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第一章 恋愛編
第20話 来訪者
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◇ 拓弥 ◇
今日は、俺がリハビリを受けている最中に、真由がお見舞いにやってきた。
そして、リハビリの後は、俺たちは病室に移動し、時間を共に過ごした。
最初は、他愛もない話をしていたが、互いに話に疲れると雑誌を読んだり、スマホを弄ったりとお互いに自由気ままに過ごした。
特に会話をしなくても、ただ時間を共有しているだけでも満たされていたあの頃に戻ったようだった。
そして、差し入れに持って来てくれたカツサンドは、不格好ながらも真由の愛情の籠った最高の差し入れだった。
真由は、三時間くらいは病室で過ごしてくれたが、予定があると言うことで自宅に帰って行った。
程なくして、今度は恵美が姿を見せた。
「拓弥。来たわよ。調子はどうかしら?」
「うん。今日からリハビリを始めた所だよ。」
「ねぇ、拓弥。あなたにお客さん来なかった?」
突然の恵美からの質問に、俺は驚きを隠せなかった。
真由とは確かに一緒に過ごしていたが、浮気などという行動はとるはずもなく、楽しい時間を過ごしていただけだった。
ただ、恵美には知られていないが、俺は真由に対して複雑な感情を抱いていることも事実であり、悪いことをしている訳ではないのに過剰に反応してしまう。
それにしても、恵美はどうしてそんな質問をするのだろう…。
「あ…。うん。大学の時の友人がお見舞いに来たんだよ。どうかしたの?」
「えっ…。あ、ううん。何でもないのよ。」
「そっか。でも、恵美。わざわざ早退してきたのか?悪いから無理して休まなくてもいいのに…。」
「今の時期は、事務所も忙しくないし、有給もたくさん余っているから大丈夫よ。ただの有給消化だから…。」
「そっか…。ありがとう。」
会話が途切れる。少し居心地が悪いので、何か話題を探す。
「そうだ。冴木部長の様子はどう?」
「うん。相変わらずよ。毎度ワーワー言いながら事務所に入ってくるわ。あの人、静かに入ってくることが出来ないのかしら?」
「あはは。確かに冴木部長が静かにしている姿は想像できないな。そんなことになったら、逆に病気を心配するよ。」
「ふふ。確かにそうね。やっぱり会社のことが気になる?」
「それは気になるよ。今動いているプロジェクトは、俺が主体となって進めていたからね。」
「そうよね…。じゃあ、頑張って治して、また仕事で活躍できるようにならないとね!」
「ああ。必ずこの麻痺を克服して、復活して見せるよ。」
《コン!コン!》
突然、病室のドアを叩く音がした。
リズミカルなノックの音が響く中、静謐な病室に居を構えていた俺の意識が、外に集中する。
「はい、どうぞ!」
現れたのは、かつて俺の手術を担当してくださった医師の佐々木先生であった。
「佐野さん、お加減はいかがでしょうか?」
「あっ!拓弥、ちょっと待ってて!」
「え?」
佐々木先生が病室に入るや否や、恵美は突然慌てた素振りを見せて、先生に声をかけてから部屋からを出て行った。
彼女は佐々木先生と旧知の仲なのだろうか?
外で二人で何やら話し合っている様子だったが、その会話の内容までは聞き取れなかった。
やがて、二人はまた部屋に入ってきた。
「佐野さん。ごめんなさいね。恵美は、私とは親戚に当たるんですよ。診察中に申し訳ないですね。」
「いえ…大丈夫です。」
「さて、今日は初めてのリハビリでしたね。どうでしたか?」
「ええ。まだ自由には動きませんが、リハビリは順調だと思います。」
「そうでしたか。では、傷の方を見せて貰いましょうか。」
看護師さんが慎重に包帯を解き、佐々木先生が傷の状態を確認している。
「うん、傷の回復も順調そうですね。今朝のCT検査でも出血の影響は見られませんでした。後は、ダメージを受けた箇所が回復するよう、通院治療とリハビリを続けて、社会復帰を目指していきましょう。麻痺以外の箇所は正常に機能している様ですし、心配はいりません。」
「退院ということでしょうか?」
「そうですね、明後日に再度CT検査して、再出血の兆候がなければ、週明けには退院としましょう。」
「わかりました。先生、ありがとうございます。」
佐々木先生は、笑顔を見せながら部屋を後にした。
「良かった。案外早い退院になりそうだよ。」
「ええ。良かったわね。」
「まさか、恵美があの佐々木先生と親戚だったとはね。世間は案外狭いもんだね。」
「え、ええ。そうね…。」
少々恵美の元気がないのが気になったが、退院の運びとなったことは大きな収穫だった。
今日は、俺がリハビリを受けている最中に、真由がお見舞いにやってきた。
そして、リハビリの後は、俺たちは病室に移動し、時間を共に過ごした。
最初は、他愛もない話をしていたが、互いに話に疲れると雑誌を読んだり、スマホを弄ったりとお互いに自由気ままに過ごした。
特に会話をしなくても、ただ時間を共有しているだけでも満たされていたあの頃に戻ったようだった。
そして、差し入れに持って来てくれたカツサンドは、不格好ながらも真由の愛情の籠った最高の差し入れだった。
真由は、三時間くらいは病室で過ごしてくれたが、予定があると言うことで自宅に帰って行った。
程なくして、今度は恵美が姿を見せた。
「拓弥。来たわよ。調子はどうかしら?」
「うん。今日からリハビリを始めた所だよ。」
「ねぇ、拓弥。あなたにお客さん来なかった?」
突然の恵美からの質問に、俺は驚きを隠せなかった。
真由とは確かに一緒に過ごしていたが、浮気などという行動はとるはずもなく、楽しい時間を過ごしていただけだった。
ただ、恵美には知られていないが、俺は真由に対して複雑な感情を抱いていることも事実であり、悪いことをしている訳ではないのに過剰に反応してしまう。
それにしても、恵美はどうしてそんな質問をするのだろう…。
「あ…。うん。大学の時の友人がお見舞いに来たんだよ。どうかしたの?」
「えっ…。あ、ううん。何でもないのよ。」
「そっか。でも、恵美。わざわざ早退してきたのか?悪いから無理して休まなくてもいいのに…。」
「今の時期は、事務所も忙しくないし、有給もたくさん余っているから大丈夫よ。ただの有給消化だから…。」
「そっか…。ありがとう。」
会話が途切れる。少し居心地が悪いので、何か話題を探す。
「そうだ。冴木部長の様子はどう?」
「うん。相変わらずよ。毎度ワーワー言いながら事務所に入ってくるわ。あの人、静かに入ってくることが出来ないのかしら?」
「あはは。確かに冴木部長が静かにしている姿は想像できないな。そんなことになったら、逆に病気を心配するよ。」
「ふふ。確かにそうね。やっぱり会社のことが気になる?」
「それは気になるよ。今動いているプロジェクトは、俺が主体となって進めていたからね。」
「そうよね…。じゃあ、頑張って治して、また仕事で活躍できるようにならないとね!」
「ああ。必ずこの麻痺を克服して、復活して見せるよ。」
《コン!コン!》
突然、病室のドアを叩く音がした。
リズミカルなノックの音が響く中、静謐な病室に居を構えていた俺の意識が、外に集中する。
「はい、どうぞ!」
現れたのは、かつて俺の手術を担当してくださった医師の佐々木先生であった。
「佐野さん、お加減はいかがでしょうか?」
「あっ!拓弥、ちょっと待ってて!」
「え?」
佐々木先生が病室に入るや否や、恵美は突然慌てた素振りを見せて、先生に声をかけてから部屋からを出て行った。
彼女は佐々木先生と旧知の仲なのだろうか?
外で二人で何やら話し合っている様子だったが、その会話の内容までは聞き取れなかった。
やがて、二人はまた部屋に入ってきた。
「佐野さん。ごめんなさいね。恵美は、私とは親戚に当たるんですよ。診察中に申し訳ないですね。」
「いえ…大丈夫です。」
「さて、今日は初めてのリハビリでしたね。どうでしたか?」
「ええ。まだ自由には動きませんが、リハビリは順調だと思います。」
「そうでしたか。では、傷の方を見せて貰いましょうか。」
看護師さんが慎重に包帯を解き、佐々木先生が傷の状態を確認している。
「うん、傷の回復も順調そうですね。今朝のCT検査でも出血の影響は見られませんでした。後は、ダメージを受けた箇所が回復するよう、通院治療とリハビリを続けて、社会復帰を目指していきましょう。麻痺以外の箇所は正常に機能している様ですし、心配はいりません。」
「退院ということでしょうか?」
「そうですね、明後日に再度CT検査して、再出血の兆候がなければ、週明けには退院としましょう。」
「わかりました。先生、ありがとうございます。」
佐々木先生は、笑顔を見せながら部屋を後にした。
「良かった。案外早い退院になりそうだよ。」
「ええ。良かったわね。」
「まさか、恵美があの佐々木先生と親戚だったとはね。世間は案外狭いもんだね。」
「え、ええ。そうね…。」
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