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第二章 レーナス帝国編
第79話 新たな道
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◇ レーナス帝国領 ニール平原 ◇
私たちは、ラボで危険な改造を施されそうになったところを、日本の同僚「瀧本里奈」が転生した魔剣士リーナ・タキモトに救われた。
私とタキモトは、ジンディオールやリーナの記憶にある馬車屋のヘインに協力を求め、帝都を脱出したのだった…。
「旦那にお嬢!久しぶりでさぁ!」
御者台から声をかけてきたのは、馬車屋のヘインだった。
「ヘイン、突然だったけど、助かったよ。」
私は初めて会ったはずのヘインに、昔からの知り合いのような親しみを感じていた。
それは、ジンディオールから記憶を受け継いだからだろう。
「いやいや。旦那の頼みなら断れないよ。お二人とも随分久しぶりだね!」
ヘインは、ジンディオールたち魔剣士隊が贔屓にしていて、公私にわたって交流があったのだ。
「あ…うん。作戦でね!ヘインさんのおかげで無事に逃げられたよ!」
リーナもヘインとは親しかったようだった。
私たちは、帝都を離れて南のシュルール聖王国へ向かっている。
馬車での移動なので、南の森を避けるルートを取っている。
「ええと…あなたは?」
馬車の荷台には私とタキモトとジュリアの三人が乗っていた。ジュリアと初対面のタキモトは、臆すことなく声を掛けた。
「私はジュリアと言います。ホセ村出身です。ジンさんと一緒に旅をしていました。」
ジュリアはタキモトをじっと見つめ、笑顔で答えた。
「あっ、ホセ村ね?私、行ったことあるよ!そうだ、あなたがアシュアさんのお孫さんね?」
「おじいちゃんを知っているんですか!?」
ジュリアは、アシュアさんの名前に驚いた顔をした。
タキモトは、ホセ村に行ったことがあるらしい。アシュアさんを知っているとは奇遇である。
「うん!アシュアさんだけじゃなくて、村長のライズさんとかいろんな人と仲良くなったんだ。」
タキモトはドジっ子だけど、人懐っこい性格なのでホセ村の人たちに気に入られたんだろう。
その後、ホセ村の話でタキモトとジュリアはすぐに打ち解けていた。
「でね!イカ焼きを振る舞ったらみんな喜んだんだよ!」
「えっ、イカ焼きって何ですか?」
「えー!知らないの?イカ焼きは日本の食べ物でさ、イカっていう海の生き物を焼いて…」
「おい、タキモト。イカ焼きはいいから…。それより、幼女神さまからの伝言は?」
タキモトは話が脱線しがちなので、私は本題に戻した。
「あっ、先輩ごめんなさい…。大事な話を忘れてたぁ。実は女神さまは…。」
ここからは、タキモトも真剣に話し始めた。
幼女神さまは、軍司令官のザナクゥの脅威を危惧しており、私たちの力を高める必要があると言っているそうだ。
そのためには、大魔境の中央にあるネフィスの泉に行かなければならないらしい。
「あの幼女神…。無茶なことを言うな。」
「幼女神?アハハ!エルルさまのことですね?先輩、そこに行くのは大変なんですか?」
「お前は知らないだろうが、大魔境はこの大陸で最も危険な場所だ。私とジュリアは、大魔境の緑竜と戦ったことがある。討伐ランクSの強敵だぞ。そんな危険な魔物が跋扈している地帯だ。」
「うわぁぁ。無理ゲーじゃん。」
大変ではあるが、とにかく目的地と方針は決まった。
このままザナクゥやゴンゾーを放置しておくのはこの大陸にとって最悪の結果を招くだろう。
だから、私は彼らに対抗できる力を身につけたいと思う。
きっと女神さまはそれを見越しての試練なのだろう。
◇ シュルール聖王国 ◇
馬車は数日間の移動で、帝国領とサマルト領を越えてシュルール聖王国領に入った。
「うん、聞いてみるね!」
「ねぇ、先輩。」
「どうした?タキモト。」
「リーナがジン隊長と話したいって。」
「ジン隊長?ああ、ジンディオールのことか。なるほど…。私は構わないよ。」
