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第5章 バロー公国編

第113話 ボーゲンのダンジョン(迷宮フロア)

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◇ ダンジョン 参之階 迷宮フロア ◇

 私たちは迷宮フロアに足を踏み入れた。巨大迷宮であるため、通常では攻略に何日もかかるスケールである。

 しかし、私には脳内マップという特殊な能力がある。それは、階層出口までの最短ルートと、宝箱までのルート情報を得られるので大変便利だ。

 ただ、全員で一つのルートを攻略するのは非効率なので、三つのグループに分かれて行動することにした。

 私は念話が可能なキャシーさんとココアをグループリーダーにして、グループ分けした。

 グループAはキャシーさんとアッシュさん。グループBはココアとミザーリアさん。Cグループは私とリヨンさん、ミミ、ミューゼラさんとなった。

 AグループとBグループは宝箱の探索を担当してもらう。そして私達Cグループは、主力として迷宮を攻略することになった。

 私はエイチさんにお願いして、脳内マップを紙に転写してもらい、他のメンバーに渡しておいた。

「サカモト様、これは凄いわねん。こんな精細なダンジョンマップは今まで見たことないわよん。これが世に出たらきっと儲かるわよーん。」

「特殊な能力で作成しているので、皆さんだけの秘密でお願いします。」

「わかっているわよーん。きっと、そう言うと思ってたのよん。」

「あらあら。レイ君、凄いわね!これなら私でも迷わないかもしれないわ。ココアさん、行きましょう。」

 それぞれのグループが目的のために動き始めた。

◇◇◇◇ 視点切替『アッシュ』 ◇◇◇◇

「トラちゃん、行くわよ~ん!」

「おい!俺は虎じゃない。獅子だ。」

「どっちだって同じよーん。あら、ソコに罠あるわよん!」

「うぉ~!危なかったぜ。」

 俺たちAグループはマップ中央から右側を探索エリアにしている。相棒はリッチクィーンのキャシャリーンだ。

 あるじの配下に魔物がいるのは正直納得がいかないが、キャシャリーンの実力は素直に認めている。俺は奴が魔物にしては人間臭さがあるように感じている。実は自分に近い境遇があるのかもしれない…。

 キャシャリーンは危機探知の魔法があるため、とらっぷに苦しむケースはほとんどなかった。脳無しの蜥蜴娘とかげむすめと組んだら、きっと大変だっただろう。

 魔物においては、人形が言っていたように遭遇することは全くなかった。その代わりに戦闘用の人形達が行く手を阻んでいたのだった。

「うりゃ!」

「マジックアロー!」

《ガッシャーン! 》

「おい、この人形達は、その辺の魔物よりも強いんじゃねーか?」

「そうねーん。物理攻撃も魔法攻撃も威力が半減されているようねーん。けれど、倒せない訳じゃないわよーん。」

 戦闘に関しては、多少苦戦はするものの、何とか撃破はできている。キャシャリーンによると、物理耐性と魔法耐性が多少あるそうだ。

「まあ…な!」

《ガッシャーン!》
 
 一撃では倒せないものの、複数回打撃を与えれば無力化できるようだ。キャシャリーンの方も、魔法の効果が半減しているようだが、マジックアローの飽和攻撃により、撃破している。

 俺たちはこんな調子で人形と罠に上手く対応しながら、一つ目の宝箱に辿り着いた。

「随分とデカイ宝箱だなぁ。」

「ミミックよん!倒せばドロップするわよん。一撃で倒しちゃってねん!」

「わかっているって。魔剣を装着する。どりぁ!」

 ウエポンリングから魔剣『豪鬼の大剣』を取り出して装備する。攻撃力はいつもの大剣の比ではない。

《ガッシャーン!》
《ピヤァァァァ!》

 ミミックの悲鳴がフロアに響く。ミミックは私の必殺の一撃により、反撃する間もなく倒れた。

「うわぁ~。その魔剣の攻撃エグいねーん。ほらっ、ドロップしたわよーん。」

「お、おう。」

 ドロップしたのは『エイワの髪飾り』だった。

「鑑定魔法で見たわよん。これは、エルフ族のエイワの遺品のようねん。上手くやれば、深緑の国家ルーシェルに入国するチャンスかもねん。サカモト様に渡しておきましょう。」

