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第一章 ジンディオールの復讐編

第60話 ふくろう渓谷の戦い(終幕)

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〘命令を受諾じゅだく。変身を実行します。〙

 その声が私の頭の中にひびいた瞬間、身体に信じられない変化が起こり始めた。

「うわぁぁぁ!」

 私は身体をむしばむ激しい痛みに声を上げた。そして、その痛みと共に身体に異変を感じたのである。

 うろこが肌をおおい、爪や牙が鋭く伸びた。
 角や翼がえ、尻尾しっぽの感覚が芽生えた。
 目は竜のように紅く光り、魔力があふれ出てきたのである。

 私は、竜人へと変身してしまったのだ。

「い、一体…何なんだ!?あなたは…まさか…竜人りゅうじん!?」

 フレイは私の姿に驚愕きょうがくして反射的はんしゃてきに後ずさりしていた。

〘ワハハ!主よ。驚いたぞ!まさか、竜人になってしまうとはな。〙

(ああ。私もだ。先日、緑竜りょくりゅうを倒したあとに竜の血が覚醒かくせいしたらしいんだ。竜の血を大量にびたことも関係があるのかもな…。)

〘それもあるかも知れぬが、私の父は竜人だった。私の外見は母と同じヒューマンだったが、竜人の血を受け継いだのは確かだよ。〙

(なるほどな。これなら何とかなるだろう。ジンディオール!お前がとどめをすか?)

〘いや、有り難いがジュリアの状態が気がかりだろう?私はジュリアが無事に助かってからで構わない。〙

(すまない。)

 私は、再びフレイに背を向けてジュリアに近づいた。彼女は出血が多く、直ちに治療が必要だった。

 私は『異空庫いくうこ』からポーションを取り出してジュリアに使用した。

 傷口にポーションが浸透しんとうすると、うっすら煙のような物が立ち上がり傷をいやし始めた。

 しかし、ポーションだけでは完治させることは難しそうだった。

「敵に背を向けるとはおろかですねぇ。そのままくたばるがいい!」

玖式きゅうしき鬼神きじんい!』『ろくしき:死神の大鎌!』

「死ねぇぇぇぇ!!」

《ゴォォォォン!》

 胴体を真っ二つにぶった斬る程の強力な一撃が私を襲った。しかし、私は無事だった…。

 身体をおおうろこは強固であり、身体をめぐる巨大な魔力が更に守りを強化していたからである。

「ば…ばか…な…。私の全力の攻撃が…効かない…だと!?」

 フレイは、勝利を確信した攻撃が全く効いていなかったことを知り、驚愕きょうがくしている。

 私は、そんな彼のことは放置してジュリアに語りかけた。

「ジュリア。ポーションでは、効果が不十分だ。自分で治癒ちゆできるか?」

「だ、大丈夫…です。ジンさんのお陰で…だいぶ楽になりましたから…。聖なる光よ…傷ついた…我が身を癒したまえ!『ハイヒール!』」

 すると、ジュリアの身体は光に包まれてキラキラとかがやき始めた。やがて、光が収まると元気になったジュリアの姿がそこにあった。

「ジュリア!良かった!」

「ジンさん!何だかだいぶ変わってしまいましたね?」

「ああ。一時的だが竜人になってしまってな…。」

「ウフフ!もう…。ジンさんには、驚くことばかりであきれます!」

「アハハ。すまない…。ここは危険だ!ジュリアは、安全な場所へ避難していてくれ!」

「わかりました!ジンさん!頑張ってください!」

 ジュリアは、この場を離れた。

(ジンディオール。ジュリアは助かった。あとはお前の好きに…)

〘いや、能力が向上し、一時的に意識の共有化きょうゆうかが可能となった。主と私の意識が一つになり、『思考加速しこうかそく』という能力が付与ふよされる。〙

(わかった。やろう!)

〘承知した。『意識共有!』〙

 突然、自分の意識が大きく変化した感覚を覚えた。ジンディオールと意識を一つにしたことで、彼の思考や記憶も共有された様だった。

 そして、驚いたのは『思考加速』だった。考える速度が上がったことで、思考能力が上がり、状況判断じょうきょうはんだん能力も向上しているようだった。

 一時的ではあるが竜人となり、また思考加速までついた私は、もはやフレイに負ける方が難しい存在となっているようだった。

「ぐぬぬ!『竜人』に上位魔法の『ハイヒール』だと!?一体…私は何を見せられているんだ!?」

「何だ、フレイ。まだいたのか?逃げたしたと思っていたのだが…。ああ、その足では難しいか。」

 フレイは、ふるえていた。

 竜人になった私の姿や、フレイをも圧倒的に上回る強大な魔力に当てられ、彼は完全にまれたのである。

 恐怖にかられ、足が震えて身動きが取れなかったのであった。

「クソ!クソ!クソ!あの方のような圧倒的な力に恐れを抱くとは…。ジンディオール!許さんぞ!」

 フレイの唇から血がにじんでしたたっていた。

 私に恐怖したことが余程屈辱的くつじょくてきだったのだろう。

「こうなったらこれだ!『はちしき狂戦士化バーサク!』」

「まて!フレイ!それは…。」

 はちしき狂戦士化バーサク…。この技は、自分の能力を極限きょくげんに高める代わりに、自我じがを失うというリスクをはらんでいる。

 フレイは、今のままでは勝てないと思い、最後のけに出たのだろう。

 敵味方も垣根かきねなく攻撃してしまうため、当時のジンディオールは封印ふういんした技だったのだった。

 それ程までにジンディオールに負けたくないのだろう…。

「ぐおぉぉぉ!ぐわぁぁ!」

 フレイの身体は筋肉組織が増強されて、一回り大きくなっていた。軽鎧けいがいは弾き飛ばされて、裸体が顕になっていた。

 自我を無くしたフレイは、一心不乱いっしんふらんに私に襲いかかってきた。

《ブォン!ブォン!》

 フレイが振るう剣が空を切る…。

 剣圧がこちらにも楽々らくらくと届いてくる。凄まじい威力いりょくがあるのは間違いないだろう…。

《ブォン!ドカン!》

 振り降ろされた剣をかわすと、剣は地面に激突する。あまりの威力で周囲が深く陥没かんぼつしている。

「残念だよ、フレイ。深く後悔こうかいしている様を見たかったんだが、それでは難しいな。まさか、狂戦士状態のまま殺すことになってしまうなんてね…。」

「ぐおぉぉぉぉ!」

 再びフレイは、剣を振り下ろす。

《ガシッ!》

 今度は回避するつもりはない。

 片手で剣を受け止めたのだ。剣は私の手でピタッと止まり動かなくなった。

「ぐわぁぁぁ!」

 フレイは必死に抵抗を試みるが、剣はビクともしなかった。

「はぁぁぁっ!!」

《ガシャン!》

 私は腕に力を込めると、フレイの剣は粉々にくだった…。

「ぐおぉぉ!」

 フレイは、ひるんだ顔をみせ、後ろに後ずさりしていた。

「さあ、これで終わりにしよう。『しんしんざん!』」

 私は、偽魔剣士技ではなく、自分が習得した剣技を選んだ。

 四神斬は、レベルアップにより更なる進化をげていた。今の状態であれば、こちらの方がより能力を発揮できると判断したのである。

「がぁぁぁぁ!」

 フレイは、一瞬は怯んだものの、狂戦士化したために恐怖心を克服こくふくして全力で襲いかかってきた。剣を失っても尚、打撃で攻撃する!

 私は堂々とフレイをむかつ。

いちの剣:玄武げんぶ!』

  私はフレイの打撃を避けると、自分の剣を水のように柔軟に動かした。そして、フレイの足に斬り込むと同時に身を引いた。

《ズンッ!》

「ぎゃあああ!」

 これは、玄武の流水と呼ばれる、敵の隙を突いて素早く斬りつける技だった。フレイは、私の動きに反応できず、痛みに顔をゆがめた。

の剣:青龍せいりゅう!』

 二撃目は、木属性である青龍の力を借りた斬撃である。地面から巨大なツルが表れてフレイを拘束し、身動きが取れなくなった所突き刺した。

《ザクッ!》

「うわぁぁぁ!」

 腹部には剣によって大きく損傷そんしょうし、血液が飛び散った。

「まだまだいくぞ!『さんの剣:白虎びゃっこ!』」

 剣に魔力を注ぐと白銀はくぎんの刃に変わり、フレイの体を切り裂いた。これは、白虎の刃と呼ばれる斬撃能力を大きく向上させる技だった。

「うぎゃぁぁぁぁああああ!」

 フレイの胴体が真っ二つになると、想像をぜっする痛みが彼の全身をつらいた。大きな悲鳴が空に響き渡った…。

 フレイは、痛みによって狂戦士化から解放され、正気を取り戻した。

「ゴホッ!うぅ…。やられ…ました…ねぇ。」

「これがお前のつみむくいだ!」

「罪…ですか…。そうですねぇ…。私は…ジン隊長を裏切った。そして…あなたから『魔剣士:極』を奪って…殺害した。ですが…それが命令だったらとしたら?」

「馬鹿な!?一体、何を言っているんだ?」

 私はフレイの言葉に疑問を感じてたずねた。

「私は…ブラックラズリを…辺境の村レントで押収したと…報告しましたよね?」

「ああ。その時のことをしっかりと覚えてる。」

 私は、ジンディオールと意識を共有しているから、その時のことははっきりと思い出せた。

「ですが、ブラックラズリは…押収したんじゃなくて…与えられたのです…。ある方から…命令で…。」

「そんなはずは…。いや、教えてくれ…。一体誰なんだ?」

「ふふふ…気になりますよね…?軍部でジン隊長や私に…命令できる方なんて、ほとんど…いないですよ?あなたも…分かっているはず…です。軍司令官ですよ…。」

「なんだと!軍司令官が私の能力強奪や、殺害の命令を!?」

 私は、信じられない事実を聞かされて、驚愕きょうがくした。

 なぜなら、軍部でジンディオールが最も信頼していたのは、あの軍司令官だったからだ。
 
「そのとおり…です。あの方は…あなたの存在が…大陸の統一に…邪魔だと思っているんです。グボゥ!」

 フレイは、ついに血を吐いた…。

「ジン隊長…。あなたから能力を奪い、殺そうとしたのは軍司令官…です。あの方は恐ろしい…そして帝国で最も危険なお方だ…。私は、恐ろしくて軍司令の命令に…逆らえなかった…。ごめん…なさい…。」

「フ、フレイ!まさか…!?」

「さあ…あなたの手で決着をつけてください…。部下たちも見ています…。」

 見れば、私たちの戦闘以外はすべて終わっていた。

 魔剣士隊の生き残りと、ジュリアたち聖王国の仲間が、遠くから私たちの様子を見守っていたのだった…。

「フレイ…。」

 私は、不思議と涙がこぼれた…。フレイと笑いあって過ごした過去の日々が、一気に脳裏のうりよみがえったからである。

「ジン隊長!早く!!」

 血を流しすぎて顔が青白くなったフレイは、最後の力で私に叫んだ。

『ぬぉぉぉぉ!よんの剣:朱雀すざく!』

 白虎の刃が朱雀の刃に変わり、剣は猛烈もうれつな炎をまとった。

 私は炎の刃をフレイの胸に突き立ててとどめを差した。

 激痛に歪んでいたフレイの顔が、ほんの一瞬だけ穏やかに微笑んだように見えた。

 痛みだけでなく苦悩からも解放されたのだろうか。

 その瞬間、フレイは朱雀の炎に焼かれて灰となったのであった…。
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