86 / 111
第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー
ACT85
しおりを挟む
真希とMIKAの口論は激しさを増し、第6倉庫には怒号が飛び交っていた。
相手を罵る言葉がいちいち胸に突き刺さる。
だって2人の口論のうち半分(MIKAの言葉)は私に浴びせられているものなのだから。
いつもはヒステリックになりがちな真希が、冷静にMIKAの反論をいなしている。
そんな様子に多少の違和感を抱きながら、私は当事者でありながらどこか2人とは距離をおいていた。
「アナタは腹黒いのが分かっていたから排除したかったんだけど……まさか、仲の悪い結衣さんと手を結ぶとは、計算違いだったわ」
私も人を見る目がないわね、とMIKAが冷笑を浮かべる。
目の奥が笑っていない。
その異様な瞳に恐怖すら覚える。
「見なさいよ結衣。これがこの子の本性よ。私なんて足下にも及ばない悪女だわ。
私がしたことと言えば、アンタのリーク記事を書かせたことくらいだからね」
さらっととんでもない事を言いやがった!?
場の空気的にツッコめなかったが、私は怒ってもいいはずだ。
このまま黙って聞いていたら私の中の何かが噴き出しそうなので、2人から物理的に距離を取ることにした。
大きく横に動こうとしたところで、真希に腕を掴まれた。
「そっちはダメ。アンタの立ち位置はコッチ」
そう言って強引に引き寄せられた。
立ち位置???
真希は一体何を言っているんだ? 乱発する疑問符に思わず呻く。
眉をしかめる私に構うことなく真希は話を続ける。
「で? 結局、MIKAちゃんはどうするつもりなのかな? これまでの事、週刊誌にでもリークしたらいいのかな?」
すぐに人を陥れようとするあたり流石《さすが》と言わざるを得ない。
止めさせようとするのではなく弱みを握ろうとするあたり真希は私以上にたくましい。
「どうしたんですか? 先輩。いつもはMIKAちゃんなんて呼んでくれないのに」
「そんなことないわよ」
しらばっくれるのも上手いなぁ。流石は女優と言っておく。
悪女役をやれば日本アカデミー賞主演女優賞の獲得も難しくないだろうに。
本人は悪役のオファーを断っているというのだから仕事を選び過ぎだ。
仕事を選んだりさえしなければ私よりもワンランク上の女優になれそうなものだけど。
「結衣。アンタ、今変な事考えてるでしょ」
エスパーか! 心の中でツッコミを入れると私はあいまいな微笑を返した。
私って演技力ないのかも……ちょっと自信なくした。
軽く凹凹んだところで私も発言する。
「何でこんなことしたの?」
「なんで?」
眼光鋭く睨み付けられ思わず後退りする。
「週刊誌に情報をリークするなんて、真希みたいになっちゃうじゃない」
「アンタ私を敵に回したいならハッキリそう言いなさいよ」
「別にそんなつもりじゃ……」
私の中で綾瀬真希はイコールで悪女だからね。
そんなイメージを私に植え付けたのは真希自身なのだけど。
「まあ、いいけどね」
いいんかい!
「だって、欲しいんだもん」
MIKAの呟きに私と真希はえっ? と耳を向ける。
「私はあなた達と違って全てを犠牲にしてきた。何も失ってこなかった温室育ちのお嬢様なんかに負けられないの」
強い語気の中に確かな意思を感じた。
彼女を駆り立てるものが一体何なのか、私には分からない。
きっと他人では立ち入ることの出来ない事情があるのかもしれない。
でもそれとこれとは、まったくの別問題だ。
だから私と真希は彼女を断罪する。
それでも彼女が謝罪の言葉を口にすることはなかった。
それはきっと彼女のプライドなのだろう。
決して折れることの無い、強い信念に裏付けされたプライド。
MIKAというひとりのアイドルの生きざまを見た気がした。
「私はもっと上に行く。行かなきゃいけないんだ……。必ず追い落としてやる」
捨て台詞とともに扉を開け放ち、私たちを一瞥してから勢いよく扉を閉めた。
バンと大きな音がし、私はびくっと身体を震わせた。
その隣では真希が、ほくそ笑んでいた。
相手を罵る言葉がいちいち胸に突き刺さる。
だって2人の口論のうち半分(MIKAの言葉)は私に浴びせられているものなのだから。
いつもはヒステリックになりがちな真希が、冷静にMIKAの反論をいなしている。
そんな様子に多少の違和感を抱きながら、私は当事者でありながらどこか2人とは距離をおいていた。
「アナタは腹黒いのが分かっていたから排除したかったんだけど……まさか、仲の悪い結衣さんと手を結ぶとは、計算違いだったわ」
私も人を見る目がないわね、とMIKAが冷笑を浮かべる。
目の奥が笑っていない。
その異様な瞳に恐怖すら覚える。
「見なさいよ結衣。これがこの子の本性よ。私なんて足下にも及ばない悪女だわ。
私がしたことと言えば、アンタのリーク記事を書かせたことくらいだからね」
さらっととんでもない事を言いやがった!?
