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第一幕 転校生は朝ドラ女優!?
ACT20
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準備に稽古と大変だったけど何とか文化祭当日を迎えることが出来た。
ただ一つ気がかりがある。真希が学園祭のゲストの依頼を受けた事だ。
一度は断っておきながら折り返し連絡をしてきたのだという。
高校の学園祭のゲストなんて仕事を真希が積極的に受けるなんておかしい。何より、みんなの間で真希の評判が上がっているのが気に食わない。
新田結衣は断ったけど、綾瀬真希は受けてくれた。新田結衣は天狗になってる。などなど本人の前で言いたい放題。
そのたびに瑞樹に慰めてもらった。
「結衣。時間だよ」
クラスメイトの声に現実へと引き戻される。
「わかった」
講堂で行われる演劇の上演時間が迫っていた。
***
四大悲劇やロミオとジュリエットなどで有名なシェイクスピアだが、喜劇だって書いている。今回上演している十二夜も喜劇である。
ヴェニスの商人なんかが有名どころだとは思うが、個人的には十二夜の方が好みである。
登場人物の感情が判り易く、笑いどころも多い。
舞台袖で出番を待っている間にも客席の方から笑い声が漏れている。
悔しいがそれは間宮千鶴の演技がもたらしているものだ。
舞台慣れしている。その事は演技を見ていれば判る。
大きい動作に声の抑揚。それらすべてがハイレベル。芸術特待生と言うのも頷ける。
まあ、一人だけ演技が別次元にあるために素人集団の中で浮いているのも確かである。
それは私も同じなのだが。私が演じるオリヴィアは千鶴の演じるヴァイオラとの掛け合いが多いために浮くことはなかった。
プロの舞台とは違う、文化祭の舞台ならではの高揚感だったり達成感があった。
拍手の中演者の一人として挨拶をする。
大変だったけど充実した一日だ。まだ、午前中だけど。
***
ぼんやりと靄のかかった視界がゆっくりと晴れていく。
目をこすりながら辺りを見回す。
あれ? 暗い。
教室の窓から見る空は澄んだ藍色に染まっていた。
遥か彼方に思える山々の合間から淡い橙色が藍色の空へと溶け出している。
「見つけた」
振り返ると、赤崎君が私を見つめていた。
「あれ、どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇよ。新田が見当たらないってお友達が探してたぞ。俺は御田園に捕まって手伝わされた」
「ご苦労様です」
「まったくだよ」
そう言いながらもどこか楽しげに笑う。
「行こうぜ。みんな待ってる」
「うん」
彼の後に続いて教室を出た。
文化祭の最後に食堂でパーティーと呼ばれる催しがある。パーティーと言ってもバイキング形式の食事と談笑しかすることがないと、瑞樹から聞いてはいたが楽しみの一つでもあった。
このパーティーのゲストこそ真希である。
仮設の檀上に目をやるが、まだ真希の姿はない。
食堂の壁には目を引く、ショッキングピンクのチラシ(制作には私も携わった)が所狭しと貼られている。
毎年、ベストカップルコンテストなるものが開催されているらしい。
「出てみるか?」
チラシを見ながら彼が言う。
「あ、い……いやぁ……」
一気に顔が火照り上気する。
「じゃあ、私と出ようか。お兄さん」
聞き覚えのある声にハッと我に返る。
「……真希」
そこにはもっとも付き合いが古く、もっとも嫌悪する女の顔があった。
ただ一つ気がかりがある。真希が学園祭のゲストの依頼を受けた事だ。
一度は断っておきながら折り返し連絡をしてきたのだという。
高校の学園祭のゲストなんて仕事を真希が積極的に受けるなんておかしい。何より、みんなの間で真希の評判が上がっているのが気に食わない。
新田結衣は断ったけど、綾瀬真希は受けてくれた。新田結衣は天狗になってる。などなど本人の前で言いたい放題。
そのたびに瑞樹に慰めてもらった。
「結衣。時間だよ」
クラスメイトの声に現実へと引き戻される。
「わかった」
講堂で行われる演劇の上演時間が迫っていた。
***
四大悲劇やロミオとジュリエットなどで有名なシェイクスピアだが、喜劇だって書いている。今回上演している十二夜も喜劇である。
ヴェニスの商人なんかが有名どころだとは思うが、個人的には十二夜の方が好みである。
登場人物の感情が判り易く、笑いどころも多い。
舞台袖で出番を待っている間にも客席の方から笑い声が漏れている。
悔しいがそれは間宮千鶴の演技がもたらしているものだ。
舞台慣れしている。その事は演技を見ていれば判る。
大きい動作に声の抑揚。それらすべてがハイレベル。芸術特待生と言うのも頷ける。
まあ、一人だけ演技が別次元にあるために素人集団の中で浮いているのも確かである。
それは私も同じなのだが。私が演じるオリヴィアは千鶴の演じるヴァイオラとの掛け合いが多いために浮くことはなかった。
プロの舞台とは違う、文化祭の舞台ならではの高揚感だったり達成感があった。
拍手の中演者の一人として挨拶をする。
大変だったけど充実した一日だ。まだ、午前中だけど。
***
ぼんやりと靄のかかった視界がゆっくりと晴れていく。
目をこすりながら辺りを見回す。
あれ? 暗い。
教室の窓から見る空は澄んだ藍色に染まっていた。
遥か彼方に思える山々の合間から淡い橙色が藍色の空へと溶け出している。
「見つけた」
振り返ると、赤崎君が私を見つめていた。
「あれ、どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇよ。新田が見当たらないってお友達が探してたぞ。俺は御田園に捕まって手伝わされた」
「ご苦労様です」
「まったくだよ」
そう言いながらもどこか楽しげに笑う。
「行こうぜ。みんな待ってる」
「うん」
彼の後に続いて教室を出た。
文化祭の最後に食堂でパーティーと呼ばれる催しがある。パーティーと言ってもバイキング形式の食事と談笑しかすることがないと、瑞樹から聞いてはいたが楽しみの一つでもあった。
このパーティーのゲストこそ真希である。
仮設の檀上に目をやるが、まだ真希の姿はない。
食堂の壁には目を引く、ショッキングピンクのチラシ(制作には私も携わった)が所狭しと貼られている。
毎年、ベストカップルコンテストなるものが開催されているらしい。
「出てみるか?」
チラシを見ながら彼が言う。
「あ、い……いやぁ……」
一気に顔が火照り上気する。
「じゃあ、私と出ようか。お兄さん」
聞き覚えのある声にハッと我に返る。
「……真希」
そこにはもっとも付き合いが古く、もっとも嫌悪する女の顔があった。
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