30 / 111
第二幕 映画撮影と超新星
ACT29
しおりを挟む
拗ねながらもちゃんと見送ってくれる彼氏。私って愛されてるぅ。
かなり調子に乗っている。
でもそれは仕方のない事なのだ。
仕事では王子監督の新作映画にメインキャストとして出演。
プライベートでは世界一の彼氏ができた。
順風満帆とはまさにこの事。これがペーペー女優なら浮かれて天狗になるところだが、生憎私は芸歴12年のベテランである。
十代でベテランっていうのも何か嫌だけど。
悲しいかな、仕草はすでにオバサンのそれである。
「何一人でニヤついているの? 気持ち悪いわよ」
「高野さんヒドイ!?」
私これでも結構かわいいからね。美人とかとは少し違うけど巷じゃ、愛くるしいとかって言われてるんだから。
「自分の担当女優を貶なして何かメリットってあるの?」
「私がスッキリする」
身勝手な。実に利己的な発想の基に人を貶している。
人権など皆無。私の人権ってどこにあったっけ高野さーん。
「ん? 何かな結衣」
え……声に出てた? 私の心の声漏れてた――っていうか駄々漏れ!?
「大丈夫よ~、貴女の心の声なんて聞こえてないから。私エスパーでも何でもないもの」
充分にエスパーである。
「貴女はすぐに顔に出るのよ。芸能人としては致命的ね。早くポーカーフェイスを覚えなさい」
これは私に非があるのか、それとも高野さんの超人じみた観察眼を褒めるべきなのだろうか。
「結衣そろそろ準備しなさい。会場に到着するわ」
「了解」
敬礼ポーズと共にウィンクする。
バックミラー越しに「気持ち悪いわよ」と笑うと高野さんはアクセルを踏み込んだ。
…………
……
…
制作発表に押しかけた報道陣の数は優に300を超えた。
カメラの台数も数十台に上った。
瞼の裏にまでフラッシュの残像が映し出される。目を閉じていても眩しい。
ここで一つ疑問が浮上する。
なぜ私は待ちに待った制作発表の場で眼を閉じているのか。
答えは明白。私の隣に鎮座するキャストが原因だ。
「それでは質問のある方は挙手にてお願いいたします」司会のアナウンサーが告げると一斉に記者たちの手が上がる。
「ではそちらの紺色のスーツの女性の方どうぞ」
「はい、「月間Movie」の田中と申します。今回のキャスティングについてですが、超一流の俳優陣で固めているように思うのですが、その中で重要なメインキャストに無名の女優を抜擢した人選について伺いたいのですが」
気怠そうにマイクを取ると重重しく王子監督が口を開いた。
「はぁ、そうだなぁ……オレが選んだ。それ以上でもそれ以下でもない。無名とか、新人とかどうでも良くない? 無名の新人じゃなくて堀川汐莉ね」
それ以上は答えないという意志表示なのか、マイクをゆっくりと置いた。
「それでは次の方~」
一瞬凍りついた空気を察してか、軽い調子でアナウンサーが記者を指名する。
当てられた記者が立ち上がる。
「芸能新聞の岸谷です。新田さんにお聞きしたいのですが、今回のキャスティングでは、新田さんが私生活においても親しい綾瀬さんと完全敵対するようですが、役に入れなかったり、やり難さを感じたりはしますか?」
どうしよう。正直に答えていいものか……
本音を言えば最高の役。だって私が真希をいたぶりつくす事の出来る役。日頃のうっぷんを晴らせる。
なんてことを口にした瞬間にバッシングの嵐が来る。
どうしたものか……
きっとテレビ越しにこの制作発表を見ている高野さんは呆れている事だろう。
私自身が引きつった笑みを浮かべていることを自覚しているのだから。
「そ、そうですね。私たち大の仲良しですから役作りは大変かもしれませんね」
ハハハ――
乾いた笑いが会場に響いた。
かなり調子に乗っている。
でもそれは仕方のない事なのだ。
仕事では王子監督の新作映画にメインキャストとして出演。
プライベートでは世界一の彼氏ができた。
順風満帆とはまさにこの事。これがペーペー女優なら浮かれて天狗になるところだが、生憎私は芸歴12年のベテランである。
十代でベテランっていうのも何か嫌だけど。
悲しいかな、仕草はすでにオバサンのそれである。
「何一人でニヤついているの? 気持ち悪いわよ」
「高野さんヒドイ!?」
私これでも結構かわいいからね。美人とかとは少し違うけど巷じゃ、愛くるしいとかって言われてるんだから。
「自分の担当女優を貶なして何かメリットってあるの?」
「私がスッキリする」
身勝手な。実に利己的な発想の基に人を貶している。
人権など皆無。私の人権ってどこにあったっけ高野さーん。
「ん? 何かな結衣」
え……声に出てた? 私の心の声漏れてた――っていうか駄々漏れ!?
