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第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー
ACT72
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MIKAが『今、旬のタレント――女性部門』において、堂々の第1位を獲得するのに時間はかからなかった。
厳密には、真希からMIKAが大躍進の2位だと聞かされてから半月。
彼女はテレビに引っ張りだこだ。テレビを点ければMIKAがいる。
そんな状況の中、ついに結衣の心にも余裕がなくなりつつあった。
「私が11位?……」
「ようやく事の重大さが分かったのね」
当たり前のように結衣の楽屋に居る真希が言う。
ちなみに真希は12位だ。
二人とも順当に順位を落としていた。
MIKAのような新星などそうそう現れるものではない。
順位を落とした主な原因は、二人が一向にバラエティーに順応出来ていない事にあった。
普段エゴサーチなどしないのだが、世間のリアルな反応が気になり、ついつい見てしまったのだ。
演技に関しては自信があるので見る必要は無いのだが、バラエティーに関してはことさら自信がなかった。
案の定、ネットでは、
結衣ちゃんはバラエティーに出る人じゃない。
女優だからって適当に仕事しすぎじゃね?
綾瀬よりマシってだけで、バラエティーにおいては無能。
そもそも演技も微妙。
新田結衣終了のお知らせ~
割とマシなモノをいくつかピックアップしたけど……つらい。
真希に比べればまだマシなんだけど。
私はスマホの画面を見たまま固まっていた。
液晶画面に視線を落とし、文字を目で追う最中開いた口からため息が漏れる。
「落ち込むくらいなら見なきゃいいのに」
ネット上で叩かれる事に耐性があるのか、真希はそれらを一瞥し鼻で笑った。
「成功者を僻む無能な人間の道楽に、一喜一憂するなんて馬鹿げてると思わない?」
その中には、自分のファンも含まれるということは失念しているらしい。
実際のことは知らないが、真希の性格からして、十中八九エゴサーチを習慣にしていると思うのだが、それを言うと逆上しそうなので黙っておく事にする。
MIKAちゃんはいい娘だと思うけど、そんな事を上から目線で言っていられなくなっていた。
今回の収録からMIKAが福福亭晩春のアシスタント――事実上のMCを務める事になっていた。
完全に番組内においてその立場は逆転。ハッキリと優劣がついた形である。
芸能界の先輩としての威厳も何もない。完敗である。
「私たち、これからあの女に見下されるのよ。最悪の気分ね」
そんな事はない、と言いかけて結衣は言いよどむ。
もしかしたら……そんな考えが頭を過ぎってしまったのだ。
「早くあの女を引きずり下ろさないと……」
そんな真希の呟きを聞きながら、私は盛大にため息をついた。
楽屋を出てからも真希のぼやきは止まらない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、結衣はスタジオへ向かった。
…………
……
…
悔しいかな……今までの収録で一番ウケた。
主に私たち(結衣&真希)の近頃の迷走ぶりをネタに盛り上がったのだ。
今日の収録をお母さんが見たら卒倒するわね。
新田結衣のイメージ的にダメな気がする。
お母さん以上に広報を担当する松崎さんが激怒しそう。
私――新田結衣ってどんなキャラクターだっけ? 何か最近同じような事で悩んだことがある気もするけど……はぁ……。
楽屋で一人物思いにふける。
何だか最近ため息ばかり。
気分はブルー。真希じゃないけど相当気分は落ちてる。
さっさと帰り支度して高野さんの迎えを待とう。
高野さんは仕事の電話で席を外している。
ノックも無しに楽屋の扉が開く。
「ちょっと! 結衣!?」
ちょっとした錯乱状態の真希が訪ねてきた。
正直、相手をしてやる余裕は今の私にはない。
ヒステリックな声を上げる真希は、どこかお母さんに似ていた。
その後、真希が言ったことの一割も覚えてはいなかったが、高野さんはから菓子家ファミリーのCMにMIKAが抜擢されたと報告を受けた。
おそらくこの事を言っていたのだろう。
スター街道を真っ直ぐに駆けてゆくMIKAは、結衣と真希にとってライバルとなっていた。
勢いだけならMIKAが上だろう。
このまま頂点を取ってしまうかもしれない。
帰りの車の中で運転席の高野さんが、ぼそりと呟いた。
「負けっぱなしっていうのも癪よね」
「高野さん?」
「ついこの間出てきたような、ぽっと出のアイドルに劣ってる? そんな訳無いでしょ。芸能界はそんなに甘い世界じゃないわよ」
なんだか、いつになく熱い。
こんな高野さんを見るのは初めてかもしれない。
「そうね……」
私は小さな声で答えた。
真希が勝ち負けにこだわる理由が分かった気がする。
自分の存在価値そのものが、芸能界での立ち位置と直結しているのだ。
後輩にその立場を脅かされて初めて気がついた。
私って真希に負けないくらい嫉妬深いみたい。
大人気アイドル、上等だ。掛かって来い。相手してやる。
伊達に芸歴積み重ねてないんだ。格(年期)の違いを見せてやる。
この業界で負けを認めたら、後は落ちていくだけ。
私はもっと上――高みを目指せる。
「バラエティーだろうが、何だろうが、負けたままじゃダメよね」
決意を新たに襲来した脅威に真っ向から勝負を挑む――一応、先輩だから迎え撃つが正しいかな?
