転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
65 / 111
幕間Ⅰ 姉妹の物語

ACT64

しおりを挟む
 12年前――
 業界ナンバーワンお菓子メーカーの新作CMのオーディション。競争倍率は100倍を超えていた。
 それでも当時の私は合格する自信があった。
 当時4歳の女の子だった私。今になって考えると相当の自信家だなと思うが、そのような考えを持つだけの実績が私にはあった。

 欲しいものは全て手に入れてきた。それは当時も今も変わらない。
 だけど当時の私にとってCMなんかはどうでもよかった。
 欲しかったのは日本に残る理由。

 すでに両親は離婚していた。
 私は父方の祖父母のもとに預けられていた。アメリカ人の祖父母なのに逢里という苗字の祖父母の家も、それなりの事情があるのだ。そのことを察していた私は何も聞かずに逢里と名乗った。
 今でも祖父母が驚きながら、笑いながら、そして泣きながら私を抱きしめた時の事を鮮明に覚えている。
 私もそれなりに喜んではいたけれど正直そんなことはどうでもよかった。
 父は私を必要としなかった。傍から見たらアメリカ人に見えない子だったから自分の子どもだって感じがしなかったのかもしれない。

 私は捨てられたのだ。親権を持ちながらその責務を放棄する程度の価値しか私にはなかったと言う事だ。
 お母さんの方にお姉ちゃんと一緒に引き取られたかった。けどそれは経済的に無理。
 必要とされない子ども。それが私だった。

 だから祖父母が私を愛してくれたことには感謝している。
 でも私は祖父母の愛情を嬉しく思ったわけではない。誰かに必要とされることを望んでいた。
 そんな中、祖父母以外でお姉ちゃんだけが私を必要だと言ってくれた。
 とっても優しいお姉ちゃん。

 だから、日本に残りたいと思った。
 でも父は世間体を気にして私を本国(アメリカ)に連れて帰る気満々だった。
 だから日本での居場所を作ることにした。それが芸能界――その足かけに受けたのがCMオーディションだった。

 CMが決まれば父も私が日本に残ることを承諾するだろう。そもそも世間体で連れ帰ろうとしていたのだから、日本においてくる理由が出来れば無理に私を連れ帰ろうとはしないはずだった。
 私にとってこのCMオーディションは夢を掴むためのものではなく、居場所を作るためのものだ。落選するわけにはいかなかった。
 結果はダメだったわけだけど。

 関係者と思しき人たちに愛嬌を振りまいた。胡麻を摺った。
 ちなみに当時、私はまだ4歳。この頃には相当したたかな女だったと思う。
 本当の意味で腹黒いのはお姉ちゃんではなく私の方だろう。
 その腹黒さが裏目に出た。
 幼子の悪知恵なんてたかが知れている。当時、CM撮影の助監督を担当していた王子晴信に見抜かれ落とされた。
 今でもかなり根に持っている。私とお姉ちゃんの間を引き裂いた一人でもあるから。

 王子晴信もこの話を聞いて申し訳なく思ったのか、私に対して負い目があるらしく、割と言う事を聞いてくれる。
 だから今回の映画にキャスティングして貰えたのだけど。

 このまま最後まで何事もなく終わるなんてことはないだろう。
 この前も、お姉ちゃんがこそこそと誰かに電話を掛けているのを見た。
 またなんか余計な事してるな、と思ったけれど追及したりはしない。それが私たち姉妹のスタンス――距離感だから。
 電話の内容全ては聞こえなかったが、所々聞こえた話を繋ぎ合わせると、電話相手に依頼されていたことを承諾したと言う事らしい。
 どうせ、新田結衣に関することで誰かと利害が一致して協力関係を結んだといったところだろう。もしくは今までの手(週刊誌にネタを流す)では生ぬるいと新たな手を繰り出すつもりなのかもしれない。
 お姉ちゃんは根が優しいから裏工作とか向かないんだけど……。本人はそう思っていないらしい。
 最後の詰めが甘いとでも言えばいいのか、最後のところで優しさが勝ってしまう。そんな人なのだ。

 それは今も昔も変わらない。
 だから私はお姉ちゃんのためならなんだってする。
 日本に戻ってきてから――お姉ちゃんと同居を始めてから毎日強く思う。
 お姉ちゃんのためなら私はどんな手を使ってでもお姉ちゃんを守る。
 この決意が揺らぐことは無い。
 だからお姉ちゃんの好きにさせてあげるの。私ってかなりお姉ちゃんに甘いよね。でもいいの、私が好きでやっているだけだから。
 もちろんという時だけだよ。


 そのという時がすぐそこにまで迫っていることを、この時の私は知る由もなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...