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第一幕 転校生は朝ドラ女優!?
ACT14
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学校に通い始めてひと月が経つ。
学校も仕事も順調。と言いたいところだけど、全く両立できていない。
主に学校の方。
友達も出来た。学校生活自体は楽しい。ただ……
「コレはひどいね」
「見してみして~」
「私も初めは目を疑いました」
「ま、まぁ……気にしなくても……いいと思うよ。私も似たようなものだし」
「花楓と同じなのは不味いでしょ」
「やっぱりそうなのかな?」
「そうだよ……って花楓もこのままじゃダメだからね」
「……プッ」
今現在、私を含めた女子7人グループは食堂の丸机を取り囲んでいた。
机の中央には今週出された小テストの答案用紙。
赤い数字から目を背けたくなる。
「よくもまぁ、こんな点数が取れるよね。漫画の中だけの話かと思ってた。実際に起こりうる出来事だったとは……」
瑞樹がどこか楽しげに言う。
「どうしよー」
机に頭をこすりつける。
突っ伏したままボソリと「私ってこんなにバカだったっけ?」と零す。
そういえば、
「花楓もあんまり頭良くなかったよね」
「失礼だなッ!」
花楓のツッコミが間髪入れず飛んでくる。
「慰めなない方がよかった?」
「そんなことない、そんなことない。でもさ、みんな私のことばっかり言うけどさ、花楓もヤバいんじゃない?」
「確かに花楓も相当なおバカさんだとは思うけど、特待生は簡単な課題もらってそれを提出したらいいから」
詩乃が私の疑問に答える。
「いやいや。詩乃っちも相当ヤバいからね。成績」
と、鈴音が割って入る。
「ていうかさ……」
間をおいて、
「詩乃っちもユッキーも編入生だよね。編入試験よく受かったよね~」
軽い談笑といった雰囲気だからいいが、深く突っ込まれたら……ヤバい。
「今回は簡単だったのかなぁ~」(そもそも試験なんて受けてないし)
「えっ、私はやればできる子だから」
堂々と言ってのける詩乃に感心する。
「詩乃は不思議なんだよね」
「どういう事?」
尋ねると、友香は不思議そうに、
「今回の詩乃の小テストの点数知ってる?」
私は首を横に振る。
「全教科100点」
100点!?
100点ってあの100点!?
「感が冴えてた」
別段不思議な事ではないと言いたげな表情の詩乃が抑揚のない声で告げた。
「詩乃っちは不思議ちゃんだからね~。当たったらすごいから」
「だとすると結衣が一番ヤバいってことになるね。ヤマも張れないみたいだし」
うぅ……確かに。
言い淀んでいると。
「大丈夫です。結衣さんなら」
「ありがと。冴子ちゃん」
「でも冴子、80点以下は取ったことない俗に言う才女だよ」
「マジかぁ」
「ついでに財閥のお嬢」
……なんだそれ。勝ち組じゃん。
「あ、でも天然だよ」
天然キャラまで!?
友香のフォローは私には届いていなかった。
はぁ、なんか最近自信が無くなってきた。
私って一般人とは違うとかどこかで思ってたけど、一般人の方がよっぽどキャラが濃い。
朝ドラ女優なんて個性でもなんでもない。
芸能界のそのまた俳優の世界しか知らない世間知らずの小娘だった。
自信喪失の私に「どうした?」と緊張感ゼロのお隣さんが話しかけてくる。
「別に、小テストがね……」
「ああ、良くなかつたのか」
(ハッキリ言うなぁ、デリカシーないな)
間をおいて、
「まあ、俺も似たようなもんだよ」
だから気にするなと白い歯を覗かせる。
どうやら気を使われたらしい。
「でも、私ほどじゃないでしょ」
みんなに話を聴く限り、この学校では成績下位の者は皆、スポーツ特待生の学生であり、一般の生徒が下位争いに顔を出すことはまずないらしい。
一部例外を除き(私とか……)。
「そんな事ないぞ。俺は毎回成績は下から数えた方が早いし、ほら、お前が仲良くしてる御田園花楓いるだろ。あれとトントンだ」
「それってヤバいんじゃないの?」
食堂での会話を思い出しながら訊ねた。
「まあ、そうだな。アイツはまだいいけど、俺はなぁ……」
少し表情が曇ったように思われた。
何かまずいことでも言っただろうか? 反射的に謝罪の言葉が出そうになる。
しかし私の言葉を「じゃあ、勉強会でもするか」という提案の言葉が遮った。
「勉強会……」
「嫌か?」
勉強会……なんかそれって……メチャクチャ学生ぽくない!?