「ルーシェルか…久しいな。わかった…。」

 俺たちはこんな調子で順調に宝箱の回収の任務をこなしている。俺たちの担当エリアにはまだ五つの宝箱があるようだ。

 ココアとミザーリアのチームは大丈夫だろうか?三人とも危なっかしいねで少し気になるのであった…。

◇◇◇◇ 視点変更『ココア』◇◇◇◇

 主様と別れたボクとミザーリアは、宝箱の回収に向かっている。

 キャシーと獅子男も別エリアで探索中だ。主様の地図は、とっても詳しく書いてあるので、道に迷うこともなさそうだ。

「ココアさん、移動が速いわよ!もっとゆっくり歩いてくれるかしら?」

「もう。ミザリーは、だらしないッスね~。ボクは、主様に早く報告したいッスから。」

「アナタがおかしいのよ!レイ君は、私たちに無理しないでって言ってくれたじゃない!」

《バンッ!!》

 どうやらトラップが起動したようだ。ミザリーと話している間に床設置の罠を踏んでしまったようだった。

 左右の壁から突然杖が表れた。杖の先からファイアアローの魔法が放たれてボクに直撃したのだ。

「きゃあ!ココアさん!大丈夫?」

「大丈夫ッスよ!人化で弱体化してるッスけど、これでも黒竜ッスから。余裕余裕。」

「あきれた~。どういう体してるのかしら?」

(それにしても、術者もいないのに、どうやって魔法が飛んできたのだろう?)

 このダンジョンを作った魔族は、なかなかやり手のようである。ミザリーは、罠探知の魔法が無いらしいから、ボクが盾になって進めば大丈夫だろう。

《バンッ!》
《ドン!》
《パン!》
《ドッカーン!》

 矢だの、魔法だの、岩だのと、色々な罠があったようだが、どれもボクの守り突破することは出来なかった。遠慮なく次々と罠を発動しなが進んでいく。

「余裕、余裕ッス~!」

 鼻歌交じりに進んでいた所…。また、床設置の罠が作動する。今度はどんな攻撃かと身構るが…。

「あぁ~!!」
「きゃあ~!!」

 床が急傾斜してボク達はそのまま滑り落ちてしまったのだった…。

「もぅ…ココアさんは考え無しに突っ走っるからよ。」

「ごめんッスよ!」

 下まで滑り落ちた所で辺りを見回してみる。薄暗く広いフロアに到着したようだ。

「ライト!」

 ミザリーが視界を良くしてくれると、奥の方に宝箱のような物が見え始めた。

「おぉ。宝箱じゃないッスか?」

「本当ねぇ。」

 ボク達は、宝箱に近づいた…。

《ゴゴゴゴッ…。》

 宝箱だった物が鎧騎士に変形した。

「ありゃりゃ。変わってるけど、これはミミックッスね!」

「あらあら。じゃあ、倒しちゃおうかしら。」

「了解ッス!適当に盾になるッスから、倒しちゃって下さいッス!」

「わかったわ。」

 鎧騎士ミミックからのパンチ襲いかかる。鎧騎士ミミックは、両腕が槍の様に尖っていて、攻撃が入れば大ダメージを負うことになるだろう。

 でも、直線的な軌道の攻撃は、側面からの攻撃に弱い。身体をつぼめてから、手の甲を使って外側に弾くようにヒットさせた。

《バンッ!》

 案の定、ミミックの腕は、身体の外側に弾かれ姿勢が崩れたようだ。

「よいしょっと!」

《ガン!》

 カウンター気味に入れた右ストレートは、相手の胸部にヒットした。相手は、思い切り吹き飛んで倒れた。

「うわぁ、結構硬いッスねー!物理耐性持ちかな?」

 ミミックが構成する鎧も硬そうな素材だが、もしかしたら物理耐性を持っているかも知れない。ボクとはあまり相性は良くないかも知れない。

「ミザリー!倒れてる今がチャンスッス!」

「うん、準備できてるわよ。サンダースピア×4」

 ミザリーが発動した魔法は、稲妻による攻撃だ。ミミックを囲んで、四方から魔法が貫いた。

《ギャャャァァァ!》

 ミミックからは、悲鳴の様な呻き声が聞こえた。どうやら、感電して動けない様だ。ボクの打撃よりも効果がありそうだ。

 ミザリーは、サンダースピア発動後に、直ぐに次の魔法の準備をしていた。

「弱フレア!」

  『弱』が付いてかっこ悪いネーミングだけど、威力はかっこ悪くなかった…。追い討ちで、激しい爆発がミミックを直撃した。

《ドッカァァァァン!》

 ミミックの重厚な鎧は、全て吹き飛んだ。鎧が無くなり、表れたのは、宝箱の姿のミミックだった。

「仕上げ!マジックアロー!」

 またもや、ミミックを取り囲んで、大量の矢が出現した。全ての矢が、容赦なくミミックに突き刺さる。

《ギャァァァ!》

 ミミックは、大量の矢に貫かれてあっさりと絶命したのだった。

「ミザリー!マジハンパねぇーッス!」

「うふふ。見直したかしら?」

 とても嬉しそうな表情のミザリーだった。

―――― to be continued ――――
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