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第5章 バロー公国編

第101話 カラフルレンジャー

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ーー オープンセレモニー  第二部 ーー

 街下商店街のオープンセレモニーの第二部が間もなく開始される。

 第二部は一般の方々を対象とする。人数制限は特に設けずに開放することにしている。

 入口には既に多くのお客さんが詰めかけていた。オープンを今か今かと待ちわびているようである…。

「想定以上の人々の数です。各通路には、サービス員を付けて、転倒などのトラブルがないように充分気をつけて下さい。」

 ベニーさんはスタッフやサポートを集めて指示を出していた。

 エチゴヤ本店のメンバーはラーメン店と銭湯で忙しそうだった。エチゴヤ旅メンバーは、私から特別な任務を受けて別行動である。

ーー―― 開店時刻 ――――

 やがて開店の時間が訪れた。先頭の人々から一斉に街下商店街へなだれ込む。

 ベニーさんがオープン前に「押すな」「走るな」とお客さんに伝えており、将棋倒しになって負傷する事態は防げている。スタッフやサポートも安全誘導を心掛けてくれている。

 異世界ラーメンは、早くも行列ができており、銭湯も入店待ち状態である。広場では大道芸やマスコットが盛り上げており、街下商店街はお祭り騒ぎであった。

 商業ギルドが管理する店舗は、宿泊施設、飲食施設、雑貨屋、魔道具屋、武具店、八百屋、肉屋、魚屋と様々な店が立ち並んでおり、一通りの買い物ができるようになっていた。どの店も多くの人々が足を止めており、大盛況であった。

 私は商店街の盛況ぶりに安心し、辺りをゆっくりと散策することにした。

 ベニーさんやドワーフの皆さんに挨拶したり、知り合いに声を掛けて頂いたりした。だが開店30分程経過して事態は大きく動き始めた…。

〘 マスター、例の集団が配置についた模様です。〙

 エイチさんからの進言と同時に『悪意探知スキル』と『悪い予感スキル』が通知された。マップと融合し、その位置も把握できた。

(キャシーさん、そろそろ来ます。作戦の方よろしくお願いします。)

〘 わかったわ。任せて!〙

「A班、今だ!作戦開始せよ!」

「おー!」

「バトルボールを投下しろ!」

 出入口から10メートル地点。商店街の屋根の所にカラフルな装いの集団が現れた。

 それぞれ赤、青、緑、黒、白の服を身にまとい、同じ色の覆面で顔を隠している。手には複数の球体を抱えており、今にも投げつけようとしている。

 商店街の大通りなのでかなりの人通りがある。以前私が投げつけられた道具であれば大混乱に陥るだろう。だが我々も事前に情報収集をしており、対応策に関しても準備してあった。

 ひょっこり現れた着ぐるみのネズミは、手に持った杖を掲げている。因みに、そのネズミの着ぐるみは、日本でお馴染みのキャラのパクリである。

「はーい!イッちゃうわよーん!ド肝抜かさないでねーん!『グラル!』」

 キャシーマウスから放たれた魔法が、投下された大量のバトルボールを覆い尽くした。

『グラル』の魔法は、重力魔法の一つで、対象の重力を軽減させる効果があるそうだ。グラルによって重力の影響を軽減されたバトルボールはというと…。

 地面に激突しても破裂することなく反発し、ピョンピョン跳ねながらやがてゆっくりと地面に転がり最後は動かなくなった。

「不発だと!ウソだろ?どうなってる?」

「おい、グリーン。一体どういうこと?」

「あわわわ。僕にもわからないよ。こんなこと有り得ない…。」

 驚くカラフル達を横目にキャシーマウスは続けて言った。

「見て!悪の戦士よ。あれはカラフルレンジャーよん!大変だわ。助けて!ムーンムーン!」

 わざとらしいキャシーマウスの呼びかけに通りを歩いている人々は足を止めこの一連のやり取りを見入っている。

 カラフルレンジャーとかムーンムーンとかツッコミどころ満載なのだが…。

 すると三日月のアイマスクを付けただけの集団が颯爽と姿を現した。どうやら彼らがムーンムーンらしい。

 ムーンムーン壱号と弐号は身軽さを活かして屋根の上に移動する。

「縮地!」
「ずるいにゃ。にゃんも!」

(おい、おい…。)

 あっという間に屋根の五名は壱号と弐号によって取り押さえられた。五名は参号の浮遊魔法で下に降ろされてから完全に捕獲された。

「ワシも魔法師の端くれじゃからの。少しは役に立ったかの?」

 小柄な参号はシルエット的にバレバレだろう。

「あっ、ミルモル様だ!」

 素直な子供は遠慮を知らない。

「こら、言っちゃだめよ。」

 子供の親が色々察して制してくれていた。

「おい!ピーチ、イエロー、パープル、シルバー。作戦は失敗だ。逃げるぞ!」

「ガハハ!そうは行かねぇなぁ。ムーンムーンよん号見参!ガハハ!」

 肆号は巨体過ぎてアイマスク程度の変装ではバレバレだと思う。そもそもアイマスクが小さく見えるし。それにしても肆号は結構ノリノリだなぁ。

 肆号と伍号がカラフルレンジャー別働隊の逃走を阻止して無事に全員確保したのだった。
 
「イイぞ!ムーンムーン!」

 私がダメ押しの一言を掛ける。周囲の人々はこれまでのやり取りを『 ヒーローショー』と勘違いしてくれたらしく、確保した後に多くの拍手を頂いたのだった…。

ーーー  異空館 応接室 ーーー

 仮名カラフルレンジャーを確保した後、エチゴヤ旅メンバーは、彼らを異空館へと連れて行った。ここなら逃げられないし、邪魔もされないだろうと思ったからだ。

「さて皆さん。私は皆さんの身元情報は既に分かっております。竈職人のナローガンさんに道具屋のリーフさん。それからあなたはポーション屋のニサさん。他の皆さんの分もです。」

「まずは一言申し上げたい。エチゴヤと私のせいで皆さんの生活を脅かす結果になってしまい、申し訳ありませんでした。」

 私は彼らに対して深く頭を下げた。

「おいおい、どうしてアンタが頭を下げるんだ?」

 リーダー格のニサさんが代表で声を発した。

「俺達は、分かってるんだよ。自分達が愚かだったってことをさ。犯罪紛いなこともやっちまった。許される訳がない。でもよ。俺達も生きていくのに必死でよ。それでもどう頑張ってもアンタらに叶わないし、アンタらに嫌がらせして追い出すくらいしか活路を見いだせなかったのよ。」

 仮名カラフルレンジャーの他のメンバーもニサさんと同じ考えらしく、ウンウンと頷いていた。

「だがよ、これでようやく分かったよ。地力の違いって奴をよ。どうやっても叶わないってな。俺達は、既に覚悟は出来てるし、もう抵抗はしないさ。王都警備隊にでも突き出してくんな。」

「馬鹿者が!これは、エチゴヤレイが、お主らを救う為に、仕組んだことなのじゃぞ。わからぬかの?」

 ミリモルさんの話を聞いても仮名カラフルレンジャーの方々は首を傾げている。確かに攻撃しようとした相手に助けられていたと言われてもピンとは来ないのだろう。

「ムーンムーン陸号見参!」

 着ぐるみを着たキャシーさんが割って入って来た。

(何故か三日月のアイマスクを付けている。サイズ的に手作りかな?絶対にやりたかっただけだと思う…。)

「カラフルレンジャーのみなさーん!アナタ達を逮捕させたければ、最初から警備隊に通報するわよん。でも彼は、通報せずに自分達で動いた。これは、アナタ達の行動を反省させた上で、助ける為よん。だからあの場では、下手な演技で一芝居打って、ここへ連れて来たのだから。あそこでのアナタ達は、演劇の出演者だと思われたはずよん。」

「俺達を助けるだって?」

「そうよん。でも、その前にアナタ達は、すべきことがある筈よん。」

 キャシーさんの話に仮名カラフルレンジャーの面々もようやく状況を理解したようだ。ハッとしてお互い顔を見合わせる。直ぐに代表のニサが頭を下げた。

「サカモト様、そしてエチゴヤの皆様。この度は誠に申し訳ないことをしました。この通りお詫び致します。」

 ニサに合わせて他のメンバーも頭を下げている。

「元は、こちらにも問題がございましたが、放火などの犯罪行為は、よろしくありませんね。本来でしたら警備隊に通報すべきなのでしょうが、幸いにも被害はエチゴヤ店舗に留まりました。私達が何も見ていなければ、通報する必要もありませんよね。」

「え…。では…。」

「放火の件は、水に流しましょう。ですが、損害については別の話です。責任は取って頂きます。店舗の損害分は、少しずつで構いませんから、皆さんで協力して弁償してくださいね。もちろん、商売のことを含めて生活に困らない為の支援や、協力は、我々も全力で対応させて頂きます。」

