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赤字脱却 編
お姫様はモノを捨てられない②
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冒険者ギルドに到着。
中の賑わいが外にまで漏れ聞こえています。
在庫のポーションがあまりにも多かったため、荷馬車を使用しました。
荷を引いた馬は何処か気怠そうです。
ごめんなさい。
この想いが伝わっているかは分かりませんが、労って頭をなでてやります。
すると、ヒヒィンと元気に応えてくれます。
その間もヨイチさんは一人荷下ろしをしており、私も急いで手伝いに入ります。
「こっちはいいから、ギルドの方に話をつけてきてください」
「は、はい。分かりました」
ヨイチさんの指示に従い、先にギルドへと入ります。
ギルドへ入ると、冒険者の方々が一斉にこちらを振り向きます。
私には分かりませんが、冒険者には冒険者の方が纏う雰囲気というものがあるらしいのです。
そんな中に、全く違う雰囲気を纏った人間が入ると異物感を抱くのだとか。
とは言え、ギルドは冒険者だけでなく、商人の方も少なからず出入りするのですが、私は未だに商人の雰囲気を纏っていないようなのです。
要は半端者なのです。
冒険者の皆さんはすぐに談笑を再開します。
商人の雰囲気を纏っていないんだけで、私はポーションをギルドに卸している商人と認識されています。
いつまで経っても半人前と思われているかもしれませんが……
私は受付まで行くと呼び鈴を鳴らします。
受付嬢の一人が顔を出し、
「あら、セルシアさん。今日はどのようなご用件ですか?」
口調は柔らかいが、警戒心が見え隠れする。
商人が訊ねてくるのは商売の話の時、そこには一方的な損失の可能性が付いてまわります。
ギルドの職員として持ちかけられる話が利益を生むのか、それとも不利益となるモノなのか、見極めなくてはならないのです。
「はい。今日はご提案がございまして――」
私は、ヨイチさんがお話(正確には読み聞かせて)くださった内容を反芻しながら、説明をしました。
受付嬢の方は頭を抱えて掻き毟ります。
ギルドへとやって来る道中の私と同じ反応です。
理解できないわけではないのです。けれども、そんなことで売り上げが伸びるのか? と半信半疑なのです。
「私一人では判断しかねます」
絞り出すようにして答えた受付嬢は、唇をかみしめていました。
彼女はとても優秀な受付で、それは商人として半人前の私にも分かります。
ギルドで取引を始めた頃に、幾度かアドバイスをしていただいたのを覚えています。
真面目で博識な彼女にとっても「経済学」は突拍子な奇天烈な理論だったのでしょう。
「話しはつきましたか?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、ヨイチさんが服の袖で額の汗を拭っていました。
滴る汗でびっしょり濡れたシャツは貼り付き、体のラインが顕になります。
意外にもガッチリとしていらっしゃる体に目を奪われていると、
「ギルドの方ですか?」
「はい。受付嬢をしております、エミリアと申します」
「これはご丁寧にどうも、僕――私は黒羽夜一と言います。以後お見知りおきを」
綺麗なお辞儀を返され、ヨイチさんは佇まいを直して自己紹介をなさいます。
「あ、セルシアさんは残りの荷物持ってきてもらえますか?」
「え……はい、分かりました」
トボトボと荷物を取りに荷馬車へと向かう途中、振り返ってみれば彼は受付嬢――エミリアさんと楽しげに話しておられました。
何だか……無性に腹が立ちます。
ズンズンと歩みを進める私を、屈強な冒険者の方々が腫れ物に触るように見るので、思わずドンと勢いよく扉を力任せに開けてギルド会館を出たのでした。
中の賑わいが外にまで漏れ聞こえています。
在庫のポーションがあまりにも多かったため、荷馬車を使用しました。
荷を引いた馬は何処か気怠そうです。
ごめんなさい。
この想いが伝わっているかは分かりませんが、労って頭をなでてやります。
すると、ヒヒィンと元気に応えてくれます。
その間もヨイチさんは一人荷下ろしをしており、私も急いで手伝いに入ります。
「こっちはいいから、ギルドの方に話をつけてきてください」
「は、はい。分かりました」
ヨイチさんの指示に従い、先にギルドへと入ります。
ギルドへ入ると、冒険者の方々が一斉にこちらを振り向きます。
私には分かりませんが、冒険者には冒険者の方が纏う雰囲気というものがあるらしいのです。
そんな中に、全く違う雰囲気を纏った人間が入ると異物感を抱くのだとか。
とは言え、ギルドは冒険者だけでなく、商人の方も少なからず出入りするのですが、私は未だに商人の雰囲気を纏っていないようなのです。
要は半端者なのです。
冒険者の皆さんはすぐに談笑を再開します。
商人の雰囲気を纏っていないんだけで、私はポーションをギルドに卸している商人と認識されています。
いつまで経っても半人前と思われているかもしれませんが……
私は受付まで行くと呼び鈴を鳴らします。
受付嬢の一人が顔を出し、
「あら、セルシアさん。今日はどのようなご用件ですか?」
口調は柔らかいが、警戒心が見え隠れする。
商人が訊ねてくるのは商売の話の時、そこには一方的な損失の可能性が付いてまわります。
ギルドの職員として持ちかけられる話が利益を生むのか、それとも不利益となるモノなのか、見極めなくてはならないのです。
「はい。今日はご提案がございまして――」
私は、ヨイチさんがお話(正確には読み聞かせて)くださった内容を反芻しながら、説明をしました。
受付嬢の方は頭を抱えて掻き毟ります。
ギルドへとやって来る道中の私と同じ反応です。
理解できないわけではないのです。けれども、そんなことで売り上げが伸びるのか? と半信半疑なのです。
「私一人では判断しかねます」
絞り出すようにして答えた受付嬢は、唇をかみしめていました。
彼女はとても優秀な受付で、それは商人として半人前の私にも分かります。
ギルドで取引を始めた頃に、幾度かアドバイスをしていただいたのを覚えています。
真面目で博識な彼女にとっても「経済学」は突拍子な奇天烈な理論だったのでしょう。
「話しはつきましたか?」
後ろから声を掛けられ振り向くと、ヨイチさんが服の袖で額の汗を拭っていました。
滴る汗でびっしょり濡れたシャツは貼り付き、体のラインが顕になります。
意外にもガッチリとしていらっしゃる体に目を奪われていると、
「ギルドの方ですか?」
「はい。受付嬢をしております、エミリアと申します」
「これはご丁寧にどうも、僕――私は黒羽夜一と言います。以後お見知りおきを」
綺麗なお辞儀を返され、ヨイチさんは佇まいを直して自己紹介をなさいます。
「あ、セルシアさんは残りの荷物持ってきてもらえますか?」
「え……はい、分かりました」
トボトボと荷物を取りに荷馬車へと向かう途中、振り返ってみれば彼は受付嬢――エミリアさんと楽しげに話しておられました。
何だか……無性に腹が立ちます。
ズンズンと歩みを進める私を、屈強な冒険者の方々が腫れ物に触るように見るので、思わずドンと勢いよく扉を力任せに開けてギルド会館を出たのでした。
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