上 下
20 / 81
第一章 ジンディオールの復讐編

第20話 ルカ村での戦い(前編)

しおりを挟む
「何だ?キサマは!?」

「旅人だ。武器を捨てて投降とうこうするなら、命はうばわないでやろう。」

 私は女性を追い回している男の前に飛び出すと、投降するように呼び掛けた。

馬鹿ばかか!?死ぬのはおめぇだよ!うりゃあ!」

 しかし、盗賊はおうじることなく攻撃をけてきた。

「それは、残念だよ…。」

《シュンッ!》

「ぎゃぁぁぁ!」

 私は躊躇ためらうことなく剣を振り下ろした。

(うわぁ。盗賊とはいえ人をあやめてしまった。しかし、何故なぜだろう。思ったほど罪悪感ざいあくかんかないような…。)

 私は、初めて人を斬り殺した。

 日本にいた頃には想像できない出来事だ。

 しかし、罪人ざいにんだからなのか、盗賊に対して慈悲じひの心や、殺害する罪悪感ざいあくかん芽生めばえないことに自分でも驚いていた。

(これは、ジンディオールの魔剣士精神をいでいるためか、はたまた異世界転生が関係しているのか…。)

 疑問に感じるが、余計よけいなことを考えず討伐とうばつ専念せんねんできそうなので、これ以上気にするのを止めることにした。

「風の刃!ウインドカッター!」

《ヒュン!…ザクッ!》

 ジュリアの放った、鋭い風による魔法攻撃が盗賊の顔面をとらえた。

 盗賊の顔面があざやかに切断されて、地面にコロンと落下する。

 一瞬の出来事に殺られた当人も気づいていないのだろう。

 声を発することなく息絶いきたえている。

 ジュリアも全く無遠慮むえんりょで盗賊相手に魔法攻撃している。

(罪人に容赦ようしゃしないのがこの世界の常識なのか…。それにしてもジュリアの魔法は凄いな。)

 改めて魔法という存在や、ジュリアの魔法能力に驚嘆きょうたんするのだった。

「おい!見ろ!冒険者が現れたぞ!」
「本当だ!お頭に報告してくる!」
「なんだ、たった二人じゃねぇか。」
「多少強かろうが数じゃこちらが上だ。」
「おい!かこめ!ボコるぞ!」
「女は痛めつけるだけだ。殺すなよ。上玉だ。」
「おれがいただく!」
「馬鹿言え!俺が先だ!」

(冒険者だって?確かにジンディオールの記憶にも冒険者がいるようだ。そうか、ラノベみたいにこの世界にも冒険者がいるんだな…。)

 盗賊たちは仲間を呼ぶと、20名は超えるであろう人数が集まった。

 私やジュリアをかこむように位置取りされており、私達の退路たいろふうじられた。

 しかし、こんな状況でも私は落ち着いていた。

 ジンディオールの能力や精神のおかげであることは勿論もちろんだが、『インフォ』によって盗賊たちのレベルや能力を把握はあくできていることが大きい。

 奴らのレベルは3~7程度。

 レベル12のジュリアにとっても格下かくしただ。

 人数だけは多いので、その点だけは注意が必要だろう。

「おい!お前たち。あの男のように殺されたくないなら今すぐ降参こうさんするんだ!」

 私はなるべく人殺ししないで済むように、相手にふたた投降とうこうするように呼びかけることにした。

「バーカ!この人数かず見ろよ!」
「たった二人でどうこうできるかよ!」
「お前こそ死ぬのが怖いんだろ?」
「あいつビビってやがるぞ!」
「お断りだ!そしてお前が助けを求めても無駄むだだ!殺してやる!」

 残念ながら交渉こうしょう決裂けつれつしたようだ。戦いは避けられないらしい。

「ジュリア、大丈夫かい?」

「はい、ジンさん!任せてください!」

 ジュリアは、盗賊相手に萎縮いしゅくしてしまうことが心配されたが、どうやら杞憂きゆうだったらしい。

 過去のトラウマを乗り越えようとする彼女の強い心や、レベルアップにより能力が向上していることが彼女に勇気を与えてくれているのだろう。

 彼女の表情には自信のような物が表れていた。

「やあ!」

 戦闘は、ジュリアの先制攻撃を持って開始された。

 驚くことに弓術がレベル3にまで達しており、放たれた矢の速度や、命中精度は素晴らしかった。

 矢は一人の盗賊の眉間みけんに命中した。

 盗賊は白目をくと、ひざからくずれるようにして絶命ぜつめいした。

 彼女は一息ひといき入れることなく魔力を手のひらに集めているようだった。

「ジョルノ!!クソッ。このアマがぁ!」

 近くの盗賊は、仲間の死にいかり、ジュリアに突進とっしんしようとしている。
 
 しかし、ジュリアは弓矢をる直前より魔力を高めており、矢を放ち終わった後には魔法攻撃ができるように準備されていたのである。

「炎を放て!ファイアボール!」

 敵が突進して来た時にはファイアボールが放たれており、敵がすきを着く間もなく魔法攻撃がヒットしたという訳だ。

 これは、ジュリアが静寂の森での経験けいけんて、複数相手に対する戦い方を身につけたのだろう。

「うわぁぁぁ!助けてくれ!」

 思わぬ反撃はんげきを受けた盗賊は、火だるまとなり、もがき苦しんでいる。

 周囲の仲間たちは、驚くばかりで助けることもできずに、結果ごろしになってしまっていた。

 ジュリアは、次の準備が終わりすでに矢を放とうとしていた。私は彼女の無駄のない戦いに感心かんしんする。

(ジュリアは成長したな。一人でも問題なさそうだ。ならば…。)

 ジュリアは、放っておいても大丈夫そうなので、私も攻撃をけることにする。

「はぁぁぁ!!おりゃ!」

《ザンッ!グサッ!》

「ぎゃあああ!」「うわぁぁぁ!」

 私は最も敵が集まっている所に突撃し、剣技けんぎで次々と蹴散けちらしていく…。

 剣術レベル6の私と、大した戦闘スキルも持たない盗賊たちでは天地てんちほどの強さの開きがあった。

 盗賊は一人、また一人と斬りせられていった…。

〘剣術スキル『疾風乱舞しっぷうらんぶ』を獲得しました。〙

(おお!戦いの最中に新たな剣術スキルを獲得したぞ!なになに…。俊足しゅんそくで移動しながら周囲の敵を次々と斬り伏せる攻撃を行なうらしい。今の状況に対応たいおうした剣技という訳だね。使ってみるか。)

『疾風乱舞!』

 初めて使う技のはずなのに、長年みがき上げられた技の様に自然と体が動いて攻撃をかえしていった…。

《ズシュ!》《ザンッ!》《グサッ!》

「うわぁぁぁ!」「ぎぁぁ!」「く、くるなぁー!わぁぁ!」

 いつもよりもさらばやく移動し、次々と敵を倒して行く…。

 敵からの攻撃も勿論もちろんあるものの、相手の動作がみょうに遅く感じられており、容易よういに回避できてしまった。

 剣術スキルを発動してから一気に12名もの盗賊を相手に全滅ぜんめつさせたのであった…。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不死鳥契約 ~全能者の英雄伝~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4,267

加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

女神の箱庭は私が救う【改編版】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:39

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:392

処理中です...