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第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー
ACT83
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菓子屋ファミリーシリーズ(CM)の最新作の撮影日。
今回の撮影から新たに加わる新キャストの紹介が行われる。
「プレッツェル役のMIKAさんでーす」
キャスト・スタッフの拍手に軽い会釈程度のお辞儀であいさつする。
「今回の撮影からプレッツェル役で参加させていただきます。ラビットガールズのMIKAです。宜しくお願いします」
温かい拍手に混じって、乾いた殺気交じりの拍手がみんなの拍手のリズムを乱すように叩かれている。
横目でその拍手の主を盗み見る。
やっぱり真希だ。
そんな露骨に感情をあらわにしたらダメでしょ。
何でこんな感情的な真希が、今まで大きなスキャンダルなくこの世界でやってこられたのか不思議だ。
キャストもスタッフも手慣れた様子でMIKAの紹介をこなしている。
菓子屋ファミリーシリーズは、CMとしては異例と言える10年を超える人気CMシリーズだ。私や真希を始めとするシリーズ当初から参加しているキャストは入れ替えの激しいこの芸能界。今までに何度も新キャストを迎えてきた。それはスタッフも同じことだ。
意外なほどにさらっとした紹介に、MIKAは引きつらせた笑みを覗かせる。
今までの現場とは違う、誰もよいしょしてくれない雰囲気に気が付いたのだろう。
不満が顔に滲み出ている。
菓子屋シリーズの撮影はドラマ撮影並みに疲れる。
なにしろ30秒という尺の中に必要な情報を詰め込んでいるのだから、ドラマよりも凝縮された撮影内容になる。
たまにこちらがビックリするほど内容の薄いシリーズもあったりするけど、それは監督のお遊びで基本的には長丁場になるのが通例になっている。
今回の撮影は通例通り、長丁場の撮影になりそうだ。
何でそんなことが分かるかって?
そんなものは用意されたお菓子の量を見れば分かる。
チョコレート、クッキーにケーキと大量に――山積みにされている。
大袈裟でなく山積みにされているのだ。
子どもの頃に憧れるような――ヘンデルとグレーテルのお菓子の家が建てられそうな量が用意されている。
私も子どもの頃は確かに憧れてたわ。4歳まではね。
初めて菓子屋シリーズに参加した4歳の私は出されたお菓子を真面目に食べたがためにリバース。
それからしばらくの間は、お菓子を目にしただけで胸やけがしたものだ。
ちなみに撮影の時に食べているお菓子は全部食べない。
太っちゃう。カロリーの過剰摂取になるからね。
実はスタジオには大量のお菓子とともにバケツも用意されている。
ポリバケツ、大きいヤツね。
そのポリバケツに食べたお菓子を吐き出す。
ちょっと勿体ない気もしなくもないけど、そうせざるを得ない。
少しの罪悪感とともにお指しを吐き出す。
「ハイOK! 休憩入れまーす」
助監督の声と同時に私はスタジオを離れる。
菓子屋ファミリーのキャストは皆仲良しだけど(私と真希の関係は除く)、だからと言っていつも一緒って訳じゃない。
世間のイメージは皆仲良し(間違ってはいない)だと思っている。実際にはサバサバした空気感だ。
私はそんな空気感が好きではあるのだけれど。
MIKAは、そんな現場の空気を知ってか知らずか、キャストに話しかけていた(出演が古い順に)。
みんなも休憩中は、静かに自分の時間を過ごしたいだろうに。ご愁傷様《しゅうしょうさま》です。
「空気読めないのかしら」
わざとらしく言う真希の声はスタジオに響いた。
「ちょっと」
咎める私に、
「何でアンタがあの女に気を遣うのよ」
自分は何も間違ったことは言っていないと言わんばかりの態度で答える。
真希のその自信が少し羨ましい。
スタジオを出る時、MIKAと視線が合った。
