78 / 81
理想郷編
魔王とヴァンパイア⑦
しおりを挟む
すでに階段は塞がれており、瓦礫の山を駆け抜けて行く。
後ろから、高速飛行で器用に瓦礫の合間を縫って美羽が付いてくる。
「君さ、何してるの?」
「何って?」
「なんで塔に残ったのか聞いてるの」
「だって、まだ、鎧騎士の人があのままだったから」
「敵なのに助けるの?」
「敵でも助けるよ。あの人とは戦ったけど、悪い人には見えなかったから」
ふーん、と冬夜の話を聞きながら、美羽は「見る目あるじゃん」と笑った。私には無かったな、という呟きは聞こえなかったフリをした。
瓦礫に埋もれてしまってはいないかと、心配になるほど下の階へ行くほど状況は悪化していた。
幸いにも鎧騎士は無事だった。愛馬の一角獣が護っていたらしく、周囲には砕かれた瓦礫の山が出来ていた。
「立てますか?」
肩を貸すと、弱々しく身体を預けてきた。
「物好きだな、君は」
穏やかな声は戦闘時の声とあまりにもかけ離れていた。
女性!? 驚きのあまり固まってしまったらしく、美羽が早くしろと急かす。
意識してみれば#全身鎧__フルプレート__#は確かに重量がある。だが、それだけだ。人が身に着けていると思えないほどに軽い。
「置いて行け。情けは不要だよ。私は負けたんだから」
「そんなんじゃないです。オレが助けたいから助けるんです。勝手にやってることです。情けとかそんなことはよく分かりません」
「ハハハ、面白いな君は! いいだろう、君に助けられてやろう。その代わり責任は取ってもらうぞ」
「責任?」
「そうだ、死ぬ覚悟を決めていた人間を助けるんだ。私の命を勝手に助けた責任は取ってもらう」
冬夜には彼女の言っていることの意味が分からなかった。
だが、この責任は取らなくてはいけないものなのだろう、とも思った。
「分かりました。責任取ります。だから、助けられてください」
担ぎ上げて一角獣の背に乗せる。
「二人乗れるかな?」
「大丈夫だ……この子は力持ちだから」
消え入りそうな声で愛馬を撫でる。
大丈夫だ、とでも言うようにユニコーンは大きく鳴き、地面を蹴る。
「私の後に続いて――《風の弾丸》」
放たれた風の弾丸は塔の壁を破壊。次々に打ち込み、空けた穴を広げる。
三人と一頭が脱出した直後、塔は上層部分から順に下へと崩れ落ちていった。
全てが終わった。
世界の命運をかけた戦いがあったことなど、世界中の殆どの人が知らない。
冬夜たちは名誉も、称賛も、何も得るものはない。
残ったものは全身に漂う気怠さと、感覚の無くなった右腕だけだ。
けれども冬夜は後悔なんてしない。
自分のした選択は決して間違っていなかったと、胸を張って言える。
だから、今は少し休みたいな……
薄れゆく意識の中で、こちらに手を振る仲間たちの姿を、目に焼き付けてから瞼を閉じた――。
後ろから、高速飛行で器用に瓦礫の合間を縫って美羽が付いてくる。
「君さ、何してるの?」
「何って?」
「なんで塔に残ったのか聞いてるの」
「だって、まだ、鎧騎士の人があのままだったから」
「敵なのに助けるの?」
「敵でも助けるよ。あの人とは戦ったけど、悪い人には見えなかったから」
ふーん、と冬夜の話を聞きながら、美羽は「見る目あるじゃん」と笑った。私には無かったな、という呟きは聞こえなかったフリをした。
瓦礫に埋もれてしまってはいないかと、心配になるほど下の階へ行くほど状況は悪化していた。
幸いにも鎧騎士は無事だった。愛馬の一角獣が護っていたらしく、周囲には砕かれた瓦礫の山が出来ていた。
「立てますか?」
肩を貸すと、弱々しく身体を預けてきた。
「物好きだな、君は」
穏やかな声は戦闘時の声とあまりにもかけ離れていた。
女性!? 驚きのあまり固まってしまったらしく、美羽が早くしろと急かす。
意識してみれば#全身鎧__フルプレート__#は確かに重量がある。だが、それだけだ。人が身に着けていると思えないほどに軽い。
「置いて行け。情けは不要だよ。私は負けたんだから」
「そんなんじゃないです。オレが助けたいから助けるんです。勝手にやってることです。情けとかそんなことはよく分かりません」
「ハハハ、面白いな君は! いいだろう、君に助けられてやろう。その代わり責任は取ってもらうぞ」
「責任?」
「そうだ、死ぬ覚悟を決めていた人間を助けるんだ。私の命を勝手に助けた責任は取ってもらう」
冬夜には彼女の言っていることの意味が分からなかった。
だが、この責任は取らなくてはいけないものなのだろう、とも思った。
「分かりました。責任取ります。だから、助けられてください」
担ぎ上げて一角獣の背に乗せる。
「二人乗れるかな?」
「大丈夫だ……この子は力持ちだから」
消え入りそうな声で愛馬を撫でる。
大丈夫だ、とでも言うようにユニコーンは大きく鳴き、地面を蹴る。
「私の後に続いて――《風の弾丸》」
放たれた風の弾丸は塔の壁を破壊。次々に打ち込み、空けた穴を広げる。
三人と一頭が脱出した直後、塔は上層部分から順に下へと崩れ落ちていった。
全てが終わった。
世界の命運をかけた戦いがあったことなど、世界中の殆どの人が知らない。
冬夜たちは名誉も、称賛も、何も得るものはない。
残ったものは全身に漂う気怠さと、感覚の無くなった右腕だけだ。
けれども冬夜は後悔なんてしない。
自分のした選択は決して間違っていなかったと、胸を張って言える。
だから、今は少し休みたいな……
薄れゆく意識の中で、こちらに手を振る仲間たちの姿を、目に焼き付けてから瞼を閉じた――。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~
名無し
ファンタジー
この世界では、誰もが十歳になると天啓を得て様々なジョブが与えられる。
十六歳の少年アルファは、天啓を受けてからずっと【清掃師】という収集品を拾う以外に能がないジョブカーストの最底辺であった。
あるとき彼はパーティーの一員として迷宮山へ向かうが、味方の嫌がらせを受けて特殊な自然現象に巻き込まれてしまう。
山麓のボロ小屋で目覚めた彼は、ハンマーを持った少女たちに囲まれていた。
いずれも伝説のドワーフ一族で、最高の鍛冶師でもある彼女らの指示に従うことでアルファの清掃能力は精錬され、超絶スキル【一掃】を得る。それは自分の痛みであったり相手のパワーや能力であったりと、目に見えないものまで払うことができる神スキルだった。
最強となったアルファは、人類未踏峰の山々へと挑むことになる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く
burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。
最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。
更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。
「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」
様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは?
※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。
勇者(俺)いらなくね?
弱力粉
ファンタジー
異世界で俺強えええとハーレムを目指す勇者だった... が、能力が発動しなかったり、物理的にハーレムを禁じられたりと、何事も思ったように行かない。
一般人以下の身体能力しか持ち合わせていない事に気づく勇者だったが、それでも魔王討伐に駆り出される。
個性的なパーティーメンバーたちに振り回されながら、それでも勇者としての務めを果たそうとする。これは、そんな最弱勇者の物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる