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第二章 レーナス帝国編
第71話 ラボ
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「ゴン爺、兵器の強化はどうだね?」
帝国軍の軍司令ザナクゥは、ラボの入り口で待っていたゴンゾーに声をかけた。
ラボとは、帝国軍の軍事施設の一角にある、軍事機密の研究所だった。
ゴンゾーは、魔剣士の生みの親であり、ラボの筆頭研究者だった。
「これは、閣下!こんなところまでお越しいただいて…。」
ゴンゾーは、ザナクゥに深々と頭を下げながら、へりくだった態度で迎えた。
しかし、その目は、自分の研究に対する執着と自信に満ちていた。
ザナクゥは、ゴンゾーの態度には目もくれず、ラボの中に入っていった。
「うむ。君の作った兵器が先の戦争でかなりやられたというじゃないか。現在の状況を知っておきたくてね。」
ザナクゥは、ラボの中を見回しながら言った。
先の戦争とは、帝国軍と聖騎士団の間で起こった大規模な戦闘のことだった。
その戦争で、ザナクゥは、ゴンゾーの作った魔剣士隊を投入した。
魔剣士隊は、帝国軍の最強の切り札として投入される予定だったが、行軍途中で聖王国側の妨害を受けた。
聖騎士団にも強者がいた。
その中でも、最も有名なのが、聖騎士団長のラシュホードだった。
ラシュホードは、卓越した身体能力や剣技を持っており、何度も国を救った英雄と呼ばれていた。
魔剣士隊のアッシュは、彼と対峙した。
そして、激しい戦いの末に、ラシュホードを倒したのだった。
しかし、アッシュを含む魔剣士隊は、強者を多数揃えた聖王国側より大きな損傷を受けた。
これによって、今後の侵攻作戦に大きな影響を与えることになった。
ザナクゥは、そのことに不満を持っていた。
「力及ばず申し訳ありません。特に三号は自慢の作品でしたが、激しい損傷を受けていましたのじゃ。」
ゴンゾーは、ラボの奥にあるカプセルに近づきながら言った。
カプセルとは、魔剣士隊の隊員が保管される装置だった。
カプセルの中では、培養液に浸された魔剣士隊員が眠っていた。
「アレは、どうやら聖騎士団長のラシュホードが相手をしたようだ。」
ザナクゥは、カプセルの中のアッシュを見ながら言った。
アッシュは、全身に傷を負っており、右腕が失われており、培養液に血が混じっていた。
彼は、ラシュホードとの戦いで、重傷を負ったのだった。
「ほうほう…。英雄ラシュホードですか。無傷で倒せると思っていましたが、残念な結果ですじゃ。確かに閣下の仰るように魔力も身体能力も強化が必要でしょうな。」
ゴンゾーは、アッシュに同情する素振りも見せずに言った。
彼は、自分の作った魔剣士に対して、愛情や情けは持っていなかった。
彼にとって、魔剣士は、自分の研究の成果であり、兵器でしかなかった。
「フッ。そう言いながら、もうやってあるんだろう?」
ザナクゥは、ゴンゾーの言葉に笑った。
彼は、ゴンゾーの性格を知っていた。
ゴンゾーは、自分の研究に対して、常に飽くことを知らなかった。
彼は、魔剣士の能力を高めるために、あらゆる手段を試していた。
「カッカッカッ!閣下はお見通しですなぁ。魔剣士隊員には既に獄鬼の血を投与しましたのじゃ。そのうち、独自の肉体強化と、魔力を手にするでしょうな。」
ゴンゾーは、得意げに言った。
獄鬼の血とは、凶暴な鬼の血液だった。
ゴンゾーは、獄鬼の血を魔剣士たちに注入することで、能力を飛躍的に向上させられると考えていた。
「獄鬼の血だと!?問題はないのかね?」
ザナクゥは、驚いて言った。
一般的には、人間に魔族の血を混ぜることなど前代未聞の暴挙であるからだ。
「すでに、実験体で効果は実証済ですじゃ。ただ…。」
ゴンゾーは、少し躊躇したように言った。それは獄鬼の血には、まだ完全には把握できない副作用があることを知っていたからだ。
「ただ?」
ザナクゥは、興味を持って言った。
「魔剣士の人格が人と言うより鬼に近づきますじゃ。」
ゴンゾーは、正直に言った。
「ほう…。それは構わんが、きちんと言う通りに動くのかね?」
「それはもう…。」
ゴンゾーは、何か魔道具のような物を取り出した。
それは、小さな球状の物だった。
「それは?」
ザナクゥは、不思議そうに言った。
「『強制の宝珠』ですじゃ。三号たちには対となる宝玉を埋め込みました。これを持ち、閣下が命令なさればその通りに従いますのじゃ。」
ゴンゾーの話によると、『強制の宝珠』とは、魔剣士の意思を無視して、命令者の意思に従わせられる魔道具だった。
彼は、獄鬼の血の副作用に備えて、魔剣士に強制の宝玉を埋め込んでいた。
そして、『強制の宝玉』とは、強制の宝珠と対応する魔道具であり、魔剣士の頭蓋骨に埋め込まれるものだった。
強制の宝珠と強制の宝玉が同調すると、魔剣士は、強制の宝珠を持つ者の命令に絶対服従するようになるという。
「なるほど。それはいいな。理想的だ!」
ザナクゥは、強制の宝珠を受け取ると、魔剣士隊の隊員が保管されるカプセルに近づいた。
彼が目にしているのは、フレイが死んだことで魔剣士隊の序列一位となったアッシュの姿だった。
アッシュは、カプセルの中で眠っていた。同様に他の隊員もそうだった。
「これで再び計画を推し進められそうだ!ワハハ!」