「やるぞー」
「おっ、その意気よ結衣」
――この先待ち受ける試練など知る由もない私は、車内で拳を突き上げた。
厳密には、真希からMIKAが大躍進の2位だと聞かされてから半月。
彼女はテレビに引っ張りだこだ。テレビを点ければMIKAがいる。
そんな状況の中、ついに結衣の心にも余裕がなくなりつつあった。
「私が11位?……」
「ようやく事の重大さが分かったのね」
当たり前のように結衣の楽屋に居る真希が言う。
ちなみに真希は12位だ。
二人とも順当に順位を落としていた。
MIKAのような新星などそうそう現れるものではない。
順位を落とした主な原因は、二人が一向にバラエティーに順応出来ていない事にあった。
普段エゴサーチなどしないのだが、世間のリアルな反応が気になり、ついつい見てしまったのだ。
演技に関しては自信があるので見る必要は無いのだが、バラエティーに関してはことさら自信がなかった。
案の定、ネットでは、
結衣ちゃんはバラエティーに出る人じゃない。
女優だからって適当に仕事しすぎじゃね?
綾瀬よりマシってだけで、バラエティーにおいては無能。
そもそも演技も微妙。
新田結衣終了のお知らせ~
割とマシなモノをいくつかピックアップしたけど……つらい。
真希に比べればまだマシなんだけど。
私はスマホの画面を見たまま固まっていた。
液晶画面に視線を落とし、文字を目で追う最中開いた口からため息が漏れる。
「落ち込むくらいなら見なきゃいいのに」
ネット上で叩かれる事に耐性があるのか、真希はそれらを一瞥し鼻で笑った。
「成功者を僻む無能な人間の道楽に、一喜一憂するなんて馬鹿げてると思わない?」
その中には、自分のファンも含まれるということは失念しているらしい。
実際のことは知らないが、真希の性格からして、十中八九エゴサーチを習慣にしていると思うのだが、それを言うと逆上しそうなので黙っておく事にする。
MIKAちゃんはいい娘だと思うけど、そんな事を上から目線で言っていられなくなっていた。
今回の収録からMIKAが福福亭晩春のアシスタント――事実上のMCを務める事になっていた。
完全に番組内においてその立場は逆転。ハッキリと優劣がついた形である。
芸能界の先輩としての威厳も何もない。完敗である。
「私たち、これからあの女に見下されるのよ。最悪の気分ね」
そんな事はない、と言いかけて結衣は言いよどむ。
もしかしたら……そんな考えが頭を過ぎってしまったのだ。
「早くあの女を引きずり下ろさないと……」
そんな真希の呟きを聞きながら、私は盛大にため息をついた。
楽屋を出てからも真希のぼやきは止まらない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、結衣はスタジオへ向かった。
…………
……
…
悔しいかな……今までの収録で一番ウケた。
主に私たち(結衣&真希)の近頃の迷走ぶりをネタに盛り上がったのだ。
今日の収録をお母さんが見たら卒倒するわね。
新田結衣のイメージ的にダメな気がする。
お母さん以上に広報を担当する松崎さんが激怒しそう。
私――新田結衣ってどんなキャラクターだっけ? 何か最近同じような事で悩んだことがある気もするけど……はぁ……。
楽屋で一人物思いにふける。
何だか最近ため息ばかり。
気分はブルー。真希じゃないけど相当気分は落ちてる。
さっさと帰り支度して高野さんの迎えを待とう。
高野さんは仕事の電話で席を外している。
ノックも無しに楽屋の扉が開く。
「ちょっと! 結衣!?」
ちょっとした錯乱状態の真希が訪ねてきた。
正直、相手をしてやる余裕は今の私にはない。
ヒステリックな声を上げる真希は、どこかお母さんに似ていた。
その後、真希が言ったことの一割も覚えてはいなかったが、高野さんはから菓子家ファミリーのCMにMIKAが抜擢されたと報告を受けた。
おそらくこの事を言っていたのだろう。
スター街道を真っ直ぐに駆けてゆくMIKAは、結衣と真希にとってライバルとなっていた。
勢いだけならMIKAが上だろう。
このまま頂点を取ってしまうかもしれない。
帰りの車の中で運転席の高野さんが、ぼそりと呟いた。
「負けっぱなしっていうのも癪よね」
「高野さん?」
「ついこの間出てきたような、ぽっと出のアイドルに劣ってる? そんな訳無いでしょ。芸能界はそんなに甘い世界じゃないわよ」
なんだか、いつになく熱い。
こんな高野さんを見るのは初めてかもしれない。
「そうね……」
私は小さな声で答えた。
真希が勝ち負けにこだわる理由が分かった気がする。
自分の存在価値そのものが、芸能界での立ち位置と直結しているのだ。
後輩にその立場を脅かされて初めて気がついた。
私って真希に負けないくらい嫉妬深いみたい。
大人気アイドル、上等だ。掛かって来い。相手してやる。
伊達に芸歴積み重ねてないんだ。格(年期)の違いを見せてやる。
この業界で負けを認めたら、後は落ちていくだけ。
私はもっと上――高みを目指せる。
「バラエティーだろうが、何だろうが、負けたままじゃダメよね」
決意を新たに襲来した脅威に真っ向から勝負を挑む――一応、先輩だから迎え撃つが正しいかな?
「やるぞー」
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