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第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー
ACT85
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真希とMIKAの口論は激しさを増し、第6倉庫には怒号が飛び交っていた。
相手を罵る言葉がいちいち胸に突き刺さる。
だって2人の口論のうち半分(MIKAの言葉)は私に浴びせられているものなのだから。
いつもはヒステリックになりがちな真希が、冷静にMIKAの反論をいなしている。
そんな様子に多少の違和感を抱きながら、私は当事者でありながらどこか2人とは距離をおいていた。
「アナタは腹黒いのが分かっていたから排除したかったんだけど……まさか、仲の悪い結衣さんと手を結ぶとは、計算違いだったわ」
私も人を見る目がないわね、とMIKAが冷笑を浮かべる。
目の奥が笑っていない。
その異様な瞳に恐怖すら覚える。
「見なさいよ結衣。これがこの子の本性よ。私なんて足下にも及ばない悪女だわ。
私がしたことと言えば、アンタのリーク記事を書かせたことくらいだからね」
さらっととんでもない事を言いやがった!?
場の空気的にツッコめなかったが、私は怒ってもいいはずだ。
このまま黙って聞いていたら私の中の何かが噴き出しそうなので、2人から物理的に距離を取ることにした。
大きく横に動こうとしたところで、真希に腕を掴まれた。
「そっちはダメ。アンタの立ち位置はコッチ」
そう言って強引に引き寄せられた。
立ち位置???
真希は一体何を言っているんだ? 乱発する疑問符に思わず呻く。
眉をしかめる私に構うことなく真希は話を続ける。
「で? 結局、MIKAちゃんはどうするつもりなのかな? これまでの事、週刊誌にでもリークしたらいいのかな?」
すぐに人を陥れようとするあたり流石《さすが》と言わざるを得ない。
止めさせようとするのではなく弱みを握ろうとするあたり真希は私以上にたくましい。
「どうしたんですか? 先輩。いつもはMIKAちゃんなんて呼んでくれないのに」
「そんなことないわよ」
しらばっくれるのも上手いなぁ。流石は女優と言っておく。
悪女役をやれば日本アカデミー賞主演女優賞の獲得も難しくないだろうに。
本人は悪役のオファーを断っているというのだから仕事を選び過ぎだ。
仕事を選んだりさえしなければ私よりもワンランク上の女優になれそうなものだけど。
「結衣。アンタ、今変な事考えてるでしょ」
エスパーか! 心の中でツッコミを入れると私はあいまいな微笑を返した。
私って演技力ないのかも……ちょっと自信なくした。
軽く凹凹んだところで私も発言する。
「何でこんなことしたの?」
「なんで?」
眼光鋭く睨み付けられ思わず後退りする。
「週刊誌に情報をリークするなんて、真希みたいになっちゃうじゃない」
「アンタ私を敵に回したいならハッキリそう言いなさいよ」
「別にそんなつもりじゃ……」
私の中で綾瀬真希はイコールで悪女だからね。
そんなイメージを私に植え付けたのは真希自身なのだけど。
「まあ、いいけどね」
いいんかい!
「だって、欲しいんだもん」
MIKAの呟きに私と真希はえっ? と耳を向ける。
「私はあなた達と違って全てを犠牲にしてきた。何も失ってこなかった温室育ちのお嬢様なんかに負けられないの」
強い語気の中に確かな意思を感じた。
彼女を駆り立てるものが一体何なのか、私には分からない。
きっと他人では立ち入ることの出来ない事情があるのかもしれない。
でもそれとこれとは、まったくの別問題だ。
だから私と真希は彼女を断罪する。
それでも彼女が謝罪の言葉を口にすることはなかった。
それはきっと彼女のプライドなのだろう。
決して折れることの無い、強い信念に裏付けされたプライド。
MIKAというひとりのアイドルの生きざまを見た気がした。
「私はもっと上に行く。行かなきゃいけないんだ……。必ず追い落としてやる」
捨て台詞とともに扉を開け放ち、私たちを一瞥してから勢いよく扉を閉めた。
バンと大きな音がし、私はびくっと身体を震わせた。
その隣では真希が、ほくそ笑んでいた。
相手を罵る言葉がいちいち胸に突き刺さる。
だって2人の口論のうち半分(MIKAの言葉)は私に浴びせられているものなのだから。
いつもはヒステリックになりがちな真希が、冷静にMIKAの反論をいなしている。
そんな様子に多少の違和感を抱きながら、私は当事者でありながらどこか2人とは距離をおいていた。
「アナタは腹黒いのが分かっていたから排除したかったんだけど……まさか、仲の悪い結衣さんと手を結ぶとは、計算違いだったわ」
私も人を見る目がないわね、とMIKAが冷笑を浮かべる。
目の奥が笑っていない。
その異様な瞳に恐怖すら覚える。
「見なさいよ結衣。これがこの子の本性よ。私なんて足下にも及ばない悪女だわ。
私がしたことと言えば、アンタのリーク記事を書かせたことくらいだからね」
さらっととんでもない事を言いやがった!?