「ありがとう。」
二人は魔剣士時代の仲間だったから、話したいこともあるだろう。ジュリアにも事情を説明して、ヘインのいる御者席へと行ってもらった。
私はスキルでジンディオールと意識を入れ替えた。タキモトもリーナと同じようにできるのだろう。
◇ ジンディオール視点 ◇
「リーナか!?」
「はい!ジン隊長!」
私とリーナは、それぞれの肉体の持ち主の計らいで一時的に元の姿に戻った。
本来なら、死んだらその人生は終わりだ。
だが、女神さまや主たちのおかげで、その先の物事を見たり、時には体験することもできる。
私は不幸な死に方をしたけど、実は幸運なのかもしれない…。
「リーナ!まさか君まで死んでしまうなんて…。」
「ええ。ジン隊長の死因がフレイの仕業だとわかったんですが、そのせいで口封じされてしまって…。」
「私のせいで辛い思いをさせたな。リーナ、すまない。」
私はリーナに謝罪した。私がフレイに殺されたことが発端で、彼女も命を落としたのだから。
「いいんですよ!私は隊長のために何かしたかっただけですから…。そういえば隊長、これ…。」
リーナは異空庫からアイテムを取り出した。
「『再現の瞳』か…。懐かしいな。」
「ジン隊長からもらった再現の瞳でフレイの罪を暴けたんです。それから、不死鳥の涙も…。死ぬ直前に光って、あの子が転生したら壊れてしまいました。」
「ああ。不死鳥の涙か…。あれは不思議なアイテムだな。私も本当の役割を理解していた訳じゃないが、もしかしたら主や私たちがこうしていられるのもこのアイテムが関係していたのかもな。」
色々なことが重なり合って起こした奇跡。私はそんな風に思えたのである。
「ジン隊長、少しだけ…。少しだけ肩を貸してくださいませんか?」
リーナは私の顔をじっと見つめて訴えた。
「ああ。もちろん…。」
肩にリーナの頭が静かに寄りかかった。
私は彼女の温もりを感じながら、多幸感と自らの鼓動が高鳴るのを感じた。
私たちの時間は、それほど長くはない。
でも、このほんの少しの時間でも貴重であり、愛おしい時間だと思った…。
馬車は速度を落とし、ゆっくりと進んでいった…。
私たちは、ラボで危険な改造を施されそうになったところを、日本の同僚「瀧本里奈」が転生した魔剣士リーナ・タキモトに救われた。
私とタキモトは、ジンディオールやリーナの記憶にある馬車屋のヘインに協力を求め、帝都を脱出したのだった…。
「旦那にお嬢!久しぶりでさぁ!」
御者台から声をかけてきたのは、馬車屋のヘインだった。
「ヘイン、突然だったけど、助かったよ。」
私は初めて会ったはずのヘインに、昔からの知り合いのような親しみを感じていた。
それは、ジンディオールから記憶を受け継いだからだろう。
「いやいや。旦那の頼みなら断れないよ。お二人とも随分久しぶりだね!」
ヘインは、ジンディオールたち魔剣士隊が贔屓にしていて、公私にわたって交流があったのだ。
「あ…うん。作戦でね!ヘインさんのおかげで無事に逃げられたよ!」
リーナもヘインとは親しかったようだった。
私たちは、帝都を離れて南のシュルール聖王国へ向かっている。
馬車での移動なので、南の森を避けるルートを取っている。
「ええと…あなたは?」
馬車の荷台には私とタキモトとジュリアの三人が乗っていた。ジュリアと初対面のタキモトは、臆すことなく声を掛けた。
「私はジュリアと言います。ホセ村出身です。ジンさんと一緒に旅をしていました。」
ジュリアはタキモトをじっと見つめ、笑顔で答えた。
「あっ、ホセ村ね?私、行ったことあるよ!そうだ、あなたがアシュアさんのお孫さんね?」
「おじいちゃんを知っているんですか!?」
ジュリアは、アシュアさんの名前に驚いた顔をした。
タキモトは、ホセ村に行ったことがあるらしい。アシュアさんを知っているとは奇遇である。
「うん!アシュアさんだけじゃなくて、村長のライズさんとかいろんな人と仲良くなったんだ。」
タキモトはドジっ子だけど、人懐っこい性格なのでホセ村の人たちに気に入られたんだろう。
