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第二幕 映画撮影と超新星
ACT53
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動画サイトに投稿された動画には、青い表紙の冊子二部、映し出されている。
画面の下から手が出てきてページを捲る。
キャスト一覧が映し出される。私の名前も映っている。
瀧川さんに草薙さん、堀川(シェリル)、桐谷の名前もある。あと、真希と慶の名前も――
その次に捲られたページには「Scene79」の文字。
つまりは、コレって……台本が流失したって事?
それって不味くない? 王子監督、外部に情報が漏れることを極端に嫌う監督だから、間違いなく角が生える。
動画を見つけた瀧川さんはこの一大事を楽しんでいる。
瀧川さんクラスの俳優であれば楽しむ余裕もあるのかもしれないが、私のような若手(と言っても芸歴12年)ではまだその境地には達していない。
「犯人探しが始まるぞ~」
無邪気な声を上げる瀧川さんは少しでも自分の仲間を増やしたいのか、そこら辺に居るキャスト・スタッフに声をかけまくっている。
「悪趣味よね」
「あ、草薙さん。草薙さんも瀧川さんに?」
「そう。お呼ばれしたのだけれど……。あの人、他人の不幸が面白いみたい」
本当に悪趣味だな。今まで良いイメージしかなかったけど、もしかしたらそうでもないのかもしれない。
あれ? 真希と慶の姿が見当たらない。
まあ、あの二人なら待ち時間をみんなと一緒に過ごすなんてことしないだろうけど。
あれれ? 松崎さん? 滅多に現場には顔を出さないのにどうしたのかしら?
「あれって結衣ちゃんのところの……」
「はい。広報の松崎さんです」
何か緊急の用事? でもそうだったら真っ先に私のところに来るよね。
松崎さんは真っ直ぐ、迷うことなく現場を突っ切っていった。
暫くすると躍るようにスキップを踏みながら松崎さんが帰ってきた。
物凄く、ご機嫌だ。
今度は真っ直ぐ、私の下までやってくる。
興奮を抑えられない様子の松崎さんの息は荒い。
「ついにやったわよ、結衣!」
「松崎さんがこんなに感情出すのって珍しいわね」
「やっと尻尾掴んだからね。ようやくやり返せたの」
矢継ぎ早に松崎さんは喋る。
「早瀬の奴、今まで散々好き勝手してくれてたけど、今回ばかりはやりすぎたわ。
王子監督の台本を動画サイトに流したのよ」
「流した動画ってコレですか?」
いつの間にか瀧川さんからスマホを奪った草薙さんが松崎さんに動画を見せる。
「ええ、その動画よ。そしてそこに映っている台本、誰のだと思う? 綾瀬真希と太刀川慶――二人の台本よ。
良かったわね結衣。あの二人、早瀬に協力して自滅よ。早瀬はこの業界で居場所がなくなるでしょうね」
まるで悪代官のように悪い顔で笑う。
なるほど。だから真希と慶の姿が、騒ぎが起こった辺りから見えなくなったのね。
この件について王子監督だけじゃなく、制作会社のプロデューサーや出資元の人間までやってきて現場は騒然となった。
お偉いさんの大集合である。
そして真希と慶が別室に呼ばれた。
顔の強張った慶に比べ、真希は悠然としていた。
あの女は反省していないのだろうか。
そんな態度を取ってるとドS王子が火を噴くぞ。
実際に先に解放されたのは、慶だった。
慶と入れ替わるようにシェリルが現場を離れる。
「どうしたのかしら」
誰に行ったわけでもない問い掛けに、答える声があった。
「助けに行ったんじゃないかな?」と桐谷。
「なんでシェリルが真希を助けるのよ」
声を潜めて話す。
「なんでって……俺から話すことじゃないな。本人に聞いてみると言いよ」
それ以上彼は何も語ろうとはしなかった。
後日、堀川汐莉の正体がシェリル・マクレーンだと言う事が世間に公表された。
世間は、『王子監督のまさかの起用』『王子、謎の人脈――王子マジック』などと囃し立てた。
宣伝効果は絶大で、私と慶を使ったプロモーション活動の何十倍もの成果を数日で上げた。
台本を動画サイトに流した宣伝部長の早瀬さんは、制作会社から首を言い渡されたらしい。松崎さんが嬉々として語っていた。
そんなこんなで何とかクランクアップした今回の映画撮影。
後は公開を待つだけである。
画面の下から手が出てきてページを捲る。
キャスト一覧が映し出される。私の名前も映っている。
瀧川さんに草薙さん、堀川(シェリル)、桐谷の名前もある。あと、真希と慶の名前も――
その次に捲られたページには「Scene79」の文字。
つまりは、コレって……台本が流失したって事?
それって不味くない? 王子監督、外部に情報が漏れることを極端に嫌う監督だから、間違いなく角が生える。
動画を見つけた瀧川さんはこの一大事を楽しんでいる。
瀧川さんクラスの俳優であれば楽しむ余裕もあるのかもしれないが、私のような若手(と言っても芸歴12年)ではまだその境地には達していない。
「犯人探しが始まるぞ~」
無邪気な声を上げる瀧川さんは少しでも自分の仲間を増やしたいのか、そこら辺に居るキャスト・スタッフに声をかけまくっている。
「悪趣味よね」
「あ、草薙さん。草薙さんも瀧川さんに?」
「そう。お呼ばれしたのだけれど……。あの人、他人の不幸が面白いみたい」
本当に悪趣味だな。今まで良いイメージしかなかったけど、もしかしたらそうでもないのかもしれない。
あれ? 真希と慶の姿が見当たらない。
まあ、あの二人なら待ち時間をみんなと一緒に過ごすなんてことしないだろうけど。
あれれ? 松崎さん? 滅多に現場には顔を出さないのにどうしたのかしら?
「あれって結衣ちゃんのところの……」
「はい。広報の松崎さんです」
何か緊急の用事? でもそうだったら真っ先に私のところに来るよね。
松崎さんは真っ直ぐ、迷うことなく現場を突っ切っていった。
暫くすると躍るようにスキップを踏みながら松崎さんが帰ってきた。
物凄く、ご機嫌だ。
今度は真っ直ぐ、私の下までやってくる。
興奮を抑えられない様子の松崎さんの息は荒い。
「ついにやったわよ、結衣!」
「松崎さんがこんなに感情出すのって珍しいわね」
「やっと尻尾掴んだからね。ようやくやり返せたの」
矢継ぎ早に松崎さんは喋る。
「早瀬の奴、今まで散々好き勝手してくれてたけど、今回ばかりはやりすぎたわ。
王子監督の台本を動画サイトに流したのよ」
「流した動画ってコレですか?」
いつの間にか瀧川さんからスマホを奪った草薙さんが松崎さんに動画を見せる。
「ええ、その動画よ。そしてそこに映っている台本、誰のだと思う? 綾瀬真希と太刀川慶――二人の台本よ。
良かったわね結衣。あの二人、早瀬に協力して自滅よ。早瀬はこの業界で居場所がなくなるでしょうね」
まるで悪代官のように悪い顔で笑う。
なるほど。だから真希と慶の姿が、騒ぎが起こった辺りから見えなくなったのね。
この件について王子監督だけじゃなく、制作会社のプロデューサーや出資元の人間までやってきて現場は騒然となった。
お偉いさんの大集合である。
そして真希と慶が別室に呼ばれた。
顔の強張った慶に比べ、真希は悠然としていた。
あの女は反省していないのだろうか。
そんな態度を取ってるとドS王子が火を噴くぞ。
実際に先に解放されたのは、慶だった。
慶と入れ替わるようにシェリルが現場を離れる。
「どうしたのかしら」
誰に行ったわけでもない問い掛けに、答える声があった。
「助けに行ったんじゃないかな?」と桐谷。
「なんでシェリルが真希を助けるのよ」
声を潜めて話す。
「なんでって……俺から話すことじゃないな。本人に聞いてみると言いよ」
それ以上彼は何も語ろうとはしなかった。
後日、堀川汐莉の正体がシェリル・マクレーンだと言う事が世間に公表された。
世間は、『王子監督のまさかの起用』『王子、謎の人脈――王子マジック』などと囃し立てた。
宣伝効果は絶大で、私と慶を使ったプロモーション活動の何十倍もの成果を数日で上げた。
台本を動画サイトに流した宣伝部長の早瀬さんは、制作会社から首を言い渡されたらしい。松崎さんが嬉々として語っていた。
そんなこんなで何とかクランクアップした今回の映画撮影。
後は公開を待つだけである。
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