転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
上 下
54 / 111
第二幕 映画撮影と超新星

ACT53

しおりを挟む
 動画サイトに投稿された動画には、青い表紙の冊子二部、映し出されている。
 画面の下から手が出てきてページを捲る。
 キャスト一覧が映し出される。私の名前も映っている。
 瀧川さんに草薙さん、堀川(シェリル)、桐谷の名前もある。あと、真希と慶の名前も――
 その次に捲られたページには「Scene79」の文字。
 つまりは、コレって……台本が流失したって事?
 それって不味くない? 王子監督、外部に情報が漏れることを極端に嫌う監督だから、間違いなく角が生える。

 動画を見つけた瀧川さんはこの一大事を楽しんでいる。
 瀧川さんクラスの俳優であれば楽しむ余裕もあるのかもしれないが、私のような若手(と言っても芸歴12年)ではまだその境地には達していない。
「犯人探しが始まるぞ~」
 無邪気な声を上げる瀧川さんは少しでも自分の仲間を増やしたいのか、そこら辺に居るキャスト・スタッフに声をかけまくっている。
「悪趣味よね」
「あ、草薙さん。草薙さんも瀧川さんに?」
「そう。お呼ばれしたのだけれど……。あの人、他人の不幸が面白いみたい」
 本当に悪趣味だな。今まで良いイメージしかなかったけど、もしかしたらそうでもないのかもしれない。
 あれ? 真希と慶の姿が見当たらない。
 まあ、あの二人なら待ち時間をみんなと一緒に過ごすなんてことしないだろうけど。

 あれれ? 松崎さん? 滅多に現場には顔を出さないのにどうしたのかしら?
「あれって結衣ちゃんのところの……」
「はい。広報の松崎さんです」
 何か緊急の用事? でもそうだったら真っ先に私のところに来るよね。
 松崎さんは真っ直ぐ、迷うことなく現場を突っ切っていった。

 暫くすると躍るようにスキップを踏みながら松崎さんが帰ってきた。
 物凄く、ご機嫌だ。
 今度は真っ直ぐ、私の下までやってくる。
 興奮を抑えられない様子の松崎さんの息は荒い。
「ついにやったわよ、結衣!」
「松崎さんがこんなに感情出すのって珍しいわね」
「やっと尻尾掴んだからね。ようやくやり返せたの」
 矢継ぎ早に松崎さんは喋る。
「早瀬の奴、今まで散々好き勝手してくれてたけど、今回ばかりはやりすぎたわ。
 王子監督の台本を動画サイトに流したのよ」
「流した動画ってコレですか?」
 いつの間にか瀧川さんからスマホを奪った草薙さんが松崎さんに動画を見せる。
「ええ、その動画よ。そしてそこに映っている台本、誰のだと思う? 綾瀬真希と太刀川慶――二人の台本よ。
 良かったわね結衣。あの二人、早瀬に協力して自滅よ。早瀬はこの業界で居場所がなくなるでしょうね」
 まるで悪代官のように悪い顔で笑う。

 なるほど。だから真希と慶の姿が、騒ぎが起こった辺りから見えなくなったのね。
 この件について王子監督だけじゃなく、制作会社のプロデューサーや出資元の人間までやってきて現場は騒然となった。
 お偉いさんの大集合である。

 そして真希と慶が別室に呼ばれた。
 顔の強張った慶に比べ、真希は悠然としていた。
 あの女は反省していないのだろうか。
 そんな態度を取ってるとドS王子が火を噴くぞ。
 実際に先に解放されたのは、慶だった。

 慶と入れ替わるようにシェリルが現場を離れる。
「どうしたのかしら」
 誰に行ったわけでもない問い掛けに、答える声があった。
「助けに行ったんじゃないかな?」と桐谷。
「なんでシェリルが真希を助けるのよ」
 声を潜めて話す。
「なんでって……俺から話すことじゃないな。本人に聞いてみると言いよ」
 それ以上彼は何も語ろうとはしなかった。

 後日、堀川汐莉の正体がシェリル・マクレーンだと言う事が世間に公表された。
 世間は、『王子監督のまさかの起用』『王子、謎の人脈――王子マジック』などとはやし立てた。
 宣伝効果は絶大で、私と慶を使ったプロモーション活動の何十倍もの成果を数日で上げた。
 台本を動画サイトに流した宣伝部長の早瀬さんは、制作会社から首を言い渡されたらしい。松崎さんが嬉々として語っていた。

 そんなこんなで何とかクランクアップした今回の映画撮影。
 後は公開を待つだけである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いわくつきの骨董売ります。※あやかし憑きのため、取り扱いご注意!

穂波晴野
キャラ文芸
いわくつきの骨董をあつかう商店『九遠堂』におとずれる人々の想いを追う、現代伝奇譚! 高校生二年の少年・伏見千幸(ふしみちゆき)は夏祭りの夜に、風変わりな青年と出会う。 彼が落とした財布を届けるため千幸は九遠堂(くおんどう)という骨董品店にいきつくが、そこはいわくありげな古道具をあつかう不思議な店だった。 店主の椎堂(しどう)によると、店の品々には、ヒトとは異なることわりで生きる存在「怪奇なるもの」が棲みついているようで……。 多少の縁で結ばれた彼らの、一夏の物語。 ◆エブリスタ掲載「九遠堂怪奇幻想録」と同一内容になります ◆表紙イラスト:あめの らしん https://twitter.com/shinra009

神様、愛する理由が愛されたいからではだめでしょうか

ゆうひゆかり
キャラ文芸
【不定期投稿です】 退役軍人のラファエル・オスガニフは行きつけのバーで酒を浴びるほど飲んだ帰り、家路の路地裏で子どもがひとりでうずくまっているのをみつけた。 子どもの年の頃は四、五歳。 鳥の巣のような頭にボロボロの服から垣間見える浮き出た骨。 おそらくは土埃で黒くなった顔。 男児とも女児ともつかない哀れな風貌と傍らに親らしき人物がいないという事実に、ラファエルはその子は戦争孤児ではないかという疑念を抱くものの。 戦渦にみまわれ荒れ果てている我が国・アルデルフィアには戦争孤児は何処にでもいる。 だから憐んではいけないと頭ではわかっていたが、その子の顔は二十年前に死に別れた妹に似ていて--。 これは酒浸りおっさんと戦争孤児が織りなす子育てとカウンセリングの記録。 《ガイドライン》 ⚪︎無印…ラファエル視点 ⚪︎※印…ジェニファー視点 ⚪︎◇印…ミシェル視点 ⚪︎☆印…ステニィ視点  

ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう
キャラ文芸
竜木野螢と雨瀬信乃は辰野の「ほたる祭り」に参加するため電車で向かっていた。しかし、着いたそこは夕暮れの町、『幽明ヶ原』だった。そこは行き場を失くしたモノ達の"最期の場所"で──。2人は無事、夕暮れの町から脱出することが出来るのか!? この物語はフィクションです。実在するものを舞台として執筆していますが、実在の人物・団体・組織などとは関係ありません。 合作です。 作    まほら 絵、校正 飴之ゆう(めゆ) 数年前に作成した冊子を再編集したものです。 誤字脱字などありましたら報告いただけると嬉しいです。 その他何かございましたら投稿者(飴之ゆう)まで。 全話編集済み。予約投稿で投稿していきます。 2022年1月9日 完結いたしました。

VTuberなんだけど百合営業することになった。

kattern
キャラ文芸
【あらすじ】  VTuber『川崎ばにら』は人気絶頂の配信者。  そんな彼女は金盾配信(登録者数100万人記念)で、まさかの凸待ち事故を起こしてしまう。  15分以上誰もやって来ないお通夜配信。  頼りになる先輩は炎上やらかして謹慎中。  同期は企業案件で駆けつけられない。  後悔と共に配信を閉じようとしていたばにら。  しかし、その時ついにDiscordに着信が入る。  はたして彼女のピンチに駆けつけたのは――。 「こんバニこんバニ~♪ DStars三期生の、『川崎ばにら』バニ~♪」 「ちょっ、人の挨拶パクらんでもろて!」 「でゅははは! どうも、DStars特待生でばにらちゃんの先輩の『青葉ずんだ』だよ!」  基本コラボNG&VTuber屈指の『圧』の使い手。  事務所で一番怖い先輩VTuber――『青葉ずんだ』だった。  配信事故からの奇跡のコラボが話題を呼び、同接は伸びまくりの、再生数は回りまくりの、スパチャは舞いまくり。  気が付けば大成功のうちに『川崎ばにら』は金盾配信を終えた。  はずだったのだが――。 「青葉ずんだ、川崎ばにら。君たちにはこれからしばらくふたりで活動してもらう。つまり――『百合営業』をして欲しい」  翌日、社長室に呼ばれた二人は急遽百合営業を命じられるのだった。  はたしてちぐはぐな二人の「百合営業」はうまくいくのか? 【登場人物】 川崎ばにら : 主人公。三期生。トップVTuber。ゲーム配信が得意。コミュ障気味。 青葉ずんだ : ヒロイン。特待生。和ロリほんわか娘のガワで中身は「氷の女王」。 網走ゆき  : 零期生。主人公&ヒロイン共通の友人。よく炎上する。 生駒すず  : 一期生。現役JKの実力派VTuber。 羽曳野あひる: 二期生。行動力の化身。ツッコミが得意。 秋田ぽめら : 特待生。グループのママ。既婚者。 津軽りんご : 特待生。ヒロインの親友。現在長期休業中。 八丈島うみ : 三期生。コミュ力お化けなセンシティブお姉たん。 出雲うさぎ : 三期生。現役女子大生の妹系キャラ。 石清水しのぎ: 三期生。あまあまふわふわお姉さん。どんとこい太郎。 五十鈴えるふ: 三期生。真面目で三期生の調整役。癒し枠。

【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー

春待ち木陰
キャラ文芸
全33話。10万文字。自分の意志とは無関係かつ突発的に「数分から数時間、下手をすれば数日単位で世界が巻き戻る」という怪奇現象を幼い頃から繰り返し経験しているせいで「何をしたってどうせまた巻き戻る」と無気力な性格に育ってしまった真田大輔は高校二年生となって、周囲の人間からの評判がすこぶる良い長崎知世と同じクラスになる。ひょんな事からこの長崎知世が「リセット」と称して世界を巻き戻していた張本人だと知った大輔は、知世にそれをやめるよう詰め寄るがそのとき、また別の大事件が発生してしまう。大輔と知世は協力してその大事件を解決しようと奔走する。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

呪い子と銀狼の円舞曲《ワルツ》

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 声を封じられた令嬢が、言葉の壁と困難を乗り越えて幸せをつかみ、愛を語れるようになるまでの物語。 明治時代・鹿鳴館を舞台にした和風シンデレラストーリーです。 明治時代、鹿鳴館が華やいだころの物語。 華族令嬢の宵子は、実家が祀っていた犬神の呪いで声を封じられたことで家族に疎まれ、使用人同然に扱われている。 特に双子の妹の暁子は、宵子が反論できないのを良いことに無理難題を押し付けるのが常だった。 ある夜、外国人とのダンスを嫌がる暁子の身代わりとして鹿鳴館の夜会に出席した宵子は、ドイツ貴族の青年クラウスと出会い、言葉の壁を越えて惹かれ合う。 けれど、折しも帝都を騒がせる黒い人喰いの獣の噂が流れる。狼の血を引くと囁かれるクラウスは、その噂と関わりがあるのか否か── カクヨム、ノベマ!にも掲載しています。 2024/01/03まで一日複数回更新、その後、完結まで毎朝7時頃更新です。

ブルーナイトディスティニー

竹井ゴールド
キャラ文芸
 高2の春休み、露図柚子太は部活帰りに日暮れの下校路を歩いていると、青色のフィルターが掛かった無人の世界に迷い込む。  そして変なロボに追われる中、空から降りてきた女戦闘員に助けられ、ナノマシンを体内に注入されて未来の代理戦争に巻き込まれるのだった。

処理中です...