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恐怖の学園編

人間とヴァンパイア③

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 入学式後――。

 冬夜は割り振られたクラスへ来ていた。
 一年三組。それが冬夜が在籍することになったクラスだ。
 外観とは違って内装はいたって普通だった。ありふれた日本の教室。それ以上でもそれ以下でもない。
 少し安心する。
 中学時代と同じ、工場で大量生産された机と椅子。
 さかのぼれば小学時代から慣れ親しんだ机と椅子。

(あぁ、なんか落ち着く……)

 机に突っ伏していると教室に誰かが入ってくる。

「卒業式ご苦労様。改めて怪奇学園にようこそ。俺はこのクラスを担当することになった児島弘道こじまひろみちだ。
 みんな知っているとは思うが……
 怪奇学園うち魑魅魍魎ちみもうりょう――妖怪の通うために創立された学校だ」

 ………………何言ってんの?

 冬夜の混乱をよそに、児島先生は黒板に色鮮やかな文字や図を描いている。

「かつて妖怪は百鬼夜行を連ね人間の世界を闊歩した。政治にも関与してきた。人間の社会に根を張っていた。しかし、近代になって街は夜も煌々と輝き闇を照らした。それに伴い妖怪たちは弱体化した。これは日本だけでなく世界的にも同様の事が言える。
 故に我々は人間との共存を図らなくてはならない。その共存の仕方を学ぶのがこの学園の目的だ」

(なに言ってるの先生!? 妖怪ってなに? 何言ってんだよ――!!)

「だから、まぁ、わかっちゃいるとは思うが、人間の姿での生活が義務付けられている。校則にも書いてあるから各自確認しておくように。
 人間に化けることは共存の基本。上手く化けられない奴は卒業出来ないからな」

 児島先生はクラスを見回して、

「まあ、その心配はなさそうだな」

 ふぅ、と安堵のため息がクラス中から漏れ聞こえる。
 そんな中一人の生徒が鼻で笑って、

「人間なんか喰っちまえばいいんすよ。あんな下等生物に何で俺らが合わせなきゃいけないんだよ。なぁ?」
「え?」

 同意を求められる。しかし、同意を求められても困る。だって僕人間だもの!
 バスの運転手の言っていた言葉を思い出した。『怪奇学園は恐ろしい学校』恐ろしいとはそのままの意味だったのだ。

「まぁ、うちには人間なんていないからな。教師も生徒もみんな妖怪だ。学園長が結界を張ってくださってるからな。人間が入ってくることはない」

(あれ? 僕、人間なのにここにいますけど???)

 児島先生は続ける。

「まあ、もし人間が侵入したら迅速に始末するから問題ない」

 そう言って殺気を纏う。
 クラスのみんなは笑っているが、冬夜にとっては冗談では済まされない。
 もし人間だという事がバレたら……殺されるかも。
 震えが止まらない。
 親父め、なんて学校見つけてきてんだよ。
 一刻も早く学園から逃げ出さなければ、命がいくつあっても足りない。

 ガラッと教室の後ろの扉が開き誰かが入ってくる。

「教室見つけられなくて迷ってしまって、遅れてすみません」

 聞き覚えのある声に振り返るとそこには真白がいた。
 クラスが色めき立つ。

「誰だよあの娘」
「メッチャかわいい」
「美人だぁ……」

 男子のみならず女子も口々に「綺麗」と呟いている。
 心の声が漏れ聞こえているのだろう。
 そして次第にその声は大きくなり呟きから絶叫に代わる。

「「美しいッ! 美しすぎるッ!! こんな娘と同じクラスなんて幸せすぎるゥ―――!!!」」

「……ま、真白さん……」
「あれ? 冬夜くん?」

 二人の間に状況を理解するまで沈黙が訪れる。
 そして理解したと同時に真白は冬夜に抱きついた。

「冬夜くんだー! 同じクラスなんだよね!? 良かったー。知ってる人がいて!!」

(あわわわわ――柔らかい、いい匂いぃぃいいッ――!)

 クラスの男子から悲鳴があがる。
 皆口々に「美少女が、美少女がぁああッ」「うらやましい――けしからん!」と非難というより嫉妬に近い言葉を綴る。


 クラスの喧騒の中、舌なめずりをする男がいた。

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