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理想郷編
みんなで旅行①
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流れて行く景色に目をやる。
不気味な空に、不気味な木々が生い茂る林道。
数ヶ月前に通ったときは不気味でしょうがなかったが、今では風情すら感じる。
だいぶここでの生活にも慣れたってことかな?
でも未だに慣れないことがある。
「冬夜ぁ~」
腕に肉感的な肢体が密着する。
これだけは一向に慣れる気配がない。
それは今後も変わらないだろう。
「ちょっと! のぞみちゃん!? 冬夜くんとくっつきすぎ!!」
いつものやり取り。
そんな光景を、今までは微笑ましく眺めているだけだった登丸先輩までもが最近――、
「……」
スゥーと忍び寄ってきて手を握ったり、膝に手を置いたりとスキンシップを取ってくる。
何を話すでもなく、恥ずかしそうに俯き加減でしばらくそうしていると、離れる。
登丸先輩くらいのスキンシップが自分にはちょうどいい。
なんだか青春してる気分になれる。
「お前らうるさぞ。俺がいるから人間界に行けるってこと分かってんのか?」
児島先生は煙草を片手に気怠そうに言った。
人間研究部の顧問である児島先生が、部活の合宿と銘打って人間界に行く許可を取ってくれたのだ。
こちらと人間界の行き来は厳しく制限されている。
それは学園長の方針だそうで、人間社会に適応するまで人間界に行くには同伴者をつけることを義務づけていた。
そこで顧問の児島先生の出番というわけだ。
合宿とは名ばかりのバカンスだが、児島先生にとってもいい息抜きになるだろう。
冬夜たちを乗せたバスはトンネルに入る。
それぞれが人間界に思いを馳せる。
人間界が初めての者。
人間界に思い入れのある者。
人間界に久々に帰る者。
思いは人それぞれである。
「もうすぐで人間界だよ」
バスの運転手はヒヒヒと笑いながら知らせてくれた。
トンネルを抜けると目の前に広がる林道。
そう、ここは人間界。でも山奥だから帰ってきたと実感しづらい。
「へぇ、ここが人間界かぁ……思ってたより普通だね」
希望が落胆したように言う。
どうやら初人間界だったらしい希望は、もっと違ったイメージを持っていたらしい。
「もっと高い建物が、いっぱいあるものだと思ってた」
「ここは山間地帯だからビルとかはないかな……あ、でも街に行けばビルもあるよ」
「ほんと?」
目を輝かせる。
かなり幻想を抱いているみたいだ。
それとも妖怪にとっては人間界はそんなにも魅力的なところなのだろうか。
「あ、言い忘れてたが、希望。お前は人間界で遊ぶ前に補習な」
「えっ? 補習はないんじゃ……」
「んな訳あるか。一人学園に残されるのはかわいそうと思って、俺の優しさで連れてきてやったんだ」
感謝しろと児島先生。
ガックリ。肩を落とす希望。
バスはみんなを乗せて走る。
…………
……
…
「え? バスじゃ行けないのナツダ島?」
ナツダ島は本島と橋や海底トンネルといったもので繋がっていない。
飛行機でしか向かうことができない。
その事実を知ると、
「飛行機!?」
「あの!?」
「本当に!?」
みんなは歓喜した。
飛行機に乗るのは初めてだという。
児島先生は初めてではないようで、
「何も楽しいことなんてないぞ? なあ?」
同意を求められるも、冬夜自身も飛行機は未体験だった。
実は結構ワクワクしている。
友達と遠出の旅行も初めてだった。
それも、こんなに可愛い娘たちと。
「あと、俺もいるぞ」
心を見透かしたように児島先生が言う。
「な、なにを言ってるんですか」
アハハと取り繕うように笑った。
それからどうでもいい世間話。
みんなで旅行計画の確認。
そんなことをしているうちにバスは目的地に到着。
「到着したよ」
運転手は楽しげに笑った。
空気圧による開閉式扉の年期あるプシューという開閉音。
ブーというブザー音に急かされバスを降りる。
「楽しんで来なよ。ヒヒヒ」
久しぶりに聞いた笑い声は相変わらず不気味だった。
不気味な空に、不気味な木々が生い茂る林道。
数ヶ月前に通ったときは不気味でしょうがなかったが、今では風情すら感じる。
だいぶここでの生活にも慣れたってことかな?
