あなたと歩む未来を取り戻したい。

第一章 恋愛編

第25話 波乱の後で

　拓弥君の退院祝いのバーベキューでは、私と拓弥君はお互いの気持ちを確かめ合う機会を得た。

　しかしその時、私たちは恵美さんに二人きりで話しているのを目撃されてしまう。

　彼女は激しい嫉妬にかられ、激怒してしまい、途中で帰宅するなどの大波乱が起こった。

　片付けと会計を終えて、新田さんと帰宅する。

　林場公園を出発して、バスで自宅マンションを目指す。

　最寄りのバス停でバスが停車する。

「じゃあ、新田さん。私の方が先なので、ここで失礼しますね！」

「真由ちゃん。マンションまで送っていくよ。」

「でも…。」

「こんな暗いのに女の子一人で歩かせる訳には行かないよ。大丈夫！マンションまで送ったら帰るから。」

「新田さん。ありがとうございます。」

　バスは、私たちを降ろすと、走り去って行った。

　結局、新田さんも同じバス停で降りて私をマンションまで送ってくれることになった。

「真由ちゃん。手…繋いでもいいかな？」

「あっ…はい。」

　大きな手が重なった。

　新田さんの手は大きくてとても暖かかった。

　まるで、新田さんの優しさに包まれている感じがした。

「新田さん。」

「どうした？」

「今日は、嫌な思いさせちゃってごめんなさい。」

「いや…大丈夫だよ。ほら、最初の方はみんな喜んでくれたし、結構盛り上がったじゃない？焼きそばも真由ちゃんに喜んで貰えたしさ。」

「新田さん。どうして聞いてくれないんですか？」

「え？真由ちゃん？」

「新田さんは、私に遠慮し過ぎです。私に言いたいことや、話したいことあるんじゃないですか？」

「真由ちゃん…。正直、今日のことは、俺なりに思う所はあるよ。けど、それを言って自分が納得できたとしても、結果真由ちゃんが傷つくのだとしたら、それは俺が望む結果にはならないよ。」

「それはそうかも知れないですけど…。でも、無理しないで言っちゃってもいいんですよ？」

　私は、新田さんの顔を覗き込み、ふざけた調子で再び聞いてみた。

「えい！」

《コツン！》

　新田さんのチョップが私の頭にヒットする。

　完全に手加減した軽めのチョップである。それでも罰ゲーム程度には痛かった。

「いたーい！」

「俺が真由ちゃんに与えた罰だよ！もうこの話はこれでおしまい。」

「新田さん…。」

　新田さんの優しさと男らしさを垣間見た気がした。

　新田さんは、私を気遣い最後まで今回の件に関して口を開かなかった。

　きっと、私と拓弥君の今の関係や、二人きりで話していた内容など聞きたかったのだと思う。

　それでも、自分の心のモヤモヤよりも、私のことを尊重してくれたのである。

　このことは、妙に私の心に響いてしまい、私は感極まって泣いてしまったのである。

「ああ、真由ちゃん…。どうしたの？俺、気に触ることしちゃったかな？ああ、それとも、チョップが強かったかな？参ったな…。」

　めいいっぱい困り顔をする新田さん。

　何だか今度はおかしくなってしまう。

「うふふ…。」

「あれ？真由ちゃん？泣きながら笑ってる？何で？」

「新田さんの困った顔見てたらおかしくなってしまいました。」

「えっ？そう？あはは！でも、俺は真由ちゃんが笑ってくれているのが一番嬉しいな。」

「新田さん。何か元気出てきました。でも、新田さんこそ大丈夫ですか？」

「俺？俺は大丈夫！真由ちゃんが泣いた時は困ったけど、笑ってくれたから俺はそれで満足さ！」

　マンションの玄関が顔を覗かせた。今日はここまでである。

「じゃあ、真由ちゃん。おやすみ。また明日！」

「新田さん。今日はありがとうございました。おやすみなさい！」

　お互い手を振って部屋へと帰った。

　私は、そのままシャワールームへ飛び込んで、一日の疲れと汚れを洗い流すことにした。


◇◇◇　
　
《ピコン！》

　入浴が済み、髪を乾かしていた所、Moblie Messengerアプリ『Lane』から、拓弥君からのメッセージが届いていた。

『今日はごめんね。恵美のこと。それから支払いも片付けもしないで帰ってしまった。申し訳ない。今度何か奢るから…。』

　拓弥君からは、お詫びの言葉とごめんねスタンプが届いていた。

『恵美さんは、大丈夫？奢ってくれるなら回らない寿司で！』

『恵美は、だいふ落ち着いたからもう大丈夫だよ。回らない寿司だって！？そりゃ高くついたな。新田さんは大丈夫かい？』

『うん。新田さんは、大丈夫だよ。』

『そっか。良かった。俺が謝っていたと伝えておいて欲しい。』

『了解！』

『次の通院日はいつ？』

『来週の金曜日だよ。』

『わかった！じゃあね！』

『おやすみ！』

　拓弥君との連絡も終わった。

　彼も色々大変だったと思うけど、恵美さんと仲直りできたみたいで安心した。
　
　参加者全員が傷を負い、この会は傷だらけのまま終わってしまったが、ひとまずは落ち着いたようだ。

　しかし、これから彼らとどのように接していくのが正しいのか私にはまだわからない。