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第一章 ジンディオールの復讐編

第10話 決意と旅立ち

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◇ ホセ村 ◇

 ゴブリンの巣窟そうくつを探し出し、村人たちと共に討伐に成功した私は、夕暮れの空を見上げた。
 
 赤くまった雲が、今日の戦いの激しさを物語っていた。

 村に戻ると、我々の勝利を知った村人たちが熱狂的ねっきょうてきむかえてくれた。

 討伐隊とうばつたいに参加した者たちは、それぞれ家族と再会し、涙や笑顔で感動の再会を果たした。

 私にはそんな家族はいなかった…。私は日本から転生した人間だからだ。
 
「ジンさん!」

 私の名前を呼ぶ声に振り向くと、そこにはジュリアさんとアシュアさんがってきた。

「ジュリアさん、アシュアさん…。」

「おかえりなさい!ジンさん。」「おかえりや。無事で良かったわい。」

 ありがたいことに、私のことを心配してくれる人はちゃんといたのである。

 彼らはこの村で私を拾ってくれた恩人おんじんであり、家族同然どうぜんだった。

 二人は私と抱き合い、安堵あんどの表情を浮かべていた。

 私もまた彼らに心から感謝し、嬉しさがこみ上げたのであった…。

《 その夜 》

 ゴブリン討伐の功績こうせきを祝って、村では盛大せいだい宴会えんかいもよおされた。

 村の特産品である果実酒が次々とわれ、村人たちは歌や踊りで盛り上がった。

「あんなに沢山のゴブリンがいるとは思わなかったよ!」「怖かったけど、みんなで力を合わせて倒せたな!」「でも、本当に助かったのはジンさんのおかげだな。」「そうだよ!ジンさんはすごかったよ!」

 話題は、当然今日のゴブリン討伐についてだった。

 人々はゴブリンの恐ろしさや自分たちの勇姿ゆうしを語り合い、そして全員が無事に帰還きかんできたことに感謝した。

 そして、私に感謝の言葉を述べてくれた。

 私は村の色んな人と交流し、笑顔で応えた。

 日本人だった頃は、こんなにも人と仲良くなれると思わなかった。

 この世界で生きることに少しずつれてきている自分に気づいたのだった…。

◇ ◇ ◇

 宴会も終わりに近づき、私は家へと帰ってきた。
 
 ジュリアさんやアシュアさんは既に眠っているようだった。

 私も寝床ねどこで横になり、目を閉じる。

 しかし、すぐに眠りにつけなかった。

 今日戦ったゴブリン達のことが頭から離れなかったのだ。

 死に直面した恐怖や、受けた傷の痛み、そして剣でゴブリンを斬り殺した時の感覚が鮮明せんめいよみがえってきた。

(あの時の声は何だったんだろう。あの声が教えてくれたから、ゴブリンリーダーのシールドを破れたのだ。もし教えてもらわなかったら、今頃は…。)

〘お前は死んでいただろうな。〙

 再びあの声が私の頭の中に響いた。

(え…また声が…。一体誰なんだ?)

〘私はお前だ。ジン・ディオール・フブキよ。〙

(まさか…あなたがこの肉体の本来の持ち主!?ジンディオールなのか?)

〘その通りだ。そして、お前に頼みがある。〙

(何かな?)

〘私は、祖国レーナス帝国には恨みはないが、私を裏切って殺害した男『フレイ』には復讐ふくしゅうたしたい。奴は私を殺してもなお、懺悔ざんげすることなく、のうのうとこの世に生きている。私の無念むねんを晴らしてくれ。〙

(あなたの気持ちはよくわかった。しかしあなたの記憶では、レーナス帝国は強大であり、あなたの部下達も精鋭せいえいぞろいだった。今の私ではフレイに近づくことすら難しいだろう。)

〘その通りだ。だからこそ、この世界を旅しながら強くなってほしい。お前は女神様の加護を受けている。私よりも強くなれる可能性がある。〙

(約束はできないが、世界を旅するのは悪くないかもな。もしチャンスがあれば、あなたのおんむくいることにしよう。ただし、期待しないでくれよ。)

〘わかった。ありがとう。私は幼い頃から兵器として育てられたから、自由や楽しみというものを知らない。お前はこの世界を思う存分楽しんでくれ。〙

 その言葉と共に声は途絶とだえた。

(あれがジンディオールか…。死んだ人間と話せてしまうなんて信じられない。まさかあれは幽霊!?)