顔は笑っているのに、その視線に射貫かれると背筋がゾクッとした。
背中に突き刺さる視線から逃げるように、私はスタジオを後にした。
今回の撮影から新たに加わる新キャストの紹介が行われる。
「プレッツェル役のMIKAさんでーす」
キャスト・スタッフの拍手に軽い会釈程度のお辞儀であいさつする。
「今回の撮影からプレッツェル役で参加させていただきます。ラビットガールズのMIKAです。宜しくお願いします」
温かい拍手に混じって、乾いた殺気交じりの拍手がみんなの拍手のリズムを乱すように叩かれている。
横目でその拍手の主を盗み見る。
やっぱり真希だ。
そんな露骨に感情をあらわにしたらダメでしょ。
何でこんな感情的な真希が、今まで大きなスキャンダルなくこの世界でやってこられたのか不思議だ。
キャストもスタッフも手慣れた様子でMIKAの紹介をこなしている。
菓子屋ファミリーシリーズは、CMとしては異例と言える10年を超える人気CMシリーズだ。私や真希を始めとするシリーズ当初から参加しているキャストは入れ替えの激しいこの芸能界。今までに何度も新キャストを迎えてきた。それはスタッフも同じことだ。
意外なほどにさらっとした紹介に、MIKAは引きつらせた笑みを覗かせる。
今までの現場とは違う、誰もよいしょしてくれない雰囲気に気が付いたのだろう。
不満が顔に滲み出ている。
菓子屋シリーズの撮影はドラマ撮影並みに疲れる。
なにしろ30秒という尺の中に必要な情報を詰め込んでいるのだから、ドラマよりも凝縮された撮影内容になる。
たまにこちらがビックリするほど内容の薄いシリーズもあったりするけど、それは監督のお遊びで基本的には長丁場になるのが通例になっている。
今回の撮影は通例通り、長丁場の撮影になりそうだ。
何でそんなことが分かるかって?
そんなものは用意されたお菓子の量を見れば分かる。
チョコレート、クッキーにケーキと大量に――山積みにされている。
大袈裟でなく山積みにされているのだ。
子どもの頃に憧れるような――ヘンデルとグレーテルのお菓子の家が建てられそうな量が用意されている。
私も子どもの頃は確かに憧れてたわ。4歳まではね。
初めて菓子屋シリーズに参加した4歳の私は出されたお菓子を真面目に食べたがためにリバース。
それからしばらくの間は、お菓子を目にしただけで胸やけがしたものだ。
ちなみに撮影の時に食べているお菓子は全部食べない。
太っちゃう。カロリーの過剰摂取になるからね。
実はスタジオには大量のお菓子とともにバケツも用意されている。
ポリバケツ、大きいヤツね。
そのポリバケツに食べたお菓子を吐き出す。
ちょっと勿体ない気もしなくもないけど、そうせざるを得ない。
少しの罪悪感とともにお指しを吐き出す。
「ハイOK! 休憩入れまーす」
助監督の声と同時に私はスタジオを離れる。
菓子屋ファミリーのキャストは皆仲良しだけど(私と真希の関係は除く)、だからと言っていつも一緒って訳じゃない。
世間のイメージは皆仲良し(間違ってはいない)だと思っている。実際にはサバサバした空気感だ。
私はそんな空気感が好きではあるのだけれど。
MIKAは、そんな現場の空気を知ってか知らずか、キャストに話しかけていた(出演が古い順に)。
みんなも休憩中は、静かに自分の時間を過ごしたいだろうに。ご愁傷様《しゅうしょうさま》です。
「空気読めないのかしら」
わざとらしく言う真希の声はスタジオに響いた。
「ちょっと」
咎める私に、
「何でアンタがあの女に気を遣うのよ」
自分は何も間違ったことは言っていないと言わんばかりの態度で答える。
真希のその自信が少し羨ましい。
スタジオを出る時、MIKAと視線が合った。
顔は笑っているのに、その視線に射貫かれると背筋がゾクッとした。
背中に突き刺さる視線から逃げるように、私はスタジオを後にした。
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