場の空気的にツッコめなかったが、私は怒ってもいいはずだ。
このまま黙って聞いていたら私の中の何かが噴き出しそうなので、2人から物理的に距離を取ることにした。
大きく横に動こうとしたところで、真希に腕を掴まれた。
「そっちはダメ。アンタの立ち位置はコッチ」
そう言って強引に引き寄せられた。
立ち位置???
真希は一体何を言っているんだ? 乱発する疑問符に思わず呻く。
眉をしかめる私に構うことなく真希は話を続ける。
「で? 結局、MIKAちゃんはどうするつもりなのかな? これまでの事、週刊誌にでもリークしたらいいのかな?」
すぐに人を陥れようとするあたり流石《さすが》と言わざるを得ない。
止めさせようとするのではなく弱みを握ろうとするあたり真希は私以上にたくましい。
「どうしたんですか? 先輩。いつもはMIKAちゃんなんて呼んでくれないのに」
「そんなことないわよ」
しらばっくれるのも上手いなぁ。流石は女優と言っておく。
悪女役をやれば日本アカデミー賞主演女優賞の獲得も難しくないだろうに。
本人は悪役のオファーを断っているというのだから仕事を選び過ぎだ。
仕事を選んだりさえしなければ私よりもワンランク上の女優になれそうなものだけど。
「結衣。アンタ、今変な事考えてるでしょ」
エスパーか! 心の中でツッコミを入れると私はあいまいな微笑を返した。
私って演技力ないのかも……ちょっと自信なくした。
軽く凹凹んだところで私も発言する。
「何でこんなことしたの?」
「なんで?」
眼光鋭く睨み付けられ思わず後退りする。
「週刊誌に情報をリークするなんて、真希みたいになっちゃうじゃない」
「アンタ私を敵に回したいならハッキリそう言いなさいよ」
「別にそんなつもりじゃ……」
私の中で綾瀬真希はイコールで悪女だからね。
そんなイメージを私に植え付けたのは真希自身なのだけど。
「まあ、いいけどね」
いいんかい!
「だって、欲しいんだもん」
MIKAの呟きに私と真希はえっ? と耳を向ける。
「私はあなた達と違って全てを犠牲にしてきた。何も失ってこなかった温室育ちのお嬢様なんかに負けられないの」
強い語気の中に確かな意思を感じた。
彼女を駆り立てるものが一体何なのか、私には分からない。
きっと他人では立ち入ることの出来ない事情があるのかもしれない。
でもそれとこれとは、まったくの別問題だ。
だから私と真希は彼女を断罪する。
それでも彼女が謝罪の言葉を口にすることはなかった。
それはきっと彼女のプライドなのだろう。
決して折れることの無い、強い信念に裏付けされたプライド。
MIKAというひとりのアイドルの生きざまを見た気がした。
「私はもっと上に行く。行かなきゃいけないんだ……。必ず追い落としてやる」
捨て台詞とともに扉を開け放ち、私たちを一瞥してから勢いよく扉を閉めた。
バンと大きな音がし、私はびくっと身体を震わせた。
その隣では真希が、ほくそ笑んでいた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる