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第一章 ジンディオールの復讐編

第33話 魔潮

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◇ 冒険者ギルド フェルナンド支部 ◇

「大変だ!自由同盟国家じゆうどうめいこっかサリのダンジョンで、魔潮まちょう徴候ちょうこうあらわれれたとの情報が入った。」

「まさか!?前回は三年前って聞いてたはずだよな!早すぎるだろ?」

「俺も同感だ。しかしな、情報はダンジョン近郊きんこうの都市『バネーロ』から来た奴からなんだ。護衛依頼でここに来たらしい。信頼性しんらいせいは高いはずだぜ!」

「なら、公都もやばいんじゃないか?」

「そうだ。三年前には公都も魔潮によって、相当な被害を受けたという情報だ。」

 私とジュリアは、ギルマス主催の実力試験に合格し、見事にCランクに昇格しょうかくした。

 数日後、冒険者ギルドでは『魔潮まちょう』に関するうわさえずささやかれていた。

 魔潮とは、ダンジョンの魔物があふれ出し、膨大ぼうだいな数の魔物がなだれ込む現象だ。

 私が知る表現では『スタンピード』がふさわしいが、この世界では魔潮と言う呼び名が一般的なようだ。

 食料や繁殖のために近隣の集落を襲い、被害ははかり知れないと言われている。

 魔潮は最悪の天災てんさいの一つとして、この世界でおそれられている。

 ギルドホールは魔潮の情報により混乱こんらんし、職員は対応に追われていた。

「おい!何をさわいでいるんだい?いい男たちが狼狽うろたえるなんてなさけないだろう?」

 そう言いながら現れたのはギルドマスターのランピヨさんだ。

 相変わらず露出ろしゅつの激しい格好かっこうで、そのたくしい肉体を誇示こじしている。

「ギルマス、魔潮のことは本当なのか?」

「ああ。本当さ!私が集めた情報では、数日で公都にも到達とうたつするそうだ。その数は千だとか。」

 ランピヨさんはこんな時でもポージングしながら答えていた。

「千だって!?めちゃくちゃだ…。」

 ギルドマスターの知らせを聞いた冒険者たちは一瞬で静まり返り、敵の規模に驚いていた。

「心配するな!公都の兵が全軍で対処たいしょする。我々冒険者も協力すれば充分じゅうぶん撃退げきたいはできるさ。問題は向こうか…。」

「ギルマス、向こうとは?」

「ダンジョン近郊の都市『バネーロ』だ。向こうは、こちらの数倍の魔物が向かっているとの情報だ。ユーザリア大陸のギルド協会を通じて応援おうえん要請ようせいがきている。報酬はうちの倍額は出すと言っている。」

「魔物の数が二千以上ってことだろ!?そりゃ、死に行くようなもんだ。報酬じゃねぇ!命あっての物種ものだねだ!応援に行くなど狂気きょうき沙汰さただぜ。」

 冒険者の一人は、顔面蒼白がんめんそうはくになりながらそううったえていた。

「ああ。そうだな。バネーロへの応援に関しては強制きょうせいはしない。自分の力量りきりょう把握はあくし、無駄に命を落とさないで欲しい。だが、この公都の防衛に関しては話が別だ。フェルナンド支部のギルマスとしてみんなにお願いしたい。どうか公都の人々を救って欲しい!」

「勿論戦うぜ!」「バネーロはさすがに無理だが、フェルナンドは守ってやるぜ!」「ここは俺たちの居場所だからな!」「俺は家族のために戦う!」「俺もだ!」

 公都防衛においては、志願しがんする者が次々とりを上げた。

(凄いな冒険者は…。危険でも立ち向かう勇気。日本の若者に彼らのようなこころざしがあるのだろうか…。)

〘 ジン・ディオール・フブキよ…。〙

 突然、頭の中に声が響いた。この声は知っている…。

(あんたは…ジンディオール!?)

〘 ジン、お前たちはバネーロへ向かえ!〙

(正気しょうきか!?無謀むぼうだ!危険すぎる!)

〘 問題ない。お前たちなら乗り切れる。それに、今のままではフレイに敵わない…。〙

(俺はフレイなど関係ない…。)

〘 まあ、そう言うな。剣士として実力をつけることはお前たちにとっても価値のあることだ。女神さまの加護もある。バネーロならかなりのレベルアップが期待できるぞ!〙

(まあ、確かにそうだが…。俺もジュリアも命の危険はないんだろうな?)

〘 絶対ぜったいにとは言えぬ…。物事に絶対は存在しないからな。だが、どうしてもお前に対処たいしょできなくなった場合は、今回だけは力を貸してやる。〙

(あんたがか…?いいだろう。その時は、ジュリアだけは絶対に守れよ。)

 ジンディオールの声は途切れた。

「ジュリア!」

「はい…。」

 ジュリアは、私の目を真っ直ぐ見つめている。

「私はバネーロへ行く!」

「はい!おともします!」

「本気なのかい?」

「一緒に旅をすると決めた時から危険は覚悟かくごしています。ジンさん、私も連れて行ってください!」

「わかった…。私が必ずジュリアを守って見せるよ!」

「はい!期待してます!」

 私たちは決断けつだんする。

「ランピヨさん!私たちはバネーロへ行きます!」

 私の発言によって、ギルドホールはざわめきにつつまれた。

 誰もが私たちを、あきれ顔だ。

「ジンにジュリアか。あんた達ならいいすけになりそうね。しかし、命の保証ほしょうはできないわよ?」

覚悟かくごの上だ。問題ない。」

「了解した。ジンとジュリアのバネーロ防衛の依頼を承認する。頑張りなさい!」

 私たちは一刻いっこく猶予ゆうよもないバネーロに向けて旅立ったのであった…。
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