「大丈夫よ~、貴女の心の声なんて聞こえてないから。私エスパーでも何でもないもの」
充分にエスパーである。
「貴女はすぐに顔に出るのよ。芸能人としては致命的ね。早くポーカーフェイスを覚えなさい」
これは私に非があるのか、それとも高野さんの超人じみた観察眼を褒めるべきなのだろうか。
「結衣そろそろ準備しなさい。会場に到着するわ」
「了解」
敬礼ポーズと共にウィンクする。
バックミラー越しに「気持ち悪いわよ」と笑うと高野さんはアクセルを踏み込んだ。
…………
……
…
制作発表に押しかけた報道陣の数は優に300を超えた。
カメラの台数も数十台に上った。
瞼の裏にまでフラッシュの残像が映し出される。目を閉じていても眩しい。
ここで一つ疑問が浮上する。
なぜ私は待ちに待った制作発表の場で眼を閉じているのか。
答えは明白。私の隣に鎮座するキャストが原因だ。
「それでは質問のある方は挙手にてお願いいたします」司会のアナウンサーが告げると一斉に記者たちの手が上がる。
「ではそちらの紺色のスーツの女性の方どうぞ」
「はい、「月間Movie」の田中と申します。今回のキャスティングについてですが、超一流の俳優陣で固めているように思うのですが、その中で重要なメインキャストに無名の女優を抜擢した人選について伺いたいのですが」
気怠そうにマイクを取ると重重しく王子監督が口を開いた。
「はぁ、そうだなぁ……オレが選んだ。それ以上でもそれ以下でもない。無名とか、新人とかどうでも良くない? 無名の新人じゃなくて堀川汐莉ね」
それ以上は答えないという意志表示なのか、マイクをゆっくりと置いた。
「それでは次の方~」
一瞬凍りついた空気を察してか、軽い調子でアナウンサーが記者を指名する。
当てられた記者が立ち上がる。
「芸能新聞の岸谷です。新田さんにお聞きしたいのですが、今回のキャスティングでは、新田さんが私生活においても親しい綾瀬さんと完全敵対するようですが、役に入れなかったり、やり難さを感じたりはしますか?」
どうしよう。正直に答えていいものか……
本音を言えば最高の役。だって私が真希をいたぶりつくす事の出来る役。日頃のうっぷんを晴らせる。
なんてことを口にした瞬間にバッシングの嵐が来る。
どうしたものか……
きっとテレビ越しにこの制作発表を見ている高野さんは呆れている事だろう。
私自身が引きつった笑みを浮かべていることを自覚しているのだから。
「そ、そうですね。私たち大の仲良しですから役作りは大変かもしれませんね」
ハハハ――
乾いた笑いが会場に響いた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ススムが進に教えるお金持ちへの道
あがつま ゆい
キャラ文芸
令和3年、とある関東地方の県庁所在地にほど近い場所にあるデイサービス施設で働く「宮本 進」はカネが欲しかった。
カネが無い=死であった彼のもとに80を過ぎてもなお年収が1億あるという老人が施設に通いだしたという噂が届く。
進がその老人に金持ちになる秘訣を教えてくれと頼み込むところから物語の幕が上がる。
毎週月曜、水曜、土曜の19:00(午後7時)に更新。
小説家になろう、カクヨム、マグネットにも同時掲載。
内容は全て同じです。
愛の裏では、屠所之羊の声がする。
清水雑音
キャラ文芸
父の仕事の都合で引っ越すことになった神酒 秋真(みき しゅうま)は、町で起こっていく殺人事件に怯えながらも一人の女性を愛す。
しかしその女性の恋愛対象は骨にしかなく、それでも彼女に尽くしていく。
非道徳的(インモラル)で美しい、行き交う二人の愛の裏……
関西お嬢さま連合 ~『薔薇の園』の桜の姫君~「天はお嬢さまの上にお嬢さまを作らず、お嬢さまの下にお嬢さまを作らず。西園寺家の家訓でしてよ」
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
キャラ文芸
◆1行あらすじ
『関西お嬢さま連合』vs『九州お嬢さま連合』、西日本のお嬢さまの覇権をかけた財力バトル。
◆あらすじ
時は令和。
社会の平等化が進むにつれて「お嬢さま」という、いと尊き存在が減少しつつあるお嬢さま不遇の時代。
そんな時代にありながら、関西のお嬢さま方を存分にまとめあげていた『関西お嬢さま連合』筆頭お嬢さま・西園寺桜子さまのもとに、『九州お嬢さま連合』より『比べ合い』の矢文が届けられました。
挑まれた『比べ合い』は受けるのがお嬢さまの嗜み。
これは西日本の覇権をかけた、お嬢さま方の戦いの記録にございます。
優秀リケジョは化学教師に溺愛される
りり
恋愛
「だから……こうってこと」
他人よりちょ〜っと化学のできるJK、若葉。彼女はその化け物級の知能からクラスメイトと距離を取られていた。誰も理解してくれないと思った若葉だが
「知らんけどさ…」
適当に説明するくせに化学への熱意は人一倍な教師、瀬田に出会う。最初は普通の先生だった印象が困ってるのを助けてくれたことを機に好きと言う感情が芽生え始めて……
「秀才リケジョ×適当化学教師」が繰り広げるラブコメディ!
