迷い人 ～異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。～

第5章 バロー公国編

第100話 街下商店街 オープンセレモニー

　リヨンさんが無事に帰還された。

　放火魔は、犯罪グループではないと思われるが、発見されれば危険な目に遭う可能性がある。

　私は以前、リヨンさんや大切な仲間を失ってしまったことがある。

　今回は問題ないだろうと思いつつも、不安な気持ちが拭えなかった。

「レイ様、ただいまもどりました。」

　私は言葉もなくリヨンさんを抱きしめた。

　無事であったことに安堵し、思わず力が入ってしまった。

　リヨンさんも私の背中に手を回してくれた。お互いの鼓動を感じ合い、無言の喜びを分かち合った。

　部屋の中は静寂に包まれた。耳に届くのは、二人の息遣いだけだった…。

　私はしばらくしてからリヨンさんを離し、潜入捜査の結果を聞くことにした。

　リヨンさんは無事に任務を遂行されたと報告した。

　私が予想していた通り、エチゴヤへの襲撃は私への恨みから起こされた犯行であったようだ。

　関係者は10名で、エチゴヤの商売が順調な一方で、近隣の商店街では客足が減り、収入が激減してしまった店主達が被害者の会を結成し、エチゴヤを潰そうと企んでいたという。

「やはりそうでしたか。この件に関しては私にも責任があります。対策を考えなければなりません。リヨンさん、今後もご協力をお願いします。」

「勿論です。レイ様にお仕えすることが私の喜びです。レイ様のご意向に従います。私は全力でサポートいたします。」

　その後、エチゴヤのメンバーを集めて対応策について話し合った。


◇  街下商店街 オープン記念会 ◇

　本日は街下商店街のオープンセレモニーが開催される日だった。

　私もオーナーとして参加することになっている。このセレモニーは二部構成で行われる予定だった。

　第一部は、貴族や各界の重要人物など200名以上の来賓を招待するもので、第二部は一般客も入場できるようにするものだった。

　このような段取りにした理由は、身分差によるトラブルを避けるためだとベニーさんから聞いている。

(さすがベニーさんですね。細かい配慮が素晴らしいです。私にはこんなこと考えられません…。)

　セレモニーの第一部は、私のスピーチから始まった。緊張のあまり滑舌が悪くなってしまったが、なんとか終えることができた。

　ベニーさんによる運営側の紹介や商店街の紹介、銭湯桜屋の紹介が続いた。

　その後、来賓の方々には自由時間を設けて、各店舗を見て回っていただいた。

　時間は限られているが、来賓の方々を満足させるために、各店舗は一生懸命に働いていた。

◇　異世界ラーメン　◇

　異世界ラーメンは大変な人気だった。

　火災で倒壊したエチゴヤ本店のスタッフも手伝ってくれているおかげで、何とか対応できている。

　店の外には20人以上の行列ができている。その光景を見て、私は日本の有名店に並んだことを思い出した。

　長時間待たせないように、列の後ろの方には整理券を配って、先に銭湯を楽しんでいただくように促した。

　少し落ち着いたところで、店内を覗いてみた。

「美味しい！」
「ラーメンというものは実に絶品だ！」
「この店を買収しよう」
「もう一杯いただこう」
「この水は何だ！驚くほど美味しい！」
「超純水というのか？欲しい！この店も欲しい！」

　貴族の方々に庶民の味が受け入れられるとは…。

　やはりこの世界では初めて登場した食べ物だからだろうか？おまけの『冷水機』による『超純水』も大好評だった。

　予想以上の反響に、私は心から喜んだ。異世界ラーメンはこの後も最後まで賑わっていた。

　私はメサに行列の整理を任せて、銭湯エチゴヤへと向かった。

◇　銭湯『桜屋』　◇

　銭湯『桜屋』も人で溢れていた。

　受付に時間がかかってしまうが、ガラフさんが上手く誘導してくれている。

　私は忙しそうなガラフさんに挨拶してから、他の場所へ移動した。

　本日は宿泊棟は利用停止としており、温泉棟と休憩所を開放している。

　温泉棟は男女別に入浴できるように区分けされており、入口には『男湯』と『女湯』の暖簾が掛けられている。

　温泉棟にはそれぞれ四種類の湯船とサウナルームがあり、多くの方々が入浴を楽しんでいる。

　今のところ混雑するほどではないようだ。

　浴場にはサービス係が巡回しており、万一の事態に備えたり、洗い場の清掃や片付けなどを行ってくれている。

　銭湯も高評価を得ていた。この世界では貴族であってもお風呂に入る習慣がなく、お風呂の素晴らしさを知ってもらえたことは大変嬉しかった。

　休憩所では飲食を楽しめるように売店を設置している。

　現在はおにぎりやパンなどの軽食のみを販売しているが、今後はお客様の要望に応じてメニューを増やしていきたいと考えている。

　ここでも無料で『冷水機』による『超純水』を提供しており、多くの方々に喜んでいただいた。

　午前中の第一部は大きなトラブルもなく終了し、来賓の方々は笑顔で帰っていかれた…。

◇◇◇

「レッド…もうすぐだ」
「了解。イエロー、ピーチ、グリーン、配置は大丈夫か？」
「ホワイトとブラックはA地点へ」
「ブルー、シルバー準備は？」
「準備完了！」

ーーー to be continued ーーー