私は普通の学生らしいイベントに心躍らせ二つ返事で快諾していた。
勉強会は放課後に学校の付属図書館。
この勉強会がもたらす試練など知るはずもない私が後悔するのは避けられない運命だった。
なんだろう、この空気……。
図書館に設けられた勉強スペースの机に座る私はため息を吐く。
目の前には眼光鋭く、暗殺者ばりの殺気を放つ女王様――間宮千鶴がいる。
成績上位者で常に上位五番をキープしているらしい。
勉強しなくてもいいじゃん。
心の声が聞こえたのだろうか、
「アナタたちがクラスの平均点を大幅に下げるから、私自らこうして教えてあげてるのよ。感謝しなさい」
上から目線なうえに押し付けがましい。典型的な自己中だ。頭が良くても性格が……。仲良くなれる気がしない。
「千鶴。先生が探してたよ」
確かとなりのクラスの子だったか? が千鶴を見つけ声をかける。
「わかったわ。すぐに行く」
素早く机に広げた筆記用具を片付け、鞄に仕舞うと、ちゃんと勉強しなさいよ、と言い付けて図書館を後にした。視線が一度も合わなかった。露骨に私を避けている。
正直気分が悪い。
私が何でこんな思いをしなくてはいけないのか、理由はわかっている。
自分以外の人間が赤崎綾人と仲良くなるのが許せないのだ。
恋愛というものは人を醜く変貌させる。
ドラマや映画で愛に狂った人間を演じた経験はある。しかし、どの役もイマイチ当たり役とはならなかった。
今日の千鶴の殺気の篭った視線を受けてわかった。私の演技は愛を知らない人間の演技だったのだと。
だから新田結衣はワンパターンと叩かれる。
一つ勉強になった。私の知っている世界はとても狭いものだったのだ。
「なんか機嫌悪かったな。アイツ」とまるで他人事のように語る元凶は元カノの気持ちが全く判っていないようだ。
少しだけ千鶴に同情する。
それにしても……似てるよなぁ。
第一印象は私の事を馬鹿にして笑う嫌なヤツくらいの認識しかなかったのだが、よくよく話を聴くと、面白いヤツ、という事で笑っていただけで馬鹿にしたつもりはなかったと謝罪を受けてしまった。
誤解が解けてからたまに話すようになってから気づいたことがある。
赤崎くんってカグラ様と声そっくりじゃない!?
気付いてしまってからというもの、彼と話すとカグラ様が頭を過ぎる。
心臓に悪い。
顔だけなら芸能界で嫌というほどイケメンを見てきた。
しかし、声は別だ。理想の顔以上に理想の声とは巡り逢えないものなのだ。その点で目の前にいる男子は私のストライクゾーンであった(声が)。
「ん? 何?」
目を閉じればそこにいるのはカグラ様。目を開ければ……ただのイケメンがいる。
「なんでもない」
「なんか落ち込んでる?」
「いや、理想と現実は違うなぁと思ってね」
「何それ? 哲学的な問題?」
フルフルと首を振る。
「赤崎くんってカグラ様に似てるなって話」
ふーん、と興味なさげに返す。
「ごめん。興味なかったね」
話を切り上げて勉強に戻る。
どうしよう……。
二人とも馬鹿だからどこから手を付けたらいいのか判らない。
ポケットのスマホが振動する。
あっ、高野さんからだ。
げっ、何回も連絡来てる。
どうした、と綾人がこちらを伺う。
「あ、うん。お母さんから」
マネージャーからなんて言えるわけない。
LINEにメール。よほど私と連絡が取りたかったんだな、とどこか他人事のように考えていると、
ヴゥ~ヴゥ~
再びスマホが震える。
今度は電話だ。
「はい、もしもし」
図書館での通話は禁止である。
なるべく声をひそめて話す。
「どうしたの?」
緊急連絡なのは間違いない。
私が学校にいる間、なるべく業界の話は入れないようにみんなが気を使ってくれている。
特に高野さんは送迎の連絡以外は入れて来ない。そんな高野さんが連絡を寄越したのだから急を要するのだろう。
電話越しの高野さんの声は弾んでいて、悪い知らせでないことだけは判った。
「結衣よく聞いて。王子晴信監督から出演オファーがあったわ」
……ホントに、私が……、
「やったーッ!!」
歓喜の声が図書館に響き渡った。
学校も仕事も順調。と言いたいところだけど、全く両立できていない。