【登場人物】
不宮若葉
化学ができる女子高生!化学基礎は常に学年トップ。
瀬田裕也
化学教師。生徒会の顧問でもあり、人気な先生。
ユズ
若葉と中学から親友。2人の変化を見守る。
見崎なみ
生徒会長。実は特殊能力があったり……?二人を応援してる。
爆弾拾いがついた嘘
生津直
現代文学
「助手は要りませんか?」
「家政婦の真似事なら他を当たってくれ」
断られるのは無理もない。無資格の学生の身分で一流技術者の門を叩いているのだから。そんな女子学生、冴島一希が目指すのは、内戦の遺物である不発弾の処理業者。命がけの職業であり、女性の前例がない世界だ。
「お前をただ働きの使いっ走りに任命する。感謝しろ」
最悪の第一印象をくつがえし、無愛想な男のもとで住み込み修業を始める一希。厳しくも親身な指導に必死に応えながら、性別や血筋に対する自身の偏見に気付き、自分一人で頑張ろうとする癖をも克服していく。
二年の時を経て、師弟の関係はより親密なものへと育ちつつあったが、二人には別れの時がやってくる。
ついに処理士となった一希は、特別危険な任務の最中に、思いがけず師匠と再会。重傷で意識が遠のく中、師匠の出生の秘密と本心を知ってしまい……。
二つの血をめぐる人間ドラマ。師弟の絆と淡い恋。そして、苦い嘘。
【ハッピーエンドです。】
【リアリティ、心理描写、没入感に定評あり。】
【小説家になろう、カクヨム、ステキブンゲイにも掲載しています(改稿版含む)。】
【あさぎ かな様より、表紙画像を頂戴しました。ありがとうございます!】
ショタパパ ミハエルくん
京衛武百十
キャラ文芸
蒼井ミハエルは、外見は十一歳くらいの人間にも見えるものの、その正体は、<吸血鬼>である。人間の<ラノベ作家>である蒼井霧雨(あおいきりさめ)との間に子供を成し、幸せな家庭生活を送っていた。
なお、長男と長女はミハエルの形質を受け継いで<ダンピール>として生まれ、次女は蒼井霧雨の形質を受け継いで普通の人間として生まれた。
これは、そういう特殊な家族構成でありつつ、人間と折り合いながら穏当に生きている家族の物語である。
筆者より
ショタパパ ミハエルくん(マイルドバージョン)として連載していたこちらを本編とし、タイトルも変更しました。
【完結】双子の入れ替わりなんて本当に出来るのかしら、と思ったら予想外の出来事となりました。
まりぃべる
恋愛
シェスティン=オールストレームは、双子の妹。
フレドリカは双子の姉で気が強く、何かあれば妹に自分の嫌な事を上手いこと言って押し付けていた。
家は伯爵家でそれなりに資産はあるのだが、フレドリカの急な発言によりシェスティンは学校に通えなかった。シェスティンは優秀だから、という理由だ。
卒業間近の頃、フレドリカは苦手な授業を自分の代わりに出席して欲しいとシェスティンへと言い出した。
代わりに授業に出るなんてバレたりしないのか不安ではあったが、貴族の友人がいなかったシェスティンにとって楽しい時間となっていく。
そんなシェスティンのお話。
☆全29話です。書き上げてありますので、随時更新していきます。時間はばらばらかもしれません。
☆現実世界にも似たような名前、地域、名称などがありますが全く関係がありません。
☆まりぃべるの独特な世界観です。それでも、楽しんでいただけると嬉しいです。
☆現実世界では馴染みの無い言葉を、何となくのニュアンスで作ってある場合もありますが、まりぃべるの世界観として読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる