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第二章 レーナス帝国編
第69話 属国の嘆き
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私とジュリアは、聖王国での戦争を終えた後、帝国へと旅立った。
帝国はジンディオールの故郷だ。だが、胸には喜びよりも蟠りの感情が渦巻いていた。
私は、ジンディオールと心を通わせたことで、彼の過去や思いも深く知ることができた。
彼が抱える感情の一つ…。
それは、軍司令官のザナクゥへの疑惑だった。
ジンディオールは、魔剣士隊長としてザナクゥと親密な関係にあった。
彼は、ザナクゥに様々なことを相談し、ザナクゥの指令で様々な任務を遂行してきた。
時には意見が衝突することもあったが、話し合いで解決してきた。
だから、ジンディオールは信じたくなかった。ザナクゥが裏切っていたという事実を。
私たちは、その真相を確かめるために、帝国へと旅立ったのだ…。
◇ サマルト法国領 都市クルール◇
私たちは、レーナス帝国に向かう途中、サマルト法国領の都市クルールに立ち寄った。
サマルトは、かつては独立した国だったが、帝国に敗れて属国となった。
法王が統治するこの国は、帝国の意向に逆らえない立場となっていた…。
「ジンさん。やっとクルールに着きましたね!」
「長い道のりだったな。ジュリアは大丈夫か?」
「ええ!前回と違って馬車で移動しましたから!でも、お尻がちょっと痛いです。」
「ハハハ!馬車は、揺れるからな。今日は宿屋でゆっくり休もう。」
「はい。ありがとうございます。」
私たちが乗った馬車は、都市の入口で検査を受けた。
「身分証を見せてくれ。」
無気力そうな若い兵士が声をかけてきた。私たちは冒険者ギルドカードを見せた。
「黄金のカード!?まさか、Sランク冒険者なのか?」
「そうだが…。」
「すまない…。私は今まで商家の下済みをしていたので、黄金のカードを見るのは初めてなんだよ。」
「なぜ、兵士になったんだ?」
「帝国との戦争で兵士が大勢死んだろ?その後、帝国軍として聖王国とも戦争して更に死んだ。この国は兵士が足りないんだよ。だから、強制徴兵されたんだ。」
「そんな…。無理やりなんてひどいですね。」
ジュリアは、彼に同情の目を向けた。
「わかってくれるか?あんたも黄金のカードかい。か弱そう見えるが強いんだな。いいぞ!通ってくれ!」
私たちはトラブルなく入場した。
街の中では、全身黒服の人々が棺を引きずって歩いていた。戦争で亡くなった者たちを葬るのだろうか…。
私たちは、馬車の主人に別れを告げ、宿屋に向かった。
宿屋は木造の二階建てで、看板には『蜜柑』と書かれていた。
◇ 宿屋 蜜柑 ◇
古びた建物だが、清掃は行き届いており、清潔感があった。
「いらっしゃい!何泊するの?」
「とりあえず一泊だ。仕事次第で連泊するかもしれないが。」
「わかったよ!部屋は一部屋でいいのかい?」
「ああ。それで頼む。」
「はいよ、これが部屋の鍵だ。二階の一番奥の部屋だよ。」
私たちは鍵を受け取り、二階に上がった。
旅立った頃は別々の部屋を取っていたが、ジュリアが毎晩私の部屋にやってきて一緒に寝るようになったので、今では一部屋だけにしていた…。
(完全にジュリアのペースなんだよなぁ。)
結局、前回の滞在中、私の理性は限界を超え、男女の境界を越えてしまった。
しかし、後悔はしていない。
私はジュリアを一人の女性として大切に思っていることに気づけたからだ。
ジュリアもそんな私の気持ちを理解し、全てを受け入れてくれたのだった。
「ジンさん。ずっと私をそばに置いてくださいね?」
「もちろんだ。ジュリアを私がずっと守るよ。」
私たちは深く口づけを交わした。
そして、その夜は二人にとって静かに深まっていった…。
◇ ◇ ◇
《 翌朝 》
私たちは冒険者ギルドを訪れることにした。
今日は馬車ではなく徒歩での移動だ。新たな街での景観を楽しむのも旅の醍醐味の一つだ。
しかし、クルールの街は美しいけれど、何か暗い雰囲気が漂っているようだった。
人々の顔には笑顔がなく、不安や恐怖が見え隠れしているようだ。
「やはり少し街全体に元気がないような…。」
ジュリアが私の隣でつぶやいた。
「確かに…。家々や街並みそのものは美しいが、問題は人々の様子だな。」
私はジュリアに同意した。この街には何かが起こっているのだろうか。
しばらく歩くと教会のような建物が目の前に見えてきた。意外にも看板には「冒険者ギルド」と書かれていた。
私たちはギルドへと入った。
◇ 冒険者ギルド クルール支部 ◇
「助けてください!誰か!」
ギルドに入った途端に緊迫したような空気がギルドホールを覆っていた。
どうやら女性がギルドにいる冒険者に助けを求めているようだった。
「ヒーラーか薬師の方はいませんか?ジョニーが…夫が大怪我を負っているんです!」
女性は涙ながらに訴えているが、救いの手を差し伸べる者はいなかった。
「あの…ジンさん。」
ジュリアが私の目を見つめてくる。私は彼女の気持ちを察した。
