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第一章 ジンディオールの復讐編

第54話 ふくろう渓谷の戦い(序幕)

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 私たちは魔剣士隊を戦場から引き離すべく、任務を引き受けて国境近くにあるふくろう渓谷けいこくまでやってきた。

 このミッションの指揮官ラシュホードが作戦の説明をした。

「よく聞いてほしい。これは、あの知将ビュロックが立案した作戦だ。今回、魔剣士隊を本隊から分断するために、橋を利用するのだ。」

「橋ですか?そんなもので部隊を分断できるとは思えませんが…。」

 最初に口を開いたのは、Aランク冒険者で魔法士のアーシャだった。彼女は小柄で童顔だが、年齢はかなり上だという。

「落ち着いて聞いてくれ。この渓谷は、魔力が渦巻うずま奇妙きみょうな地形だ。ここには岩場があちこちにあり、それを木造橋もくぞうきょうで結んで聖都までの道にしている。もし、この橋を落とせばどうなるか?」

 敵は最短ルートを通るならこの渓谷を選ぶだろう。しかし、橋が落ちれば渓谷の道は通行止めになる。

「なるほど!ここは一本道なのだろう?橋が落ちれば通行止めになり、聖都に向かうなら大きく迂回うかいする必要があるということだろう。」

 私は作戦の本質ほんしつに気づいて答えた。

「正解だ!ここの谷は深い。橋が落ちれば無理に通ることはしないだろう。これまでの戦場では、いつも魔剣士隊が先陣を切っていたそうだ。だから、今回もそうなる可能性が高いのだ。」

「なら、魔剣士隊が通過したタイミングで橋を落としてしまえば、本隊は迂回せざるを得なくなるのですね。つまり、魔剣士隊を分断するだけでなく、本隊の行軍速度を落とせるというわけですか。」

 副団長のカヌリュは、感心しながら返した。

「魔剣士隊を分断したらどうするのですか?」

 ジュリアがラシュホードに質問する。

「当然、戦闘になるだろう。各自のやり方で足止めしてほしい。」

 そんな話をしていたところだったのだ…。
 

◇ ◇ ◇

「帝国軍が近くまで来ているぞ!」

 偵察をってくれたSランクパーティ『雷光』のマイクが戻ってきた。

「それでマイク、魔剣士隊は?」

「ああ。それなんだが、奴らは最後尾さいこうびのようだ。そして先発隊にはサマルトの兵士たちがいた…。」

 マイクは、隠密おんみつ行動の得意な軽戦士だ。ナイフや等身の短い剣の扱いが得意だそうだ。彼は、瞬足を活かした情報収集は大の得意であった。

「おい! 魔剣士隊は最後尾らしいぞ!」

「何!? 今までは最前列だったはずだぞ!」

 ラシュホードや、主要メンバーの動揺どうよううかがえた。想定していたケースとは異なる展開てんかいとなったからである。

「まあ、考え方によっては幸運だったかもしれないぞ!もしも列の真ん中だとすれば、前後の兵まで巻き込んで戦闘になるだろう。」

「最後尾なら魔剣士隊が橋に差し掛かる前に破壊すれば、奴らを孤立こりつできるだろう。」

 バルトがフォローを入れたことで、緊迫きんぱくしつつある空気がほぐれていった。

 私たちは敵から発見されない場所に移動し、帝国軍が来るのを待つことにした。
 

◇ ◇ ◇

 遠くから細かな振動を立てながら、複数の音が聞こえてきた。

「これは多くの兵士の足音のようだ。みんな!来たぞ!」
 
 マイクは帝国軍が来ていること知らせてくれた。やがて、続々と帝国軍が姿を現した。

「あれは!マツとサネじゃねぇか!?あいつら帝国軍に…。」

「シッ!ユリオ!察知さっちされる!彼らは軍人だ。上層部が帝国に取り込まれたんだ。彼らは従うしかないだろう。」

「わかっているって!」

 雷光の同郷どうきょうであるサマルトの兵士が現れたようだ。最初は二頭の騎馬兵きばへい先導せんどうし、その後を多くのサマルト兵たちが歩いている。

 その後、マチスマ兵や補給隊と続き、レーナス帝国兵たちがやってきた。

〘主よ!頼みがある!〙

 突然、頭に声が響いた。これは、私の持つスキル『ジンディオール』の呼びかけであった。

(ジンディオールか。どうしたんだ?)

〘フレイに遭遇そうぐうしたら私に任せて貰えないか?〙

(ああ、そういうことか。フレイとやり合うのはお前の悲願ひがんだものな。どうだ?勝てるのか?)

〘『魔剣士:極』がフレイにうばわわれてしまったが、私たちはあれから確実に強くなっている。しかし、それでも勝てる見込みは二割程度だろう…。〙

(随分ずいぶんと低いな。フレイはそれ程の相手ということか…。)

〘まあ、フレイと言うよりも、私の持っていた『魔剣士:極』の能力が問題だな。あれは、人の想像を超えた恐ろしい力だ。〙

(そのようだな。俺は転生して間もないが、本音を言えば死にたくない。だが、お前の気持ちはよく分かるし、この身体は元々お前のものだ。応援してやるから存分にやってこいよ!)

〘主よ、感謝する!〙

「ヒソヒソ…。そろそろ帝国軍の兵がれるぞ!橋の破壊はかいの準備にかかれ!」

 魔剣士隊はすぐそこまで来ていたのであった…。
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