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間幕Ⅱ MIKA
ACT94
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「ただいま~」
約ひと月ぶりの家族団らん……のはずだった。
部屋には誰もいなかった。
「美波ぃ~、翔太ぁ~、馨、美咲……」
あと六人も名前呼ぶのめんどくさいな……。
「弟か妹はいないのか~?」
………………返答はない。どうやら居ないらしい。
一番下の弟妹はまだ一歳に満たない赤ん坊である。一番上の弟妹ですらまだ小学生だ。もう中学生になっていたかな? 私が中学二年生になっているから、美波と翔太の双子は中学生になっているはずだ。「お姉ちゃんと同じ中学に入る!」だなんてはしゃいでいた妹。同じ学区なのだから中学受験でもしない限り別の中学に通うという選択肢は生まれない。
そんな妹に「待ってるね」何て返したのが遠い昔に感じられる。
実際には一年と少し前の話だというのに。
「ただいま~……お姉ちゃん……帰ってたんだ」
「悪い?」
「別に」
「あら、美波? どうしたの? あら! 加奈ちゃんじゃない! お帰りなさい!!」
眉をしかめる妹越しに母が笑顔を覗かせる。
私はただいまと言って手を振った。
母は元気そうでよかった、と満面の笑みを浮かべて矢継ぎ早に家族の事を話す。
その間も次女の美波は玄関と台所を行ったり来たりしている。
「姉さん久し振りだね」
美波とは違い長男の翔太は昔と変わらぬ笑みを向けてくれる。
昔と言っても一年前の話なのだけれども……。
「翔太、邪魔」
「あ、ごめん」
美波はご機嫌斜めのようだ。翔太への当たりがキツイ。
「お姉ちゃんも邪魔。ほんと何しに帰ってきたの?」
美波との間にはいつしか深い溝が生まれてしまってるようだ。
下の弟妹たちは相変わらず私に甘えてくれる。
普段、陰険な世界に身を置いている私にとって弟妹たちは癒しだった。
可愛げこそ無くなったが、美波も私から見れば可愛い妹でしかない。
いつの間にか三島家の台所には美波が立つようになっていた。
少し母に似て来たかも? などと思っていると食器を出すくらいの事はしろ、と怒られた。
家族で食卓を囲む。
食事の間も美波の顔は険しいままで、母に窘められていた。
母は執拗に私の近況を尋ねた。
私は新人発掘オーディションの事を話した。
一次選考を突破したこと。二次も問題なく通過するであろうこと。もちろん裏工作などについては伏せて。
「お金とかいるんじゃなの?」
母の口からお金の話を聞くと心臓が激しく鳴り始める。
私にだって罪悪感はあるのだ。
少なからずお金はいるだろう。だからと言って入用だと母に言えるものか。
だから私は「大丈夫」とだけ返す。
母は小さく笑って「そう? でも、必要な時には言いなさいね」と私の応援をしてくれる。
やっぱり私が家族を守らなくては。強く思った。
お金を稼ぐためにはスターになるのが近道だ。
他人からどう見られようと構わない。私が家族を守るんだ。
食事が終わり、大量の洗い物を前に、私はため息をついていた。
「美波も毎日大変ね」
「そうね。私も夜にお仕事あるし、頼っちゃってるわね」
私は母と二人洗い物をしていた。
いつもはあら芋をしているのは次女の美波なのだが、たまには代わると言って母と二人で話す機会を作った。
「お母さん。無理してない?」
「無理? してないわよ」
「でも少し痩せたんじゃない。お母さんただでさえ細いんだから食べなきゃダメよ」
「そうね。気を付けるわ」
朗らかに笑う母の身体は確実に一回り小さくなっていた。
無理をしていることは明らかだった。
それでも仕事の量を減らせとは言えなかった。
私のスクールの月謝の為に母は働いてくれているのだから。
私が今のスクールに入ってから母は財布の中に常に五万円を入れていた。私がいつ財布からお金を抜き取ってもいいように。
わたしも初めの内はばれないようにと思っていたが、数万円が一日で財布から消えてなくなるのだ、気付かないなんてことはありえない。三島家にとっては樋口さんですら大金なのだ(この言い方は樋口さんにも野口さんにも失礼に当たる)。
「すぐに返すから」
「ん?」
首を傾げる母。
嘘のつけない人だ。
目が右へ左へと泳いでいる。
「私が皆を護るから」
