転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

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第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー

ACT81

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 呼び出し音が鳴る。
 いつもスマホを弄っているのだから、もうとっくに電話に出ていてもいいはずなのだが、電話の相手が応答しないのは電話を掛けているのが私だからだろう。

「……なに?」

 無愛想な声が出る。

「用があるから連絡したのよ」

 私だって自ら進んで連絡なんて取りたくはなかった。
 でも仕方がないのだ。どんな手を使ってでもこの世界で生き残りたい。それは彼女も同じはずだから。

「お願いがあるの。聞いてくれない?――真希」

 …………
 ……
 …

「さあ、始まりました! お笑い革命、至高の笑い発信基地局~~ッ!!」

 ADさんが観覧席に向けて拍手を求める。
 前説を経て準備万端の観覧者は、大きな拍手を打つ。

「司会……ちゃうわ、局長言わなアカンのやった。もうええか、司会でも局長でも」

 番組の趣旨を根底から覆そうとする発言に、

「いやいや、ダメですよ晩春局長!? そこは守らないとスポンサーに見限られてしまいます」
「なっ!? それはアカン。局長、局長……大丈夫や、もう覚えた。せやからこれからも出資頼んます」
「テレビ業界の裏側を見た気がします……」
「こんなもんは氷山の一角。昔は……」
「晩春局長の話は長いので番組の……カンペが出たので取り敢えずそっちを先に読みますね」
「カンペ読むこといちいち言わんでもええねん!」
「えーっと、結衣――当発信基地局では……」
「無視はアカンで!? てかカンペまんま読んだらアカンやろ! 素人か!!」

 自分語りの最中でも瞬時にツッコミを入れてくるあたり芸人さんだなと思う。

「局長、カンペ読んでください」
「結衣ちゃん。カンペカンペ言うたらアカンよ」
「「早くこっちの紹介もせえ!!」」

 ひな壇に座る芸人たちから不満の声が漏れる。
 すると、

「ひな壇は、いつものメンバーでーす」

 雑な紹介と「いつものメンバー」という雑なテロップ。

「「おぉおおいッ!!」」

 一斉にツッコミが入る。それと同時に席から崩れ落ちたり転んだりする。
 団体芸である。
 熟練の技とでもいうべきか、一糸乱れぬ統率のとれた一連の動きに無駄はない。
 ひな壇上段の人間が、下へと転がるために前列の人間はさり気なく道を開ける。
 針の穴を通す様な精密さを持って、椅子と椅子の間から後列の人間が転がり出る。
 その間に、前列と後列も端の一人が椅子を戻す。

「リハーサル通りやな」

 晩春が言う。

「「してへんわ!!」」

 本当はしっかりと練習している。
 誰がどこまで転がるか、前に出るタイミングだとか、それなりの打ち合わせを要する。

「素晴らしい団体芸でしたね。ではまずは、こちらのコーナーから」

 真希は淡々と番組進行に徹する。
 その様子がまた何ともシュールで笑える。

「「それではVTRスタート!!」」 

 晩春を挟んで私と真希はV振りをする。
 満面の笑みを浮かべて。


 その後の進行も滞りなく進み、無事にMCとしての責務は果たした。
 収録後、晩春さんからお褒めの言葉を頂戴し、他の芸人さんからも同様の賛辞の言葉をもらった。
 初めて番組に貢献できた気がする。
 どこか誇らしい気分とともにテレビ局を後にした。

 この回の放送は僅かではあるが、前回の放送よりも視聴率が上がった。

 …………
 ……
 …

 ――時は少し遡る。


 私は真希に電話をしていた。
 ようやく電話に出た真希の声はどこか気だるげだった。
 まあ、真希は私に対してはいつも適当な生返事しかしないし、こんなもんか。
 真希の気のない返答にいちいち言ってかかるのも疲れるので、気にしない事にした。
 私が真希に電話したのは言うまでもなく、今回のスキャンダルによる好感度低下を食い止めるために思案した結果だった。

 今までは停戦状態だった。そこで共同戦線を張る事を提案するために電話したのだった。
 私と真希が共闘するなんて今まであり得なかった。
 しかし手段を選んでいる余裕は私にも真希にもないのだ。
 共闘するほかない。
 私も真希も後がないのだ。
 しかし、

「めんどくさい」

 私の提案を一刀両断。
 人が下手に出てればいい気になりやがって……。やっぱり真希とは気が合わない。

「何でよ!? 私たち後がないのよ」

 私は必死に訴えた。
 自分たちが置かれた状況を真希に言って聞かせるうちに、目頭が熱くなった。
 終いには、私は泣き出してしまっていた。
 珍しく困惑する真希の声が聴けたから、ちょっと得した気分?

「あーもう、わかったから電話口で泣かないでよ!」

 そう言って真希は共闘することを渋々承諾したのだった。
 通話が終わると私は涙を拭った。

「ここまで泣くつもりはなかったんだけどな……」

 思いの外熱が入ってしまった。
 鼻をすすった私はソファに身体を預ける。
 少しばかりいつもよりも深く沈んでいる気がした。
 大きく息を吐くたびに沈み込む身体。
 一気に身体から疲れがにじみ出たのかと思うほど身体が重く、ソファから起き上がれなくなった。
 
 そのままその日はソファの上で一日を過ごした。
 翌朝、身体中が軋んでいた。
 激痛とともに目覚めた私は、這うようにしてテレビ局に向かったのだった。
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