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第二章 レーナス帝国編

第77話 救出へ(タキモト視点)

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《 リーナがジンと再会する少し前の話 》

◇ サマルト領 カルゾ平野 ◇

「聖王国やサマルトではジンさんは北に向かったって聞いたんだけど…。もしかして、帝国に行っちゃったのかな?でも私は、ジン隊長殺しの犯罪者だって言われてるし…。どうしよう…。」

 私はイースラン公国でジンさんの情報を手に入れたあと、旅を再開した。

 しかし、ジンさんの足取りはどんどん北上していて、残るは最北の国でリーナの祖国であるレーナス帝国だけだった。

 リーナは大陸最強と言われる魔剣士隊に所属していた。でも、フレイの策略さくりゃくでジン隊長を殺したといううその罪を着せられて、追われる身になってしまったのだ。

〘リーナくん!聞こえるかな?ボクだよ!〙

 突然、頭の中に声が響いた。私は思わず立ち止まって、周りを見回した。

(えっ!?誰!?)

〘君ねぇ…。忘れちゃったの?ボクだよ!女神エルル!〙

(あっ!女神さま!?ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃって…。)

〘ああ…。君ってそういう子だったねぇ。まあいいや。じゃあ、よく聞いてね!君が探しているジン・ディオール・フブキくんは、今帝国の『ラボ』という場所にとらわれているんだ。しかも、危険な実験の対象にされていて、命の危機にあるんだ。今すぐ君の助けが必要なんだよ!〙

(ええええ!?ジンさんが!?そんなことに!?)

〘リーナくん!落ち着いて!今はまだ間に合うから!〙

(はい!はい!わかりました!でも、女神さま。私は帝国ではおたずね者なんです。)

〘知ってるよ。フレイにやられたんだよね?でも、大丈夫だって。君には『隠蔽いんぺい』というスキルを与えてあるでしょ?あれは、君に関する情報で知られたくないことを隠せるんだよ。〙

(そうでした!隠蔽がありました!)

〘そうそう。今回はね、犯罪歴の部分や、元魔剣士隊員であるという情報を隠蔽しておけば、他の人からはただの「冒険者リーナ」に見えるはずだよ!〙

(なるほど!すごいですね、隠蔽スキル!じゃあ、私は急いで向かいますね!)

〘うん、がんばってね!でも、走りながらでもいいから、ボクの話を聞いてね!これからのことについて、まだお願いしたいことやアドバイスがあるんだよ!〙

 私は女神さまからの声に耳を傾けながら、走って帝都を目指した。

 レベル1まで下がった能力もこの旅を通じて58まで上がっていた。

 筋力も体力も格段に上がったことで、長距離のマラソンにも問題なく対応できていた。

(今ならきっと東京マラソンで優勝できるかもしれない…。)

 でも、元の世界に戻れないのが残念だった。

 気がつけば、リーナの記憶に残る帝都の姿が目の前に広がっていた…。

◇ 帝都ベルハイム ◇

「Cランク冒険者のリーナだな。問題なし!通っていいぞ!」

(やった!女神さまのおかげで、犯罪者の烙印らくいんも、魔剣士隊の証拠もバレなかったよ!隠蔽スキルって本当に便利だわ!)

 私は無事に帝都の地に足を踏み入れた。

 リーナの記憶からもいい思い出のない祖国だった。でも、古めかしくも美しい街並みを目にすると、懐かしさや郷愁きょうしゅうがこみ上げてきた。

 今回の旅では様々な国々を見てきた。帝国はどの国からも危険視されていた。

 それは、軍部の問題であり、国民は非道で恐ろしい存在ではなかった。

 街中を歩きながら、笑顔で話している人々や楽しそうに遊んでいる子供たちを見ながらそう思った。

(軍部の上層部が無茶な戦争を始めるから悪いんだわ!)

 私は急に軍に対する怒りを感じた。

 ラボは、軍事施設の南西側にあることは記憶から知っていた。

 私は守衛の兵士の目をかいくぐって、軍事施設内に侵入してラボを目指した。

 ラボは石造りの建物だったが、研究所というよりは牢獄ろうごくという感じだった。

 鉄の扉や鎖が目立ち、外から内部の様子を把握はあくすることは不可能だった。

 私はすぐにラボに到着して、内部に侵入した。

◇ ラボ ◇

 私専用のコードにより、正面の入口から堂々と内部に侵入した。

 私はリーナの記憶から、この施設の秘密を知っている。

 そして、ジンさん。

(いえ、先程女神さまから話を聞いて、彼がジン先輩だとわかったのよね!)

 私は先輩の救出のために、慎重に移動を開始した。

(ジン先輩が囚われているのは、Bブロックか、Eブロックのどちらかだわ。)

 私はまずは二階にあるBブロックに向かった。

◇ ラボ Bブロック研究室 ◇

「な、なによこれは…。」

 私はそっとBブロックの部屋に侵入した。

 そこには、リーナに致命傷を負わせた魔剣士隊序列二位のアッシュが、カプセルの中で何らかの改造を施されていた。

 彼は筋肉が異常に発達しており、人間離れした体つきになっていた。

 皮膚ひふは灰色に変色しており、獅子人ししびと族の彼も亜人と呼ぶには無理があるほど醜悪しゅうあくな姿に変貌へんぼうしていた。

「これは…亜人じゃなくて…魔人だわ…。アッシュ…。こんな恐ろしい存在に改造されて…。」

 他のカプセルにはカナック、ビスト、ゼルの三人も同じように改造されていた。四人とも意識を失っているようだった。

「私もここに残っていたら、あなたたちと同じ目にっていたのかしら…。気の毒だわ。でも、私はもう行くわ。さよなら…。」

 過去に色々あったけど、同じ仲間だった彼らの姿を見て、涙がこみ上げてきた。

◇ ラボ Eブロック研究室 ◇

 私はもう一つのEブロックに向かった。Eブロックは地下二階にあった。

 途中、実験台にされている猛獣もうじゅうや魔獣、不思議な生物たちを見て、背筋が寒くなった。

(ぞっとするわ。こんなところから早く脱出したい…。)

 地下二階に到着すると、部屋の中から悲鳴が聞こえてきた。

「来るな!止めろー!!」

 私はその声にすぐに反応した。ジン先輩の声だった。私は部屋にけ込もうとしたが、鍵がかかっていた。

 声の感じから少しの猶予ゆうよもないことをさとった。

「じゃあ、力ずくで!やぁぁぁ!!」

《ガシャーン!!》

 私は扉を蹴破けやぶって、ジン先輩の元にったのだった…。
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