱい、と味覚で感じて、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
 それでも私は笑みを浮かべたまま自己PRをした――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

愛の裏では、屠所之羊の声がする。

清水雑音
キャラ文芸
父の仕事の都合で引っ越すことになった神酒 秋真(みき しゅうま)は、町で起こっていく殺人事件に怯えながらも一人の女性を愛す。 しかしその女性の恋愛対象は骨にしかなく、それでも彼女に尽くしていく。 非道徳的(インモラル)で美しい、行き交う二人の愛の裏……

こちら、あやかし移住就職サービスです。ー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋ー

まえばる蒔乃
キャラ文芸
転職活動中のOL菊井楓は、何かと浮きやすい自分がコンプレックス。 いつも『普通』になりたいと願い続けていた。ある日、もふもふの耳と尻尾が映えたどう見ても『普通』じゃない美形お狐様社長・篠崎に声をかけられる。 「だだもれ霊力で無防備でいったい何者だ、あんた。露出狂か?」 「露出狂って!? わ、私は『普通』の転職希望のOLです!」 「転職中なら俺のところに来い。だだもれ霊力も『処置』してやるし、仕事もやるから。ほら」 「うっ、私には勿体無いほどの好条件…ッ」 霊力『処置』とは、キスで霊力を吸い上げる関係を結ぶこと。 ファーストキスも知らない楓は篠崎との契約関係に翻弄されながら、『あやかし移住転職サービス』ーー人の世で働きたい、居場所が欲しい『あやかし』に居場所を与える会社での業務に奔走していく。 さまざまなあやかしの生き方と触れ、自分なりの『普通』を見つけていく楓。 そして篠崎との『キス』の契約関係も、少しずつ互いに変化が…… ※ 土地勘や歴史知識ゼロでも大丈夫です。 ※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

トランスファは何個前? Watch your step.

梅室しば
キャラ文芸
熊野史岐が見つけた湖畔のカフェ「喫茶ウェスタ」には美しい彗星の絵が飾られていた。後日、佐倉川利玖とともに店を訪れた史岐は、店主の千堂峰一に「明日なら彗星の実物が見られる」と告げられる。彗星接近のニュースなど見当たらない中、半信半疑で店を再訪した二人は、曇り空にもかかわらず天窓に映った巨大な彗星を目の当たりにする──。 ※本作は「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。

まりぃべる
恋愛
シェスティン=オールストレームは、双子の妹。 フレドリカは双子の姉で気が強く、何かあれば妹に自分の嫌な事を上手いこと言って押し付けていた。 家は伯爵家でそれなりに資産はあるのだが、フレドリカの急な発言によりシェスティンは学校に通えなかった。シェスティンは優秀だから、という理由だ。 卒業間近の頃、フレドリカは苦手な授業を自分の代わりに出席して欲しいとシェスティンへと言い出した。 代わりに授業に出るなんてバレたりしないのか不安ではあったが、貴族の友人がいなかったシェスティンにとって楽しい時間となっていく。 そんなシェスティンのお話。 ☆全29話です。書き上げてありますので、随時更新していきます。時間はばらばらかもしれません。 ☆現実世界にも似たような名前、地域、名称などがありますが全く関係がありません。 ☆まりぃべるの独特な世界観です。それでも、楽しんでいただけると嬉しいです。 ☆現実世界では馴染みの無い言葉を、何となくのニュアンスで作ってある場合もありますが、まりぃべるの世界観として読んでいただけると幸いです。

あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴
キャラ文芸
調理の専門学校を卒業した桃瀬菜々美は、料理しか取り柄のない、平凡で地味な21歳。 生まれる前に父を亡くし、保育士をしながらシングルで子育てをしてきた母と、東京でモデルをしている美しい妹がいる。 『甘味処夕さり』の面接を受けた菜々美は、和菓子の腕を美麗な店長の咲人に認められ、無事に採用になったのだが――。 結界に包まれた『甘味処夕さり』は、人界で暮らすあやかしたちの憩いの甘味堂で、和菓子を食べにくるあやかしたちの婚活サービスも引き受けているという。 戸惑いながらも菜々美は、『甘味処夕さり』に集まるあやかしたちと共に、前向きに彼らの恋愛相談と向き合っていくが……?

【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー

春待ち木陰
キャラ文芸
全33話。10万文字。自分の意志とは無関係かつ突発的に「数分から数時間、下手をすれば数日単位で世界が巻き戻る」という怪奇現象を幼い頃から繰り返し経験しているせいで「何をしたってどうせまた巻き戻る」と無気力な性格に育ってしまった真田大輔は高校二年生となって、周囲の人間からの評判がすこぶる良い長崎知世と同じクラスになる。ひょんな事からこの長崎知世が「リセット」と称して世界を巻き戻していた張本人だと知った大輔は、知世にそれをやめるよう詰め寄るがそのとき、また別の大事件が発生してしまう。大輔と知世は協力してその大事件を解決しようと奔走する。

VTuberなんだけど百合営業することになった。

kattern
キャラ文芸
【あらすじ】  VTuber『川崎ばにら』は人気絶頂の配信者。  そんな彼女は金盾配信(登録者数100万人記念)で、まさかの凸待ち事故を起こしてしまう。  15分以上誰もやって来ないお通夜配信。  頼りになる先輩は炎上やらかして謹慎中。  同期は企業案件で駆けつけられない。  後悔と共に配信を閉じようとしていたばにら。  しかし、その時ついにDiscordに着信が入る。  はたして彼女のピンチに駆けつけたのは――。 「こんバニこんバニ~♪ DStars三期生の、『川崎ばにら』バニ~♪」 「ちょっ、人の挨拶パクらんでもろて!」 「でゅははは! どうも、DStars特待生でばにらちゃんの先輩の『青葉ずんだ』だよ!」  基本コラボNG&VTuber屈指の『圧』の使い手。  事務所で一番怖い先輩VTuber――『青葉ずんだ』だった。  配信事故からの奇跡のコラボが話題を呼び、同接は伸びまくりの、再生数は回りまくりの、スパチャは舞いまくり。  気が付けば大成功のうちに『川崎ばにら』は金盾配信を終えた。  はずだったのだが――。 「青葉ずんだ、川崎ばにら。君たちにはこれからしばらくふたりで活動してもらう。つまり――『百合営業』をして欲しい」  翌日、社長室に呼ばれた二人は急遽百合営業を命じられるのだった。  はたしてちぐはぐな二人の「百合営業」はうまくいくのか? 【登場人物】 川崎ばにら : 主人公。三期生。トップVTuber。ゲーム配信が得意。コミュ障気味。 青葉ずんだ : ヒロイン。特待生。和ロリほんわか娘のガワで中身は「氷の女王」。 網走ゆき  : 零期生。主人公&ヒロイン共通の友人。よく炎上する。 生駒すず  : 一期生。現役JKの実力派VTuber。 羽曳野あひる: 二期生。行動力の化身。ツッコミが得意。 秋田ぽめら : 特待生。グループのママ。既婚者。 津軽りんご : 特待生。ヒロインの親友。現在長期休業中。 八丈島うみ : 三期生。コミュ力お化けなセンシティブお姉たん。 出雲うさぎ : 三期生。現役女子大生の妹系キャラ。 石清水しのぎ: 三期生。あまあまふわふわお姉さん。どんとこい太郎。 五十鈴えるふ: 三期生。真面目で三期生の調整役。癒し枠。

処理中です...