主に学校の方。
友達も出来た。学校生活自体は楽しい。ただ……
「コレはひどいね」
「見してみして~」
「私も初めは目を疑いました」
「ま、まぁ……気にしなくても……いいと思うよ。私も似たようなものだし」
「花楓と同じなのは不味いでしょ」
「やっぱりそうなのかな?」
「そうだよ……って花楓もこのままじゃダメだからね」
「……プッ」
今現在、私を含めた女子7人グループは食堂の丸机を取り囲んでいた。
机の中央には今週出された小テストの答案用紙。
赤い数字から目を背けたくなる。
「よくもまぁ、こんな点数が取れるよね。漫画の中だけの話かと思ってた。実際に起こりうる出来事だったとは……」
瑞樹がどこか楽しげに言う。
「どうしよー」
机に頭をこすりつける。
突っ伏したままボソリと「私ってこんなにバカだったっけ?」と零す。
そういえば、
「花楓もあんまり頭良くなかったよね」
「失礼だなッ!」
花楓のツッコミが間髪入れず飛んでくる。
「慰めなない方がよかった?」
「そんなことない、そんなことない。でもさ、みんな私のことばっかり言うけどさ、花楓もヤバいんじゃない?」
「確かに花楓も相当なおバカさんだとは思うけど、特待生は簡単な課題もらってそれを提出したらいいから」
詩乃が私の疑問に答える。
「いやいや。詩乃っちも相当ヤバいからね。成績」
と、鈴音が割って入る。
「ていうかさ……」
間をおいて、
「詩乃っちもユッキーも編入生だよね。編入試験よく受かったよね~」
軽い談笑といった雰囲気だからいいが、深く突っ込まれたら……ヤバい。
「今回は簡単だったのかなぁ~」(そもそも試験なんて受けてないし)
「えっ、私はやればできる子だから」
堂々と言ってのける詩乃に感心する。
「詩乃は不思議なんだよね」
「どういう事?」
尋ねると、友香は不思議そうに、
「今回の詩乃の小テストの点数知ってる?」
私は首を横に振る。
「全教科100点」
100点!?
100点ってあの100点!?
「感が冴えてた」
別段不思議な事ではないと言いたげな表情の詩乃が抑揚のない声で告げた。
「詩乃っちは不思議ちゃんだからね~。当たったらすごいから」
「だとすると結衣が一番ヤバいってことになるね。ヤマも張れないみたいだし」
うぅ……確かに。
言い淀んでいると。
「大丈夫です。結衣さんなら」
「ありがと。冴子ちゃん」
「でも冴子、80点以下は取ったことない俗に言う才女だよ」
「マジかぁ」
「ついでに財閥のお嬢」
……なんだそれ。勝ち組じゃん。
「あ、でも天然だよ」
天然キャラまで!?
友香のフォローは私には届いていなかった。
はぁ、なんか最近自信が無くなってきた。
私って一般人とは違うとかどこかで思ってたけど、一般人の方がよっぽどキャラが濃い。
朝ドラ女優なんて個性でもなんでもない。
芸能界のそのまた俳優の世界しか知らない世間知らずの小娘だった。
自信喪失の私に「どうした?」と緊張感ゼロのお隣さんが話しかけてくる。
「別に、小テストがね……」
「ああ、良くなかつたのか」
(ハッキリ言うなぁ、デリカシーないな)
間をおいて、
「まあ、俺も似たようなもんだよ」
だから気にするなと白い歯を覗かせる。
どうやら気を使われたらしい。
「でも、私ほどじゃないでしょ」
みんなに話を聴く限り、この学校では成績下位の者は皆、スポーツ特待生の学生であり、一般の生徒が下位争いに顔を出すことはまずないらしい。
一部例外を除き(私とか……)。
「そんな事ないぞ。俺は毎回成績は下から数えた方が早いし、ほら、お前が仲良くしてる御田園花楓いるだろ。あれとトントンだ」
「それってヤバいんじゃないの?」
食堂での会話を思い出しながら訊ねた。
「まあ、そうだな。アイツはまだいいけど、俺はなぁ……」
少し表情が曇ったように思われた。
何かまずいことでも言っただろうか? 反射的に謝罪の言葉が出そうになる。
しかし私の言葉を「じゃあ、勉強会でもするか」という提案の言葉が遮った。
「勉強会……」
「嫌か?」
勉強会……なんかそれって……メチャクチャ学生ぽくない!?
