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第6章 地下ドワーフ編

第128話 王都ガース襲撃(後編)

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◇ B32採掘場に向かう坑道 ◇

「軽い!自分が自分でないような速度だ!」

 A2-40採掘場へ『転移』した私は、脳内マップを確認し、B32採掘場に向かって走り出した。

 約10kmも離れているというのに、あっという間に着いてしまうだろう。

 それは、自分専用に製作した魔剣『キンダーの片手剣』を装備しているからだ。

 この魔剣は、身体能力を向上させる固有能力を持っている。

 エイチさんによると、魔剣特有のBAD効果である『魔族の呪い』は『呪い無効』スキルを持つ私には効かないらしい。

 したがって、移動中は常時装備しても何ら問題はない。

 さらに、『強化薬』も使用している。

 どちらも初めて使うものだが、魔剣と強化薬の相乗効果により、その効果は驚異的だった。

「よっと!うわー!速い速い!」

 風を切る音が耳に響く。

 どんどん先へと進む。

 強化薬の副作用で足が痙攣するとすぐにポーションを飲み、回復したら再び強化薬を飲む。

 そんなことを繰り返しながら目的地に近づいていった。

《マスター、目標に接近しました。注意してください。》

(了解。)

 私は『隠密スキル』を発動し、物陰から対象の様子を覗くことにした。

(えっ!これは…。)

 私が目にしたのは、魔物でも魔族でもなく、ドワーフだった。

(どうしてドワーフが…。)

 私は片眼鏡の『鑑定』で集団の情報を収集した。

名前:ルッピ
性別:男性
年齢:87歳
種族:ドワルコ族(ドワーフ族)
職業:兵士
能力:大打撃 
説明:ドワルコ帝国の兵士。

(ドワルコ族?ドワルコ帝国?ドワーフとは違うのか?)
 
〘 肯定します。『ウィキー』によりますと、ドワルコ帝国はかつてはドワーフ王国でしたが、国家が二分した際にできた別の国家だそうです。〙

(なるほど。彼らは武装しているし、侵略である可能性が高いな。でも、何のために?)

〘 侵略である可能性が84パーセントに上昇。目的に関しては未だ不明です。〙

(目的を知るには接触するしかないかもしれないけど、一人では危険すぎるな。エイチさん、帰還しよう。)

〘 はい、マスター。〙

『転移!』

《シュン!》
 

◇ 王都ガース アレバリ邸 ◇

「ドワルコ帝国だと!信じられん!」

「鑑定の結果です。間違いありません。彼らは武装しており、王都へ進軍中です。その規模は現在約2000名です。」

「2000名だと!これは、いかん!サカモト殿、すまぬが王城まで急いでくれ。」

「承知しました。では、侯爵様、皆さん移動しますよ。『転移!』」

《シュン!》

◇ 王城 王の間 ◇

「わ!誰だ!…って宰相にサカモト殿。」

「ナナセか。火急の用だ。陛下に報告がある。」

「あ。は、はい。どうぞ。」

 私たちは『転移』で王の間までやってきたが、突然の来訪に周囲の人々は驚いていた。

 侯爵様は王の居室へと入り、事情を説明したようだ。しばらくして王が現れた。

「サカモト殿。良くぞ知らせてくれたな。貴殿の情報では、あのドワルコが我が国に攻め入ろうとしていると言うではないか。誠か?」

「はい。B32採掘場より3kmの地点でドワルコの兵たちを目撃しました。彼らは完全武装しており、王都を目指しています。」

「そうか、貴殿が言うことが正しいようだな。サカモト殿、情報感謝する。」

「恐れ入ります。陛下、ドワルコとは一体なんなのでしょうか?」

「そうだな。外から来た貴殿らにはわからないだろうな。ドワルコは、かつて我がドワーフ王国の一員であったのだ。どれ、少し昔話をしてやろう。」

 王はドワルコに関する逸話を語り始めた。

 今から2000年くらい前の話である。

 ドワーフ王国とドワルコ帝国は、一つの国であり、一つの民族であった。

 当時の王は、自由気ままな第一王子よりも、真面目で賢い第二王子を次期ドワーフ王に指名した。

 それを聞いた第一王子は激怒し、弟である第二王子と父である国王を暗殺しようとした。

 第二王子は難を逃れたが、国王は殺されてしまった。

 これをきっかけに二人の王子は対立した。それはやがて内戦へと発展していく…。

 先王が指名した第二王子には多くの兵士たちが味方につき、正規王国軍となったが、第一王子には利権を求める貴族やその家臣たちが集まり、貴族連合軍となった。

 結果は賢王と呼ばれる第二王子の見事な作戦指揮や、練度の高い王国軍により決着した。

 敗走した第一王子と貴族軍は、技術者や技術品を奪って国外へ逃亡した。

 第一王子はゴーラン山脈の北側に地下帝国を築き、ドワルコ帝国を建国し、種族名をドワルコとした。

 第二王子はドワーフ王国を継承し、時代が変わりゴーラン山脈の南側に地下王国を建設して移住した。

「これが我がドワーフ王国の歴史だ。我もドワルコの存在は知識しか知らぬが、奴らがこちらに侵攻しているならば、こちらにとっては歓迎できない目的なのだろう。それならば、我が国としては…宰相!」

「はっ!」

「直ちに兵を集めよ!鉱山内で最も広い場所にて迎え討つ!場所は、C-39採掘場の近くメールム広場とする。直ちにかかれ!」

「承知しました。」

 戦争に発展しそうな状況だった。

 私たちはこのことで血が流れるのは望まない。できることがあれば力になりたいと思った。

「陛下。僭越ながら我々『エチゴヤ旅団』は、ドワルコの目的を調査しようと思います。場合によってはこの争いを食い止める鍵が見つかるかも知れません。それから陛下にお願いが…。」

 私はドワーフ王に一つのお願いをする。
 
「何だと!そんなことができるのか。奇妙な能力を持つ貴殿たちならば可能かも知れぬな。わかった。サカモト殿の言う通りにしよう。」

 王は私の提案を素直に聞き入れて下さった。

 そして私たちはエチゴヤ旅団は、新たな任務へと挑むことになったのだった…。
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