転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

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幕間Ⅰ 姉妹の物語

ACT60

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 帰宅した妹はどこか上機嫌で言った。
「あれがか……」
 ライバル? 妹にとってライバルなどと呼べる人間が日本にいるとは思えないのだが、あえて突っ込むことはしない。
 私たち姉妹は互いに干渉しないスタンスなのだ。
 本当のことを言えば、幼い頃から離れて暮らしているため、適度な距離感が解らないだけなのだが、今更そんなことを言える筈もなく……。
「向こう(ハリウッド)の話?」
 抑揚のない声で答える私。

「何言ってるの、向こう(ハリウッド)にも私がライバルって認めた人はいないよ」
「だったら――」
「だから私のライバルはだけ……。私たち姉妹を引き裂いた張本人――新田結衣」

 新田結衣。私たち姉妹を引き裂いたのは当時4歳の彼女だった。
 妹は彼女をライバルと呼んだ。でも私からしてみれば彼女は憎いだけの、ただの敵でしかなかった。

「あんなのがライバルだなんてレベルが低いわね。ハリウッドもその程度なのね」
「お姉ちゃんそんな口を叩くのは、あの子に一度でも勝ってからにしてくれる? 今のお姉ちゃんが何を言ってもただの負け惜しみにしか聞こえないから」
 カチーン。頭にきた! 
「負け惜しみですって!? 私がいつあの女に負けたって言うのよ!?」
「だってお姉ちゃんいつも負けてるでしょ。なりたい女性ランキングとか、色々。全部言う? お姉ちゃん負けすぎてて全部言うの苦労しそうだなぁ」
「アンタ、妹の分際で生意気よ!」
「妹って言っても双子だから歳同じだし、生意気も何もないでしょ。生意気って言うならハリウッド女優にタメ口とか、万年あの子の下に甘んじている女優にしては態度が大きいんじゃなくて?」

 ムキィーッ、
 歯噛みする思いとはこのことを言うのだろう。
 思わず爪を噛んでしまった。

「そんなに悔しいんなら証明したら? 小細工なしで」
 妹は一冊の台本をテーブルの上に放る。
「なにこれ」
「台本。王子監督の」
「知ってるわよ。だからなんでその台本を見せるのかって話」
「まだいくつか決まってない役があるらしいから、直談判でもしてみたらって助言」
「そうね。あの女も出るし、邪魔してやるのも悪くないわね」
「そんな腐った性根してるから勝てないんだよ」

 呆れた表情で妹が言う。
 負けてないし! 瞬時に睨みつける。

「ま、まぁ、お姉ちゃんとの共演楽しみにしてるよ。だから台本読んで練習しときなよ」
「それだったらいい」
「何が?」
「もう読んだから」
「覚えたの!?」
「大体」
「そ、そうなんだ」
「驚いたか? ひれ伏せ、妹」
「ほんとお姉ちゃんって残念な人だよね」

 この後、童心に帰ったかのようなバカ丸出しの低レベルな言い合いを小一時間続けた。
 少しだけ楽しく、ほんの少しだけ嬉しく思ったことは、妹には内緒である。

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