上 下
35 / 81
第一章 ジンディオールの復讐編

第35話 魔湖(バネーロ編・開戦)

しおりを挟む
「魔物のれがせまっている!」

 見張りの兵士がさけんだ。

 私たちは素早く武器を手に取り、防衛の位置についた。

 地平線ちへいせん彼方かなたから、魔物たちが無数に現れた。

 黒い波がせるように、バネーロの都市に向かって進んでくる。

 その数は目測できないほどだ。

 二千以上とも言われているが、実際にはもっと多いのかもしれない。

「くそ…こんなにいるとはな…。」

 私たちの隣にいる兵士たちも、魔物の圧倒的あっとうてきな数に恐怖を隠せない様子だった。

 バネーロは、ダンジョンに近い都市ということで、魔物の襲撃しゅうげきそなえて外壁がいへきを高くあつく作っていた。

 作戦本部では、外壁の外で迎撃げいげきするのは、人的損害じんてきそんがいが大きすぎると判断したようだ。

 外壁の上から遠距離えんきょり攻撃で魔物の数を減らし、外壁がやぶられた場所を近接戦闘でめるのが、今回の作戦の骨子こっしだった。

 私たちは、遊撃隊として、外壁の上から魔物に攻撃する役割をになっていた。

「ジン、ジュリア!遊撃隊の俺たちは二手に分かれて動こう。お前たちは向こうの魔物を狙え。俺とサムウェルはこっちを担当する。」

 私たちと一緒にフェルナンドから来たBランク冒険者のビルトが、私たちに指示しじを出した。

 私は異論いろんなくうなずいた。

 ビルトは、私たちよりも経験豊富な冒険者だ。彼の言うことにしたがうのが得策とくさくだろう。

◇ ◇ ◇

「来たぞ!」

 やがて魔潮まちょうの魔物たちが、バネーロの外壁に到達した。

 私の目に映るのは、ゴブリンやコボルト、オークやリザードマンなど、様々な種類の魔物だった。

 その中でも、特に目立つのが『トロール』と呼ばれる魔物だった。

 その巨体は、他の魔物を圧倒していた。

 魔物たちは、それぞれに特徴や能力を持っている。

 相手に応じて戦術を変えなければならないだろう。

「ジンさん、すごい数ですね。怖いです…。」

 私の隣にいるジュリアが、ふるえる声で言った。

「ジュリア、大丈夫だよ。敵が近づいて来たら私が守ろう。ジュリアは、弓や魔法で魔物の数をできるだけ減らして欲しい。」

 私は、ジュリアの肩を優しくでながら、はげました。

「ありがとうございます。ジンさん…。私、頑張ります。」

「おうおう、兄ちゃんたち、いい雰囲気ふんいきだな。俺も生き残ったら、彼女でも作ろうかな。」

 私たちの近くにいる兵士も、魔物の恐怖をまぎらわせるように、冗談を言っていた。

 この状況では、笑うこともできないが、気持ちは分かる。

一斉いっせい攻撃、開始だ!」

 現場指揮官の声がひびいた。

 戦闘が始まった。

 ジュリアたちは、外壁の上から、魔物に遠距離攻撃をあびびせた。

 弓や魔法が空を飛び、魔物たちに命中した。

「グキャァァ!」「グォォー!」「ギャァァァ!」

 ゴブリンやコボルト、ウルフなどの弱い魔物たちは、次々と倒れていった。

 弱い魔物たちは、外壁に攻撃する手段がなく、一方的に攻撃されていた。

「やあ!」「ウィンドカッター!」

 ジュリアも外壁の上から、魔物に攻撃を繰り出した。

 彼女の弓術や魔法は、レベルアップにより練度が上がっており、魔物たちを確実に仕留めていった。

「ジュリア、いいぞ!」

「はい!ウォーターショット!」

「グワァァァ!」「ギャァァァ!」

 ジュリアのレベルもこの戦闘で急激に上がっていた。もうすぐ30になるだろう。

 私たちの戦況は、まだ有利に進んでいた。

 しかし、魔物の数は減らない。

 倒しても倒しても、後ろから新たな魔物が押し寄せてくる。

「放て!」

《ガタンッ!》

 投石機とうせききから大きな石が飛んでいった。

 投石機は、籠城戦ろうじょうせんで使われる兵器の一つだ。

 身近にある石をそのまま武器にできるのが、便利なところだ。

「グアァァ!」

 重い石が魔物にぶつかり、魔物をつぶした。

 投石機は、かなり効果的に魔物を減らしていた。

「グアオオオー!」

 しばらくして、遠くから魔物が何か叫んでいるのが聞こえてきた。

 何を言っているのかは分からないが、魔物にも指揮官のような存在がいて、何か作戦を伝えたのかも知れない。

 私は、何となく嫌な予感がした…。

「あれを見ろ!」

 魔物の中でも特に力のあるオークやトロールが、動き出した。

 彼らは、倒れた魔物の死体をひろい上げて、前方に投げ飛ばしている。

「これはまずい…。」

 私はすぐに、魔物のねらいに気づいた。

「おい、兄ちゃん!何がまずいんだ?」

「ああ、兵士さんか。いや、あのトロールが投げ飛ばしている死体は全部外壁の手前に積み上げられているんだ。死体が山になっていくと…。」

「高さが足りて…なるほど!外壁を乗り越えようとしているのか!兄ちゃん、ありがとな!指揮官に知らせてくるぜ。」

 兵士はあわてて伝令でんれいに走っていった。

「ジュリア、できるだけオークやトロールを狙って攻撃してくれ!」

「わかりました!行きます!ウォーターショット!」

 ジュリアの放った水の弾丸は、大柄なトロールの胸に突き刺さった。

「グギャァァァ!」

 トロールは血をき出して倒れた。

「ジンさん!やりましたよ!」

「いや、ジュリア!まだだ!」

 倒れたトロールの傷口から、細かい煙が立ち上っていた。

 そして、傷は徐々にふさがり、やがて完全に治ってしまった。

「えっ!傷が治ってしまいました…。」

 見事な魔法攻撃を決めたジュリアも驚いていた。

 驚くのも仕方ない。

 普通なら死んでいてもおかしくないほどのダメージを与えていたのだから…。

「ジュリア、あいつは『再生』の能力を持っているんだ。」

「再生って自分で傷を治せる能力…ですか…?」

「ああ、その通りだ。」

 私は、インフォによってこの事実を知っていた。

 このような特殊な能力を持つ魔物は珍しく、トロールを倒すには別の方法を考えなければならないだろう。

「来たぞ!防げ!」

 トロールやオークのおかげで、外壁の手前に死体の山ができてしまっていた。

 魔物たちは、死んだ仲間を踏み台にして、外壁の上に登ってきた。

 ついに魔物たちの反撃が始まったのだ…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する

神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。 他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。

処理中です...