 そう思うと背筋せすじが寒くなったが、彼と話している間は恐怖を感じなかったことを思い出した。

 むしろ、自分がどうしたいのか少し見えてきたような気がした…。

《 翌朝 》

「えっ!?ジンさん、村を出て行くんですか?」

「ジュリアさん、すまない。き友の無念を晴らす旅に出ることに決めたのだよ。二人には、返しきれない恩義おんぎがあるのだが…。」

「ジンさんや。何を気にすることがある?自分のやりたいことをやればいいじゃろう?それならば、ジュリアも一緒に連れて行ってくれんか?」

「おじいちゃん!」「え!?ジュリアさんですか?」

 私とジュリアさんは、アシュアさんの発言に驚きの声をあげた。

「ジュリアは父親ゆずりで好奇心旺盛こうきしんおうせいじゃ。ずっと外の世界に興味を持っていたんじゃよ。」

「おじいちゃん!でも、おじいちゃんが…。」

「ジュリア。お前は優しい子じゃ。ワシのことを気にかけてくれているのじゃろう?じゃが、心配はいらない。ワシには村のみんながついている。お前は自分の夢を追いかけるんじゃ。」

「そうだぞ!ジュリアが行きたいなら行くといい。アシュアのことはワシに任せろ!」

 家の中に村長が現れた。

 私たちの会話が外まで聞こえていたようだ。

「でも私…。」

「ジンさん、どうじゃろう?ジュリアは魔法が使えるだけじゃない。賢くて美人じゃ。おまけにお前さんにれておる。最高のパートナーじゃろう?そのまま嫁にしても構わんのじゃぞ!」

「アシュアさん!?」「おじいちゃん!」

「嫁にするかどうかはともかく、ジュリアさんが一緒に来てくれると助かります。私は魔法も使えませんし、この世界のこともよくわかりませんので。ですが、旅には危険が伴います。ですからジュリアさんの意思を尊重そんちょうします。」

「うむ。そうじゃな。ジュリア、ジンさんはこう言ってくれてるが、お前はどうしたい?」

「行きたい…。私も行きたいです!」

「よく言った!頑張るんじゃぞ!ジュリア!」

「うん!」

 私は旅立つことを決意した。

 ジンディオールの無念を晴らすこともあるが、それ以上にこの世界を見て回って楽しむことが目的だった。

 ジュリアさんも一緒に行きたいと言ってくれたので、彼女を仲間に加えてホセ村を出発することにしたのだった。

◇ ◇ ◇

《旅立ちの日》

 ついに旅立ちの日がやってきた。

 ジュリアさんは村人たちと一人ひとり抱き合い、別れを告げた。

 目に涙を浮かべながらも、笑顔を見せていた。村での思い出や、これからの旅路に対する期待と不安が入り混じる心境だったのだろう。

 私も村人たちと握手を交わし、感謝の言葉を伝えた。彼らは私に温かく接してくれたし、様々なことを教えてくれた。私は彼らに心から感謝していた。

「ジンさん!ジュリアを頼んだぞ!」

 アシュアさんが声を張り上げた。孫の旅立ちを寂しくも心配に思う気持ちが顔に出ていた。

「アシュアさん、任せてください!」

 私は元気に返事をした。

「うむ。そうだ、ジンさん。やはりアンタは本当は身分の高いお方なのではないかの?」

 アシュアさんは、突拍子もない質問を投げかけた。

「えっ!?そんなことはありませんよ。どうしてですか?」

 私は少し驚きながら答えた。

「何となくじゃ!何となくそう思ったんじゃ!最初に出会った時も立派な服を着ていたしの。」

「そうですね…。私は記憶が曖昧あいまいな所がありますが、一般人でしたよ。ただ、皆さんには伝えていなかったですが、本当は『ジン・ディオール・フブキ』という名を持っています。」

 私は正直に答えた。すると、アシュアさんは驚いたように目を見開いた。

「えらく立派な名前じゃあ!まさか、王族じゃないのか?」

「アハハ!違いますよ!私は一般人のジンですよ。ホセ村のジンです。」

 私は笑って言った。私は自分の名前に特別な意味はないと思っている。それよりも、ホセ村で過ごした日々の方が私にとって大切なのだ。

「ああ、そうじゃな。ジンさん!行ってきなさい。そして、ジュリアを連れてまた帰ってきなさい!」

 アシュアさんは笑顔になった。彼は私たちにエールを送った。

「わかりました!行ってきます!」「おじいちゃん!皆さん!行ってきます!」

 私とジュリアさんは、荷物を背負って旅立った。

 村人たちが全員で見送ってくれた。

 彼らは私たちからその姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれていたのだった…。
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