ザナクゥは、その表情こそはわからないが、ラボから去っていく後ろ姿は実に満足そうに見えたのであった…。
帝国軍の軍司令ザナクゥは、ラボの入り口で待っていたゴンゾーに声をかけた。
ラボとは、帝国軍の軍事施設の一角にある、軍事機密の研究所だった。
ゴンゾーは、魔剣士の生みの親であり、ラボの筆頭研究者だった。
「これは、閣下!こんなところまでお越しいただいて…。」
ゴンゾーは、ザナクゥに深々と頭を下げながら、へりくだった態度で迎えた。
しかし、その目は、自分の研究に対する執着と自信に満ちていた。
ザナクゥは、ゴンゾーの態度には目もくれず、ラボの中に入っていった。
「うむ。君の作った兵器が先の戦争でかなりやられたというじゃないか。現在の状況を知っておきたくてね。」
ザナクゥは、ラボの中を見回しながら言った。
先の戦争とは、帝国軍と聖騎士団の間で起こった大規模な戦闘のことだった。
その戦争で、ザナクゥは、ゴンゾーの作った魔剣士隊を投入した。
魔剣士隊は、帝国軍の最強の切り札として投入される予定だったが、行軍途中で聖王国側の妨害を受けた。
聖騎士団にも強者がいた。
その中でも、最も有名なのが、聖騎士団長のラシュホードだった。
ラシュホードは、卓越した身体能力や剣技を持っており、何度も国を救った英雄と呼ばれていた。
魔剣士隊のアッシュは、彼と対峙した。
そして、激しい戦いの末に、ラシュホードを倒したのだった。
しかし、アッシュを含む魔剣士隊は、強者を多数揃えた聖王国側より大きな損傷を受けた。
これによって、今後の侵攻作戦に大きな影響を与えることになった。
ザナクゥは、そのことに不満を持っていた。
「力及ばず申し訳ありません。特に三号は自慢の作品でしたが、激しい損傷を受けていましたのじゃ。」
ゴンゾーは、ラボの奥にあるカプセルに近づきながら言った。
カプセルとは、魔剣士隊の隊員が保管される装置だった。
カプセルの中では、培養液に浸された魔剣士隊員が眠っていた。
「アレは、どうやら聖騎士団長のラシュホードが相手をしたようだ。」
ザナクゥは、カプセルの中のアッシュを見ながら言った。
アッシュは、全身に傷を負っており、右腕が失われており、培養液に血が混じっていた。
彼は、ラシュホードとの戦いで、重傷を負ったのだった。
「ほうほう…。英雄ラシュホードですか。無傷で倒せると思っていましたが、残念な結果ですじゃ。確かに閣下の仰るように魔力も身体能力も強化が必要でしょうな。」
ゴンゾーは、アッシュに同情する素振りも見せずに言った。
彼は、自分の作った魔剣士に対して、愛情や情けは持っていなかった。
彼にとって、魔剣士は、自分の研究の成果であり、兵器でしかなかった。
「フッ。そう言いながら、もうやってあるんだろう?」
ザナクゥは、ゴンゾーの言葉に笑った。
彼は、ゴンゾーの性格を知っていた。
ゴンゾーは、自分の研究に対して、常に飽くことを知らなかった。
彼は、魔剣士の能力を高めるために、あらゆる手段を試していた。
「カッカッカッ!閣下はお見通しですなぁ。魔剣士隊員には既に獄鬼の血を投与しましたのじゃ。そのうち、独自の肉体強化と、魔力を手にするでしょうな。」
ゴンゾーは、得意げに言った。
獄鬼の血とは、凶暴な鬼の血液だった。
ゴンゾーは、獄鬼の血を魔剣士たちに注入することで、能力を飛躍的に向上させられると考えていた。
「獄鬼の血だと!?問題はないのかね?」
ザナクゥは、驚いて言った。
一般的には、人間に魔族の血を混ぜることなど前代未聞の暴挙であるからだ。
「すでに、実験体で効果は実証済ですじゃ。ただ…。」
ゴンゾーは、少し躊躇したように言った。それは獄鬼の血には、まだ完全には把握できない副作用があることを知っていたからだ。
「ただ?」
ザナクゥは、興味を持って言った。
「魔剣士の人格が人と言うより鬼に近づきますじゃ。」
ゴンゾーは、正直に言った。
「ほう…。それは構わんが、きちんと言う通りに動くのかね?」
「それはもう…。」
ゴンゾーは、何か魔道具のような物を取り出した。
それは、小さな球状の物だった。
「それは?」
ザナクゥは、不思議そうに言った。
「『強制の宝珠』ですじゃ。三号たちには対となる宝玉を埋め込みました。これを持ち、閣下が命令なさればその通りに従いますのじゃ。」
ゴンゾーの話によると、『強制の宝珠』とは、魔剣士の意思を無視して、命令者の意思に従わせられる魔道具だった。
彼は、獄鬼の血の副作用に備えて、魔剣士に強制の宝玉を埋め込んでいた。
そして、『強制の宝玉』とは、強制の宝珠と対応する魔道具であり、魔剣士の頭蓋骨に埋め込まれるものだった。
強制の宝珠と強制の宝玉が同調すると、魔剣士は、強制の宝珠を持つ者の命令に絶対服従するようになるという。
「なるほど。それはいいな。理想的だ!」
ザナクゥは、強制の宝珠を受け取ると、魔剣士隊の隊員が保管されるカプセルに近づいた。
彼が目にしているのは、フレイが死んだことで魔剣士隊の序列一位となったアッシュの姿だった。
アッシュは、カプセルの中で眠っていた。同様に他の隊員もそうだった。
「これで再び計画を推し進められそうだ!ワハハ!」
ザナクゥは、その表情こそはわからないが、ラボから去っていく後ろ姿は実に満足そうに見えたのであった…。
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