私は普通の学生らしいイベントに心躍らせ二つ返事で快諾していた。
勉強会は放課後に学校の付属図書館。
この勉強会がもたらす試練など知るはずもない私が後悔するのは避けられない運命だった。
なんだろう、この空気……。
図書館に設けられた勉強スペースの机に座る私はため息を吐く。
目の前には眼光鋭く、暗殺者ばりの殺気を放つ女王様――間宮千鶴がいる。
成績上位者で常に上位五番をキープしているらしい。
勉強しなくてもいいじゃん。
心の声が聞こえたのだろうか、
「アナタたちがクラスの平均点を大幅に下げるから、私自らこうして教えてあげてるのよ。感謝しなさい」
上から目線なうえに押し付けがましい。典型的な自己中だ。頭が良くても性格が……。仲良くなれる気がしない。
「千鶴。先生が探してたよ」
確かとなりのクラスの子だったか? が千鶴を見つけ声をかける。
「わかったわ。すぐに行く」
素早く机に広げた筆記用具を片付け、鞄に仕舞うと、ちゃんと勉強しなさいよ、と言い付けて図書館を後にした。視線が一度も合わなかった。露骨に私を避けている。
正直気分が悪い。
私が何でこんな思いをしなくてはいけないのか、理由はわかっている。
自分以外の人間が赤崎綾人と仲良くなるのが許せないのだ。
恋愛というものは人を醜く変貌させる。
ドラマや映画で愛に狂った人間を演じた経験はある。しかし、どの役もイマイチ当たり役とはならなかった。
今日の千鶴の殺気の篭った視線を受けてわかった。私の演技は愛を知らない人間の演技だったのだと。
だから新田結衣はワンパターンと叩かれる。
一つ勉強になった。私の知っている世界はとても狭いものだったのだ。
「なんか機嫌悪かったな。アイツ」とまるで他人事のように語る元凶は元カノの気持ちが全く判っていないようだ。
少しだけ千鶴に同情する。
それにしても……似てるよなぁ。
第一印象は私の事を馬鹿にして笑う嫌なヤツくらいの認識しかなかったのだが、よくよく話を聴くと、面白いヤツ、という事で笑っていただけで馬鹿にしたつもりはなかったと謝罪を受けてしまった。
誤解が解けてからたまに話すようになってから気づいたことがある。
赤崎くんってカグラ様と声そっくりじゃない!?
気付いてしまってからというもの、彼と話すとカグラ様が頭を過ぎる。
心臓に悪い。
顔だけなら芸能界で嫌というほどイケメンを見てきた。
しかし、声は別だ。理想の顔以上に理想の声とは巡り逢えないものなのだ。その点で目の前にいる男子は私のストライクゾーンであった(声が)。
「ん? 何?」
目を閉じればそこにいるのはカグラ様。目を開ければ……ただのイケメンがいる。
「なんでもない」
「なんか落ち込んでる?」
「いや、理想と現実は違うなぁと思ってね」
「何それ? 哲学的な問題?」
フルフルと首を振る。
「赤崎くんってカグラ様に似てるなって話」
ふーん、と興味なさげに返す。
「ごめん。興味なかったね」
話を切り上げて勉強に戻る。
どうしよう……。
二人とも馬鹿だからどこから手を付けたらいいのか判らない。
ポケットのスマホが振動する。
あっ、高野さんからだ。
げっ、何回も連絡来てる。
どうした、と綾人がこちらを伺う。
「あ、うん。お母さんから」
マネージャーからなんて言えるわけない。
LINEにメール。よほど私と連絡が取りたかったんだな、とどこか他人事のように考えていると、
ヴゥ~ヴゥ~
再びスマホが震える。
今度は電話だ。
「はい、もしもし」
図書館での通話は禁止である。
なるべく声をひそめて話す。
「どうしたの?」
緊急連絡なのは間違いない。
私が学校にいる間、なるべく業界の話は入れないようにみんなが気を使ってくれている。
特に高野さんは送迎の連絡以外は入れて来ない。そんな高野さんが連絡を寄越したのだから急を要するのだろう。
電話越しの高野さんの声は弾んでいて、悪い知らせでないことだけは判った。
「結衣よく聞いて。王子晴信監督から出演オファーがあったわ」
……ホントに、私が……、
「やったーッ!!」
歓喜の声が図書館に響き渡った。
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