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第一章 ジンディオールの復讐編

第16話 草原から静寂の森へ

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 私たちは、村を離れて歩き続けた。

 ゲームやラノベの世界とは違い、移動はリアルだ。

 目的地に到着するまでにはかなりの時間をようし、それにともな疲労ひろう半端はんぱない。

 わかってはいるけど、この現実を受け入れるしかない。

 しばらくは草原の道をひたすらに歩いた。

 この辺りは、魔物の気配けはいはなく安全だ。

 時々、鹿しかや、うさぎ、いのししなどに似たけものたちが姿を見せるが、すぐに姿を消した。

 草花がしげる大草原は、緑色に包まれており、その景色はとても美しい。

 これまで東京で暮らしていた私にとっては、信じられないような環境で、自然の素晴らしさを肌身はだみ実感じっかんする。

 空気は美味しいし、花からは優しくさわやかな香りがしていた…。

「ジュリアさん。そろそろ食事にしましょうか。」

 私たちは丘陵きゅうりょうの上にかり、休憩きゅうけいすることにした。

 私が『異空庫いくうこ』から材料を取り出すと、ジュリアさんはれた手つきで調理を始める。

「そう言えば、ジンさん。そろそろ『さん』けは止めてもらえませんか?」

 ジュリアさんは、調理しながら私に語りかける。

「えっ…。」

「あ…。ほら、おじいちゃんや、村の人からは普通にジュリアと呼んで貰っていたので、ジンさんにもそう呼んで欲しいんです。」

 ジュリアさんは、はずずかしそうな顔をしながらうったえていた。私は素直に受け入れた。

 魚の燻製くんせい料理と、野菜サラダが並べられた。

 質素な料理ではあるが、彼女が手を加えてくれたおかげで大変美味しい食事となった。

「うん、とても美味しいよ!」

 私の感想に、ジュリアの表情がぱぁっと明るくなった。

「良かった!もっと喜んで貰えるように頑張ります。」「でも、その『異空庫』という能力は凄いですね?荷物を持たなくていいんですもの!」

「確かにそうだね。レベルが上がって使えるようになったけど、普通ではない能力だと自覚しているよ。」

「あの…レベルって何ですか?」

「えっ?ジュリアはレベルを知らないの?」

 ジュリアは、あごたてりながらウンウンとうなずいている。

(レベルって、ゲームとかでは良くあるけど、一般的ではないのか…。インフォでしか分からないし、自分が判断する目安めやすなのかも知れないね。)

「あの…ジンさん?」

「あ…。ごめん、考えごとしていたよ。レベルは能力が成長した時のいかな?どうやら、私にしかわからない物のようだね。」

「やはり、ジンさんは不思議な方ですね!話し方も18歳にしてはみょうに大人びていますし…。」

「ああ…。確かにそうだね。誰にも言っていなかったけど実はね…。」

 私は、ジュリアに転生者である事実を伝えた。

 別の世界では40歳過ぎのオジサンだったこと。
 死亡して女神さまの力で転生したこと。
 その時に異能いのうを授かったこと。
 死亡した魔剣士隊長の肉体に転生したこと。
 肉体の持ち主の願いを果たすため旅立ったこと。

 以上のことを簡潔かんけつだが、なるべくわかりやすく説明した。

 ジュリアは、最初は真剣な表情だったが、時々驚きの表情をしながらも最後まで聞いてくれた。

「なるほどです。やはり、ジンさんは不思議な運命をお持ちのようですね。あまりにも凄いお話でピンと来ませんが、ジンさんの言うことですから信じますよ。」「でも、ジンさんが大人びて素敵すてきな理由がわかった気がします…。」
 
 ジュリアに身の上を説明しているうちに、改めて自分が異質いしつの存在であることを自覚する。

 転生に、女神さまの加護。

 インフォや異空庫などの不思議な能力。

 簡単に上昇するレベル。レベルに至っては自分しかわからないようだ。

 まだわからないことだらけだけが、これらの能力はこの世界で生き抜くために大いに活躍かつやくしてくれているのは間違いない。

(これは、幼女神ようじょしんに感謝しなくてはならないかな?)

 食事が終わると、再び移動を始めた。

 丘陵を超えるとその先には大きな森が迫っていた。

 道はその森へと続いており、公都を目指すなら通過する必要があるようだ。

 地図は無く、道だけがたよりな私たちは、期待と不安をいだきながら先に進むことにしたのである。

◇ 静寂せいじゃくの森 ◇

 森に足をみ入れる。

 舗装ほそうされている訳ではないが、かためられたきちんとした道があることに安堵あんどする。

 辺り一面が木であった。

 葉がおおくしており、地面をわずかな光がらしている。

 全体的にはやや薄暗く、日中でも少し不気味ぶきみに感じる。

 周囲に気を配り、警戒しながら歩みを進める。

(こんな所で襲撃しゅうげきとかあったらたまったもんじゃない…。)

 時間を掛けすぎる訳にもいかず、警戒しつつも歩みの速度を上げていく。

《ワォーン!》

 遠くで犬の遠吠えのような声が聞こえた。

 私たちは、その声に緊張を覚える。

 ジュリアは、私に近づき、服のすそにぎめている。

 やはり、何かが近づく音がする。

 地面を蹴り上げる複数の音。

 私たちはがまえた。

 すると、前方から音の主が姿を現した。

 その距離五十メートルの場所で立ち止まり、こちらの様子をうかがっているようだ。

「野犬が三匹?いや、犬じゃない?」

 私は、『インフォ』によって相手の情報を探る。

 目の前の敵は野犬ではなく、魔物だったのであった…。
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