その後、ホセ村の話でタキモトとジュリアはすぐに打ち解けていた。
「でね!イカ焼きを振る舞ったらみんな喜んだんだよ!」
「えっ、イカ焼きって何ですか?」
「えー!知らないの?イカ焼きは日本の食べ物でさ、イカっていう海の生き物を焼いて…」
「おい、タキモト。イカ焼きはいいから…。それより、幼女神さまからの伝言は?」
タキモトは話が脱線しがちなので、私は本題に戻した。
「あっ、先輩ごめんなさい…。大事な話を忘れてたぁ。実は女神さまは…。」
ここからは、タキモトも真剣に話し始めた。
幼女神さまは、軍司令官のザナクゥの脅威を危惧しており、私たちの力を高める必要があると言っているそうだ。
そのためには、大魔境の中央にあるネフィスの泉に行かなければならないらしい。
「あの幼女神…。無茶なことを言うな。」
「幼女神?アハハ!エルルさまのことですね?先輩、そこに行くのは大変なんですか?」
「お前は知らないだろうが、大魔境はこの大陸で最も危険な場所だ。私とジュリアは、大魔境の緑竜と戦ったことがある。討伐ランクSの強敵だぞ。そんな危険な魔物が跋扈している地帯だ。」
「うわぁぁ。無理ゲーじゃん。」
大変ではあるが、とにかく目的地と方針は決まった。
このままザナクゥやゴンゾーを放置しておくのはこの大陸にとって最悪の結果を招くだろう。
だから、私は彼らに対抗できる力を身につけたいと思う。
きっと女神さまはそれを見越しての試練なのだろう。
◇ シュルール聖王国 ◇
馬車は数日間の移動で、帝国領とサマルト領を越えてシュルール聖王国領に入った。
「うん、聞いてみるね!」
「ねぇ、先輩。」
「どうした?タキモト。」
「リーナがジン隊長と話したいって。」
「ジン隊長?ああ、ジンディオールのことか。なるほど…。私は構わないよ。」
「ありがとう。」
二人は魔剣士時代の仲間だったから、話したいこともあるだろう。ジュリアにも事情を説明して、ヘインのいる御者席へと行ってもらった。
私はスキルでジンディオールと意識を入れ替えた。タキモトもリーナと同じようにできるのだろう。
◇ ジンディオール視点 ◇
「リーナか!?」
「はい!ジン隊長!」
私とリーナは、それぞれの肉体の持ち主の計らいで一時的に元の姿に戻った。
本来なら、死んだらその人生は終わりだ。
だが、女神さまや主たちのおかげで、その先の物事を見たり、時には体験することもできる。
私は不幸な死に方をしたけど、実は幸運なのかもしれない…。
「リーナ!まさか君まで死んでしまうなんて…。」
「ええ。ジン隊長の死因がフレイの仕業だとわかったんですが、そのせいで口封じされてしまって…。」
「私のせいで辛い思いをさせたな。リーナ、すまない。」
私はリーナに謝罪した。私がフレイに殺されたことが発端で、彼女も命を落としたのだから。
「いいんですよ!私は隊長のために何かしたかっただけですから…。そういえば隊長、これ…。」
リーナは異空庫からアイテムを取り出した。
「『再現の瞳』か…。懐かしいな。」
「ジン隊長からもらった再現の瞳でフレイの罪を暴けたんです。それから、不死鳥の涙も…。死ぬ直前に光って、あの子が転生したら壊れてしまいました。」
「ああ。不死鳥の涙か…。あれは不思議なアイテムだな。私も本当の役割を理解していた訳じゃないが、もしかしたら主や私たちがこうしていられるのもこのアイテムが関係していたのかもな。」
色々なことが重なり合って起こした奇跡。私はそんな風に思えたのである。
「ジン隊長、少しだけ…。少しだけ肩を貸してくださいませんか?」
リーナは私の顔をじっと見つめて訴えた。
「ああ。もちろん…。」
肩にリーナの頭が静かに寄りかかった。
私は彼女の温もりを感じながら、多幸感と自らの鼓動が高鳴るのを感じた。
私たちの時間は、それほど長くはない。
でも、このほんの少しの時間でも貴重であり、愛おしい時間だと思った…。
馬車は速度を落とし、ゆっくりと進んでいった…。
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