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第一幕 転校生は朝ドラ女優!?
ACT19
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「なにその子?」
普段は子どもになんか興味を示さない真希が声を掛けてくる。
「迷子みたいなの」
短く返答する。
「ふーん。で、なにしてんの?」
興味を失ったように真希はどこか遠くを見つめながら言った。
「勉強」
あんたと違って、と続く言葉は飲み込んだ。
その時再びスマートフォンが鳴った。
「もしもし」
「ごめん。言い忘れてた。数学の課題が追加されるらしい。まあ、それだけなんだけど」
「うん。わかった。ありがとう」
「おう。また学校で」
通話終了。
「誰から?」
「ん、誰でもいいでしょ?」
「いや、なんか楽しそうだったから」
「そんなことないよ」
真希がいることを忘れて素で話し過ぎた。不覚だった。
「お姉ちゃん、さっきとおん―」
女の子の口を塞ぐ。
碌でもないことを口走るのは目に見えていた。
「なにやってんの。その子、可哀想じゃん」
「スキンシップよ」
急いでこの場から離れなければ。
「お姉さんがジュース奢ってあげる」
そう言って女の子の腕を掴むと、多少強引に引っ張ってお店まで連れて行った。
「行ってらっしゃーい」
妙に弾んだ声が背中に飛んできた。
「おいしい?」
「うん」
園児が自力で買うのは難しい高級ジュースだおいしいことだろう。
「じゃあ、私はもう行くわ」
「あら、そう? それじゃ」
手を振る。私に合わせて女の子も手を振る。
「ええ、それじゃあ」
立ち去る一瞬、真希の口元が僅かにニヤリと弧を描いたように見えた。
それからすぐ、女の子のお母さんが迎えに来た。頻りに頭を下げお礼を言う。
女の子が別れ際にサインを求めてきたので快く書いてあげた。
想像以上に喜んでくれたので、数秒ペンを走らせただけの私は気恥ずかしくなった。
「ばいばーい。フランちゃん」
手をブンブン振る。
それに応えて私も「またねー」と手を振り返す。
「ごめん待たせた」と謝りながら高野さんが到着。
「帰ろうか」
「うん」
帰路につきいた私たちは、二重生活始まって以来、最大の危機を迎えることとなる。
…………
……
…
「ただいまー」
家に帰ると早々に私は鞄を漁る。
赤崎君に電話番号を教えたことについて説教をしてやらなければ。
きっと花楓だけじゃなくてほかのみんなも知っているのだろう。みんな説教だ。
ゴソゴソ……?
あれ? ない? ウソでしょ……。
「どうしたの?」
「なになに?」
「ないの」
「なにが?」
「……スマホ」
個人情報だけじゃない。二重生活の証拠もデータとして残ってる。どうしよう。
「大丈夫どこかにあるわよ」
高野さんの励ましも私には届かなかった。
あの時、真希が嘲るように笑った理由に思い至って目の前が真っ暗になった。
文化祭までの時間は刻々と迫っていた。
普段は子どもになんか興味を示さない真希が声を掛けてくる。
「迷子みたいなの」
短く返答する。
「ふーん。で、なにしてんの?」
興味を失ったように真希はどこか遠くを見つめながら言った。
「勉強」
あんたと違って、と続く言葉は飲み込んだ。
その時再びスマートフォンが鳴った。
「もしもし」
「ごめん。言い忘れてた。数学の課題が追加されるらしい。まあ、それだけなんだけど」
「うん。わかった。ありがとう」
「おう。また学校で」
通話終了。
「誰から?」
「ん、誰でもいいでしょ?」
「いや、なんか楽しそうだったから」
「そんなことないよ」
真希がいることを忘れて素で話し過ぎた。不覚だった。
「お姉ちゃん、さっきとおん―」
女の子の口を塞ぐ。
碌でもないことを口走るのは目に見えていた。
「なにやってんの。その子、可哀想じゃん」
「スキンシップよ」
急いでこの場から離れなければ。
「お姉さんがジュース奢ってあげる」
そう言って女の子の腕を掴むと、多少強引に引っ張ってお店まで連れて行った。
「行ってらっしゃーい」
妙に弾んだ声が背中に飛んできた。
「おいしい?」
「うん」
園児が自力で買うのは難しい高級ジュースだおいしいことだろう。
「じゃあ、私はもう行くわ」
「あら、そう? それじゃ」
手を振る。私に合わせて女の子も手を振る。
「ええ、それじゃあ」
立ち去る一瞬、真希の口元が僅かにニヤリと弧を描いたように見えた。
それからすぐ、女の子のお母さんが迎えに来た。頻りに頭を下げお礼を言う。
女の子が別れ際にサインを求めてきたので快く書いてあげた。
想像以上に喜んでくれたので、数秒ペンを走らせただけの私は気恥ずかしくなった。
「ばいばーい。フランちゃん」
手をブンブン振る。
それに応えて私も「またねー」と手を振り返す。
「ごめん待たせた」と謝りながら高野さんが到着。
「帰ろうか」
「うん」
帰路につきいた私たちは、二重生活始まって以来、最大の危機を迎えることとなる。
…………
……
…
「ただいまー」
家に帰ると早々に私は鞄を漁る。
赤崎君に電話番号を教えたことについて説教をしてやらなければ。
きっと花楓だけじゃなくてほかのみんなも知っているのだろう。みんな説教だ。
ゴソゴソ……?
あれ? ない? ウソでしょ……。
「どうしたの?」
「なになに?」
「ないの」
「なにが?」
「……スマホ」
個人情報だけじゃない。二重生活の証拠もデータとして残ってる。どうしよう。
「大丈夫どこかにあるわよ」
高野さんの励ましも私には届かなかった。
あの時、真希が嘲るように笑った理由に思い至って目の前が真っ暗になった。
文化祭までの時間は刻々と迫っていた。
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