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第二幕 映画撮影と超新星
ACT35
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王子監督から一発OKを貰った二人の――真希とシェリルの演技は圧巻だった。
他の追随を許さないその演技は上手いなんて生易しいものではなかった。
今まで積み上げてきたものすべてが無意味に思えるほど圧倒的で、言い訳の余地すら与えてくれない。格が違う。いつの間にか随分と遠くへと真希は進んでいたのだ。
私が知らなかっただけ、私は……
「これはすごい」
「ああ、まさかここまでとはな。正直驚いた」
「王子監督にはこうなるって判ってたのか?」
「どうだろうな――でも、確信はあったんじゃないか? さも当然って顔してるし――つか、ドヤ顔ムカつくな」
スタッフの声が嫌に大きく聞こえる。
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない――。
目を閉じても瞼の裏に映し出されるのは、さっきまで二人の演じていたシーンだった。深く刻みつけられたソレは私の心にまで達していた。
「……い……結衣!」
「ん? なに高野さん」
身体を揺さぶられてようやく気付く。
「大丈夫?」
「なに心配してるの? 大丈夫よ」
にっと唇を綻ばせ、ウィンクも飛ばしてみたが、自分でも表情が硬い事に気が付いた。
それでも高野さんは何も言わずに見送ってくれた。
「Scene100――本番」
対峙する真希のいつも通りの澄ました顔――表面の裏に湛えられた別の何かが私は向けられていない。対峙している私ではない誰かに思いを馳せている。相手は決まっている。シェリル以外に居ない。そう思い至った時、胸が一杯になった。
直後、私は演技ができなくなった――。
***
「で? 何で私の部屋で布団を頭から被って籠城しているのかしら?」
「~~~~」
「何言ってるかわからない」
瑞樹は、けんもほろろな態度で応対する。塩対応である。
現在私は橘家の長女、瑞樹の部屋のベッドの上にいた。布団を頭から被って、現世との接触を拒むようにして、だ。
ちなみに部屋の外にはマネージャーの高野さんと専属メイクのコウちゃん、あと瑞樹のお父さんが待機していた。
中々会話が成立しないので仕方なく布団から頭だけを出す。
「私って才能ないのかな……」
「知らない。私は女優じゃないし」
「瑞樹! そこは判らなくても大丈夫とか何とか言ってよ~!!」
「めんどくさいなぁ」
「ひどいッ!?」
はあと、ため息を吐き、瑞樹が億劫な表情で言う。
「慰めてほしいなら私以外の友達に連絡しなよ」
あ……今まで友達って瑞樹しかいなかったから習慣で瑞樹に連絡してしまったけど今の私には他にも選択肢はあった。失念していた。
数少ない友達リストの先頭「あ」から始まる友達――逢里詩乃に通話コールする。
ツーツー……――出ない。
……――ピーという発信音のあt――ブチ。
到底留守電には収まりきれないであろう私の悩みは、直接聞いてもらわなくては意味がない。
電話帳の次は……飛ばして、冴子にでも掛けようかな。
――コンコンコン!!
激しくドアがノックされる。
「結衣! 結衣ッ!」
(あ、お母さん……)
「結衣! 貴女撮影に穴をあけるつもり? 早く出て来なさい!」
……最悪。
大袈裟な仕草で頭を抱える瑞樹を視界の端に捉えながら、私は布団に顔を埋めた。
他の追随を許さないその演技は上手いなんて生易しいものではなかった。
今まで積み上げてきたものすべてが無意味に思えるほど圧倒的で、言い訳の余地すら与えてくれない。格が違う。いつの間にか随分と遠くへと真希は進んでいたのだ。
私が知らなかっただけ、私は……
「これはすごい」
「ああ、まさかここまでとはな。正直驚いた」
「王子監督にはこうなるって判ってたのか?」
「どうだろうな――でも、確信はあったんじゃないか? さも当然って顔してるし――つか、ドヤ顔ムカつくな」
スタッフの声が嫌に大きく聞こえる。
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない――。
目を閉じても瞼の裏に映し出されるのは、さっきまで二人の演じていたシーンだった。深く刻みつけられたソレは私の心にまで達していた。
「……い……結衣!」
「ん? なに高野さん」
身体を揺さぶられてようやく気付く。
「大丈夫?」
「なに心配してるの? 大丈夫よ」
にっと唇を綻ばせ、ウィンクも飛ばしてみたが、自分でも表情が硬い事に気が付いた。
それでも高野さんは何も言わずに見送ってくれた。
「Scene100――本番」
対峙する真希のいつも通りの澄ました顔――表面の裏に湛えられた別の何かが私は向けられていない。対峙している私ではない誰かに思いを馳せている。相手は決まっている。シェリル以外に居ない。そう思い至った時、胸が一杯になった。
直後、私は演技ができなくなった――。
***
「で? 何で私の部屋で布団を頭から被って籠城しているのかしら?」
「~~~~」
「何言ってるかわからない」
瑞樹は、けんもほろろな態度で応対する。塩対応である。
現在私は橘家の長女、瑞樹の部屋のベッドの上にいた。布団を頭から被って、現世との接触を拒むようにして、だ。
ちなみに部屋の外にはマネージャーの高野さんと専属メイクのコウちゃん、あと瑞樹のお父さんが待機していた。
中々会話が成立しないので仕方なく布団から頭だけを出す。
「私って才能ないのかな……」
「知らない。私は女優じゃないし」
「瑞樹! そこは判らなくても大丈夫とか何とか言ってよ~!!」
「めんどくさいなぁ」
「ひどいッ!?」
はあと、ため息を吐き、瑞樹が億劫な表情で言う。
「慰めてほしいなら私以外の友達に連絡しなよ」
あ……今まで友達って瑞樹しかいなかったから習慣で瑞樹に連絡してしまったけど今の私には他にも選択肢はあった。失念していた。
数少ない友達リストの先頭「あ」から始まる友達――逢里詩乃に通話コールする。
ツーツー……――出ない。
……――ピーという発信音のあt――ブチ。
到底留守電には収まりきれないであろう私の悩みは、直接聞いてもらわなくては意味がない。
電話帳の次は……飛ばして、冴子にでも掛けようかな。
――コンコンコン!!
激しくドアがノックされる。
「結衣! 結衣ッ!」
(あ、お母さん……)
「結衣! 貴女撮影に穴をあけるつもり? 早く出て来なさい!」
……最悪。
大袈裟な仕草で頭を抱える瑞樹を視界の端に捉えながら、私は布団に顔を埋めた。
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