でも未だに慣れないことがある。
「冬夜ぁ~」
腕に肉感的な肢体が密着する。
これだけは一向に慣れる気配がない。
それは今後も変わらないだろう。
「ちょっと! のぞみちゃん!? 冬夜くんとくっつきすぎ!!」
いつものやり取り。
そんな光景を、今までは微笑ましく眺めているだけだった登丸先輩までもが最近――、
「……」
スゥーと忍び寄ってきて手を握ったり、膝に手を置いたりとスキンシップを取ってくる。
何を話すでもなく、恥ずかしそうに俯き加減でしばらくそうしていると、離れる。
登丸先輩くらいのスキンシップが自分にはちょうどいい。
なんだか青春してる気分になれる。
「お前らうるさぞ。俺がいるから人間界に行けるってこと分かってんのか?」
児島先生は煙草を片手に気怠そうに言った。
人間研究部の顧問である児島先生が、部活の合宿と銘打って人間界に行く許可を取ってくれたのだ。
こちらと人間界の行き来は厳しく制限されている。
それは学園長の方針だそうで、人間社会に適応するまで人間界に行くには同伴者をつけることを義務づけていた。
そこで顧問の児島先生の出番というわけだ。
合宿とは名ばかりのバカンスだが、児島先生にとってもいい息抜きになるだろう。
冬夜たちを乗せたバスはトンネルに入る。
それぞれが人間界に思いを馳せる。
人間界が初めての者。
人間界に思い入れのある者。
人間界に久々に帰る者。
思いは人それぞれである。
「もうすぐで人間界だよ」
バスの運転手はヒヒヒと笑いながら知らせてくれた。
トンネルを抜けると目の前に広がる林道。
そう、ここは人間界。でも山奥だから帰ってきたと実感しづらい。
「へぇ、ここが人間界かぁ……思ってたより普通だね」
希望が落胆したように言う。
どうやら初人間界だったらしい希望は、もっと違ったイメージを持っていたらしい。
「もっと高い建物が、いっぱいあるものだと思ってた」
「ここは山間地帯だからビルとかはないかな……あ、でも街に行けばビルもあるよ」
「ほんと?」
目を輝かせる。
かなり幻想を抱いているみたいだ。
それとも妖怪にとっては人間界はそんなにも魅力的なところなのだろうか。
「あ、言い忘れてたが、希望。お前は人間界で遊ぶ前に補習な」
「えっ? 補習はないんじゃ……」
「んな訳あるか。一人学園に残されるのはかわいそうと思って、俺の優しさで連れてきてやったんだ」
感謝しろと児島先生。
ガックリ。肩を落とす希望。
バスはみんなを乗せて走る。
…………
……
…
「え? バスじゃ行けないのナツダ島?」
ナツダ島は本島と橋や海底トンネルといったもので繋がっていない。
飛行機でしか向かうことができない。
その事実を知ると、
「飛行機!?」
「あの!?」
「本当に!?」
みんなは歓喜した。
飛行機に乗るのは初めてだという。
児島先生は初めてではないようで、
「何も楽しいことなんてないぞ? なあ?」
同意を求められるも、冬夜自身も飛行機は未体験だった。
実は結構ワクワクしている。
友達と遠出の旅行も初めてだった。
それも、こんなに可愛い娘たちと。
「あと、俺もいるぞ」
心を見透かしたように児島先生が言う。
「な、なにを言ってるんですか」
アハハと取り繕うように笑った。
それからどうでもいい世間話。
みんなで旅行計画の確認。
そんなことをしているうちにバスは目的地に到着。
「到着したよ」
運転手は楽しげに笑った。
空気圧による開閉式扉の年期あるプシューという開閉音。
ブーというブザー音に急かされバスを降りる。
「楽しんで来なよ。ヒヒヒ」
久しぶりに聞いた笑い声は相変わらず不気味だった。
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