上 下
50 / 81
理想郷編

真夏のビーチとケモノっ娘①

しおりを挟む
 知らない天井。
 それもそのはず、そこはホテルの一室だった。
 空港での騒動ののち、冬夜は宿泊予定のホテルに運び込まれた。
 そのままベッドに放り投げられた、らしい。
 そして今に至る。

「表に出ろ」

 あれ? ケンカ売られてる?
 ……――冗談はほどほどにして。
 児島先生が外に出ろと誘ってくれている。

「なかなかの絶景だぞ」

 冬夜は首を傾げた。

 …………
 ……
 …

「絶景かなぁ~!!」

 おどけた調子で児島先生が言う。

 雲一つない青空に、降り注ぐ太陽。
 じりじりと肌を焦がす太陽の陽射しすら今は心地好く感じる。
 永遠に続く白い砂浜に、飛び交う黄色い声。
 はしゃぐ声が幾重にも重なる。
 そこいらのオーケストラ以上に心地好い音色。
 幸せ――至福の一時。

 肌色の面積が! 面積がッ!!
 ナツダ島の売りの一つ。ビーチ。
 早速女性陣は水着に着替えて、波打ち際でキャッキャウフフと遊んでいる。
 眼福です。
 思わず拝みそうになる。

「冬夜~!!」

 手を振る希望は黒のビキニ姿だ。
 胸がいやでも強調され――すっごい揺れる。
 お尻なんかもキュッキュッと左右に――さらに、引き締まった腰がなんとも……、もはや全身凶器だ。

 彼女はただ歩いているだけだというのに、悩殺寸前だ。
 自身の劣情にブレーキ。

 少し恥ずかしそうに、真白が尋ねる。

「冬夜くん……どうかな?」

 普段もスタイルいいな、なんて事思ったりもしていたが、今、視線の先に素のままのプロポーションが存在していた。そうそうお目にかかれるものじゃない。

 透き通るような白い肌に白いビキニ。まるで彼女の清廉さを現しているようだ。
 そしてあえて下半身をパレオで隠すことで、彼女の恥じらいまでもが加味されて、けしからんです(意味不明)。

「……やっぱり変かな?」
「むしろ最高です!」

 もはや答えになっていない。
 真白も首を傾げている。

 希望の背中に隠れていた登丸先輩が顔を出す。
 普段は全身長いローブで隠しているから分からなかったが、モデル並のスタイルだ。そんじょそこらのモデルより、よっぽど均整が取れている。
 しかし、水着姿はお預け。
 恥ずかしいのだろう。Tシャツを上から着ているのだ。
 だがむしろ水に濡れて透けた水着のチラリズムが……、

(平凡設定なのを忘れて興奮してしまった。いや、平凡だからこそ興奮するのか? なんだか一周回って落ち着いてきたかもしれないぞ)

「ねぇ冬夜、誰の水着が一番似合ってる?」

 胸を強調したポーズで希望が尋ねる。
 言いよどんでいると、

「冬夜くんはどんなのが好みなの?」
「………………どうなの?」

 登丸先輩まで!?
 これはきちんと答えなくてはいけないパターンだ。
 三人の視線がイタい。

「おいおい、皆月が困ってるだろ。みんな仲良く遊べよ」

 児島先生に、三人は「はーい」と元気に返す。

「さ、行こう」

 希望が積極的に手を取り引っ張る。
 もう片方の手を真白が握る。
 そして後ろから登丸先輩が身体全体で押すように――当たってる!? なにとは言わないが、とにかく当たってる!!?

 児島先生の遊ぶ発言が、イケナイ妄想に流れて行きそうになる。
 大変な苦労をして意識を保った。
 心臓に悪いことこのうえない。
 しかし、これは一生の宝物だ。
 脳内ハードディスクにしっかりと記録した。

 とは言え目のやり場に困る。
 さすがに慣れてはきたものの、少しでも意識してしまうとどうにもならない。

 それを分かってか、希望は扇情的な動き――もはやポーズをする。
 きっと、顔が朱くなるのを楽しんでいるのだろう。
 その証拠に希望はエスカレート。

「あはん……うふん」

 と声までつけだす始末。
 だが所々古いのはなんだか笑える。

「ぼ、僕飲み物買ってくるよ」

 これ以上は耐えられないと、その場――戦線を離脱する。
 俺の分も、と児島先生が言った気がしたが、気のせいということにしておこう。

 思いの外買い物に手間取った。
 観光地での買い物はいやでも列に並ぶことを余儀なくされる。

「結構時間かかっちゃったな」

 みんなのいる場所に戻ると、そこには楽園そのものの光景が広がっていた。
 波打ち際で美少女&美少女が戯れている。
 目に映る素敵なもろもろを、享受することに努めよう。

「そーれ!」

 真白が明るい声で、ビーチボールを手で軽く打つ。
 ボールは弧を描いて登丸先輩へと飛んでいく。

「あっ、えっ? わ、私ですか!? は、はいっ! 行きます!!」

 わたわたしながらも、きちんと打ち返す。
 狙ったのか、それとも偶然の産物か、ボールは綺麗な山を描いて――希望の方へと飛んでいく。

「今度は私の番ねッ!!」

 大きく振りかぶって打ち込む――アタック。

「きゃっ――!!?」

 真白は身を屈めて希望のアタックを回避。
 その後ろにいた冬夜は反応が遅れた。
 顔面に直撃。
 いくらビーチボールでも、痛いものは痛い。
 仰向けに倒れてしまう。
 買ってきたばかりの飲み物の容器が転がる。

 フタがついてるの買ってきてよかった。
 大惨事にならずにすんだことに安堵する。
 みんなが心配そうに駆け寄ってくれる。

「のぞきちゃん! 強く打ちすぎだよ」

 なだめるように言う

「それは真白が避けるからでしょ!?」
「あんなの誰でも避けるよ!?」
「二人ともその辺で……」

 口論しているものの、どこか楽しげである。

「スイカ割りするぞお前ら」

 まったく冬夜を労る素振りも見せず、児島先生はスイカを抱えたまま言う。

「「「スイカ割り!?」」」

 女子三人の興味は、スイカ割りに移行。
 鼻の頭を赤くしている冬夜は放置――置いてけ堀。

 ……まあ、いいか。みんな楽しそうだし。
 砂を払いながら立ち上がり、スイカを囲む輪の中に加わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

処理中です...