母に宣言したこの瞬間から、この言葉は私の中で、決意から確定事項へと変わった――
約ひと月ぶりの家族団らん……のはずだった。
部屋には誰もいなかった。
「美波ぃ~、翔太ぁ~、馨、美咲……」
あと六人も名前呼ぶのめんどくさいな……。
「弟か妹はいないのか~?」
………………返答はない。どうやら居ないらしい。
一番下の弟妹はまだ一歳に満たない赤ん坊である。一番上の弟妹ですらまだ小学生だ。もう中学生になっていたかな? 私が中学二年生になっているから、美波と翔太の双子は中学生になっているはずだ。「お姉ちゃんと同じ中学に入る!」だなんてはしゃいでいた妹。同じ学区なのだから中学受験でもしない限り別の中学に通うという選択肢は生まれない。
そんな妹に「待ってるね」何て返したのが遠い昔に感じられる。
実際には一年と少し前の話だというのに。
「ただいま~……お姉ちゃん……帰ってたんだ」
「悪い?」
「別に」
「あら、美波? どうしたの? あら! 加奈ちゃんじゃない! お帰りなさい!!」
眉をしかめる妹越しに母が笑顔を覗かせる。
私はただいまと言って手を振った。
母は元気そうでよかった、と満面の笑みを浮かべて矢継ぎ早に家族の事を話す。
その間も次女の美波は玄関と台所を行ったり来たりしている。
「姉さん久し振りだね」
美波とは違い長男の翔太は昔と変わらぬ笑みを向けてくれる。
昔と言っても一年前の話なのだけれども……。
「翔太、邪魔」
「あ、ごめん」
美波はご機嫌斜めのようだ。翔太への当たりがキツイ。
「お姉ちゃんも邪魔。ほんと何しに帰ってきたの?」
美波との間にはいつしか深い溝が生まれてしまってるようだ。
下の弟妹たちは相変わらず私に甘えてくれる。
普段、陰険な世界に身を置いている私にとって弟妹たちは癒しだった。
可愛げこそ無くなったが、美波も私から見れば可愛い妹でしかない。
いつの間にか三島家の台所には美波が立つようになっていた。
少し母に似て来たかも? などと思っていると食器を出すくらいの事はしろ、と怒られた。
家族で食卓を囲む。
食事の間も美波の顔は険しいままで、母に窘められていた。
母は執拗に私の近況を尋ねた。
私は新人発掘オーディションの事を話した。
一次選考を突破したこと。二次も問題なく通過するであろうこと。もちろん裏工作などについては伏せて。
「お金とかいるんじゃなの?」
母の口からお金の話を聞くと心臓が激しく鳴り始める。
私にだって罪悪感はあるのだ。
少なからずお金はいるだろう。だからと言って入用だと母に言えるものか。
だから私は「大丈夫」とだけ返す。
母は小さく笑って「そう? でも、必要な時には言いなさいね」と私の応援をしてくれる。
やっぱり私が家族を守らなくては。強く思った。
お金を稼ぐためにはスターになるのが近道だ。
他人からどう見られようと構わない。私が家族を守るんだ。
食事が終わり、大量の洗い物を前に、私はため息をついていた。
「美波も毎日大変ね」
「そうね。私も夜にお仕事あるし、頼っちゃってるわね」
私は母と二人洗い物をしていた。
いつもはあら芋をしているのは次女の美波なのだが、たまには代わると言って母と二人で話す機会を作った。
「お母さん。無理してない?」
「無理? してないわよ」
「でも少し痩せたんじゃない。お母さんただでさえ細いんだから食べなきゃダメよ」
「そうね。気を付けるわ」
朗らかに笑う母の身体は確実に一回り小さくなっていた。
無理をしていることは明らかだった。
それでも仕事の量を減らせとは言えなかった。
私のスクールの月謝の為に母は働いてくれているのだから。
私が今のスクールに入ってから母は財布の中に常に五万円を入れていた。私がいつ財布からお金を抜き取ってもいいように。
わたしも初めの内はばれないようにと思っていたが、数万円が一日で財布から消えてなくなるのだ、気付かないなんてことはありえない。三島家にとっては樋口さんですら大金なのだ(この言い方は樋口さんにも野口さんにも失礼に当たる)。
「すぐに返すから」
「ん?」
首を傾げる母。
嘘のつけない人だ。
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「私が皆を護るから」
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