 この後、仮名カラフルレンジャーとエチゴヤメンバーとで話し合いをした。立ち行かなくなった店の改善案や、支援についてや、希望者にはエチゴヤグループでの仕事の斡旋などの話をした。

 リーダー格のホワイトことニサさんは、ポーション屋を営んでいる。エチゴヤが品質の良いポーションを販売するようになり、殆どの客が去ってしまったのだろう。

 エチゴヤは、幸いにもポーション販売のみで経営している訳ではないので、協力はできそうである。

 私は、廉価版ポーションと廉価版魔ポーションをニサさんのお店に卸す様に契約を結んだ。卸値に関しては、きちんと擦り合わせをして、双方が利益を得られる金額で落ち着いた。

 グリーンのリーフさんは、道具屋を営んでいる。リーフさんのバトルボールは、やられた身としても優れた商品だと思う。自分で開発、製造までされていたのには驚かされた。個人的に50個の販売をお願いした。

 道具屋さんの経営不振は、恐らく商品が問題なのではなく、人々に商品の良さや特徴などが周知されていないことが原因なのだろう。私からは、宣伝方法や、店頭での販売方法などについてアドバイスさせて頂いた。

 ブラックのナローガンさんは、竈職人である。ウチの魔道具の『魔コンロ』の売れ行きが好調過ぎて竈が売れなくなってしまったのだそうだ。

 リヨンさんの話では、竈造りの技術は、大変見事なのだそうだ。竈が伝統文化として無くなるのは寂しいし、一部の料理店では竈の方が素晴らしいという話も聞いている。

 とはいえ、魔コンロが人々の生活に根付いて来ているのも事実。私は、頭を悩ませた。生活に困らない程度に日銭を稼げて、竈の方も継続できる方法がないか、みんなに相談をする。

 結果、午前中はエチゴヤで働く『パートタイマー制』を導入することにした。職人さんということもあり、ナローガンさんは手先が器用である。たった一名しかいない魔道具製造班のメサの下について貰い、メサのサポートをしながら技術の習得を目指して頂く訳である。

 当然労働力として雇うので賃金はお支払いする。午後は、工房に戻って竈造りをやったり、メサから教わった技術を活かして新たな物作りもいいだろう。

 その他、アクセサリー屋のピンクさんに、飲食店のブルーさんには、収益が上がる為に必要なことをアドバイスし、エチゴヤに協力できることはやりますと約束をした。

 残るレッド、イエロー、パープル、シルバー、ゴールドさんの五名は、元々の事業を撤退する意向であった。

 エチゴヤでの仕事内容を詳しく説明をし、斡旋できることをお伝えした所、皆さん喜んで就職を決めて下さった。特に現在建造中のカップラーメン工場の人員が不足しており、製造業務をお願いすることになった。

「サカモト様、みんなを代表してご恩情に感謝申し上げます。我々の誤ちは無くなりはしませんが、サカモト様やエチゴヤにご恩返しできるようにしっかりと頑張ります。また、同様のことが今後起こらないように我々も目を光らせておきます。」

「そうですか。ありがとうございます。皆様のご活躍を期待していますよ。」
 

ーーー 街下商店街 ーーー

 カラフルレンジャーさんと話し合った後、私は街下商店街へと戻った。

 ベニーさんを筆頭に、各店舗長は皆優秀で、商店街は大盛況だった。大きなトラブルもなく、順調に事業を展開していた。

 私はエチゴヤの店主として、ラーメン店や銭湯などの人気店に多くのお客さんが並んでいるのを見て、安心した。この後は、施設を巡回しながら、色々な店舗のサポートをして回った。

 夜になると、人混みも少なくなり、静かになってきた。噴水のそばに腰を下ろし、冷えた超純水で一息ついた。
 
「サカモト様。」

 振り返れば、ネズミの着ぐるみが立っていた。見慣れてきたのか、今ではあまり違和感を感じない。今回は、キャシーさんに色々助けられたな。

「キャシーさん。ありがとうございます。」

「いやねー!改まって。私はね、あなたには感謝しているのよ。着ぐるみとはいえ、普通に人々の暮らしの中に居られるんですもの。あの姿の時は、本当に孤独だったわ。今はとても楽しい。これからも色々な所へ連れて行ってよね?」

(元々人間だったキャシーさんは、長い長い年月を人から距離を置いて生きてきたんだもんな。私なら耐えられるかな…。)

「なーに、変な顔してるのよーん。置いていっちゃうわよん!」

(あいかわらず、掴み所の無い方だ。)

「はい!」

 私は、また先に進む…。使命のため、自分のために…。

ーーーto be continued ーーー
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