「いいよ。行ってあげな!」
「はい!」
ジュリアは、女性の元に駆けていったのだった…。
帝国はジンディオールの故郷だ。だが、胸には喜びよりも蟠りの感情が渦巻いていた。
私は、ジンディオールと心を通わせたことで、彼の過去や思いも深く知ることができた。
彼が抱える感情の一つ…。
それは、軍司令官のザナクゥへの疑惑だった。
ジンディオールは、魔剣士隊長としてザナクゥと親密な関係にあった。
彼は、ザナクゥに様々なことを相談し、ザナクゥの指令で様々な任務を遂行してきた。
時には意見が衝突することもあったが、話し合いで解決してきた。
だから、ジンディオールは信じたくなかった。ザナクゥが裏切っていたという事実を。
私たちは、その真相を確かめるために、帝国へと旅立ったのだ…。
◇ サマルト法国領 都市クルール◇
私たちは、レーナス帝国に向かう途中、サマルト法国領の都市クルールに立ち寄った。
サマルトは、かつては独立した国だったが、帝国に敗れて属国となった。
法王が統治するこの国は、帝国の意向に逆らえない立場となっていた…。
「ジンさん。やっとクルールに着きましたね!」
「長い道のりだったな。ジュリアは大丈夫か?」
「ええ!前回と違って馬車で移動しましたから!でも、お尻がちょっと痛いです。」
「ハハハ!馬車は、揺れるからな。今日は宿屋でゆっくり休もう。」
「はい。ありがとうございます。」
私たちが乗った馬車は、都市の入口で検査を受けた。
「身分証を見せてくれ。」
無気力そうな若い兵士が声をかけてきた。私たちは冒険者ギルドカードを見せた。
「黄金のカード!?まさか、Sランク冒険者なのか?」
「そうだが…。」
「すまない…。私は今まで商家の下済みをしていたので、黄金のカードを見るのは初めてなんだよ。」
「なぜ、兵士になったんだ?」
「帝国との戦争で兵士が大勢死んだろ?その後、帝国軍として聖王国とも戦争して更に死んだ。この国は兵士が足りないんだよ。だから、強制徴兵されたんだ。」
「そんな…。無理やりなんてひどいですね。」
ジュリアは、彼に同情の目を向けた。
「わかってくれるか?あんたも黄金のカードかい。か弱そう見えるが強いんだな。いいぞ!通ってくれ!」
私たちはトラブルなく入場した。
街の中では、全身黒服の人々が棺を引きずって歩いていた。戦争で亡くなった者たちを葬るのだろうか…。
私たちは、馬車の主人に別れを告げ、宿屋に向かった。
宿屋は木造の二階建てで、看板には『蜜柑』と書かれていた。
◇ 宿屋 蜜柑 ◇
古びた建物だが、清掃は行き届いており、清潔感があった。
「いらっしゃい!何泊するの?」
「とりあえず一泊だ。仕事次第で連泊するかもしれないが。」
「わかったよ!部屋は一部屋でいいのかい?」
「ああ。それで頼む。」
「はいよ、これが部屋の鍵だ。二階の一番奥の部屋だよ。」
私たちは鍵を受け取り、二階に上がった。
旅立った頃は別々の部屋を取っていたが、ジュリアが毎晩私の部屋にやってきて一緒に寝るようになったので、今では一部屋だけにしていた…。
(完全にジュリアのペースなんだよなぁ。)
結局、前回の滞在中、私の理性は限界を超え、男女の境界を越えてしまった。
しかし、後悔はしていない。
私はジュリアを一人の女性として大切に思っていることに気づけたからだ。
ジュリアもそんな私の気持ちを理解し、全てを受け入れてくれたのだった。
「ジンさん。ずっと私をそばに置いてくださいね?」
「もちろんだ。ジュリアを私がずっと守るよ。」
私たちは深く口づけを交わした。
そして、その夜は二人にとって静かに深まっていった…。
◇ ◇ ◇
《 翌朝 》
私たちは冒険者ギルドを訪れることにした。
今日は馬車ではなく徒歩での移動だ。新たな街での景観を楽しむのも旅の醍醐味の一つだ。
しかし、クルールの街は美しいけれど、何か暗い雰囲気が漂っているようだった。
人々の顔には笑顔がなく、不安や恐怖が見え隠れしているようだ。
「やはり少し街全体に元気がないような…。」
ジュリアが私の隣でつぶやいた。
「確かに…。家々や街並みそのものは美しいが、問題は人々の様子だな。」
私はジュリアに同意した。この街には何かが起こっているのだろうか。
しばらく歩くと教会のような建物が目の前に見えてきた。意外にも看板には「冒険者ギルド」と書かれていた。
私たちはギルドへと入った。
◇ 冒険者ギルド クルール支部 ◇
「助けてください!誰か!」
ギルドに入った途端に緊迫したような空気がギルドホールを覆っていた。
どうやら女性がギルドにいる冒険者に助けを求めているようだった。
「ヒーラーか薬師の方はいませんか?ジョニーが…夫が大怪我を負っているんです!」
女性は涙ながらに訴えているが、救いの手を差し伸べる者はいなかった。
「あの…ジンさん。」
ジュリアが私の目を見つめてくる。私は彼女の気持ちを察した。
「いいよ。行ってあげな!」
「はい!」
ジュリアは、女性の元に駆けていったのだった…。
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