場の空気的にツッコめなかったが、私は怒ってもいいはずだ。
このまま黙って聞いていたら私の中の何かが噴き出しそうなので、2人から物理的に距離を取ることにした。
大きく横に動こうとしたところで、真希に腕を掴まれた。
「そっちはダメ。アンタの立ち位置はコッチ」
そう言って強引に引き寄せられた。
立ち位置???
真希は一体何を言っているんだ? 乱発する疑問符に思わず呻く。
眉をしかめる私に構うことなく真希は話を続ける。
「で? 結局、MIKAちゃんはどうするつもりなのかな? これまでの事、週刊誌にでもリークしたらいいのかな?」
すぐに人を陥れようとするあたり流石《さすが》と言わざるを得ない。
止めさせようとするのではなく弱みを握ろうとするあたり真希は私以上にたくましい。
「どうしたんですか? 先輩。いつもはMIKAちゃんなんて呼んでくれないのに」
「そんなことないわよ」
しらばっくれるのも上手いなぁ。流石は女優と言っておく。
悪女役をやれば日本アカデミー賞主演女優賞の獲得も難しくないだろうに。
本人は悪役のオファーを断っているというのだから仕事を選び過ぎだ。
仕事を選んだりさえしなければ私よりもワンランク上の女優になれそうなものだけど。
「結衣。アンタ、今変な事考えてるでしょ」
エスパーか! 心の中でツッコミを入れると私はあいまいな微笑を返した。
私って演技力ないのかも……ちょっと自信なくした。
軽く凹凹んだところで私も発言する。
「何でこんなことしたの?」
「なんで?」
眼光鋭く睨み付けられ思わず後退りする。
「週刊誌に情報をリークするなんて、真希みたいになっちゃうじゃない」
「アンタ私を敵に回したいならハッキリそう言いなさいよ」
「別にそんなつもりじゃ……」
私の中で綾瀬真希はイコールで悪女だからね。
そんなイメージを私に植え付けたのは真希自身なのだけど。
「まあ、いいけどね」
いいんかい!
「だって、欲しいんだもん」
MIKAの呟きに私と真希はえっ? と耳を向ける。
「私はあなた達と違って全てを犠牲にしてきた。何も失ってこなかった温室育ちのお嬢様なんかに負けられないの」
強い語気の中に確かな意思を感じた。
彼女を駆り立てるものが一体何なのか、私には分からない。
きっと他人では立ち入ることの出来ない事情があるのかもしれない。
でもそれとこれとは、まったくの別問題だ。
だから私と真希は彼女を断罪する。
それでも彼女が謝罪の言葉を口にすることはなかった。
それはきっと彼女のプライドなのだろう。
決して折れることの無い、強い信念に裏付けされたプライド。
MIKAというひとりのアイドルの生きざまを見た気がした。
「私はもっと上に行く。行かなきゃいけないんだ……。必ず追い落としてやる」
捨て台詞とともに扉を開け放ち、私たちを一瞥してから勢いよく扉を閉めた。
バンと大きな音がし、私はびくっと身体を震わせた。
その隣では真希が、ほくそ笑んでいた。
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